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100. 市場巡り

100 市場巡り



「さて、テナの晴れ姿も見たし、もう広場に用はないな。次は沿岸部の方に向かおうと思うが、他に行きたい場所や欲しい物はあるか?」


 広場を後にし、残していたリース達と合流して皆の前で聞いてみる。とりあえずここに来る道すがら見かけた出店は見てきたが、まだまだアスタの街全部を見て回ったとは言えないだろう。


 奴隷達の中からリースが手を挙げてくる。


「ご主人様。沿岸部に行くのであれば、魚市場を見てみたいのですが」

「魚市場か」

「はい。ブルーレンで続けている魚取引なのですが、以前からバフトット様から仕入れる種類を増やせないかと言われております。アスタの魚市場はまだ見て回っていないので、後学の為に行ってみたいです」

「そうか。それじゃあそこも回ろう。他はないか?」


 見渡すと、みな目を輝かせながら首を横に振ってくる。先ほどから市場を巡る間、みなぺちゃくちゃお喋りしながら楽しげに過ごしているところをみるに、何でもいいから早く出発してほしいようだ。こんなに大勢で買い物をする機会はあまり無いので、割と楽しんでいるようである。


「それじゃあ、出発しようか。レン、よろしく頼む」

「はい!」



 アスタの街では貨幣として、宝貝と呼ばれる赤白青の3種類の貝殻を用いられている。どれも貴重な種類らしく、見た目もきれいなので装飾品としても使われているが、色によって微妙に価値が異なっていた。


 一番安いのが赤色の貝で、これと交換できるものは果物や魚、着古した服や靴など、あまり価値の無い物が多い。次に白貝はアスタで最も一般的に使用されている。そして青貝はアスタで最も価値のある貝で、主にまとめ買いに使われていた。


 西方諸国のようにきっちり一枚単位で取り引きするのではなく、大雑把に赤貝で足りなければ白貝、白貝で足りなければ青貝くらいの感覚だ。別の商品を付け加えて取引することも多い。


 広場から移動して海岸沿いにある魚市場にやってくると、名前はわからないが美味しそうな魚が並ぶなか、サザエやハマグリなどの貝類、伊勢海老のような巨大なエビなどが目についた。この辺りは西方諸国や砂国では見かけないものだ。


「なかなか美味そうなものが揃っているな、サラ」

「えっと、そうなのでしょうかぁ」


 サラが少し困った様子で呟く。どうやら初めて見る魚介類に困惑しているらしい。


「この大きなカタツムリのようなものは、どのようにして調理すればいいのでしょう」

「サザエか。普通に網で焼くだけでうまいぞ。塩ゆでにしてもいけるし、スープに仕込んで出汁をとってもいい」

「そうなのですかぁ。わかりました、やってみます。でも奇怪な虫のようなこれはぁ……とても食べられるとは思えません」


 嫌悪の表情で視線を向ける先にあったものはカニだ。イメージにある赤色ではなく、黄土色でくすんだ色をしているが、別に食い方は変わらないだろう。


「いろいろな食べ方があると思うが、茹でてから殻をむいて身を食べるのが好きだな。塩だけでも結構いけるはずだ」

「殻は食べず、中身をいただくのですねぇ」

「あぁ。ぷりぷりしてとても美味しい。シュリは調理したことはないのか?」


 アスタで出店の手伝いをしていたという兎獣族のシュリに聞くと、長い兎耳をしょんぼりと倒したまま微妙そうな顔で答えてくる。


「カニですか。人魚族の一部では食されるとは聞きますが、店で扱ったことはありません」

「そうか。あんなに美味いものをもったいない。なあレン」

「もちろんです。以前テルテナ島で皆様が滞在されていた時にも振るまわれたはずです。殻は剥いでいたのでわからなかったのかもしれません」


 レンの言葉に、後ろで聞いていた数人の奴隷達から小さく悲鳴が上がる。内容はあんなグロテスクな物を食べていたなんて、といったところだろう。確かにサラが言っていたように、見た目にはデカイ虫だからな。


 しかしまあ、しっかり調理したものを食べれば嫌悪感など吹っ飛ぶだろう。生け簀代わりの桶の中にいた蟹を5匹ほど購入し、網に入れて持って帰ることにしたが、みな自分が持つことには微妙に嫌がってきたので、しかたなく理解のある人魚族のレンが頑張って担ぐことになった。まあ、俺も食べるのは好きだが、生きている蟹にはあまり触りたくない。


 続けてサザエやウニなど、あまり西方諸国や砂国では見かけない海産物も色々と購入していく。ナマコっぽいでろっとした生き物もいたの買っておいた。さすがにナマコは食べたことないが、レンによるとお祝い時にしか食べない希少品らしい。手当たり次第買い込んだ海産物を見て、サラとシュリが今日の晩御飯の準備は大変だから頑張ろうと意気込んでいた。ちなみに全部で青貝を2枚ほど支払っている。



 続けて沿岸部の魚市場から少し広場に戻ったあたりで、桶に無造作に取り分けられて売られている真珠を見つけた。真珠自体は他の地域でも見たことはあるが、あまりに雑に扱われていたので驚いてしまった。


 さっそく店主に声を掛けてみる。


「すいません。この真珠は、青貝一枚でどれだけいただけますか」

「青貝なら桶ごと一杯持って行っていいぞ」


 そう言って指差す桶には軽く見積もっても100個以上の真珠が入っている。それが10杯ほど並んでいた。色や大きさは不揃いで、光沢も記憶より少ない気がするが、確かに真珠だ。


「それでは、ここにあるものすべていただいてもよろしいでしょうか」

「すべてだって? 持って帰れるのかい、兄ちゃん」

「はい。従者がいますので。ただできればいくつかの桶にまとめていただければと思うのですが」


 すでにカニやらサザエやらのせいで、多くの手は埋まってしまっている。もうこの後はすぐにカルサ島に戻るつもりだが、できれば一度に持って帰りたい。


「それなら、大きな桶にまとめてやるよ。もちろん代金を貰えればな。青貝10枚でどうだ」

「承知いたしました。ぜひ、いただきたい」

「おう、兄ちゃん気前がいいな」


 ニカリと笑顔でうなずいた人魚族の店主は、すぐに真珠を大きな桶にまとめ始めた。雑な様子で扱っているところを見ると、あまり高級品という認識は持っていなさそうだ。


「この辺りでは真珠は何に使うのでしょうか」

「そりゃ普通に装飾品だろう。この街の人魚族なら、大体みんなつけてるんじゃないか? ほら、こんなのだよ」


 店主はそう言いながら首にかけたネックレスを見せてくれた。大きさも色も不ぞろいだったが、確かに真珠のネックレスだ。


「なるほど」

「ただ、金持ちになると白貝や青貝で作られた装飾品のほうが人気だから、真珠を使うのは俺みたいな漁師や農民の連中だな」


 ということは、真珠自体にあまり価値がないということだ。真珠というのは珍しいものだと思っていたが、もしかすると簡単に採れるのだろうか。


「真珠はこの辺りではたくさん採れるのでしょうか」

「真珠か? そうだな。海に潜って貝を開ければ、何個かに一個は出てくるぞ。気をつけて調理しないと、間違って食ってしまうこともよくある」


 何個かに一個だって? それってどうなんだろう。天然真珠というものはもっと珍しかった気がするが。


「ナスタ」

「はい、ご主人様」


 店主が真珠を移し終える作業を終えるの待つ間、猫獣族のナスタを呼び寄せ小声で聞いてみる。


「砂国の真珠も、こんなにたくさん採れるものなのか?」

「いえ、真珠はラースの河口付近で採れますが、真珠を持っている貝を見つけることは難しいと聞きます」

「じゃあ、何個かに一個見つかるというのは」

「とても信じられません。ただ、砂国で出回っている真珠とくらべると、少し光沢が落ちるような気がします。おそらく砂国の真珠とは、採れる貝の種類が違うのでしょう」


 なるほど。確かにこの真珠は光沢が少ない。とりあえず勢いで全部買ってしまったが、あまり高く売れないかもしれないな。まあ向こうに持って行って聞いてみればわかるか。


「ほれ、これで全部だ」

「ありがとうございます。では、代金です」


 代金である青貝を渡し、真珠で一杯になった桶を受けとる。上から適当に布をかけて、手が空いてた者に持たせて店を後にした。



「結構いろいろと買ったな。もう持ち手がなくなってきたか」

「そうですね。あと手が空いているのは私とロル、それにアーシュくらいでしょうか」


 リースが皆を代表して返事をしてくる。ここからアスタの街で借りている倉庫までは歩いて小一時間ほどだ。そろそろ晩飯の準備もあるだろうし、カルサ島に戻ったほうがいいだろう。


「それじゃあそろそろ戻るとするか……なんだ?」


 気が付くと、通りがざわざわと騒がしくなっていることに気が付いた。どうやら何かあったらしい。


「レン、ちょっと何があったか聞いてきてくれ」

「あ、はい。ロル姉様、申し訳ございませんが、少しこれを持っていてくれませんか」

「う、うん。任せて!」


 レンが持っていたカニをロルに預けて、とことこと小走りで通りへ向かう。平静を装ってはいたが、ロルの奴はまだ慣れないのだろう。かなり恐る恐るカニの入った網を持ち上げていた。


 そんなロルの様子を楽しみながら待っていると、レンが慌てた様子で戻ってきた。


「ご、ご主人様。大変です」

「何があったって?」

「あ、あの。広場が何者かに襲撃されたらしく、テナ様が連れ去られてしまったそうです」


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