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10. 姉妹

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 拠点に戻り居間のテーブルで一息つく。リースとロルの姉妹は壁際に立ち、俺の表情をうかがっていた。ただしその様子はそれぞれ随分と異なっているが。


 姉のリースは命令があればすぐに動けるよう気を張っていた。銀色の長髪から少し黒みがかった犬耳をぴんと立て、細身の身体から伸びるすらりとした手足を姿勢よくたたみ、凛と澄ました表情でこちらを見つめていた。


 一方で妹のロルは買われてからここまでずっと挙動不審だ。先ほどから大きな瞳をきょろきょろと動かして、部屋の中を不安そうに見渡している。明るそうな雰囲気かと思っていたが、美しい銀髪から見える犬耳はずっと力無く倒れていた。


「姉さま……」

「……」


 さらにロルは先程から何度もリースに手を伸ばしていた。しかしそのたびに手を振り払われている。なんだろう。仲が悪いのか?


「とりあえず二人とも座れ」

「座ってもよろしいのでしょうか」

「そりゃあな」


 促すと二人がそのまま床に座り始めたので、あわてて止める。


「椅子に座れ」

「椅子にですか? よろしいのですか?」


 こんなところまで指示しないといけないのか。面倒だな。


「許す」

「それでは、失礼します」


 リースが椅子を引いて腰掛けると、ロルもそれに倣って座った。


「とりあえず自己紹介しようか。お前らの主人になったリョウだ」

「リースです。よろしくお願いいたします」

「……」


 おどおどするだけで声を出さないロルを、リースが叱りつける。


「ロル。ご主人様に自己紹介をしなさい」

「……ロル、です。よろしくお願いします」

「あぁ、よろしくな。2人とも犬獣族(ワードッグ)だったな。リースは16歳で、ロルはいくつなんだ?」

「……11歳」


 おう……小学生か。やばいな。いやこの世界じゃあ関係ないが。


 気をとり直して、二人にこれからのことを説明する。


「二人ともここでは家事と商売を手伝ってもらう。この家はまだ借りたばかりだから、しばらくは特に掃除を頑張ってくれ。水場が少し離れているから、水汲みも頼む。それと料理はできるか?」

「簡単なものでよろしければ」

「それなら、今日から昼前と晩の食事の用意をしてくれ」

「ご主人様の口に合うようなものを作る自信はありませんが……」

「作れるものでいい。一応言っておくが、お前たちの分も含めて三人分だからな」

「えっ」


 ロルが驚いて声を上げる。やはり、俺の分だけ作ろうとしてやがったか。


「食事は三人で同じものを食べるから、そのつもりで準備するように」

「……わかりました。ありがとうございます」

「ありがとう、ございます」


 ロルが少しだけ明るい声で礼を言ってくれた。先ほどから随分と怖がっているようだが、早く慣れてくれるといいな。


「それじゃあ今日の晩飯分も含めて、必要なものを買出しに行こう」

「私達に必要なもの……ですか?」

「色々あるだろう。衣服だとか、衛生用品だとか。あとベッドはあるが、シーツと毛布が無いからな。この辺りも揃えないと」

「ベッドをいただけるのですか?」

「あぁ。先に部屋を案内しておくか。ついてこい」


 そう言って部屋を出ると、二人が慌てて後をついてきた。二階の大部屋に案内する。


「二人ともこの部屋を使ってくれ」

「……このような立派な部屋をいただけるのでしょうか」

「そうだ。管理は自分たちでしろよ」

「えっと……ありがとうございます」

「よし。それじゃあ買い物に行くか。ついでに水場の位置と馬車を置いている場所を教えておく」


 先に部屋を出ると、少し遅れてリースがロルの手を引っ張って出てきた。



 その後は市で三人で必要なものを買い揃えていった。一通り必要な物を買っていたら、金貨1枚近くのお金を使ってしまった。


 色々買ったが、一番金がかかったのは衣服だ。尻尾まで隠れるロング丈のワンピースに部屋着用のシャツとズボン、それに外套をそれぞれ一着ずつ買い与えたら、全てボロボロの中古だったのにも関わらず銀貨20枚弱が消えてしまった。


 他には調理器具や掃除用具それに寝具などを買い揃えた。特に肌着、シーツ、毛布辺りは清潔な方がいいと思ったので新品を買っている。あまりに大荷物になってしまったので、晩飯の買い出し前に一度拠点に戻ることになってしまった。


 続けて晩飯の食材を買いに市場へ出る。ブルーレンは自由都市だけあって、売り買いされる食品も充実していた。主食であるパンだけでなく、羊肉、鶏肉、野菜類、卵、乳製品などの生鮮食料品、ビール、ワイン、茶、塩、蜂蜜などの酒や調味料も豊富だ。


 ただなぜか、魚介類だけはあまり種類がないように感じた。


「リースの得意料理はなんだ?」


 食品市場を見て回りながら、後ろを歩くリースに話しかけた。料理はさっぱりだから二人に丸投げする気満々である。


「村では山菜や川魚を煮込んだスープを毎日のように作っていました」

「魚か。そういえば魚売りを見ないな」

「魚でしたら、そちらに売られております」


 リースが指差した店には、大量の樽が並んでいた。店主に挨拶をして、その中の一つを覗きこむ。すると確かに魚が入っていたが、思っていたものとは少し違っていた。


「これは……塩漬けか」

「はい。7日前に獲れたばかりのサバでございます」


 店主が答えてくる。7日前って、それは獲れたばかりというのか?


「鮮魚は無いのですか?」

「このあたりで扱っている業者は少ないと思います」

「少ない?」

「はい。この街は海から遠く離れておりますので。無理をして夜通し馬を走らせれば運べないこともないですが、難しいでしょう。ですからどうしても塩漬けか干物にして仕入れるしかありません」


 なるほど。そういえばこれまでの街でも魚は見かけなかった。この辺りは海から離れているのか……いや待て。このブルーレンには川があるから、魚くらい獲れそうなものだが。


「川魚は扱わないのですか?」

「お客さん、都市周辺での漁獲は禁じられておりますよ」

「え、そうなのですか」


 知らなかった。なぜだ?


「川で獲れる魚の量は少ないので、一部の大商店が独占して売買しているのです」


 独占するほどに価値があるのか。それなら他所から輸入できれば、結構儲かるかもしれないな。


「この街には来たばかりでして。それじゃあ教えていただいた代わりに、塩漬けと干物を3人分もらえますか。おいくらでしょう」

「干物が三尾、塩漬けが一樽、合わせて小銀貨5枚でどうですか」

「いただきましょう」


 小銀貨を支払い、塩漬けがつまった小樽と麻縄で数珠繋ぎにされた干物を受け取る。買い込んだ他の食材と一緒にそれらをリース達に持たせ、先に拠点へ戻っておくように指示した。


「俺は少し寄るところがあるから、食事の準備をしておいてくれ。日が落ちるまでには戻る」

「かしこまりました」


 2人と別れ、俺はある人物の家に向かった。先日お世話になったアモスさんのところだ。

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