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1. 扉の管理者

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「……ですか?」

「……」

「大丈夫ですか?」


 寝起きのようなだるさがとれない。しかし深刻な声で呼びかけられるので、少し気合を入れて目を覚ました。すると見るからに日本人ではない金髪の男が、心配そうに俺を見下ろしていた。


「あぁ、良かった。こんな所で倒れているので心配しましたよ。見たところ、貧民というわけでもなさそうだし」

「……?」

「強盗に襲われたのでしょうか?」

「……いえ、そういうわけでは」

「顔色が余りよくないですよ。よかったら宿までお送りしましょうか」


 宿? 家じゃなくてか? というかこの外人、日本語うまいな。


「大丈夫です。そんなに遠くないんで」

「そうですか。気をつけてお戻りください」


 そう言うと、男は一礼して去っていった。それを見送り、俺はようやく異変に気が付いた。


「なんだ、ここは」


 思わず息をのんだ。まったく見知らぬ風景が目の前に広がっていたのだから。


 妙に古めかしい建物が乱雑に並び、田舎のような土の道路がその間を走っていた。往来する人は少なく、空は夕日で赤く染まりかけている。


 慌ててスマホを取り出そうとポケットに手を突っ込むも、そこにはスマホどころかポケットすらなかった。野暮ったいズボンとシャツに外套をまとっているという謎の格好だったからだ。


 何が起きているのかさっぱりわからなかった。しかし何とか直前のことを思い出そうと目を閉じた。


 名前は加賀かがりょう。歳は19。大学生で、確か午後の授業に向かっている最中で……あぁ、思い出した。大学に行く途中、スマホを見ながら歩いていたら赤信号を渡ってしまったんだ。それに気付いた時には視界が吹っ飛んで、次の瞬間、この風景――


 大体理解した。どうやら俺は死んで、異世界トリップしてしまったようだ。


 まあ、それはいい。むしろラッキーだと思うことにしよう。それより気になるのは、さっきから目の前に浮いている不思議なウィンドウだ。


『扉の管理者』


 印を設置した二つの地点を繋ぐ扉を作成する。扉の大きさや距離に応じて、必要なポイント数が変化する。ポイントは時間経過か、使用人数によって得られる。


ポイント 100

印数   0/10

扉数   0/3


印項目

扉項目

詳細




 下の3項目には次ページがあった。内容は上の二つがそれぞれ印・扉の設置、破棄、設置数増加の項目があり、一番下の詳細は選んでも何の表示も無かった。


 どうやらなにかしらの能力らしい。試してみよう。


 そこらへんの壁に印を設置してみる。しかしすぐに後悔してしまった。設置した壁に奇妙な模様が浮かび上がってきたからだ。


 やばい。これ、すげー目立つ。


 あわてて周囲を見渡したが、こちらに注目する人はいなかった。念のためその場を離れてみても、壁の模様を気にする人はいない。どうやらこの模様、他人には不可視のようだ。


 それなら……と続けて扉をつないでみようかと考えたが、さすがにこんな往来でやるのはまずいか。人目が無い場所でやろう。


 ということで、宿を探すことにした。幸い身につけていた服の中にあった小袋にお金らしき銀貨があったので、何とかなるだろう。



 地図や看板などは見当たらなかったので、適当に通りすがりの人に尋ねてみたら、穴熊亭という宿がおすすめだと紹介されたので、言われた場所に行ってみた。確かにそこには穴熊亭と漢字で書かれた看板を掲げる宿があった。漢字が使われていたことに少し安心してしまった。


 建物に入ると、食堂の奥で店主っぽい雰囲気の親父が作業をしていた。


「一泊飯つき、銀貨1枚」


 親父に部屋は空いているかと聞くと、そんな無愛想な返事が返ってきた。言われるがままに銀貨を1枚差し出すと、代わりにぼろぼろの鍵を渡される。


「二階、登ってすぐの部屋だ」

「ご飯はどうすればいいのでしょうか?」

「時間になったらここに来い」


 随分と適当な答えだ。時間っていつだよ。


「わかりました。ありがとうございます」


 それでも頭を下げて礼を言うと、親父は眉間にしわを寄せながら睨みつけてきた。よくわからないが何か物言いたげな様子だった。素性を聞かれても困るので、とっとと部屋に逃げ込む。


 部屋はベッドしかない簡素なものだったが、とりあえず寝床と人の目を回避できる場所はゲットできた。


 それじゃあ、能力をためしてみますか。


 ウィンドウにある印の項目を操作して、部屋の壁に印を二つ設置する。どうやら印の設置だけならポイントは使用されないらしい。そのまま扉の項目から、扉作成を使用すると、大きさと二つの印を選択するように要求されたので、極小と設置した壁の印を選択してみた。使用ポイントは5ポイントだ。


 ポイントは100あるから、これくらいなら問題ないだろう。とりあえず作成してみる。すると印は音も無く消え、代わりに『扉』が出現した。


 1m四方の正方形の穴が、壁にぽっかりと空いていた。これが扉らしい。思っていたよりもずっと小さい。これでは扉というより、ただの穴だ。


 その穴を覗き込むと、部屋の反対側に設置した扉から自分の背中が見えている。言い表しにくい不思議な感覚だったが、とりあえず中に入ってみると、部屋の反対側の穴から出てくることになった。


「なるほど。これが『扉』か」


 二つの場所を物理的に繋いでしまう。たとえば現実世界なら、家と学校を扉で繋いでしまえば、毎日の暇な通学時間をゼロにできるな。


 勿論そんなしょぼい使い方じゃなくても、色々と悪さができそうな能力ではある。チートとまではいかないかもしれないが使えそうな能力だな。



扉の仕様その1


扉の大きさと使用ポイント


大きさ(縦×横) 使用ポイント(直線距離で1km毎)

最小(1m×1m)  5ポイント

小 (2m×1m)  50ポイント

中 (3m×4m)  500ポイント

大 (4m×9m)  2500ポイント

最大(5m×16m)  20000ポイント


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