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極東の海の女王  作者: 優笑
第一章  最強の戦艦
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間話その1  大戦とレベイル島を巡る攻防

 この間話その1では、未だ本編では語られていない大戦の概要と、レベイル島を巡る攻防について大まかに説明します。軍事関係に詳しい方や、もっと深く作品を理解したい方のための掘り下げた内容で、話もむずかしめです。これを読まなくてもストーリーの理解に大きな影響はないので、難しいのは苦手だという方や、本編だけで十分という方は飛ばしてください。

 

 まず大戦についてです。この作品で大戦と呼ばれるのは、本編のものと、その8年前に行われた前大戦と呼ばれるものの二つがあります。8年前のものを前大戦、本編のものを後大戦と呼びます。

 

 前大戦には、当時大きな力を振るっていた大国全てが参戦し、国力を総動員した戦いを繰り広げました。その結果、森羅共和国が世界最大、最強の大国に躍り出た一方、それまで世界各地に植民地を有し、世界最大と思われていた海洋大国、栄華帝国が力を落としました。

 

 その中でそれまで極東の小さな新興国にすぎなかったメーム皇国が力をつけます。黄色い肌を持つ者が世界を席巻し、黄色い肌を持たない者は人間でない、あたかも下等な猿と揶揄されるこの世界。メームは唯一、白い肌を持つ者の国でありながら、黄色い肌を持つ者の大国と肩を並べるまでになった国でした。しかしその実植民地を持たず、資源も乏しかったため、他の列強に負けない軍事力こそ額面上維持していましたが、国力は森羅の十分の一以下でしかありませんでした。

 

 この前大戦の結果、世界の強国上位7か国を列強と呼ぶようになります。森羅は第一位の強国であり、植民地を持たないメームは第七位相当でしたが、唯一白人の列強国として、また極東最強、最大の大国として一目置かれる存在となりました。

 

 

 その8年後に起こったのが本編の後大戦です。構図としては、前大戦において力を落とした栄華帝国とそれに同調する国々が、世界最大の大国となって躍進を続ける森羅に対して戦争を仕掛ける形で勃発しました。

 

 建前や大義名分は各国ありますが、要するには森羅の躍進を快く思わない国々が連合し、森羅の躍進を止め、あわよくば前大戦以前の栄光を取り戻すのが目的です。そのため森羅以外の列強6か国のうち4か国は栄華側につきます。一方で第六位の大国は先を見据えて森羅側につき、第三位の大国は漁夫の利を狙って中立を決め込みます。それ以外の小国のうち半分は栄華側に、三分の一は森羅側につき、残りは中立をとりました。

 

 メームは前大戦の森羅との因縁と、建国以来栄華帝国と同盟を組んできた経緯から栄華側につきます。この後大戦、開戦前の予想では多くの植民地を有する栄華側に対し、森羅は通商破壊戦力が不足していることから栄華側優位かと思われていました。

 

 しかし開戦数日で戦況は激変します。森羅は栄華帝国の軍事的要衝を空母の集中運用において電撃的に破り、そこから通商破壊を用いるまでもなく正面攻撃で次々と栄華側艦隊を打ち破っていったのです。

 

 メーム海軍は有力な潜水艦部隊を展開し通商破壊を試みます。が、資源の大半を国内でまかなえる森羅には効果が薄く、タンカーを撃沈して行動を一週間程度遅らせるのがせいぜいといった状況でした。

 

 そんな中で森羅は戦力の7割を栄華帝国と他の列強5か国のある西海に向け、残りをメーム方面に派遣します。メームと森羅の間には広大な極東海が広がっており、メーム側の最前線拠点はやや北方のウルバン諸島と、やや南のレベイル島の2か所。拠点としてはよりメーム本国に近いウルバン諸島の方が重要度が高いものの、その分防衛及び哨戒網が強固なため、森羅はレベイル島攻略を優先します。

 

 先ず森羅は陸上航空機100機による爆撃作戦を企図します。しかしレベイル島の最も近くにある航空基地からでもレベイルまではかなり距離があり、航空隊の負担が大きいのは明らか。そこで基地航空隊とは別に艦載機70機の中型空母2隻を派遣し、基地航空隊と連携させることでこの負担を軽減させる作戦でした。

 

 一方でメーム側は開戦前の諜報活動で、森羅側が大幅に航空戦力を増強していることを察知。乏しい国力ながら血のにじむような努力で航空戦力と技術力を増強。なんとか戦闘機に関しては森羅に匹敵する性能のものを開発し、数もなんとか60機を調達。そのほかに新兵器のレーダーに、強力な高射、対空砲部隊を持ってこれを迎え撃ちます。


 結果、森羅側は停泊中の戦艦一隻を中破させたほか、基地に少なくない損害を与えたものの無力化には至らず。逆に迎撃戦闘に終始したメーム側により相応の損害を受けたため作戦は中止。森羅側は作戦を水上部隊による直接攻撃に移行します。


 一方メーム側は軍縮条約の制限で十分な陸上砲を配備できておらず、攻撃機は旧式の複葉機でとても艦隊攻撃できるような状態ではありません。そこで水上艦を出撃させて迎撃する作戦をとります。しかし事前の爆撃で中破していた戦艦一隻が修理のため本国に廻航されており、戦力は戦艦1、重巡3、軽巡2、駆逐艦7という陣容。

 

 一方森羅側はメーム攻撃型潜水艦部隊により重巡一隻を戦闘前に喪失するものの、戦艦3、重巡2、軽巡2、駆逐艦8と強力な戦力をもち、その中には森羅が誇る最大、最強の戦艦、瑞竜が含まれていました。しかしメーム側は敵戦力を把握できておらず、実際の戦闘も夜間となったため、森羅側の陣容を最後まで知る事が出来ませんでした。

 

 そんな中で行われた第一次レベイル沖海戦。

 メーム側指揮官は敵に大型艦が多い事を知ると、戦艦と重巡以下の艦隊を分離。戦艦は探照灯を照射しつつ距離2万メートルを維持して砲戦を行い、重巡以下の部隊は探照灯を照射させずに敵艦隊に接近攻撃を仕掛ける作戦をとります。これは戦艦が探照灯照射で森羅大型艦の砲撃を吸引。その隙に重巡以下の部隊が接近、敵と刺し違えることを意図したもの。戦艦も夜間に砲撃を命中させるのが難しい距離2万を維持することで安全を確保するつもりでした。


 この作戦は序盤功を奏し、森羅戦艦3隻はメーム戦艦1隻に攻撃を吸引されます。一方重巡以下の部隊は重巡の数と防御力で勝るメーム側が若干優位に戦闘を進めます。


 しかし重巡艦隊の距離が10000メートルに詰まった時、戦局は一変します。実は森羅は他国の魚雷の最大射程が5000メートルほどの中で、最大射程3万メートルを誇る新兵器、酸素魚雷を開発していました。栄華側諸国はこの事実をこの時まだ把握出来ておらず、実際に森羅艦隊と戦った前線部隊の報告で、森羅は桁違いの長射程をほこる魚雷を持っているらしい、という情報が伝わっている程度でした。そしてこの酸素魚雷が、メーム重巡艦隊に一気に襲い掛かったのです。


 メーム艦隊はこの雷撃で重巡2隻を短時間のうちに失います。また視界の利かない夜間の上、指揮系統が混乱したことで各艦が勝手な判断で行動。総崩れに陥りました。この時メーム艦隊旗艦の戦艦も森羅戦艦の集中砲火で大破しており、指揮官は撤退命令を下します。

 

 そんな中で戦場に残っていたメーム重巡洋艦ミーネと、駆逐艦2隻が奮闘。追撃を加えようとする森羅重巡洋艦一隻の魚雷発射管に直撃弾を与え誘爆、大破させます。しかしこれで敵の注目を浴びたミーネは、逃げるメーム戦艦から目標を移した森羅戦艦3隻の探照灯照射を受けます。そして戦艦を含めた全森羅艦艇の集中砲火を浴びたミーネは短時間のうちに数十発の命中弾を受け沈没。残る駆逐艦も夜陰に紛れての近距離雷撃で敵駆逐艦一隻を道ずれにしながら沈没しました。


 しかし戦場に残ったメーム艦が奮闘するうち、戦場を嵐が襲ったため森羅側は追撃を中止。メーム側は旗艦の戦艦を含む残存艦艇が離脱に成功します。しかし戦場に残って沈んだ各艦の乗員に生存者はありませんでした。


 この海戦の結果、メーム側は重巡3隻、軽巡1隻、駆逐艦3隻の7隻を喪失。戦艦も修理のため本国に廻航されることとなり、レベイル防衛艦隊の戦力は軽巡2、駆逐艦4に激減します。対する森羅側は駆逐艦1隻を喪失した他、複数の艦が損傷したものの戦力に影響はなく、2日後にはレベイル本島に艦隊を侵攻させます。


 一方のメームもレベイル喪失は何としても避けたいところ。しかし森羅艦隊に対抗できる戦艦艦隊は低速で急速派遣は難しい状況。そこで苦肉の策として、ウルバン諸島防衛艦隊の一部として配備されていた第4艦隊をレベイル救援に向かわせます。


 メーム第4艦隊は戦艦2隻、軽空母2隻を基幹とした機動索敵艦隊。艦隊速力は主力戦艦艦隊の23ノットに比し、27ノットの快速を誇るため、レベイル決戦にも間に合う公算が高いです。また戦艦2隻はそれぞれ10機の偵察機と重量5トンの大型レーダーを搭載。これに軽空母2隻の艦載機70機が加わることにより圧倒的索敵力を持っていました。森羅側戦力を十分把握できていないメーム側としてはこの索敵能力によって、主力到着までに敵戦力を把握することも期待します。しかしこの作戦、悪くすれば戦力の逐次投入により各個撃破されかねない危うさも秘めていました。 

 

 こうして始まろうとするレベイル島の戦い。しかしそこに人知を超えた不確定要素が迫っている事を知る者は、ほとんどいませんでした。  

 

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