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ラピス

darkness of mind〜心の闇〜

『アンタ見ておくれよ! この子達の髪を』


 産まれたことではなく、髪のみを見て喜んだ大人達。

 ずっと思っていた。この世界の存在意義を。俺達が産まれてきた意味を。

 だが俺は自分の運命を呪った事は無い。自分達の髪が黒でなければ……などという馬鹿馬鹿しい事も。

 ただ……お前は、どう思っていた……?


『ーー私達の力を使えばこの国を豊かで緑の多い国に出来るって。私はその世界で兄さんと……できるなら父さんと母さんと一緒に暮らしてみたいの』


 本当にそう思っていたのかーー


『一度でいいか、ら……お父さんと、お母さんに、会って……みたかった、な……』


 ああ……そうか……。もうその真意を聞く事はできないんだなーー



  ♦



「……ッ……!」


 声が聞こえる。不快な旋律の高笑いが……。


「ハーッハッハッハッハッ!!」


 右頬には冷たい地面を感じつつ、俺はゆっくりと瞼を押し上げた。まだ体に意識が戻りきれていない違和感と、脳が揺れているような感覚。それでも目を凝らし、声のする方を見やった。高笑いを続ける人物を。そこにいる醜い存在を。


「……ルシファー」


 辺りは闇。だが、そこはルシファーが作り出した空間ではない。

 目の前で轟々と燃える業火が、屋敷を燃やし辺りの闇をより濃く、より黒く映し出していた。その炎に背を向けるようゆっくりと振り返ったルシファーは、未だかつて見た事の無いほどに口元を緩ませ、笑っている。


「……サリヴァン、起きたか」


 離れていた意識がゆっくりとこの体に溶け込んでくる。意識を失う前の出来事が走馬灯の様に俺の神経を駆け抜け、胸の内に熱を感じ始める。あそこで燃える業火のように……。重く感じる体をゆっくりと起こし、立ち上がる。


 ーー兄さん。


 耳の中でこだまするのは、クラウディアの声。


「お前……クラウディアを、どうした……?」


 絞り出した声に反応し、腹を抱えて笑う。


「何がそんなに可笑しいのだ」

「これが笑わずにいられるものか。お前はいつもクラウディアの事ばかりだからな」


 言って、残忍そうな口元は大きく開き、ルシファーは人差し指と親指で何かを掴んでいた。


「これが何かわかるか?」


 そう言って差し出した手に掴んでいるのは目玉サイズの小さな丸い物体。背後の炎の光りを受けてか、キラキラと銀色に輝いている。

 揺れる脳がフル回転を初め、その事実にたどり着いた時、俺の瞳は引き裂けんばかりに見開いた。その様子を見て、ルシファーは愉快そうにニヤリと笑い、言った。


「数々の者達の命と魔力の結晶であるラピスだ。お前が完成させてくれたのだよ。……お前自らがクラウディアを精製し、この石を錬成したのだ」

「貴様ァー!!」


 ーー叫ぶ。髪は逆立ち、体が震える。それは恐怖によるものなどではない。

 杖はどこへ行った? そう思ったのも束の間。俺はそんなものを探す事も呼ぶ事もせず、ただ力任せに、感情任せに醜い存在に向かって駆け出した。

 しかし、俺の意志に反して足は止まる。


「馬鹿な小僧だな」


 俺の首に何か、締め付けるように掴んでいる。その力は強く、喉骨が軋む音が耳に響いていた。


「……がっ」


 数メートル離れたところにいるルシファーが、片手を俺へ向けてかざしている。その手は何も掴んではいない。だが、明らかに何かを掴んでいる様子。その指が力を加えると、俺の喉は更に強く締まり出す。


「お前にはこの世界の理をたくさん教えてやった」


 片手は変わらず何かを掴んでいる様子で俺に向けてかざし、もう一方の手に掴まれたラピスは煌めきながら、ゆっくりとルシファーの口へと運ばれる。


「もうひとつ、理を教えてやろう」


 言ってルシファーはラピスをゆっくりと口の中に入れ、舌先でそれを転がし、やがて喉を鳴らして飲み込んだ。

 ーーゴクリ。


「この世とはなサリヴァン、力のある者が支配すればいい。力がなければ虐げられ、殺されたとしても仕方が無いことだ」


 ラピスは食道を通り、ゆっくりとルシファーの腹の中へと落ちてゆく。そんな感覚でも感じているように、コイツは腹部に視線を落とした。


「ただし……力があっても知力が足りぬならば、殺されても文句は言えない、がな」


 突然ルシファーの長い髪が揺らめく。風を受け、炎のように揺らしながら俺に向けた手を離した。


「……げほっ!」


 同時に俺の首を絞めていた、目に見えない何かから解放される。俺の喉は必死に空気を吸い込んだ。せき止められていた空気が勢いよく喉を通り肺へと駆け抜け、その勢いに俺は咽せ返る。


「おおっ……感じる……」


 ルシファーは自分の両手を見つめ、小刻みに震えた。


「クククッ……ハーッハッハッハッハ!!」


 息を整えながらも俺の視界は、高笑いを続けるルシファーへと注ぐ。

 ーー狂っている。

 目の焦点は合っておらず、人間味の無い表情。


「私はとうとう手に入れた……不老不死、そして誰にも負けず劣らずの最強の力をッ!」


 ルシファーの髪の色が黒一色に染まってゆく。二房あった白い髪が頭部から黒い液体をかけたように、毛先に向かって浸食してゆく。黒い髪は魔力の象徴。生まれもった先天性の力。この世界で黒一色の髪を持つ人物は片手で数えれるほどしかいないと言われているほどの貴重なもの。その色がルシファーの頭部にも表れていた。


「そんな偽物を得て、何が嬉しい」


 ーーピクリ。

 高笑いは止まり、焦点の合わない瞳が俺の方を向く。


「……偽物、だと?」


 すると突然ルシファーの手に杖が現れ、カンマ入れずその杖を一振りすると、


「……っ!」


 俺の体はルシファーの元へと飛んでゆき、首を掴まれ投げ飛ばされた。


「ぐはっ!」


 頭部に痛み、口の中には砂利と鉄の味が入り交じる。その後すぐに再び頭部に痛みが走る。零れ出る吐息。吐き出す紅の血。俺の頭部を虫けらのように踏みつけ、


「偽物かどうか、その身を以て体感してみるか? ん?」


焦点の定まらない瞳が俺を見下ろす。


「……ふっ」


 ……馬鹿が。コイツはやはり、馬鹿だ。

 鼻で笑う俺に対し、ルシファーの眉間に亀裂が走る。


「……何が可笑しい」

「ククッ……お笑いぐさだな。そんなものはまがい物にすぎない、ぐっ!」


 髪を掴み、俺を無理矢理に立ち上がらせた。


「なぜ……そう思う? お前の考えを教えてはくれないか」


 教えを請うているが、表情や態度は苛立ちを隠せないでいる。相変わらず焦点の合っていない瞳は血走り、口元は酷く歪んでーー


「なぜ……? 愚問だな。だってそうだろう。お前は俺には叶わない」

「なぜだ」

「お前は俺を真の名で掌握している。それがなければ俺には敵うはずもないのだ」

「それはどうか……」


 突然俺の腹部に鋭い痛みが走る。


「ぐぁっ……!」


 痛みに顔を顰め、空いた手で腹部を触った。だが、そこには血の跡もなければ穴も空いていない。しかし俺の口から燃える様な赤い血が噴き出した。


「がはっ」

「臓器をひとつ捻り潰した。これでも私はお前に敵わないと言うのか?」


 醜い笑みは腹部の痛みをさらに助長させる。


「ああ、敵わない」


 俺は腰に差していた杖を取り出し、そのまま素早く剣に変え、ルシファーの腹部目掛けて突き刺した……が。


「所詮は子供の浅知恵か」


 ーーゴトン。

 鈍い音と共に、俺の肘から下の感覚が無くなった。

 同時に、ちょうどその接続部分から無数の蜂に、一斉に刺された痛みと、燃える様な熱が這い上がってきて、俺は力の限りに叫んだ。


「……っがぁぁぁああ!!!!」


 吹き出す血しぶき。ルシファーに髪を引っ張られた状態で俺は暴れ回る。足は空を蹴り、切り落とされた腕を支えるようにもう一方の腕でそこを掴んで。

 そんな俺をヤツははニヤリと見つめる。まるで糸が絡まった操り人形でも見ているような、滑稽でたまらないといった表情で。



俺の腕は薪のように地面に転がり、剣は杖に戻った。



ルシファーの腹部目掛けた剣先は、それを貫く事無く数センチ手前で弾かれていた。




「サリヴァン。クラウディアのいない今私はお前を生かそうと思っているのだ。これからは力のある者同士この国を支配しようではないか。


この国の頂点に立ち誰もが平伏す世の中に。力のある者だけが支配し、力がない者を虐げ、気に入らない者も殺す……そんな国に」


 お前は本当に…………反吐が出る野郎だ。


「プッ!」


 俺は渾身の侮蔑の眼差しを向けながら、醜い顔にツバを吐いた。俺の髪を引っ張ってくれていたお陰で、それは容易にルシファーの顔に命中した。血の混ざった赤いツバ。一瞬何をされたのか理解出来ないでいるのか、焦点の合わない瞳の動きが、止まる。だから俺はもう一度ツバを吐きかけてやった。


「プッ!」


 反吐が出る……そう言葉を付け加えて。


「……このっ、クソガキィィィ!!!」


 節くれた手を握り締め、それが俺の左頬を捉えた。衝撃に俺は吹き飛び、再び大量の血を吐き出す。潰された内蔵が腹部でミキサーにかけられたような感覚。胃の中のものも込み上げてくる。


「ウゲェェェ」


 思わず吐き出した瞬間、後頭部に再び痛みが走る。ルシファーの足が俺の頭部を捉え、すり潰そうと踏みつけて。


「私はどうやらお前の事を高く評価しすぎていたようだ」


 ーーゲシッ ゲシッ。

 幾度となく俺の頭部を踏みつける。鼻の中にツーンと何かが込み上げて来て、気づかぬ間に鼻から血が吹き出てそれが俺の息を止める。


「お前は馬鹿だサリヴァン。力があっても知力が足りぬお前に用などない。……苦しんで死ぬがいいーー」


 そう言ってルシファーは俺の頭部を踏みつけたまま、杖を掲げた。血走った瞳は、一瞬だけ焦点が合わさり、俺を捉えて。


「さらばだ、サリヴァン」


 死 ね。


 音は無く、唇はそんな言葉を紡いだ。

 ーーザクッ。

 血が滴り落ちる。斬りつけられたところから、幾度となく今まで見てきた血。

 ああ……クラウディア。お前はどこにいるんだ……。掠れそうになる意識を懸命に引き止め、頭部を踏みつけていた足がゆっくりと離れるのを感じ、俺はそいつを見やる。

 濁った藍色の瞳。その瞳の周りは赤く血走り、俺を見下ろしている。その表情は悪鬼のように怒り、そして驚きに満ちて。


「…………一体……いつからだ?」


 表情とは打って変わり、言葉は落ち着いたものだ。

 ルシファーの足を逃れ、俺はよろよろと立ち上がる。


「……初めから、だ」


 正面に向き合い、ルシファーの驚いた顔と同時に腹部から飛び出した剣をマジマジと見つめる。分断された俺の腕は再び杖を掴み、その杖先を剣へと変貌させ、ルシファーの背後から静かに近づいて突き刺した。

 頭に血が上ったコイツは俺に気を取られ、分断された腕の存在には全く気づかなかった。

 ルシファーを突き刺した剣を伝って俺は更に内蔵をえぐる。だが、ルシファーは剣ごと俺の腕を抜き取り、踏みつぶされる前に腕は蜘蛛のように地面を這い回り俺の元へと戻ってきた。

 ちっ、という小さな舌打ちの音が耳に届き、俺は口元で小さくほくそ笑んだ。


「では……腕を切り落とされたのも計算だったという事、か」


 当たり前だ。俺はこの時を待っていたのだから。

 ずっと長い間、俺はこの時をーー


「だが」


 ルシファーはニヤリと笑う。


「やはり甘い。私はお前達とは違い、人間などという枠を逸脱した存在だ。こんな傷、不老不死の私からすればーー」


 フと何か違和感を感じたのか、醜い顔に深いシワが入った。


戻ってきた腕は傷口にぴたりとくっつき、切られた事などなかったように主の意志に従って違和感無い動きを見せる。

 ただ、切られた傷と吹き出した血はそのままだが。それ以上流れ出ることはない。なにせ俺にとっては初めから、腕を切り落とされる事は想定内だったのだ。


「なぁルシファー。お前の探し物は、コレだろう……?」


 その分断されていた手が握り締めていたものをルシファーによく見えるよう掲げる。赤い血痕をまといながらも光り輝く小さな石。

 ーーラピスだ。


「お前っ……!」


 飲み込んだはずのラピスを体内から取り出すと、黒一色に染められていた髪が再び戻り始める。頭部の両サイドに白い髪が一房ずつ。毛先から根元にかけてどんどん色が後退してゆく。


「……っ! よし、わかった。訂正しよう。お前はやはり切れ者だ」


 俺はラピスを空にかざした。屋敷を燃やし続ける炎の光を反射させキラキラと輝く様を見つめながら。この石は俺が数えきれないほどのウィザードを殺し、そして俺の半身であり分身であるクラウディアから出来たもの。

 それは四元素である水、空、火、土から成る。


 水とは液体……すなわち強い魔力を持つ者の血液。

 空とは空気……魔術の闇を司る邪なる空気。

 火とは炎……人という存在から魔力を剥離し結晶へと変える力を秘めた地獄の業火。

 土とは固体……人体そのものを指す。


 だからルシファー達は闇の力がはびこるここに屋敷を構え、ここでエリクサーを作り、四元素に基づいてラピスを作っていた。

 そうまでして欲する絶対的な力、圧倒的な権力。


「サリヴァン、それをよこすのだ」


 よろよろと顔を青ざめ近づくルシファー。思ったよりも出血が酷いせいだろう。だがそんな事はどうでもいい。俺の知った事ではない。


「よしわかった。もう私はお前を支配したりはしない。真の名を呼ぶ事もない。なんなら別の者に名を付け直させようではないか」

「そんなこと出来るものか」


 真の名は産まれた時に付けられるもの。一度つけたら変えることなど出来はしない。


「いいやできる。私はその方面についても研究していたからな。なんならラピスを得た私が別の者にそういう力を与えよう。そしてその者を殺せばもう知られることはないだろう?」


 ずるずると体を引きずるように近づくルシファー。

 ーー化け狐は嘘が下手だ。


「さっきはあんな風に言っていたが、本当はお前の事を我が子のように思っていたのだ。ただ、ラピスを作るにはどうしてもお前かクラウディアの犠牲が必要だったのだ」


 ーー醜い。


「こうしようではないか。世界を二分し、私とお前でそれぞれ支配するというのはどうか? 誰もお前の邪魔をしなければ、馬鹿にする者もいない。力あるお前がこの国の王となれるのだぞ?」


 ーーああ……全く、反吐が出る。


 俺は指でそれを転がし、黙ってルシファーの言葉に耳を傾けていた。そんな様子にとうとう痺れを切らし、コイツは口汚く俺を罵った。


「さっさと渡せと言っているんだこのクソガキがぁ! 年端も行かぬガキが、私より少しばかり力があると思って馬鹿にしおって……! お前もクラウディアも黙って私に平伏していればよかったのだ糞が!!」


 指先で転がしていたラピスはピタリと止まった。同時に俺はせせら笑う。


「……やっと化けの皮を剥がしたな、薄汚い狐め」


 お前は俺達の事を駒としか思っていなかった。俺達を売った大人と何も変わらない。どいつもこいつも薄汚くて仕方がなかった。


 ーーセタとシタ。


 クラウディアはきっと知らなかっただろう。なにせこの屋敷にずっと籠もり、ルシファーにいわれるがままエリクサーを精製していたのだから。

 だが俺は違う。俺はクラウディアとは違い、外へ飛び出し無数に力ある者を捕まえ、殺した。その為にたくさんの知識をつけ、成長した。だから知っている。俺達の真の名に込めた意味を。

 それはなんて事ない意味だった。寧ろ知った時、俺は心から納得したのだ。

 ーーセタとシタ。

 それは、どちらも犬という意味。飼い犬。時に猟犬、時に家畜のように扱う名。決して対等ではない。

 コイツにとって、俺達は犬畜生なのだ。


「……セ」


 パキィィィィンーー

 ルシファーが真の名を呼ぼうとした瞬間、俺はラピスを握り潰した。俺の手の中でそれは銀色に輝く粉となり、さらさらと風に吹かれて落ちてゆく。

 ーー絶句。

 ルシファーは足元からワナワナと崩れ落ち、今目の前で起きた光景をまだ受け入れられない様子だ。


「……なっ、んて事を……」


 怒りが火山のように噴火する直前、俺は既に呪文を唱えていた。


「闇の扉を開放する。彼の者を闇の深くへ誘い、コン尽きるまで魔の鎖に繋ぎ、貪れ……オシコクンネ!!」


 言葉は空間を裂き、闇の中から更なる闇を呼んだ。

 深く深い、闇。


「セタ!」


 ルシファーが真の名を呼ぶが……もう遅い。闇の扉は開かれた。深い闇の中から目には見えない鎖がルシファーを縛り上げてゆく。

 ジャラジャラジャラ。

 擦れる音だけがこだまする。


「くそっ! セタ!! おいっ私を助けるんだ、セタ!」


 無駄だ。お前はもう、こちら側の人間ではない。人でもなければ、お前の求めた超越した力を持つ神でもない。闇の下郎となった、何者でもないものーー


「やめろっ……助けてくれ! 頼む……たのっ……」


 恐怖に駆られた哀れな醜き者の顔。そんな姿を俺は、無性にひやりとした気持ちで見つめていた。


「じゃあな、ルシファー……」


 ーーバタン。

 開かれた扉は再び空間を縫うように繋ぎ合わさり、消えた。

 再びそこにはいつもの闇が広がっている。それはいつもと変わらず、いつも見慣れたものだった。

 燃え盛る炎を横目に、俺はその場に力無く倒れ込む。

 夜空を見上げて。木々に覆われた深い森の中にひっそりと存在する屋敷。それももう燃え尽きようとしているのだが……。

 ここは木々が覆い尽くす。だがその隙間を縫って時々現れる、月。


『月を見るとなんだか安心するの』


 アイツがそう言ったのはいつの事だったか。


『……だって、兄さんの瞳とそっくりなんだもの』


 それももう、遠い昔の事のように感じる……。俺は握っていた手をゆっくりと開き、そこにあるものに目を向けた。

 銀色に輝く粉。それはクラウディアの一部であり、俺の一部。

 もう俺を縛る者はいない。自分の意志で死ぬ事だってできるのだ。

 けれどーー


 ーーやはりこの世界には……意味などない。

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