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第三章

目が覚めたときには、既に、もう日が照っていた。

ああ、起きたくない。

起きたくない。

誰もが気持ちはよくわかるだろう。

土曜、日曜、祝日は何か無い限り時間いっぱいに寝ておきたい。

しかし、起きたくないが、日差しのせいでゆっくりと眠りに入れない。

どうやら、もう朝日はそれなりに高いところまで昇っているようだった。

僕はいやいやながら目覚めることにした。

しかし…………。

起き上がろうとすると布団に足をひっぱられた。

「んっ?」

正確には布団に引っ張られたのではない。

布団のなかに何かがいたのだ。

「っ!?」

僕は勢い良く布団を取り払った。

すると中には凄盛鬼裏亡ことキリナがしあわせそうに眠っていたのだった。

「……………。」

アレ?

どういうことだろう。

起きたばかりなので頭の回転が間に合っていない。

現状を掴めなかった。

「うーん…………。」

とりあえず今の現状を詳しく再度確認しよう。

僕は朝になって起きて、布団から出ようとした。

しかし、何者かに足をひっぱられた。

その何者かはキリナである。

そして、ここからが事件の鍵となる。

僕は何故か上半身裸で、キリナは下着姿である。

「……………。」

キリナはいまだに幸せそうな顔をして眠っている。

ま、考えていても、しょうがないので、まずはとりあえずコイツを起こしてみよう。

「キリナ、起きろ。」

肩を揺すってキリナを起こす。

反応は無かった。

「おい!キリナ!起きろって」

今度は声のボリュームを上げる。

しかし、反応は無い。

「おい!!起きろよ!」

大声で大きく揺さぶりながら起こす。

が、反応は無い。

「……………。」

どうやら無理のようだ。

ま、幸いに抱きついていた足を放してくれているので、僕はキリナを放置して、部屋を後にすることにした。



「おはようございます…………です。……………はい。」

キリナが、ようやく起きたのは昼に近い11時過ぎのことだった。

今日は土曜で学校も休みということで僕は家のリビングのテーブルに座って彼女が起きてくるのを待っていた。

一方、キリナはまだ眠たいのか目を一生懸命に擦っている。

「おはよう…………じゃないだろ。何平然と挨拶してくるんだ。」

「ん?おはようじゃないですか………はい。」

「ですか、はい。じゃないだろ…………。ところで、えっと………なんで僕の家にいるんだ?」

僕は核心をついた。

「えっ?………………、だって昨日から私はお兄ちゃんの………えっと語弊約ですから…………はい。」

「護衛役だろ。」

「ああ、そうでした………はい。朝だから頭が回らなくて。それで、だから護衛するためにお兄ちゃんの近くにいたのです………はい。」

いや、だからって護衛するには近すぎるし、寝てたら意味無いじゃあないか。

僕は心の中で突っ込みを入れる。

それに………。

「僕が聞いたのは、そんな意味じゃあない。なんで、一緒に寝てたんだ?」

そう問題はそこ。

昨日、僕は一人で深雪邸から帰り、一人で布団について、一人で寝たのだ。

うん、それは確かに覚えている。

それなのに、朝起きてみるとキリナが一緒に寝ている。

しかも、肌着一枚の姿でだ。

幸い今は上からマントを一枚着て、しっかりとスカートを履いているようだ。

ま、この際なんでマントなのかは突っ込まない。

とりあえず、服を着てもらっておけば何でもいい。

それにしても、一体どこから入ってきたんだ?

「それは……………。えっと…………企業秘密です。…………はい。」

何か誤魔化そうとするキリナ。

「いいから話せ!」

僕は命令する。

僕が命令すれば彼女は応えるしかない。

それが僕とキリナの契りである。

「それは………忘れました。」

キリナはそう答えた。

「はあ…………?」

「だから、どうやってここに入ったかなのですけど…………忘れました。…………はい。私、どうやってここまで来たんでしょうか?」

何故か逆に聞かれた。

むろん、僕が知るわけ無い。

むしろ、こっちが聞きたいところだ。

まあ、いい。

どうやら何事起こってないようなら、どうやって家に入って、布団に潜り込んできたかなんてどうでもいい。

ま、どうでもよくわないけど。

すると、そのとき。

ぐう―――ぅ。

お腹の鳴る音が鳴った。

「……………。」

「……………。」

キリナは顔を赤くしていた。

どうやら、恥ずかしかったのだろう。

「えっと…………。飯食いに行くか?」

僕は提案する。

昼飯にするには、少し早いかもしれないが、まあ、ちょうど妥当な時間帯であったので僕はそう言った。

対してのキリナは……。

「はい。……………です。」

微笑しながら答えた。

そして僕はその笑みに少しときめきを感じてしまった。

「そういえば、昨日の夜はすごかったですね。……………はい。」

キリナは不敵に笑みを見せた。

ん…………?昨日の…………夜??

「なんのことだ!!」

「秘密です。…………はい。」

「いいから話せ!」

「お兄ちゃん、そんなところで命令権を使うのは卑怯です。…………はい。」

「いいから吐きやがれ!!」

「冗談ですよ。昨日の夜は何もやってませんよ。ちょっとお兄ちゃんをからかってみただけです。…………はい。でも、お兄ちゃん、思ったとおりの行動をしてくれました。おもしろかったです…………はい。」

「……………。」

僕は無言でキリナの前に立ち、キリナを捕まえて漫画のように頭をグーでぐりぐりしてやった。

「いたっ!痛いです!…………はい!」

「そうか、痛いか?」

僕は少々きつくキリナに攻撃を続けた。

はあ…………。

まったく、朝っぱらから…………。

僕は力無くため息をついたのだった。



僕はキリナを連れて街へと出た。

街は土曜と言うことで、たくさんの人が集まっている。

さすがに休みの日なので、やたらと男女カップルが多い。

すれ違う人は、男女一セット。

ああ、まったくウザッタイ限りである。

何がカップルだか。

単にイチャついているだけじゃないか?

見ているだけで腹が立ってくるよ。まったく…………。

ま、実際にその中にいる僕らが一番目立っていた。

正確に言えば、人込みの中に猫耳とマントをつけている非常識な姿の少女がかなり目立っていた。

擦れ違いざまには、みなこちらをチラッと横目で覗いてくる。

ま、しかたないだろう。

キリナはまだ少しばかり幼いが、それでも顔は十分に美少女と呼んでも過言ではない。

僕の周りにはかなりの美少女がいるが、キリナはそいつらとも引けをとってはいないだろう。

ま、考えてほしい。

そんな美が付くような少女が町中を猫耳とマントをつけて歩いている。

これで注目しない人はいないだろう。

男は得にだ。

いたら、そいつはヘタレかBLだ!

僕はそう思いながら歩いていく。

対してキリナは何故かぎこちなさそうにしながら歩いていた。

「どうかしたか?」

僕は彼女に目を落として、そう言った。

「あっ………嫌。いえ…………いや、ただ。こうして若い男女が並んで街を歩くってことは…………その、初めてで、え―っと…………これは、デートというものじゃないのかと思いまして…………です。…………はい。」

顔を真っ赤にしてキリナはそう言った。

「ん?そうか?たぶんはたから見たら仲の良い兄妹かなんかだと思うよ。」

僕はそうからかうように答えた。

「なっ………兄妹ですか?」

「ああ。それよりも、どうかしたのか顔が真っ赤だぞ。」

「っ……………!?なんでもないです!!はい!」

あれ、

「はい」に

「………」が無かった。

めずらしく感嘆するキリナした。

「ほんと大丈夫か?」

「大丈夫です!お兄ちゃんなんて知らないです!」

「………?」

なんか起こらせてしまったようだ。

でも何で?

こんな感じの会話をしながら僕らはファミレスへと向かった。



ファミレスに着いて中へと入る。

ファミレスは昨日、深雪たちと来たファミレスと同じファミレスだ。

中に入ると店員の一人が僕を見て驚いて奥へと入っていった。

なんだろう?っと思っていると、しばらくすると店員が三名もやってきて、何故か丁重に席へと薦められた。

ま、昨日あんなことがあった後ではしかたないか。

僕とキリナは薦められた、一番奥の席へと座った。

「なんかすごい接客でしたね。ここ4年、5年はファミレスに来た事無かったのですが。最近のファミレスは評判がいいと言う噂を聞きました。けど、まさかここまでとは…………。…………すばらしいです。」

なるほどと呟きながら感心するキリナ。

ま、確かに数年前よりは、はるかに良くなったが、ところが、こんなに接待がいい所ではないはず………本当は。

それにしても、いい歳した少女が数年もファミレスに来たことがないとは…………。

キリナはやはり特殊な人間の部類に入る。

「あっ、言っておくけど店の全品頼んだりはするなよ。」

僕は一応指摘する。

「はい?」

キリナはおかしそうに首を傾げた。

「そんな馬鹿みたいなことする人は普通いませんよ。お兄ちゃん、おかしなこと言いますです。…………はい。」

「……………だよな。」

くそっ!無償に悲しい。

でも、そんな馬鹿が存在するんですよキリナさんてば!!

僕は悲しくなった。


僕らは普通に普通の注文をして、普通に普通の内容の話をしているうちに、いつのまにか食事が運ばれてきた。

ああ、キリナはこんなにも以外に世間が判るやつだったのか。

僕はなんだか泣けてきてしまうよ。

こんな普通にナチュラルな会話をしたのは久しぶりだ。

猫耳マントは非現実であるが、みためなんて愛情でカバーだ!

ま、街を歩くときは恥ずかしかったけど。

「お兄ちゃん?食べないと冷めますよ…………はい。」

フォークを左手に持ちながら、キリナは指摘してくる。

「あっ、ああ、そうだな。そういや、ずっと聞きたかったんだけど何で猫耳とマントなんだ?」

「突然ですね………はい。」

「突然ですいませんです。…………はい。」

真似をして僕は答える。

「うーん、何故猫耳でマントなのかですか。それは…………はい。暗殺者に置いて大切なことは、いかに自分を敵と思わせないかですから。こんな格好をしていると暗殺者だと思われにくいんです。」

「…………ほう。なるほど。」

なんとか理解する。

ま、確かに暗殺者とは思わないだろうな。

僕もキリナが暗殺者と言われても疑ったし……………けど!でも普通に警戒するだろ、その格好見たら。

…………。

「もしかしたら、また現れるかもしれない別の暗殺者も、こんな猫耳とかつけているのか?」

「こんな猫耳とは何ですか!…………まあ、はい。知ってますか?日本では、もう猫耳は文化で日用品ですよ!?…………はい」

力説するキリナ。

さっきの言葉、全撤回。

やっぱり、コイツも変人でした。

「それは十分わかった。猫耳は理解したとして、で結局やっぱり他の暗殺者もそうなのか?」

ま、実際は猫耳なんて理解できないけど話をあわせる。

そうしないと次の話に行かないから。

「他の暗殺者ですか?ま、暗殺者も多様ですからね。色々な人がいますよ。単に仕事を忠実にするラブ・アンド・マネーみたいなのとか、私みたいな見た目を気にする流行に敏感な暗殺者とか。」

何故、暗殺者が流行に乗らないといけないのだろうか…………そう、つっこもうとしたがめんどいので黙っておこう。

「あっ………後」

キリナは思い出すよに間を空けて口を開く。

「後、これは少数なんですけど殺しを心から楽しむ戦闘狂の殺し屋がいます。これはたちが悪いです。そして、これが一般人による殺し屋の一般的なイメージです、……………はい。」

殺し屋の一般的なイメージ。

それは間違ってもキリナみたいな奴等ではない。

少なくとも僕の思う殺し屋は黒と赤。

殺しと血を好む。

………………。

キリナの声は真面目になっていた。

緊張が少しばかりだけど伝わる。

「ま、いずれにしても、今は命を狙うものは現れていないんですから。それに出てきたとしても私が命の限りにお兄ちゃんを守ってみせます。……………はい。」

おう。やばい、猫耳が眩しく見える。

それに比べて小学生くらいの女性に守ってもらう男性って………。

かっこがつかない。

ま、でも確かに今は気にする必要ないし、とにかく今は食事をしないと。

長話しのせいで、せっかくの料理も冷えてしまってそうだ。

僕はフォークを左手に持とうとした。

そのとき…………。



ガラスを割って勢い良く男が入ってきた。

2メートル級の大きなガラスが粉々の破片になって散らばる。

「……………。」

「……………。」

いや………?何?

僕は、僕らは呆気にとられた。

一瞬、静まり返るファミレス内。

そして、一斉に騒ぎだすファミレス内。

それは、そうだ。

騒がずにはいられない。

だって不審な自分、つまり不審人物がいきなり飲食店のガラスを割って現われたのだ。

怪しくて、怪しすぎてしかたがない。

すると男はふーっと大きくため息をついた。

男の身長は高く190前後くらいある。

服装はシンプルに黒に統一されている。

髪は無造作に伸ばされているが、それがまた似合っている。

しかし、黒のイメージの強い服装以外は実に普通。

むしろ、この男なんかよりもキリナの方がずっと危ない人に見える。

なんといっても常時愛用は猫耳とマント。

よっていつも猫耳とマントをつけたロリータ少女。

それに比べれば、こんな人はどこにでもいるんではないかと思う。

男にはインパクトの強いものはこれといってない。

ま、登場の仕方には十分に強いインパクトを持ったが…………。

「えっと……………。どちらさまですか?…………はい。」

そう問いたのはキリナだった。

僕はキリナをすごいと思った。

だって、この人どこからどうみても怪しすぎるから…………。

キリナは親から怪しい人に話し掛けちゃダメって言われなかったのか?

「……………。」

しかし、男は答えない。

男は無言で周りを見渡して、ちょうど僕に目を向けたところで止めた。

「きみが………白澤朝奈かい?」

そこで男は初めて口を開く。

男の声は以外にもやわらかみのある優しい声。

「いいえ。違います」

しかし、嘘ついた。

普通に嘘をついた。

だって、恐いから。

「そうか。違うか………邪魔したな。すまない。」

なんか謝られた。

礼儀正しいようだ。

実はこの人見た目以上に常識人なのか?………っと思ったが、常識があるならファミレスの窓を割って登場はしないだろう。

「えっと、どちら様ですか?」

今度は僕が問いた。

「名前か?すまないが色々あって必要以上に名前を教えることはできないんでね。」

おっ!なんかカッコイイ!!

「逃亡中の犯罪人だったり?」

「残念だが違う。」

「なら、逆で犯人を追う秘密捜査官?」

「うーん、そんなところか?ま、内容はいずれにしろ違う。だけど人を探しているのは確かだけど………。」

そう男は言う。

すると警察を呼ばれたらしく外にはパトカーがやってきていた。

「…………どうやら、探す前に、しばらく警察の御用になるようですね。」

「ふむ、それはいささか困るな。」

男は腕を組んで困ったように渋く言った。

「え―――っと、どうするつもりです?」

「突っ切る――――――。失礼した。君とはまたどこかで合えそうな気がするよ。」

男はそう言うと割って入ってきた窓から、今度は出ていった。

「おおっ!!」

僕は思わず感嘆の声援をあげた。

警察は男を追う。

が、男の足の早さは早く、警察たちを撒いて、そのまま僕の視界から消えていった。

「なんだったんだ?」

残されてしまった僕は首を傾げた。

隣にいるキリナは何故か険しい顔をしている。



「はあ――――。」

僕はため息をついた。

ただいま僕らは警察署から出た所にいた。

「ようやく解放してくれた。」

そう、アレから今まで事情聴取をされていたのだ。

ま、あの男に関しては簡単に話はついたのだが、

「きみたちの関係は?」だの変な質問をいくつかされたのだ。

僕は

「ただの知り合いです」って言ったら

「ほんとうか?」と疑われた。

まったく僕がロリコンのようにいいやがって!!

「それにしても、さっきのやつは何だったんだ?」

僕は独り言のように呟いた。

対してキリナはさっきからずっと深く何かを考えるように無言。

「さっきから、様子おかしいけど、どうかしたのか?」

僕はキリナに目線を向けて言った。

「いえ……………。ただ…………あの人からは非常に濃い血のにおいがしたので…………ちょっと気になってて……………はい。」

「……………。」

それって…………。

やっぱり。

「あいつは殺し屋なのか?」

僕の名前を知ってたし………。

しかし、キリナは首を傾げた。

「どうなんでしょう?そんな気がするけど……………何か違うような。…………です。」

「何か引っ掛かる点でもあるのか?」

僕は問う。

道を歩きながら、キリナは腕を組み、困った顔をする。

「ま、そうです………。はい。彼は血のにおいはするけど、殺し屋のにおいはしないんです。…………はい。」

「殺し屋のにおい?」

キリナはまた、わけのわからないことを口にする。

「はい。わかりませんか?」

「わかるわけないじゃんか。」

速答する。

「でしょうね。」

「うん。で、何ソレ?」

「うーん。説明しにくいんですけど、いわゆる所の風格といったところですかね?」

「つまり殺し屋の風格ってことか?」

「はい。そうですね。…………はい。ま、お兄ちゃんみたいな素人にはワカラナイと思いますけど」

「ま、…………な。」

しかし、いくら本当に素人だからといって、こんな自分よりも年下の娘から言われると、少し反感を覚える。

「とにかく、あの人はお兄ちゃんのことを探していたのは事実です。今後は注意を払った生活をしないといけません。…………はい。」

僕はキリナのことばに頷いた。

「あっ、ところで。なんであの時は、あの人に嘘ついたんですか?」

キリナはこちらに顔を向けて聞いてくる。

「キリナ、人生においてはな……………―――――――。」

僕は帰り道5分程度だろうか。

この非常識っ娘に世の中について語ってあげた。

「つまり、嘘ついて生きろってことですか…………はい。」

うーむ…………。

どうやら間違った教え方をしてしまったらしい。

まったくキリナには僕みたいにはなってもらいたくないもんだ。

僕はそう強く思った。

歩きながら、空を見上げた。

空は黒色。

地上と空の国境線は全て一色。

区切られてはいない。

夜になるといつも、それが謎に思える。

しかし、大したことではない。

僕にとって大切なことにはならない。

僕にとって大切なのは僕という人間の価値観をどれだけ満たすことができるかにすぎない。

世界は僕にとって関係のないものだ。



そんな、こんなで家に帰り着いた頃には、辺りはすっかりと暗くなっていた。

僕は家に着いて、玄関のドアの前に立って鍵を差し込み回転させる。

ガチャ。

そして、扉を開こうとした。

が、しかし…………。

鍵は閉まっていた。

アレ?鍵を締め忘れてたかな?

僕は首を傾げながら、もう一度鍵で開けて扉を開いた。

すると、中からは煙が出てきた。

「煙!?」

思わず叫んだ。

何となく叫びたかった。

「あっ、でもいい匂いです。」

悠長にキリナは、そう言った。

何を呑気なこと言っているんだ!!

僕はキリナの相手をしているどころじゃない。

慌てて中へと入って、煙の元を辿る。

そして行き着いた先には………………。

「あっ、はーい!白澤!!」

深雪がいた。

しかも、エプロン姿で台所に立って。

「……………。」

「白澤?」

彼女は僕の名を読んだ。

「……………。」

「おーい。白澤ってば!!」

もう一度連呼される。

僕は

「はあ」と短くため息をついた。

ま、家事とかになってなくてよかった。

「いや…………。なんで、ここにいるんだ?そして、何しているんだ。」

僕はとりあえず聞いた。

「見て分かんないかな?お料理だよ。」

あっ、そういや煙だ。

僕は急いで窓を開けて換気扇を起動させる。

「ふー、とりあえず燃えてなくてよかったけど。」

「そうですね。…………はい。」

どうやらキリナもこちらへとやってきたようだ。

「あっ、キリナちゃん。今日の朝から突然いなくなるから何事かと思ったわよ。」

深雪はキリナを見てそう言った。

「うぬ?心配かけたですか?…………はい」

「ううん。全く心配も、探す気もなかったら、気にしないで」

「いや、お前が気にしろよ!てか、探せよ!!」

僕がつっこむ。

「うーん。でも、どうせ白澤の所にいるんじゃないかなとは思ってたし」

「ま、心配には及びませんですよ…………はい。」

キリナはノーサンキューです。っと付け加える。

僕は、この際、そこはノープロブレムだろっ!という在り来たりな突っ込みはしなかった。

「で、深雪はなんで家にいるんだ?しかも中には鍵閉まってはずだぞ」

「ああ、その話?私、鍵なんて類の決壊には食らわないテキスト持っているから。いわゆる鍵開けの超能力者だったのだ!!」

と、平然とおかしなことを言う深雪。

ああ、そうか。

本当は、そんな超能力者なのか。

なるほど。

「って、密室殺人ミステリーを軽くぶっ壊してしまいそうな能力なんていらねーよ!!そもそも、そんな能力持ってないだろ実際は…………。」

僕は突っ込みをいれる。

まったく、君に対して今まで何回突っ込まざるおえなくなったことか……………。

こちらのことを考えて惚けてほしい。

「うん。本当はこっそり白澤の鍵を盗んで複製してた合鍵を使ったのだ!」

「なるほどです…………はい。これで謎は明らかに!!」

キリナが言った。

そこは乗るところか………?

「いや、複製って!なんてことしやがる!!」

勝手に盗んで、家の鍵を複製して、違法侵入。

軽く二つくらい違法行為であるんじゃないのか。

「ま、いいじゃない?」

「いや、よくないよ。」

「なら、私の体で払うわ。」

「一人でやってろ」

「むむ、でもこうして晩ご飯作って待っててあげたのよ。」

深雪はそう言ってテーブルを指差した。

テーブルにはたくさん料理が飾られていた。

「すごいです…………はい。お姉ちゃん、料理できるんですか。すごいです。…………はい。以外です。…………はい。」

キリナは関心のご様子。

ま、最後のほうには、深雪に聞こえないように、小声で何かを付け足していたが。

「そりゃ、私は女だから。キリナちゃん、いい女の条件は、綺麗で、優雅で、かっこよくて、男に対して開放的な女よ!」

「なるほど…………です。」

「いや、間違っているのがあったぞ。解放的な女っていい女なのか?それに料理のできる女は、いい女の条件にはないのかよ。」

「ま、世の中適当だから。その場、その場で変わるのよ。」

「……………。」

「ま、とりあえず、座って、座って。早く食事にしないと冷めわよ。」

深雪に言われるがまま、僕らはテーブルに座った。

「ささ、食べてごらんあれ!」

「いただきます。…………はい。」

キリナは勢い良く食し始める。

「……………い、いただき………ます?」

僕は恐る恐る、食べ始める。

不安な気持ちで一口めを食する。

「あっ、………おいしい。」

「おいしいです。…………はい。」

キリナと同時に言った。

ちょっと予想外だった。

深雪の作ったものは、見た目がそうとうなものだったためか食べるのが多少こばまっていたが、しかし食べてみると以外と…………むしろ、かなりおいしかった。

「へへへっ」

深雪は無邪気に笑った。

「どう?おいしいでしょう?」

「ああ、予想以上だ。」

むしろ、予定外だ。

しかし………なんで、あんなに煙が出ていたのだろうか?

もう、この際なら聞かないことにしよう。

僕は過去のことは水に流すタイプだから。

「白澤、どう?私に恋しそうになったでしょう?」

すると、いつものように調子に乗って聞いてくる。

「それはない。」

「あら、そう?でも好感度3アップでフラグ立ったりはしたでしょう。」

「……………。」

何を言っているのだろうか、この娘ときたら。

好感度3アップ?

フラグがたつ?

ふざけるな!!三次元にギャルゲーなんてものは存在しないんだ!!

僕はギャルゲーの極意をズバッと言ってやろうかと思ったが、言いおわった後にあまりにも悲しくなりそうなので言うのを辞めた。

すると深雪が

「ところで………」と会話を転換させてきた。

「そういや、昼からキリナちゃんと二人でどこ行ってきたの?私を置いて?私とはデートしてくれないくせに?」

「単に君とはデートができないんだ。」

僕はハッキリと言った。

「何でよ?あっ、わかった。恥ずかしいんでしょ?あー、なるほど、なるほど。この!照れ屋さんなんだから。」

ああ、暴走ゲージ危険域を突破!!

ダメです!やつを止められません。

そんな勢いだ。

実際何故、深雪とはデートができないのか。

それは君がそんなんだからだよ。

危なくて二人っきりになれやしない。

「……………。はあ……………。」

僕はため息をついた。

どうやら連日からのゴタゴタで疲れていて、今日も休むことはできずにダメージとストレスだけが積もってきているようだ。

いいかげんに、まともな休みが欲しいよ。

そう願った土曜の夜。

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