第二章
まったくもって無意味でまったくもって無価値。
それは嘘吟慢で偽りの形でもある。
この世に本当に無価値で無意味。
この世に一番に無価値で無意味。
それは、まるで何の意味も存在もない。
そんな物がもし、この世に存在したとするなら………僕はそれを讃え、敬うだろう。
そして涙する。
何故ならそれは同族で同価値なものだから。
だから僕はそれを求めるだろう。
一夜があけて朝となる。
すがすがしい朝だ。
ああ、朝日が二つに見えるよ。
あれれ?なんでだろう。
朝、体を起こして一番にカーテンを開けて外を眺めていた。
ぼーっとする。
「…………。」
まあ、それもそのはず。
昨晩からずっと十分おき程度に深雪からメールが送られる。
内容は『らぶ☆』だったり『愛してる』のような甘い内容。
しかも返答しなかったら十通くらい一片に次のメールが送られてきた。
これは逆セクハラでありストーカー行為だ。
『あなたのことは24時間。ずっと見てるわよ。ずっとね。』なんてメールが来た時は辺りを見回したよ。
まあ、そのせいで僕は寝てないんですよ。
あの変態のせいで……。
「ああ、キリナは大丈夫かな。」
ふと思い出したように少女の身を心配する。
まあ、殺しはしないだろう。
しかし、深雪のことだ軽い尋問くらい平気でやっていそうである。
そう想像すると本気で心配になってくる。
僕はとりあえず制服に着替えて部屋を後にする。
一先ずは深雪の家に行ってキリナに話をつけないといけない。
本当は関わりたくないのが本音であるが、まあ……こればかりは仕方がない。
学校が始まる前にキリナと話をつけよう。
家を出て深雪の家まで向かった。
深雪の住まいは学校から徒歩5分程度の所にあるアパートである。
交通の便は最高にもかかわらず家賃は非常に安い。
確か一万とか言ってはいたものの
これは絶対におかしい。
てか、ありえない。
おそらくアパート主に凄んで無理矢理に安くしたのだろう。
僕は今、そんなアパートの前に立っている。
一度深雪に無理矢理に連れてこられたことはあるが、こうして自分から訪れるのは初めてである。
「ああ、僕は今魔王の城の前にいる勇者のようだ」
口に出して述べる。
「うん?真王ってなんのこと?」
一人のはずなのに返答が帰ってくる。
あれ?
僕は不思議そうな顔のまま声の主の方へと顔を向ける。
そこには魔王(深雪)がいた。
「はーい、白澤グッドモーニーゲ。」
手をひらひらと振るう。
「グッドモーニンゲ?モーニングだろう」
朝から頭の弱そうなことを口にした深雪の発言を指摘する。
「あら。白澤、知らない?グッドモーニンゲって言うのは流行よ。グッドモーニーグなんて遅れてるわよ。」
「そ……そうなのか?」
最近の流行らしい。
いや、アメリカ人もビックリだよ。
「それより、なんで白澤がうちの前にいるの?私に会いにきてくれたの?もう、学校でどうせ会えるのに。でも、うれしい。愛してるわよし・ら・さ・わ。」
どうやら僕には否定権は与えられないようだ。
言論の自由なんてあったもんじゃないよ。
まったく。
「ところでキリナはどうしたんだ?」
「うん?」
僕が問うと深雪は顔をしかめる。
「キリナってどこの誰だっけ?」
「……………。」
僕は茫然と考える。
うん?あれれ、キリナを知らない?
知らない。
知らない。
あれ?そういや、キリナってどこの誰だ。
そう、決して僕の頭にはロリ猫耳マントなんて知らないよ。
知らない。
うん、そういうことにしよう。
「ああ、ごめん。キリナっていうのはきっと夢で見た人物名だった。」
「もう、白澤ったら。リアルと妄想を一緒にしないでよ。」
「あははっ、ごめん。」
「あははっ、もう。」
二人は笑った。
二人は無事に普通の学園生活を過ごしました。
めでたし、めでたし。
「って!めでたしじゃあない!!………です。はい…………。」
するとキリナが大声をあげて沸き上がってくる。
「さてと………学校に行くか。」
「そうね。」
二人、見らず、聞かず、振り向かずにスルーして、そのまま通り過ぎようとする。
「殺す!です………。はい………。」
するとキリナは例の刃物を取り出して構える。
「あら、キリナちゃんおはよう。昨日はよく眠れたかい?」
「グッドモーニンゲ。キリナちゃん。」
「…………。」
そんなこんなでみんな集まって深雪の家のリビングに三人で座っている。
ああ、あのままこの娘をスルーできたら、このまま良き学園生活が遅れていたというのに。
なんとも口惜しい。
「みなさんは意地悪…………です。はい………。」
キリナは先程から半泣きでぐだぐたと小声で言っている。
「ああ、ごめんって。」
「わっ……私はあんたなんか知らないし、あやまらないからねっ!」
僕はあやまる。
ナチュラルに。
深雪はツンデる。
ナチュラルに。
「って!なんでツンデレってんだよ。」
「えーっ。だってこの娘にはいろいろと要素あるのに私には何もなかったら、ツンデレキャラでも演じようかなって」
「いらんわ、そんな設定。」
「ふん。あんたに言われようが私の勝手でしょう!!でも………あんたがどうしてもっていうなら考えてあげてもいいわよ!」
おおっ!これは………これでっ!!
頭にくるな………。
「まあ、とにかくだ。キリナちゃんは昨夜何もなかった?」
「何もなかったっていいますと………?」
キリナは質問を聞き返してくる。
「深雪に変なことをされなかった。」
「ちょっと!私が変なことでもしたとでも言うの!?白澤のくせに……」
今だにツンデレキャラになりきっている深雪。
「はい。とくに何も無かったです………。はい………。あっ」
最後に何かを思い出したような顔をするキリナ。
「どうかしたか?」
「えっと………はい。マントを取られそうになりましたです………。はい………。」
マント?
「だってお風呂入らないって言うし………寝るときもマント取らないから」
深雪がそう主張する。
まあ、確かに………それは気になる。
「猫耳は外したくせに」
あっ、猫耳は外してもいいんだ。
「はい。外しますよ。だって、これは猫耳じゃあなくて狐耳ですから」
「なるへそ。狐なら外しても大丈夫だね。」
「はい。狐だから外しても大丈夫なんです………。はい………。」
「…………。」
もう意味わかんないよ。
なんか意気投合してるし
さすがに変人で変態が二人揃うと訳わかんないよ。
「まあ………何事もないならいいだよ。」
僕はひきつりながらもそう言った。
「ところで本題に入るけどいいかな。とりあえず色々と疑問点はあるけど、まずは君が僕を狙った理由から話してくれないか?」
さすがに世間話をこいつらとやっていると終わらないので話を無理矢理に転換させる。
「それは理由はありませんよ」
それに対してキリナは速答した。
「殺し屋には私欲は無いですから。私はただ指令を受けただけです。」
キリナはそう答えた。
「なら誰がそうさせたかわかる?」
それに対しては首を振った。
「私は誰から受けたかも、わからないんです。普通の依頼は依頼人との交渉があるんですけど、極務任務は全て不明。依頼人もわからない。その代わりに相当な額がつきます。」
なるほど………。
この娘は本当に殺し屋だったのか。
本当みたいなことを言ってるし………。
今まで半心疑ってたよ。
「ちなみに、今回私が受けた依頼はブラッド・コントロールを持つ白澤朝奈の暗殺です。ブラッド・コントロールについては血が触れたものを操る程度みたいなことを軽く聞いたくらいです。まさか、あんな絶対的な能力まであるなんて思いませんでしたよ。」
だから油断して間違って血に触れてしまったのか。
「ところで、なんで今日はすんなりと話してくれるんだい。」
「それは………っ」
何故か少女は顔を赤らめた。
あれ?熱でもあるのか?
「いえ!なんでもないです………!はい………。」
焦った口調でキリナはそう言う。
「ふーん。でも、まあ……もうキリナちゃんが襲ってこないなら大丈夫だよね。」
「いえ、どうでしょう。私はもう、お兄ちゃんの命は狙ったりしないけど、また別の殺し屋が雇われるかもしれないです………。はい………。」
「別の?」
「いえっ……。かもっていう予想であって本当かはわかりませんです………。はい………。」
ああ………。
もしかするとまた変なやつ命を狙われると………。
はあ。
ため息をついた。
本当に面倒なことに巻き込まれたな。
そう思い、またため息をついた。
「元気だしなよ。はい、これ飲んで」
「ああ、ありがと」
深雪がとなりからコップを渡してくる。
中身はどうやら牛乳のようだ。
「おっ!おいしいなこの牛乳。」
「そう?そりゃあ、私の母乳だから」
「ぶっ!!」
おもわず吹いた。
「冗談よ。本気にするなんて白澤のエッチ。でも飲みたいなら吸ってみる?」
「いっそのこと殺してもいいですか?」
僕は静かに怒りを抱いたのだった。
「あっ、そういえばお姉ちゃんのツンデレキャラっていうのがいつのまにか元に戻ってるですね………。はい………。」
今頃になってキリナが指摘した。
「ああ、つまんなくなっちゃった。」
笑いながら、深雪は言った。
「私のキャラはツンデレなんかじゃあないって気付いたから」
いつもよりも真面目な口調。
「おっ、何に気がついたんだ。」
僕はようやくまともになってくれるのかと期待して聞いた。
「うん。私はつまり白澤ラブキャラなのよ!!白澤を愛する乙女戦死キャラよ。これは固定で決定事項だったの!!」
「…………。」
ああ、やっぱり変態で変人なのには間違いはないようだった。
僕は大きなため息をついたのだった。
僕と深雪の二人が教室に入った瞬間に学校の始まりの予鈴が鳴った。
「ふー……ぎりぎりだな。」
「そう?これくらい余裕じゃない。」
「お前みたいに、いつも遅刻が当たり前な奴にはな。」
そんな会話をしながら僕らは席についた。
席に着くと同時に担任の先生が入ってきてHRが始まった。
今日の授業も、いつものようにだるく、僕は空を見上げてぼーっとしていた。
ああ、空って広いな。
なんで、空は青いんだろう。
ふふふっ、実は青く見えるだけで実際は青じゃあないんだよ。
へぇ、そうなんだ。
てきな感じなことを一人で考えながら空を眺めていた。
そのために、ときたま、授業に集中しろと言う先生の言葉が飛んでくるが、聞く耳持たずにただぼーっとしている。
ちなみに、深雪はもちろんのように授業は受けていない。
どうせ校庭か屋上で寝ていることだろう。
まったくもってずるい。
こんな下らない授業なんて受ける意味なんてあるのか。
僕も寝てた方がいいかなって思ってしまう。
すると………そんな僕に消しゴムが当たった。
頭にみごと命中。
そりゃ、命中するわな。
何故なら消しゴムを投げてきたのは隣に座っている、橋場リサの消しゴムだったからだ。
「えっと…………。あっ、これ落ちたよ」
橋場さんはこちらをじっと見つめていた。
消しゴムを拾って隣の机の隅に置いた。
「ふんっ………」
橋場さんはそっぽむく。
あれ?なんかやたらと特別性のありそうな態度をとられてしまった。
ま、いいや。
どうせ消しゴムが当たったのも偶然か何かだろう。
飛んできたような気もしなくはないが。
僕はそう思って再び反対側の窓の外に目を向ける。
こつんっ!
再び後頭部に消しゴムが当たった。
しかも、めちゃくちゃ早い。
あからさまに橋場さんの方から勢い良く発射されていた。
「え―――っと橋場さん?」
僕は彼女の方を向いて名前を読んでみた。
「気安く私の名を呼ばないでください。」
黒板に目を向けながら橋場さんはそう言った。
「え――っと、すいません。」
とりあえず謝った。
すると………。
「ふざけるな!!私の深雪を奪っておきながら何がごめんだ!!この泥棒猫めっ!!」
彼女は席を立ち大声で怒鳴り付けてくる。
「えっ…………。」
どういうことだ?
それに、今授業中なんですけど。
橋場さんも辺りの様子に気がついたのか顔を赤くして無言で席に着いた。
「……………。」
「……………。」
教室が静かになる。
一分弱の無言の間があき、再び授業は再開された。
「えっと…………。どういうこと?」
僕は小声で話し掛ける。
彼女の顔は、いまだに赤い。
「とぼけないでくださいっ……。新学期になってから深雪と仲がいいのはわかってはいます。しかし、今日のように一緒に学校に来るとはいかなることですか。」
橋場さんはそう言った。
えっと…………。
どういうことだと言われても……………どういうこと?
なんか良くわからないけど、もの凄く僕は怒られていて、もの凄く今日の橋場さんはおかしいようだ。
橋場リサ。
彼女は混血。
いわゆるところのハーフである。
父親は日本人で母親がフランス人らしい。
非常に頭が良くて、非常に運動ができる。
おまけに、顔のできがまた二まわりも、三まわりも優れており、絶大の美女。
赤色と黄色の混じったような髪の色は顔と一致して、かなりの見栄えである。
普段はじっと席に座っていて何も話さないので『幻の人形』(シークレット・ドール)と影で呼んでいる人もいる。
ま、彼女には汚点なし、欠点なしなのだけど、あえて一点だけ指摘しよう。
彼女の服は黒と赤のヒラヒラしたロングドレスのような服なのだ。
いわゆるゴスロリ。
なぜかゴスロリ。
無論、学校でも平然と着ている。
しかし、うちの学校は私服制ではなく制服制。
深雪ももちろんのように制服を着ている。
私服なのは彼女一人だけである。
なんで彼女は私服が許可してあるのであろうか。
今まで不思議ではあったが考えてはいなかった。
なので今、考えてみようではないか。
答えは簡単だ。
似合っているからOK!
それに尽きる。
ま、そんな彼女がだ………さきほど何か非常におかしなことを口されなかったか?
「橋場さん…………深雪と仲良かったっけ?」
「深雪?」
僕が問うと怒ったような口調で彼女の名を反復して、こちらを見た。
「白澤くん…………きみが何者であろうと、何をしようと私には関係無い。ただ、言っておこう。もし、私の深雪に触れてみなさい。そのときはその汚い腕……切り落とす!」
彼女はそう言った。
言いました。
言われました。
非常に恐いです。
ちなみに橋場さんは剣道で日本一の高校生である。
習って三日で型を全て覚え、習って一週間で大会優勝、一ヵ月後には日本一。
あんまり神様もひいきし過ぎではないのかと思ってしまう。
ま、それはどうでもいいとして橋場さんは剣道をやっているからといって………いつも背中には真剣を持ち運んでいるのだ。
ゴスロリータが真剣を持っているところを想像してほしい。
僕は生きていけません、死にます。
ま、死にはしないが
ま、それもいいとして、そんな彼女が腕を切り落とすと………たぶん冗談ではない。
「でも、橋場さん。えっと、僕としてもそうしたいんですが…………。深雪がそうさせてくれない、というかなんというか。」
僕は意見を述べた。
「ほう…………。そうですか」
背中の剣に手を掛ける橋場さん。
えっ!?こんな所で何するんですかあなたは!?
「どっ、努力します!深雪とは今後気を付けますので!」
頭を下げてそう言った。
まるでこれじゃ、命乞いだ。
「ふん…………。」
そっぽむきながら息を吐き捨てる。
どうやら彼女は深雪命らしい。
でもショックである。
我がクラスの秘宝シークレット・ドールがレズビアンだったなんて………。
すると、いつのまにか授業の終わりのチャイムが鳴った。
色々と新しい発展と発見のある一時間であった。
そう思っていると……。
「し・ら・さ・わ!!」
深雪が突然、飛び付いてきた。
「どうだった授業は?悲しかった?淋しかった?私に会いたくて会いたくてしょうがなかった?もう、白澤ってば!!でも、今からはずっと一緒だよ。あっ、今の嘘。授業が始まったら私は屋上に行くから今のは言葉の比喩。でも、本当に心はいつも一緒よ!」
最悪のタイミングで彼女は現れた。
嗚呼、シボウフラグ牙セツリツ!?
「………………。白澤さん。」
案の定に橋場さんが剣を抜いて構えていた。
「……………。」
いいわけはしない。
僕はここで死のう。
僕はクラスメートに殺されてしまうんです。
ま、本当には死ぬ気なんてないけど。
「あれ、リサ。何してるの?剣なんか取り出して」
すると深雪が僕にべったりとくっついたまま顔を橋場さんに向ける。
「えっ!?え―――っと………。そっ……………その……。あっ!ごめんなさい!」
すると橋場さんは突然、剣をぶんぶん振りながら走り去っていく。
危ないって!橋場さん、人に当たるって!あっ!滝に当たる!滝の髪が切れた!まあ、滝ならいいけど。
僕は剣を振りながら走って消えていく橋場さんを見て内心ドキドキしていた。
「あら、リサどうしたのかしら?いつも私を見たら走ってどっか行くのよね。私って嫌われているかしら?」
なるほど、どうやら好きな人の前では素直になれないタイプらしい。
「ところで白澤、次の時間ふたりでサボって保健室でイチャイチャしない?」
「しない。」
どうやら今後、命のためにも気を付けないと。
そう思った。
放課後となりクラスの大半はいそいで部活やら用事やらで教室を後にしていった。
俺はとくにこれといった用事もないので机から立たずにゆっくりとしている。
窓からは夕日がまぶしいくらいに光を指している。
雨はどうやら止んだようだった。
「ほら、またボケーっとしてる。」
優花が近くにやってきて話かけてくる。
「人の自由だ。お前には関係ないだろ。」
「まったく。枯れてるわね。部活には入らないの?ほら、中学ではサッカー部で有名だったじゃあない」
「中学と高校じゃレベルが違うよ。それに、もう二年だ。今から、入る気にはなれない。第一、俺はサッカーは嫌いだ」
「えっ……?そうだったの?」
優花は驚き、困ったような表情をする。
「なら、なんでサッカーしてたの?」
「……。」
俺がサッカーをした理由。それは、もちろん好きだったからだ。
別に嫌いになったわけではない。
ただ、サッカーをやる自分が卑怯に感じるのだ。
読みあいはサッカーにおいて重要。
俺は相手の思考パターンを読むことができる。
力の応用……。
先読みの能力は一級品。
そんなんでサッカーがうまいとか言われている自分が嫌になる。
だからサッカーを止めた。
「俺はもう帰るよ。」
そう言ってそっと席を立った。
「あっ、ちょっと樹!」
優花が呼び止める声が聞こえたが聞こえないフリをして、そのまま教室から出ていった。
「……ふーっ………。」
帰り道の途中で大きくため息をついた。
無性に気持ちがムカムカする。
辺りには異様な何かが蠢いているのは感じ取っている……。
しかし、それが何なのかわかんらない。
今日……会った渡とかいうやつに関してもそうだ。
そして、ふと気がつくと目の前に渡が立っている。
「やぁ、樹くん。何か考え事かい?」
「……。」
渡はまるでこちらの事情を知っているかのような不気味な笑みを作っている。
「つまりだ……。お前はただの人間じゃあないってことか」
独り言のように小声で呟く。
「なんのことだい?」
「いいかげんに遠回しなやり方は止めろ。お前何者?」
「何者って僕はただの転校生……」
「うるさい。俺はぼーっとしているときもあるが記憶力はある。転校生なんて来た覚えもないし、第一この時期に転校してくるやつなんて、そうはいない。」
「……。」
俺がそう凄むと露河は一瞬だまりこむ。
「ふふっ、まぁ正解ですよ。樹くん、僕は君にとっては障害なんだよ。」
「障害?」
「つまり、邪魔者ってことさ。異端な君の力は所謂、絶対防御と相手の裏を読むことによるカウンター。世界には無数の気配や感覚、電波などがある。君はそれらを超越できる。」
「知っているのか……」
自分の異端の能力について露河は語る。
「覚醒は間もないから探すのに時間がかかったよ。樹くん、君の力はある意味最強。使い方しだいには無敵だ。しかし、僕らはさっきもいったように障害。君の力の枠から外れた存在。いや、存在してないがここにあるだけのもので君の力では感じることができない。」
「……。」
心あたりはあった。
確かに、最初会ったときも、さっきも露河が近くにいることに反応してなかった。
「ふふっ、今君が思ったとおりだ。つまり君の力はぼくらには効かないのさ、ぼくらは無価値な存在。存在の意味がないものでセシカという名をもつ。」
「セシカ……」
「全員で12名。死者にも霊でもなく、人でも動物でもない。生きもの、いや……物理てきなものからも否定された存在。その存在すらも否定されている。それがセシカ。僕らは神に祈った。僕らの存在を無から有にしてくれ……と」
「……。」
重さを感じた。
俺なんかと重荷の量が違う。
世界から否定された……12名のセシカ。
「しかし……神はようやく僕らに反応を示してくれた。」
露河は一旦少し間を置いた。
そして……
「Extraordiary Death lineを倒す。そしたらセシカの枷を外すと……」
今までに感じたことのない殺意を感じた。
その殺意はまぎれもなく自分へと放たれている。
Extraordiary Death line……。それは五年前にアィディーが俺を向かって言った名称。
「大体は想像ついていたけど……つまり俺は獲物ってわけか?」
「そうだね。君にとって僕らは障害。倒すべき相手ってことさ」
俺はため息をついた。
「誰かわからないが適当な神もいたもんだな。」
「神は君が恐いのさ。神をも飲み込む力を持つ君がね。だから適役の僕らを使ったのさ」
「わかっているなら止めようぜ。餌付けされて使われているだけかもしれないぜ」
しかし、俺のことばなんて聞く耳すらもっていないようだ。
「この糧から逃げれるなら誰だって殺そう。」
「……。」
「今日は挨拶だよ。時期に決着をつけさてもらうよ。君は巻き添えを食らっただけかもしれない。でも、可愛そうなのはお互い様だ。」
露河はそういうと俺の横を通り過ぎていった。
俺はしばらく唖然と立ち尽くしていた。
そして、結局のところ。
話は滝の奢りって言うことで話がついた。
めでたし、めでたし。
ま、当然いつものごとく滝は号泣しているが……。
「はい!ウェートレスさん!」
深雪は近くのウェイトレスを呼んだ。
「ん、もう決まったのか?」
深雪はうんと頷いて。
「注文いいですか?」
深雪はそうウェイトレスに告げる。
ウェイトレスはどうぞと言って答える。
「えっと、ならハンバーグ、チーズハンバーグ、チキンドリア、ピザ、カレー、からあげ定食、さば定食、とんかつ定食―――――――――――――――………………………………………………………………(以下略)」
深雪はメニューを上から順に全てを読み上げた。
十分くらいかかった。
「ずいぶんと食べますね。」
橋場さんは深雪を向いて言った。
「うん。食べ盛りだから。」
深雪は笑顔で答える。
「なるほど。惚れ直しました。」
関心したように橋場さんは言った。
「……………。」
僕は無言だ。
「って!何言ってるんだ!あああああ!」
滝は絶叫する。
ま、気持ちはわからんでもない。
「食べ盛りってどこの相撲とりですか?いや、そんな量、人じゃ無理でしょう?虎くらい?いや、カバ?むしろ象くらいじゃないと無理だろ!!」
「うん?食べれるよ。きっと」
「ああ、深雪ならいけるよ。きっと」
「いや!きっと無理だから!!てか、金もそんなに無いし!!」
「えっ?そうなの?あっ、でも…………もう頼んじゃったし」
いつのまにかテーブルの隣にいたウェイトレスはいなくなっていた。
「……………………………。」
刻が一瞬止まる。
「今ならまだ間に合う!!作る前に止めに!!」
急に滝は勢い良く席をたった。
しかし…………。
「お待ちどうさまです」
ずりと、ウェイトレスが十人ほど。
おそらく店の従業員全員が両手に品を持ってテーブルの前に並んでいた。
おおっ、なんか凄い。
「注文の品124のうちの32品を先にお持ちしました。」
滝はその場に倒れこんだのだった。
「ま、いいじゃないか、滝。残りの70品くらいはキャンセルが効いたんだしな。」
僕は隣にいる滝を慰めてあげた。
さすがに滝でもここまでくれば同情する。
いくら、いじられキャラでも、そいつが学校を辞めると、さすがのいじめっ子達も罪悪感が残るってものだ。
ま、それとは少し違うが、それなりに可哀相なので同情してやることにした。
「あっ!ずるい須原くん!私だって白澤にやさしい言葉を掛けてもらったことないのに!!白澤、私にも可哀相って言って頭を撫でて!!」
何事も無かったかのように深雪はそう言ってくる。
原因を作ったくせに詫びる気もないらしい。
「なっ……………………。なら。深雪、代わりに私が…………。」
息を荒くして橋場さんが言った。
大丈夫かこの人?
ま、無論のように橋場さんもまた滝のことなど気にしてはいない。
二人とも微塵も罪悪心を持っていない。
まるで夢見る子供のように………。
ま、どちらかと言うと子供というよりも鬼であるが………。
女って恐いな。
「朝奈………いいんだ。もう…………。」
滝は唐揚げを口にしながらそう言った。
「そうか………?」
「ああ、俺は不運でダメ人間かもしれない。けど、この唐揚げになった鶏よりもまだ価値はあると思うんだ。俺はこの鶏のためにも生きていきなきゃならない。」
「……………。」
何げに重いですよ滝くん………。
そして、ごめんけど意味わかんないです。
僕は今以上に滝が可哀相になったのだった。
結局、食べきれずに残したまま店を出た。
ちなみに本当に全額を滝、一人で払った。
「金なんていらん!俺はあの鶏のために生きるっ!!」といいながらカウンターに五万円ほど突き付ける滝の姿は以外と格好よく見えた。
ま、店員は困ったような顔をしていたけど。
「もう、食べれませんね。」
橋場さんが店を出てからぐったりとなりながら、そう言った。
「そう?橋場さん全然食べてなかったじゃない。」
「私にしては食べたんですよ。」
そうらしい。
やっぱり男と女じゃ、胃の大きさが違うようだ。
「うん?そうなの?私はまだ腹3分目くらいよ。」
一番がつがつと食していた深雪はそう言った。
どうやら彼女の口のなかは4次元になっているようだ。
対照的な二人である。
変人美少女という点を除けば。
「って、まだ食べれたなら、残さないで全部食べろよな。」
「いや、あえて二、三品残しておいたほうがリアルティーが湧くかなって」
「……………あっそ」
相手にしてられない。
リアリティーなんていらんことを求めるな。
「それじゃ、帰るか」
「はい。それでは私はこちらなので」
「俺はこっちだ。」
滝と橋場さんは僕と深雪の逆に住んでいるようだ。
それぞれ逆向きを指に指した。
「ああ、気をつけて帰れよ。」
「では、失礼します。」
「ああ、じゃあな。」
二人はそれぞれそう言って帰っていく。
すると…………。
「ふふふっ………。」
深雪は怪しげに笑いだした。
「ふふっ、ふふふっ。し・ら・さ・わ。――――――。」
なんて恐い。
「この後、うちに寄っていかない?」
彼女は思惑、丸見えに言った。
無論。
拒否する。
………………………………といつもなら言う所だが
「わかった。」
承諾した。
首を縦に振る。
「えっ……………………。本当?」
なぜか、当の深雪が驚いていた。
「本当だ。拒否りたいけどキリナに用がある。」
そう、用はキリナにあるからだ。
「あっ、なるほ。なんだ、あの娘に用事ってことか。つまらないなぁ。あの娘、殺しちゃあおうかな。あっ、ふふっ、でもあの娘はまだまだ使えるわね。」
深雪は怪しげに小声で笑いながらそう何か言っていた。
聞こえなかったが。
ま、想像はつく。
深雪のアパートに来るのは本日、二回目である。
「ただいま。キリナ、ママが帰ってきたわよ。」
深雪は中に入ってそう言った。
「わーい。ママ!」
キリナは合わせたのか、そう言いながら、走ってこちらに寄ってきた。
「こらこら、甘えん坊さんなんだから。ほらパパにも挨拶しなさい。」
「だれがパパだ。」
大体読めていた内容は案の定だった。
「うわぁん!パパとママが喧嘩してるぅう!」
突然のように泣きだすキリナ。
何!?こいつ…………何げにレベル高い。
「こらパパ責任取りなさい。」
「責任?」
「仲のいいパパとママを見せるために仲直りのキスしないと!」
「なっ!!」
「さぁ、早く!キリナが見てるわよ。」
そう言って目を閉じて顔を近付けてくる深雪。
ぼっ………僕は………。
とりあえず深雪に向かって拳固を決めてやった。
という感じで妙に手の込んだ芝居に飲まれそうになったが一命を取り留めた。
どうせ、キリナの演技も深雪が前もって仕込んでおいたことだろう。
「ところで白澤ってばキリナちゃんに何の用があったの?わざわざ夜に家にきて。もしかしたら、それはあくまでここにくるまでの口実で本当は………。」
どうやら彼女には、レベルの高い妄想癖があるようだ。
ま、確かにたいした用ではない。
「いや、ただ思い付きだけど、これからもしものことが起こらないように、キリナに僕のボディーガードをやってほしいんだ。」
僕は言った。
「ボディーガードで御座るか…………。です…………。」
御座る口調で聞きなおすキリナ。
しかし、最後の言葉風は変わっていない。
「ま、よかったらでいいんだけど」
僕はそう、さらりと言った。
「いえ、そんなことなら頼まなくともやりますですよ。………はい。もともと、私は今はお兄ちゃんの犬ですし…………。はい…………。」
「……………。」
なんか、すごい嫌な表現されたが………ま、いい。
「なら、よろしく頼むよ。」
僕は少女に手を伸ばす。
「はい。」
彼女は返事して剣を伸ばしてきた。
僕は勢いで剣を握り締めようとした。
うおぉっ!危ねぇっ!こいつ何しやがる。
「なあ、キリナ…………。何で剣なんだ?」
「いえ。ただ、そこまで歩くのがめんどかったので、つい。」
「ついって!僕が間違えて剣を握りしめたらどうするんだよ!」
「えっと…………。笑います。」
僕は間違えた選択をしてしまったのだろうか。
こんな守って言いながら、逆に殺しそうなやつに命を預けても………。
母さん。
僕は生きていけますか?
僕は星に願いを込めたのだった。




