第一章
嘘と真実は表裏一体で、嘘と真実は表裏一体ではない。
何故なら嘘は真実であり、何故なら真実は嘘であるからだ。
世の中には真実という嘘が存在する。
また、嘘という名の真実がある。
『嘘か本当か』
『嘘は本当』
『本当は嘘』
世の中にはそういうロジックがあり、世の中には存在しない。
しなし、世の中をすべてを否定して、偽りとみなした人がいるとしよう。
その人は、きっと凡才で……そして天才である。
世界を敵に回した……そういう意味でもあるかも知れない。
嘘つきは嫌われる。
つまり、そういう運命なのだろう。
しかし、これだけは本当だ。
世の中の全ての真実は偽りで吟慢で虚言で虚像で幻である。
まあ、この僕自身が嘘であるか真実であるかは……それも、また嘘か本当か。
嘘…偽り。
真実…本当。
「って今度のクラスの自己紹介挨拶で言おうと思うんだけど」
刻は昼休み。
空は青色で透き通っていて、一辺の曇りもない。
まるで作られたような空はまるで描かれたような空はまるで偽りの空を見ているようである。
学校の屋上にあるベンチに座り前に立っている一人の女性は言った。
「白澤……。それ自己紹介になってないわよ。」
彼女はもっともらしいことを的確にしてきした。
ちなみに、白澤というのは僕の名である。
白澤朝奈。
髪はさらさらとして滑らかで、ちょうど首元で切った長さの髪。
顔はきれいな肌とバランスの良い顔立ちであるため男か女かわからない。
まあ名前が朝奈である。
推測でいくと女なわけだが列記とした男である。
「別に自己紹介がしたくてやってるわけじゃないからね。」
僕ははっきりと述べた。
「いや、自己紹介なんだから自己紹介をしようよ。ちゃんと、そこは……」
「いいや。深雪、そこは間違いだよ。そう簡単に自己紹介なんてしていいもんじゃあないだろ。何しろまだ一週間しか経ってない新クラスだ。そんな赤の他人に自らを暴露する必要なんてないんだよ。」
「そうかな。まあ、白澤が好きなようにやってくれ。私は反論しないから。むしろ白澤のためなら何でもするから。白澤ラブだから!!」
深雪は白熱した口調でそう訴えてくる。
彼女の名は紀村深雪。
クラスでも名高い美女である。
僕とは3ヵ月前くらいの正月明けに出会った。
それから何故か彼女は僕に付きまとうようになり、新学期はこうして同じクラスとなった。
髪は腰まで届くほどの長髪の茶髪で、瞳は青色。
しかし、瞳が青なのはカラコンのせいである。
けして、彼女の目がもともと青いわけではない。
まあ、彼女に言わせてみれば青ではなく碧なのらしいが……まあ、そこの所を触れてしまうと彼女が馬鹿みたいなので深くは触れないでおこう。
一つ、言っておくが彼女は馬鹿なのでは、けしてないおかしいだけだ。
「僕も愛しているよ深雪。」
淡々と恥じることなく、そう言って返した。
「本当!?……いや、まあ……どうせ嘘でしょう」
「うん、嘘だよ。」
僕は満面の笑みで、そう言った。
「なんで、そんなに嬉しそうに嘘をつくかな。なんか無性に殺してあげたい気分。」
冗談?
とも取れないよいな低い声で彼女は言った。
「ははっ、でも何でもしていいって言う深雪の言葉こそ嘘じゃないの」
「ん?」
深雪はきょとんとして、理解できないような顔をする。
「なにが?白澤がしたいっていうことなら何で私はするよ。」
当然のように、とんでもないことを言ってくる。
「深雪、そんな冗談は止めてくれ」
困った顔を作り、そう言った。
「えっ?冗談なわけないでしょう。私の体は白澤の物よ。」
妙にセクシーに深雪は言う。
「いや……あねさん。そう言われても……」
「あっ、それとも白澤の方が好きにされたいの?それなら、そうと早く言ってよ。」
「違う!好きにしたくもないし、好きにされたくもない!」
大声で否定する。
いや……まぁ、多少は興味はあるが……。
「そうなの?まぁ、いいや」
楽しそうに笑う深雪。
遊んでいるのか……冗談なのか……本当かわからない。
深雪……恐い娘。
すると昼からの授業の始まる予鈴が鳴った。
「もう、こんな時間か……なら教室に戻るけど」
「いってらっしゃい」
深雪は動こうともせずに手を振っている。
「授業出なくて単位大丈夫なのか?」
深雪は毎日朝のホームルームが終わると授業を受けずに屋上に引きこもる。
どう考えても単位は足りてない。
少々に気にもなっていたので、とりあえず聞いてみることにした。
「ん。……まぁ、大丈夫だよ。」
「それで、よく進級できたな。」
「うん。去年は全教科単位足りなかったけど、校長が頭下げて進級してくださいって頼むもんだから」
可愛らしい笑みを見せてくる。
「……………。」
そんなほほ笑みの裏に何があるのだろうか。
僕は踏み入れてはいけない領域のことを考えてしまった。
っ!いけない!いけない!!
ここから先の思想は命に関わるぞ!白澤朝奈!!何も考えるな!!ファンタジーの主人公に置いての鉄則、冒険心、探求心の強い主人公なんてナイセンスだ。
「何ぶつぶつ、ばきばき言ってんの?」
「いや、なんでもないです!てか、バキバキって何!!ああ、とにかく授業に行って参ります。」
そう言って僕はダッシュで屋上から逃げ出した。
「ふぇ………。変な白澤。まあ、いつものことかな。」
誰もいなくなった屋上に一人。
「…………。」
十分ほど前に比べてとても静かである。
むしろ無音である。
「ああ、ここも飽きたし校長でもいじりに行くかな。」
そう言って紀村深雪もまた屋上を後にした。
本日最後の学校の予鈴が鳴り響いた。
ホームルームの時間になると、いつのまにか深雪は席に存在している。
あまりにも自然にいるものだからクラスの生徒や先生ですら何も彼女に対してつっこまない。
彼女はホームルームが終わるとこちらへと目線を移してくる。
しかも、ばったりと目線が合った。
深雪はにっこりと笑みを作り、こちらに手を振ってくる。
ちなみに僕は何もせず手を振り返しはしなかった。
すると……深雪はこちらへと寄って来た。
「やっほー、白澤。学校お疲れさま。」
まるで他人事のように言ってくる深雪。
まあ、彼女にとっては他人事にすぎないかもしれないが……。
「ねぇ、さっき私の方見てなかった?」
「気のせいだよ。きっと……」
「気のせいじゃないよ!私は白澤のことならなんでもわかるもん。」
「わかるなら、聞いてくるなよ。」
「なら、やっぱり私を見てたんでしょう?白澤レーダーがピピッと来るのを感じたの。どう私すごいでしょう。」
ああ、こいつ……おもしろい。
むしろ変。
可愛く、綺麗な顔だちを持っているのに、なんで変人なんだろう。
じつに勿体ない。
「ああ、すごい、すごい。」
ぶっきら棒な口調で、そう言って返す。
「同じこと二回言うと信憑性なくなるでしょう。こういう時は……ああ、ごい、すごい!だよ」
「いや、ごいってなんだよ!」
「だって、すごいって二回言ったらいけないから」
「だからって、もはや日本語でもないことを言うほうが信憑性がなくなるだろ!」
「うーん。……言われてみれば確かに……。まあ、でも……どうでもいいじゃん。」
っ……!
こいつ……強い。
「とにかく帰ろうよ。二人でイチャイチャしながら帰ろう。」
「帰るけど、イチャイチャはしない。」
「え―――っ!」
深雪は心底嫌そうな顔をする。
何故か罪悪感が残る。
「つまり、白澤は私とイチャイチャしたくないと……」
悲しそうな目で、そう言ってくる。
くそ、ここで否定したら負けだ!!
僕は首を振って頷いた。
「つまり………」
彼女は低い声でつぶやいた。
彼女を傷つけてしまったのか?
しかし、後々のためだ……。
心を鬼とせぬば。
「つまり……白澤は私とイチャイチャじゃあなくてラブラブで帰りたいんだね!」
「んっ……………。」
あれれ?
なんか違うような……。
「大通りを手を組んで他人に私たちの愛を示しながら帰り、そして公園によってソフトクリーム一つを二人で食べて、そのまま私まで…………。」
暴走。
大暴走。
むしろ恐い。
しかも、何故か頬をほんのり赤く染めている。
「そうとわかったならいざ、ホテルへ!!」
「なんとわかったんだ!!むしろ意味がわからんぞ!!」
僕は暴走を止めるべく彼女の頭を軽く殴った。
「あいたっ………!」
「少しはおちつけ。頼むから暴走するな………。」
「これが白澤なりの愛情表現なのね。いいわよ、私を好きなだけいたぶっても!!」
ゴツンっ!
次は思いっきりぶん殴ってやった。
なんか微妙につい、むかついた。
「ははははっ」
すると後ろから笑い声が聞こえる。
何事と思い振り向いた。
すると、そこにはよく知る人物、須原滝がそこには立っていた。
「よっ、ラブラブだな朝奈」
「おおっ、滝!」
僕は彼の名を呼んだ。
彼は去年から同じクラスメートで一応友達だ。
一応ね……。
赤に染めた髪が特徴で女子からそれなりにもてる。
それなりにね……。
「滝!お前は僕と友達だよな!頼む!………」
「ん?どうした?紀村さんとの相手を交替してくれとかだったら是非って感じで承るけど」
気前よさそうな元気のよい声で滝はいう。
「いや、……………死んでくれ」
「…………。ん?あれれ、なんで?」
「いや………なんとなく腹立ったし。」
「なんで俺?友達だろ」
「一応ね。」
「一応!」
なんか二流の反応をする滝。
「ちょっと紀村さんもこいつになんか言ってやってくれよ。」
深雪へと助け船を求める滝。
「あら、須原くん可愛そうに。でも白澤が言っていることは私の意見よ。死んで」
「うおおお!!なんか知らないがクラスメートに話し掛けただけなのに氏ねって言われた!!しかも二人から!!ちねって………。あんまりだ!」
嘆きながら絶叫する滝。
「いや、すまん、すまん。死ねは冗談だ。」
「冗談?本当か?」
滝は仲間になりたそうにこちらを見るような目でこちらを見てくる。
ああ、欝陶しい。
そんな目でこっちを見るな。
「ああ、友達に死ねなんか本当にいうもんか。邪魔だから帰ってくれ」
「……………。」
滝は涙を拭いた。
そして………。
「うおおおおぉぉ!!」
豪雨で再び泣きながら走って教室から出ていった。
「ああ、滝!かばんっ……まあ、いいか、しょせんは滝だし。渡しに行くのが面倒だ。」
まあ、冗談なのに本気になって……可哀相な三枚目キャラだ。
「あらら、どうでもいいけど滝くん帰ったの?」
本当にどうでもよさそうに深雪はいう。
「ああ、どうでもいいけど帰ったよ。」
僕もどうでもよさそうにそう言った。
外の空は赤く夕日に染まっていた。
今は深雪と二人で下校中である。
周りには学校帰りの者や仕事帰りの者、同じように腕を組んで帰る男女のカップルもいた。
しかし、中でもやっぱり僕らの愛は郡抜いてすごかった。
これは愛を越えた本当の愛なのだ!!
そして今まさに男女の禁断の場。
ラブホテルへと!!
「って何勝手にナレーションしてるんだよ!腕まで組んで」
組まれた腕をほどきながら反論する。
「何が本当の愛だ。どう見ても純粋100%の偽りの愛だろうが!」
「あれれ。ダメだったかな。」
てへっ、と舌を出して可愛くホーズをとる深雪。
「ダメに決まってるだろ。まったく何考えてるんだか」
「何って………白澤と私の結婚式についてとか」
「そんなの考えるなよ。別に付き合ってもないのに……。」
「白澤は協会と普通の式場どっちがいい?」
「人の話を聞いてください。」
「私的には協会なんだけど。」
「だから聞けって!」
「えっ?私のウェディングドレス姿を見れるならどこでもいいって?もう、白澤ってば……やだっ」
強い。
この人には言葉が通じない!?
ああ、分かち合えないって虚しいな。
悲しいな、淋しいな。
そんなブルーに入っていると………。
突然………。
視界に黒のマントを身に纏って猫耳をつけた金髪の女性が目についた。
猫耳マントの女性はまだ小さく小学生。
つまり、ロリ猫耳マントがそこにはいた。
「…………。」
いや――――、ずいぶんと疲れが溜まっているようだ。
疲れて幻覚が見えるよ。
それにしてもずいぶんとハッキリクッキリとリアルに見える幻覚だ。
もしかして熱でもあるのか?
ああ、熱だな。
あんな怪しいのは見なかったことにしよう。
そう思い先に進むことにした。
しかし……。
「あっ、見て白澤。マントをつけた猫耳がいるよ!!」
深雪は僕の腕を掴んで、あの猫耳マントに目を向けた。
「ああ、あれはきっと特撮の撮影の何かさ(そうであって欲しい)。そんなのほっといて帰ろう。すぐに帰ろう。いや、ダッシュで逃げよう!!」
「ふーん、特撮の撮影ね。話掛けて見ようか。」
貴様はなんで、こんなときだけは活発なんだ!!
学校の授業は出てないくせに!!
心の中で叫びを訴える。
「帰ろう!」
深雪の手を取った。
「白澤………?」
「いいから、帰ろう。この後、好きな所に連れていってあげるから………」
とにかく、あの怪しいのから逃げよう!!
「そういうなら………私は別に白澤とラブホに行けるなら!」
深雪は顔を赤らめる。
「………」
まあ、いい。
けして良くない。ダメだけど……まあ、いい。
ひとまずは、とにかく離れよう。
深雪は後でいいわけして逃げればいいだけの話。
帰ろう!!そう思った瞬間。
「あっ………あの…………………」
目の前には猫耳マントがいて声を掛けてきていた。
「あの…………あっの……抹茶…………じゃあなくて…………。あの…………白澤朝奈さん…………ですか?」
なぜに抹茶?
じゃあなくて、なんで僕の名前を知ってるんだ。
しかも、いかにも喋り方が怪しい。
ちゃんと答えるべきか……怪しいから拒否するべきか。
迷っている最中。
「そうよ彼が抹茶………じゃあなくて白澤朝奈よ」
堂々と答える勇者が隣にいた。
しかも、さっきから抹茶っ抹茶って……いったい、なんだ!
「ちなみに私の彼氏で器量、運動、学力すべてにおけるトップエリートよ。しかし、それは表の姿!あるときは悪を滅するスーパーヒーローよ!コードネームは赤い金木犀よ!」
「……………。」
いや、なんだその裏設定は………。
特にいつからお前の彼氏になった。
「わあ――。…………すごい………ですね。」
いや、信じてるし……。
「はあ……」
ため息をついた。
もう話し掛けられたことだし仕方がない。
覚悟を決める。
「えっと、僕が白澤だけどどうかしたの?」
「あっ………そうでした。私は凄守鬼裏亡っていいます。」
猫耳マントは名前を名乗って一礼してくる。
あれ……?以外に普通の娘だ。
こんな服装だからもっと狂った人かと思っていたが……。
「キリナちゃんか……可愛い名前だね。」
「はいです。キリナも気に入ってますです。鬼に裏に亡くなると書いてキリナです。」
「…………。」
あれ、なんかとんでもない漢字だったんだけど……名づけた親はどうにかしているよ。
てか、そんなふざけた名前国は通してよかったのか!?
「いい名前ね。泣けてきちゃった。」
「どこがだ!!そんな危なっかしい名前のどこがいいんだ!」
思わず深雪のボケにつっこんでしまった。
「うぅ…………キリナの名前ダメ………ですか?」
するとキリナは涙目になってこちらを見てそう言った。
よくよく見るとキリナの顔は小学生にしては高クオリティーでバランスの良い可愛い顔をしている。
そのため、そんな娘に泣かれてもらっても非常に困る。
「い、いや。僕もいい名前だと思うよ。」
内心で絶対に思わないことを口にする。
だから表面上の成り行きって嫌だなあ。
「本当ですか!」
急に顔色一変して喜ぶキリナ。
彼女、なんだかんだいってわざとやってるんじゃないのか………。
ふと、そう思った。
「ところでキリナちゃん。なんで僕の名前を知ってるのかな?」
「あっ、それは…………はいです。キリナは………殺し屋さんなんです。だからお兄ちゃんの命を狙ってるんです………はい。」
「そっか。キリナちゃん偉いね。白澤を殺すお仕事か。そんな歳でもうお仕事なんてすごいなあ。」
「いえ………そんなことないです。………はい。」
いや。
いやいや。
君たち平然と話してるけど……。
えっと………殺し屋って何?
「そうか、そうか。私も昔よくやったよ。白澤殺しの仕事。時給190円だっけ?」
「って!何適当な嘘つきながら平然と話してるんだよ!!この娘は殺し屋なんだぞ!?」
「何驚いてんの?子供の遊びでしょう。本気にしない。」
深雪から指摘を食らう。
まあ、確かに子供遊びか……そうだよな。子供の遊びだよな。
そう認識を改める。
「じゃあ、そろそろ遣ろうか。お兄ちゃん……。」
まあ、見知らぬ子供と遊ぶのは引っ掛かるけど、仕方ないか。
「よし!こい!」
笑いながら冗談まじりで構えをとる。
しかし………。
彼女は背中から長い剣を取り出した。
剣というよりは長く刀と言うよりは短い刃物。
「うわあ……本物っぽいなあ。」
深雪が隣で感嘆の声をあげる。
いや。いや、いや……。
あれ本物じゃあない?
「えっとキリナ。それ本物じゃあない?」
「えっ?うん………そうだよ。」
普通に肯定される。
いや、しかし。
いつから銃刀法はこんな小さい娘が刃物を持っても許可できる時代になったのだ。
そうか………たぶんあの娘じゃ、あれを使えないから許可したのか?
あぶないな、怪我でもしたらどうするんだか。
そう考えていると……。 ドスンっ!!
騒音が響き渡る。
気がつけば目の前の電柱が切り倒されている。
「…………。」
「うわあ。すごい、すごい。」
と、呑気に隣で拍手でもしている深雪。
いや………。
僕は笑った顔から引きつった顔に変わった。
構えていたスタンスを逃げ腰スタンスに変えた。
「いきます!」
彼女は言葉はいた。
それと同時に刃物を構えて駆け寄ってくる。
それと同時、一方は逆を向いて女の手を引いて逃げ出した。
「あれ?なんで逃げるのよ。」
深雪は首を傾げながら、そう問い掛けてくる。
まったく変人め!いちいち、そんな事を聞くなよ。
あんなのと戦えるわけないだろ。
しかし、いちいち口に出している余裕はない。
深雪には返答せずに、ただひたすら走る。
でも、こう見えても僕は運動神経はわりと良い。
100メートルの記録は12ジャスト。
1500メートルは4分30秒程度。
いくらなんでも小学生に…………。
「ははっ…………。」
いやな予感がした。
だからとりあえず笑ってみた。
小学生のロリ猫耳マントこと凄盛鬼裏亡が猛スピードで間合いを詰めてくる。
笑えない。
なんなんだこのスーパー小学生は………。
「ははっ!ありえないっ………。」
「ありえないって何がかな?」
走りながら少女は話し掛けてくる。
こちらの息苦しい喋り方と違って彼女にはまだ余裕がある。
何がって、お前がだよ!
と、つっこんでみる。
「あははっ、鬼ごっこはもう終わり?つまんないなあ」
少女は笑う。
そして剣のような、刀のような刃物を一風して振るう。
対してこちらはかなり必死だ。
かろうじて刃物の軌道を見切って避ける。
まさか幼少時代にいやいや習っていた剣道がこんな所で役に立つなんて。
「へえ、目いいんだね」
「くっ………!」
もう走っても、なんの意味がない。
足で向こうが上回っているのに逃げることは無意味だ。
僕は足を止めて、キリナに体を向けた。
対する少女の体も同時に止まった。
「あれ…………。鬼ごっこ終了ですか。」
「おっ!白澤。ついに変身するの?」
キリナと深雪共に何かずれていることを口にする。
「深雪、変身ってなんの話だよ………。」
「えっ、そりゃ。ピンチになったヒーローに起きるアレだよ。」
「残念だけど僕はただの人間だよ。」
「えっ!!できないの?!」
何を期待してたんだろう………。
かなり口惜しそうに悔しがる深雪。
まあ、しかし………なんでこんなことになったんだっけ?
「なあ、キリナ。ちょっといいか。」
「うん?何かな?」
「キリナ、お前は殺し屋なんだろ。なら何で僕は殺されようとしているんだ」
「うん?それは………アレなんだっけ?えっと………秘密事項なんですよ。」
「…………。」
ああ、忘れたのか。
「まあ、いいです。とにかく私はお兄ちゃんを殺せばいいんですから……。」
そう言うとキリナは刃物を構えた。
話会いもいまさら無理。
ああ、なんか知らないけどよくわからん死に方をするのか僕は。
僕は死ぬ。
僕は死ぬんだ。
僕はいなくなる。
消え去る、滅する、浄化する。
死ぬ?恐い?
恐い、恐い、恐い。
死ぬのは恐い。
ひどく汗をかいている。
しかし、そんなのどうでもいい。
少女が剣振るう。
避ける。
死にたくないから。
少女が無邪気にただ剣振るう。
避ける。
死にたくないから。
少女がただ無邪気にただ剣振るう。
避ける。
しかし………。
腕に擦る。
ぐさりっ。
傷は予想以上に深く血が流れる。
自らの血を見る。
実は自らの血を見るのは初めての事。
血は勢い良く流れてキリナへと飛び散った。
少女の剣は再び繰り出そうとする瞬間だった。
ああ、もうだめだな。
そう思った。………が。
少女の攻撃は繰り出されなかった。
キリナの動きがピタリと止まった。
「ん………あれ?」
異様に気がつくのは以外と早かった。
キリナの手から刃物が取り落ちる。
がしゃん!!
剣のような、刀のような刃物はかなり重かったのだろう。
大きい音と地響きをたてた。
「キリナ………ちゃん………?」
声をかけてみる。
僕は恐る恐る近寄ってみる。
「白澤、いきなり動きだすかもよ。」
深雪は背後から他人事のような間の抜けた声で話し掛けてくる。
むむっ、そう言われると本当に動きだしそうではないか!?
一歩後退する。
「うわっ、白澤のチキン。」
「お前が恐がらせたんだろ。」
「でも、チキンな白澤もまたラブだから。」
ああ、一生いってろ。
僕はアホをほっといて再びキリナへと目を向けた。
「えっと、キリナちゃん。大丈夫?」
キリナはさきほどからピタリと止まっている。
まるでスイッチが止まったかのようだ。
しかし………。
「………大丈夫です。」
返答が返ってくる。
うおっ!……びっくりした。
やっぱり僕はチキンなのかも………。
「大丈夫か。なら良かった。まあ、こっちとしては良くはないけど、良かった。ところで、突然に攻撃を止めたけど、どうかしたの?」
僕は問う。
すると再び彼女の口が動く。
「それは………お兄ちゃん。…………お兄ちゃんの血のせいだよ。」
「血…………?」
よくわからない答えが返ってきた。
「血って………この血のことか?」
傷口から流れる赤色の液体、通称『血液』こと血に目を向ける。
キリナはこくんと小さく頷いた。
「私………目的、思い出しました。私の目的は特殊な能力の血を持つ白澤朝名の確保、または暗殺…………でした。………はい。」
「特殊な能力って………そんなの持ってる覚えはないよ。」
「それは………お兄ちゃんが間抜けで鈍感だから………です。………はい。」
くっ、何げにひどい事を平気で言われた。
この娘は毒舌のスキルも持っているとは。
毒舌ロリ猫耳マント…………もう、わけわかんないや。
「それはいいとして………なら僕はどんな能力を持っていたんだ。」
「それは………血。血を触れた相手の行動、思考の支配する能力です」
「血を触れた相手の行動、思考の支配………」
「そうです。私は間違って返り血を少し当たっちゃたんで、お兄ちゃんの死にたくないって言う思考が私の行動を止めたのです…………。はい………。今もこうして悠長に説明してますけど…………。本当は秘密事項なんです………。でも、お兄ちゃんが問えば私は答えるしかないのです…………。はい………。」
「…………。」
いや………。なんか知らないけど、変な特殊能力があるみたいです。
「つまり白澤の血にはエロティックな力があるのね。」
深雪が会話に入り込んで、そう言った。
「…………。はい……です。私はこれからお兄ちゃんの言うことには逆らえない体なんです………。はい………。だからといってエッチな命令はしないで下さいね。」
キリナは顔をほんのりピンク色に赤らめる。
「白澤の浮気もの!私ってものがありながら!!」
「意味わかんないよ!勝手に話を進めるな。」
いかん、いかん。
急展開過ぎる。
殺されそうになった瞬間に隠された能力が発動!?
まったく今時にはないようなストーリー展開。
「まあ、ところで本当にどうするの白澤。」
すると、いつもに増して真剣な口調で深雪は口を開いた。
「どうするって言われてもなあ……。」
「そんな、私をこんなにした責任取ってください!!」
キリナはそう主張してくる。
こいつは、おそらくわざと言っているだろう。
「そんなっ!やめてっ!私を帰してっ!」
「いいかげんに、だまってろ!!」
怒り混じりで強く叱り付けた。
キリナは一辺して静かになる。
ほう………これは。
以外と面白いかも。
「まあ、とにかくだ。疲れた。帰ろう。」
とにかく今考えても仕方がない。
落ち着いて、家で風呂につかりながら考えよう。
「キリナちゃんはどうするの?」
「ああ。なら、深雪の部屋に泊めてやってくれ。」
「うん。別にいいけど、白澤の部屋じゃあだめなの?」
「いや、そりゃあ………男女のしきたり的に………な」
「ふーむ。白澤はもしも一緒に泊まったらキリナちゃんに変なことしちゃうのね。」
妙な笑みを洩らす深雪。
いや、なにげに恐い。
「いや……別にないけど。」
いくら女だからといっても年下にまで手を出したくはない。
「なら、泊めてあげればいいじゃあない?なんなら私も一緒に泊まって監視してあげようか?」
なるほど……目的はそれで御座ったか。
「ならキリナちゃんを頼むよ深雪。」
軽くスルーして結論を述べる。
「とにかく帰ろう…………。」
もう、いつのまにか夕日は沈んでいた。
最近は夜もずいぶんと明るくなったと思っていたが、まだどうやら夏まで遠いようだ。
「あっ、そういや約束は?」
途端に深雪はそんなことを口にした。
「好きな所に連れていってあげるってやつ。」
「それは無効だろ。結局は帰れずに長引いたんだから」
「うう。白澤の嘘つき」
「それに、もう暗いし」
「大丈夫よ。むしろ暗くなったほうがOKみたいな。」
「そこは洞窟ですか………?はい………。」
黙ってたキリナがそう言った。
おお、今のはナイスタイミングのボケだった。
「はあ、とにかく帰ろう。いいかげん。」
なんか、外にいたら、またゴタゴタに巻き込まれそうで恐いし……。
僕は大きなため息をついた。