あの人から見たソレ
pixivにも同様のがあります。
pixivでは他作品もありますので良ければ。
こんなことを聞いたことがある。
言葉は私たちの感情を伝えるための道具となる。
対してこんなことも、
正確な気持ちを伝えることなんて出来ない。
全然二つは対象ではない?
まぁ、確かに本当に対象と言う『言葉』が正しいのかは私にはわからない。
ただこの二つには関係があると思う。
私はこの世に私たちの『感情』というものを表すことの出来る『言葉』は存在しないと思ってる。
ただ私たちは今の感情を自分の知っている言葉に当てはめて納得しているだけ。
諦めているだけ
ならどうしたらこの気持ちが正しく伝わるのか。
結局は、何かのキセキを待つしかないのかもしれない。
それとも………
私の名前は雨乃めぐみ。
私は今、虹ノ丘高校の廊下を歩いている。
まだ始業には早く、校舎内にはあまり人はいない。
1年の教室は校舎の3階にある。
まもなく梅雨の時期にさしかかっている今、正直階段を上るのはしんどい。
日本の夏らしく湿度が高く、じっとりとシャツが肌にくっついてくる。
(シャツの代え持ってきた方が良かったかも)
階段を上りきり、教室に入るとクラスメイトが数人いた。
その中の何人かと挨拶を交わし、いつもの作業にかかる。
私はクラスの緑化委員となっていて、教室の花瓶に挿してある花の世話係だ。
別に早起きが苦手な訳でもなく、何かを育てるのが特別嫌いでもない私にとって、緑化委員はそこそこいい仕事だ。
花瓶の水を取り換え、葉っぱも少し濡らしてあげる。
そしてまだ優しい陽光の当たる場所に置いてやる。
たった1輪しか挿していない花瓶。
クラスの中には何か寂しい、物足りない等と言う人もいるが、私はひっそりと、しかしちゃんとそこに存在していることを主張するこの1輪だけで十分だと思う。
そしていつもその花を見ながら心の中で話しかける。
おはよう、今日もいい天気だね、暑くなって来たからあまり直射日光が当たるところは良くないかな?なんて…………
(他の人から見たらちょっと変わってる風に見えるかな?)
恐る恐る?周りを見てみると集まって話していたり、予習をしていたり、読書をしている。
話している人も2、3人のグループになって話している。人が少ないせいなのか、音量も小さめでなんの話をしているのかまでは聞き取れない。
私はこの時間が結構好きだ。
小さな話し声、時折聞こえる笑い声、紙を繰る音、遠くから聞こえる挨拶、そしてほんの少しの風が草木を揺らす音。
それらが重なり合って私の耳に届く。
そしてソレに全く同じモノなど絶対にない。
それを分かっているからこそ、私だけが知っているかも知れないという事に対する小さな満足感。
それを感じてほんの少し口の端が上がる。
こうして私の何気ない1日が始まるのだ。
しばらくすると、登校してくる生徒が急に増えてくる。
私は自分の席で窓の外を眺めていた。
するとここ最近、急になじみ深くなった声音が聞こえてきた。
なんとなく落ち着いて、すぐに分かる声音。
教室の入口に視線を向けると予想通りの顔があった。
まだ少し眠そうで、ぼーっとした顔。
(お……)
向こうもこっちに気づいたらしい。
声は出さずに口の形だけで、
(よっ、おはよー)
と言うと、向こうも手を挙げて答えてくれた。
これが最近新しく追加された朝の習慣だ。
やっぱり少し口の端が上がる……
授業が全て終わった。
私は人の減った教室に残っていた。
教室の隅に置いた花瓶。
ほんの少し、寂しさを漂わせたそれ。
原因は人が少なくなったせいか、それとも夕方になり黄昏が近づいて来たせいか、それとも、
(私のせいか……)
理由は分からないが自分にも原因があるのではないかと思えてきた。
そう思う訳も分からないが………
そのまま何もしないまま宙を眺めていると……
肩を叩かれた。
振り向くと、
「どうした?」
彼がいた。雨実風悠来
同級生で最近出来た新しい習慣の要因。
私が何も答えられないでいると。
「あれ?雨乃さん、大丈夫ですか?お返事下さいませー」
おかしな敬語、それでもやっともろもろの準備が出来た私は、
「その変な敬語やめてって言ったよね?」
そう答えた。
「いきなりなんか厳しめ?少し心配になったんだよ。大丈夫か?」
「別に、何もないよただ考え事してただけ。そっちこそ、こんな時間まで何してたのさ」
彼は少し恥ずかしそうに、
「別に、課題忘れて今さっきまで人のを写してたんだよ。で、それも終わってこれから提出しに行くところ」
彼がまだ教室にいたことを今更気づき、
(なんで気づかなかったかな…)
気づいても気づかなくても特に何もないが、なんとなく嫌だった。
「ふーん、じゃあ今から帰るところかな?」
「まぁそうなるな」
一息、
「なら一緒に帰らない?」
彼は当然のように、
「ん?そのつもりだったんだけど。そのために声かけたんだし」
(だよねー………何考えてるんだか、私は)
私はごまかすように笑った。
「ははっ、そっかー。そうだね、うん分かってた」
彼は首を少し傾げ、
「うん、じゃあちょっと職員室まで出して来るから、先に昇降口の方に行って待っててくれ」
「了解ー」
私は手を適当に振りながら、いつもよりも少し早足にその場を離れた。
職員室は昇降口の反対側だ。
だから彼はしばらくは来ない。
私は片手を顔に当て、顔を半分隠すようにして歩いた。
(やっぱり………ちょっとアツイ……)
原因は彼なのか、私自身なのか……
顔を手で扇ぎながら昇降口に向かって歩く。
(違う違う違う違う、違う!これは気の所為!)
そう自分に言い聞かせながら。
そして昇降口、まだアツイ顔のまま靴をとっていると、
「お、いたいた」
彼の声だ…
顔を見なくてもわかる。最近やけに耳に残っている声。
うちの学校の靴箱はクラスの最後の番号の下に続けて次のクラスの最初の番号が来る。
そのため、私と彼の靴箱は下から2番目と3番目だ。
そしてちょうど靴を取り出している私の顔は髪に隠れて見えていないはずだ。
まだアツイままの顔が。
(あっぶな…よかった〜……)
安心していると、
「早く帰ろうぜー」
彼が近づいてきて靴を取ろうと顔を近づけてきた。
「っ…!」
慌ててあさっての方向を向いた……
「え、なに、どうした?」
彼の焦った声が聞こえる。
彼の方を向くことが出来ない。
「なんでもないなんでもないよ!」
ふぅっと、1つ大きく息を吐き、振り返った。
「さ、帰ろ!」
今の自分の精一杯の表情だった。
彼にどう見えていたのかは知らないが、背中側の夕焼けのおかげでごまかせてるはずだ。
彼は不思議そうに私を見ながら
「そうだな、帰ろう」
そして最寄りの駅まで二人並んで歩き出した。
このあと電車に乗って、降りて、そこからまた歩いていく。
その間にこの分からない『感情』に当てはまる言葉は見つかるだろうか。
そして、私はその感情を『言葉』にして伝えるべき人に伝えることが出来るのだろうか。
(キセキに頼るのはまだ早いよね……)
これからは彼と交わす言葉を少しだけ大切にしていこうと思う。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回のはめぐみさん目線になってました。
とりあえず自分の中で考えた全てを注いだつもりです。
感想等をいただけると私は嬉しいです。