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孵る欲を修正してみました
夏を意識させる日差し、蝉の声。
どちらも煩わしい。
僕は苛立ち、掃除をする手を止めた。
真夏日が続き、うんざりするこの暑さ。
「この炎天下に外掃除なんてくそだ!」
1つ断っておくが、夏は好きだ。
海に花火に夏休み、大学生活の夏は遊べるから大好きだ。
だけど、こう暑きゃストレスしか溜まらない。
僕は額に滲んだ汗を手で払う。
「バイトだる…。」
「おはようございます。」
声を掛けられ振り返る。
「おはよう。」
思わずにやけた。声だけでも誰かわかる。
小橋奈津さんだ。
彼女は今から出勤だから、私服姿だ。
私服姿は何回みても新鮮だ。
彼女事態がお洒落が好きなようで、毎回違うようにみえる格好してくる。初対面はよくいる着飾った女子大生だと思っただけだった。
それで前に1度、お洒落ですねって褒めたらとても喜んだのを覚えている。
よくある世間話。
今思えばこの1つが僕を変えたんだろう。
彼女は、頑張って服のコーデを考えてるんです。そう言いながら、はにかんだ。
その姿に僕は一瞬戸惑った。
単なる笑顔が、頭からはなれなかった。
それ以来彼女の仕草、言葉が全部可愛いものにしかみえなくなった。
「こんな中掃除辛いですよねー。」
そういい、奈津さんが笑う。
彼女が笑いかけてくれるだけで、僕は気分が良くなる。
大事なことだからもう1つ断っておこうか。
僕は奈津さんに本気だ。
「今日も頑張ろっか。」
それと、ポロッとでる彼女のタメ語も最高だ。
奈津さんは手を振ると店に入っていった。
僕は彼女をつい目で追う。
最近は、その回数が寂しさから増えてしまった。
僕は店の看板に視線を移す。
くたびれたそれは哀愁を漂わせる。
だから、僕はますます悲観的になる。
あと、何回会うことができるだろうか。
思わずため息がでる。
炎天下に居続けた所為で汗が額から流れ落ちた。「馬鹿みたいだ。」
すぐ横を1台の車が通り過ぎる。
もうすぐ、昼時だ。
箒を掴むと掃除を再開した。
不規則に箒が地面に擦れる音に蝉の声が混じりまた、僕は苛立つ。
早く終わらせて、冷房と奈津さんのいる店に入ろう。
そう決めて、集めたゴミをちりとりにいれた。
今の僕は、恋に恋する女みたいで馬鹿みたいだ。
でも仕方ない。
今雇われているバイト先が、不景気から閉店することが決まった。
僕は多店舗に移転願いを出したが、彼女は出していないらしい。
連絡先も知らないし、交換する勇気もない。
ここがなくなれば、もう会えないのだ。
そしたら、うじうじして彼女のことばかり考えてしまうだろう。
つい、彼女がどこにいるか探してしまう。リミットが近づくほど、僕は焦燥感にかられる。
その度に、僕には彼女を繋ぎとめる方法も、そんな資格はない。と言い聞かせた。
でも、すがりつきたい。
一緒にいたい。
好きなんだ、と伝え、彼女に拒否される様を想像何度もする。
僕は傷つきたくないんだ。
でも、彼女をつなぎ止めたい。
彼女は僕を見ていないのに、彼女が何を見ているか知っているのに、未練がましい。
奈津さんがいつもみつめる視線の先は僕ではなかった。
その風景を思い出し、胸が痛んだ。
歩く速度が痛みをごまかすように早まる。
僕はどうしたいんだろう。
手に持った、箒とちりとりを握りしめる。
あと何回あえば僕は諦められる?
いいや、会えば会うほど君をはなしたくなくなるのは分かっている。
先ほどの彼女の後ろを思い出す。
あの手を掴んで、引き留めてしまいたい。
そんな事をしたら、駄目なこともわかってる。
彼女からは拒否しか貰えないのは分かっているから。
今の関係が壊れてしまう。
でも、僕は彼女が欲しい。
欲しいなら、引き留めてしまってもいいだろう?いいや、僕は弱虫だから無理だ。
店の中に入り、ゴミ箱の前にたった。
少し乱雑にちりとりの中のゴミを落す。
僕は、自分の気持ちも一緒に捨てれればいいのにと毒づいてた。
そんな事はできるわけがない。
僕は、今日も彼女を探してしまう。
ありがとうございます