第九話 1ゴブ見たら20ゴブはいると思え!!
みんな大好きゴブリンの登場です
首だけじゃないよ!!
流石に満腹まで食べてしまうと集中力が切れるということで、俺達は腹八分目で食べるのを止めた。
名残惜しいが仕方ない。アルフレートが食べ終わり、残った食料は三人の鞄にいれたのは大目に見て欲しい。誰でもパンと塩だけの生活なんて嫌なのだ。
二人一組のローテーションを組み、一時間交替で周りを動哨することになった。戦力バランスを考えて、俺とアーシェ、アルフレートとハンクという組み合わせだ。
俺達の組は、アーシェを前衛に立たせて俺が後から魔法で援護するという戦術になったが、人として、男としてどうかと俺は思うのだ。とは言え、適材適所なのだから仕方ない。
一回目の動哨は俺達が担当になった。野生動物の声や虫の音が聞こえるが、特に異常は起きなかった。強いて言えば、俺の世界にもいた蚊が強襲をかけてきたぐらいだ。
異世界に来ても現れる忌まわしい敵に俺は舌打ちする。ブーン、ブーンと周りを漂い俺の隙を窺っているのだ。気付くと露出した肌に張り付いている。
「ええい、うざったい」
腕をぱしぱし叩いて蚊を追い晴らす。これじゃ歩哨にならないじゃないか、いっそのこと俺の初級火属性魔法で火あぶりにしてやろうか。蚊を燃やすことなど造作もないぞ!!
ふと、俺は気付いた。どういう訳かアーシェには蚊が近寄っていないのだ。
「なあ、なんでアーシェには蚊が来ないんだ」
浮かんだ疑問をアーシェにぶつけて見る。
「そりゃ、決まってるだろう。アタシは虫払いの草を塗っているからな」
はぁ、何だそれは聞いていないぞ。
(はっ、それで三人分の蚊が俺に群がっているのか!!)
「ジロウもつける?」
アーシェは視線を草むらにやると、歩き出す。そこで草を二、三本引き抜いて俺に渡した。
「これを潰して塗れば大抵の虫は寄ってこないよ。匂いもきつくないから大丈夫」
言われた通りに磨り潰して塗ってみる。するとあんなに五月蝿かった蚊がまったく寄って来なくなったのだ。素晴らしい効果である。
その後、およそ一時間が経ったので、俺達はアルフレートとハンクに交替し、休憩に入った。
俺は休んでいる間、アーシェにモンスターや盗賊など色々なことを聞いた。この大陸には多種多様のモンスターが生息しており、そのほとんどが人間に危害を加えてくる。
そして大小さまざまな国はあるが、特に大きい5つの国は五大国と呼ばれ恐れられている。その中でも今いるアルカニア王国は、ローマルク帝国と並んで五大国でも一位を争う軍事力を保有しているらしい。
そんな世間話をして、歩哨と休憩を繰り返していると、血の臭いに誘われて迷惑な来客者がやって来た。
「アーシェ、ジロウ。ゴブリンだ!!」
その言葉に座っていた俺達は立ち上がり、アルフレートの声のする方に駆け出した。
10匹程のゴブリンの群れがそこにいた。一匹だけが鉄製の武器と革の鎧を着けているが、残りは棍棒だ。
「炎弾よ敵を焼き尽くせ」
アルフレートのファイアーボールがゴブリンに迫り、火球に飲み込んだ。焼きゴブリンの完成である。
俺も続いて鹵獲品の中から持ってきた投げ槍を投げる。放たれた槍は抜群のコントロールで真直ぐゴブリンに刺さるとスルりと抵抗なく貫通する。
そのまま奥の森に飛んでいってしまった。続いて投げナイフを投げようとするがもう必要なかった。
二人のマジックユーザーからの攻撃に、浮き足立ったゴブリン達をアーシェが流れるような動作で切り捨ててしまったからだ。正確に言えば、ハンクも一匹倒しているが。
「終わったのか」
周囲を警戒しながらそう呟くと、直ぐに返事が来た。
「ゴガァアアアア」
突然半身を失い死んでいたと思われていたゴブリンが叫び声をあげ、そして力尽きた。どうやら断末魔のようだ。
「狩りにしては多い、本隊にしては少ない。何か変じゃない、このゴブリン」
断末魔で何かに気付いたアーシェが真剣な目付きで俺達を見る。
「……まずい、こいつら斥候だったのか」
アルフレートが焦るように言う。あのゴブリンの断末魔は後方で控えているであろうゴブリンの群れに危険を知らせるものだったのだ。
アルフレートの言葉から一時間後、ゴブリンの群れは現れた。その群れはさっきの斥候とは比べ物にならない数だ。見える範囲だけでも70匹はいるだろう。しかも半数近くが鉄製の武具を持っていたし、猟犬まで連れている。この世界に来てから首だけゴブリンや斥候のゴブリンしか見てないので馬鹿にしていたが、とんでもなかった。
冒険者にとって、単体としてはゴブリンは脅威にならない。だが、群れのゴブリンは別だ。俺達に襲い掛かろうとしているゴブリンもそれに当てはまっている。
数の暴力、この言葉が思い出される。
「そうか。討伐で出た死体や弱った冒険者を食らってゴブリンが異常繁殖したのか」
良く夕方のニュースでやっていた虫やボラの異常繁殖みたいなものか、と俺は解釈した。こっちの方が遥かに最悪だが
ゴブゴブゴブと何十匹ものゴブリンが会話しているのが分かる。もしかしたら名前の由来はあの発している言葉から来ているのかもしれない。
全身に武具を付け、周りのゴブリンに比べ一回りも二回りも体が大きくリーダー格のようなゴブリンがうなり声を上げている。妙に偉そうだ。
「ただのゴブリンリーダーじゃなくて、ホブゴブリンリーダーか」
ハンクが武器を構えて、忌々しそうに言う。
「炎弾よ敵を焼き尽くせ」
いつの間にか詠唱を済ませていたアルフレートがホブゴブリンリーダーに魔法を放つ。ホブゴブリンは盾を構えて横に飛んだ。余波がホブゴブリンリーダーに襲い掛かるが、盾で防いでしまった。今までのゴブリンとは一味違うらしい。やはり三倍とまではいかないが、角があると速いのか。
そんな事を頭の中で考えながら、俺は槍を投擲する。
投擲スキルが発動し、加速した槍がホブゴブリンリーダーを貫く。ホブゴブリンリーダーからは夥しい血が吹き出し、何か言いたげな目をして崩れ落ちた。
一瞬の静寂を置いて、ゴブリンの怒声が始まった。
「「「ゴブゴブゴブ!!!!!!」」」
なんかゴブリン達の地雷踏んだらしい。何がいけなかったというのだ。タイミングは完璧だったじゃないか
「「「ゴブゴブゴブ!!!!!」」」
「ええい、やかましい!!」
俺は拘束用の鉄球をゴブリン達に思いっきり投げつけた。何人ものゴブリンが弾け飛ぶ。どうやら鋭利なモノを投げるとサクサク刺さり、そうでないものを投げると爆発――弾けるようだ。
「ジロウって意外にえげつないな」
アーシェがさらっと酷いことを言って突っ込んでいく。
「なんでだよ!?」
俺は変身ヒーローモノで変身する前に倒せばいいだろう、と考える人種なのだ。別にいいだろうが。
「馬鹿やってないでどんどん投げろ、なんでそんな余裕なんだ!?」
ハンクがゴブリンを切り倒し言う。
確かに今朝に比べたらとんでもない落ち着きようだろう。やはりスキルのお陰か。
「分かってるよ、でも思いっきり投げたから、魔力がもう半分もないぞ」
直感だが、スローイングナイフ四本分くらいしか投げられないだろう。
「使い切っていい、もう少しのはずだ」
ハンクには考えがあるらしい。俺は三人に当たらないようにナイフをゴブリンの急所目掛けて、立て続けに投げる。魔力の籠ったナイフは四匹のゴブリンを切り裂きながら刺さった。三匹は死んだが、片腕が無くなった一匹は突っ込んできた。立て続けに投げたから精度が甘かったのだ。手にはナイフを持っている。
(落ち着け、ゴブリンは腕力はあるが、あのナイフのリーチは短い。それに無茶苦茶にナイフを振り回してるだけだ。近づけなければ問題ない。問題ない)
俺はパニックになりかけている自分に言い聞かす、近づいて来るゴブリンにタイミングを合わせて、片手剣で突き刺す覚悟を決めた。
(接近戦の経験のない俺が倒せるのか?)
俺よりもかなり小さいというのに、近づいてくるゴブリンの圧迫は想像以上だ。
決めた間合いに入ったゴブリンに必死の突きを出す。それは手に伝わる確かな感触から、ゴブリンの首に刺さったことを意味していた。
初めて剣でゴブリンを倒した実感も感じる暇も無くゴブリンが押し寄せてくる。
アーシェもアルフレートも手一杯だ。
開けた道から喊声が聞こえてくる。どうやらゴブリンは森からだけじゃなく、道からも攻めてくるらしい。
「クソッ、あのホブゴブリンの入れ知恵か!!」
「囲まれる前に逃げるか!?」
このままでは殺される。《生存本能》がそう告げ、逃げろと頭の中で本能が抑えきれない。
「いや、違う、援軍の到着だ!!」
道から現れた人々は次々ゴブリンに切りかかる。
「押し込め!!!!」
「いっぱいいるじゃないか、こりゃ小遣い稼ぎになるぞ」
「無駄口叩くな、押しつぶせ!!」
朝に街に行った冒険者達が街の守備隊を引き連れて帰ってきたのだ。
数の差という唯一のアドバンテージを失ったゴブリン達は一目散に森の中へと逃げていく。戦場は防衛戦から殲滅戦へと様変わりした。
気分がノったので三日連続更新です
明日も忙しくなかったら更新するかもしれません