第八話 勇者の末路と食の凶宴
ファンタジーモノぽくなってきました。
装備を整えた俺達は、警戒中のアルフレートに装備が整ったことを伝えに行く。
「装備を選び終わったか、こっちは特に異常はない」
「おう、あの盗賊たち盗賊とは思えないほど、装備が整っていたよ。Cランクの下位の冒険者くらいの装備はあったんじゃないのか」
「だろうな、最近、未到達地域近くでアルカニア王国軍や傭兵向けに装備を運んでいた隊商が襲われ、大量の武具が流失したんだ。その流失した武具で大規模な盗賊団が出来て、その盗賊団や便乗犯が各地を荒らし回っているんだよ。勇者の末裔や国軍を投入して、一斉討伐をしてるらしい。こいつらはその残党だろうな」
残党でこの規模とは討伐前は、一体何人いたんだ。想像しただけでも恐ろしい。
「牢に入る前にもきな臭いことになっていたが、そんなことになっていたのか」
アルカニアやら勇者などのキーワードが出たが、俺はなんのことか一切何のことか分からない。
「そのアルカニアや勇者て、一体なんなんだ」
俺が尋ねると、ハンクやアーシェはまたかという顔をし、アルフレートは怪訝な顔をしている。
「そう言えば、アルフレートには言ってなかったな。ジロウはとんでもない田舎から来たらしく、この辺のことがまったくわからないんだよ」
「そうか……」
なんか残念そうな目でアルフレートが俺を見ている。田舎者扱いってこんな感じだったとは。
「アルカニア王国は俺達が今いる国で、西部一帯を支配下に置く、五大国の一つだ。勇者の末裔というのは、今は亡き異世界の勇者がアルカニア王国に残した血縁者達だ。彼らは勇者の血を引いているからか、一人一人が絶大な力を持っていて、アルカニア王国の主力の一つになっている」
(やはり、俺以外にも異世界から来た人がいたのか!?)
「その血縁者達は何人くらいいるんだ」
もしかしたら、異世界から来た人の子孫なら俺の世界のことが分かるかもしれない。そんな想いから俺はアルフレートに聞いてみる。
「大体、有名な者だけで40人くらいか」
「なんでそんなに子孫が多いんだ!?」
有名な者だけで40人てどんだけ大家族だよ。一体何があったってんだ。
「それは――」
「その勇者がとんでもない色好みな上に女癖が悪くて、力や名誉を武器にして、何人とも関係を持ってたんだとよ。しかも恋人がいる女に言い寄ったり、人妻や少女なんかともしたそうだぜ。時には媚薬や快楽漬けにして落としたそうだ。とんでもねぇ下種野郎さ。最初は、誰にでも優しくて王国の為に逸話が残るほど活躍したそうだが」
ハンクが心底嫌そうな顔で吐き捨てるように言った。
アルフレートは言ってることが正しかったのか、肯定も否定もしないで苦笑いしている。
「まあ、最後は自分の女に拷問の末に殺されたらしいけどな、間抜けな話だ」
自分が悪いとは言え、なんとも惨たらしい最期である。
(ハーレムエンドの成れの果てか、くわばらくわばら。それにしても)
「……女こわい」
やはりこの世界の女は凶暴なのかもしれない。俺がボソッ、と呟くと聞き取れなかったのか、アルフレートが聞き返してくる。
「すまない、聞き取れなかった」
「あ、いや、アルフレートに火属性の魔法の使い方が聞きたくて」
咄嗟に違うことを言ってしまった。
(実際、聞きたかったしいいよな)
「そうか。ジロウも魔法の才能が有ったんだったな。まず魔法というのは、魔力を使って、火や風を生み出すモノだ。色々なモノがあるが大きな主流は水、風、土、火の4つの魔法だ。後は僧侶などが使う回復魔法が入るな。四大属性魔法が10人に一人の割合で才能があるが、回復魔法は20人に一人しか才能がないので貴重な存在だ。一応は才能がなくても後天的に覚えられるらしいが、5年、10年も修行してやっとD-クラス程度しか習得できないらしい。その程度の魔法なら魔法石を買った方がまだいいな」
ふと、殺気を感じて後を見ると、ハンクとアーシェがジト目でこちらを見ていた。アルフレートはそれに気付いていない。
(うん、見なかったことにしよう)
「火属性と水属性のスキルがあるなら、詠唱と魔力があれば出来るだろう。では、行くぞ」
そういうとアルフレートは古代語を詠唱し、呪文を唱えた。
「魔力を体現し、我が力となれ」
「炎弾よ敵を焼き尽くせ」
戦闘中に見たことのある火球の極小版がアルフレートの手の先から出ると岩に飛んでいった。そのまま岩を焦がす。
「おお、凄い」
「こんな感じだ。慣れると大きさが変えられたり、詠唱が短く出来る。いきなりファイアーボールは無理だろうから、さっきの詠唱を最後のボールを抜かして唱えてみるといい」
俺は、手に集中すると頭の中で火を生み出そうとする。頭の中にアルフレートが詠唱してたモノと同じ言葉が流れ、詠唱していく。
「魔力を体現し、我が力となれ、ファイア」
そう詠唱を終わると手から魔力が溢れ、火が出た。……マッチの火程度である。
「何これ」
あまりのしょぼさに言葉が漏れてしまった。
「初めてでそんなに火が出るなんて凄いじゃないか」
アルフレートは驚いた様子で褒めてくれるが、ちっともうれしくない。教えられた詠唱で水属性の魔法を唱えて見るが、同じ結果である。マッチの火なら消せそうだ。
(これじゃ手も洗えないやい!!)
地道にトレーニングをして洗顔と肉を焼くぐらいの魔法は使えるようになってやる。と俺は決心を固める。
「ありがとう、本当に助かるよ」
「何を言ってるんだ。昨日、ジロウ達が援護してくれなかったら、俺達は殺されていたよ。感謝してもしきれない」
ここ何日の関係だが、表情をあまり変えないアルフレートが笑顔で言っている。その言葉に俺は照れてしまった。どうも褒められるのに慣れない。
アーシェも顔や尻尾から見てもテレを隠しきれていないようだ。とは言え、あの行動はそんな立派なものじゃない。
「死にたくないから必死に戦っただけだよ」
「結果的には助けられたんだ。それは変わらないさ」
どうやらイケメンなのは顔だけじゃないらしい。流石は干し肉をくれるだけのことはある。
「んじゃ、干し肉のお礼に助けたってことで」
それを聞いたアルフレートは、一瞬きょとんとして笑い出した。
「はは、そうか。干し肉一つで私は命を助けられたか、それはいい」
食べ物の恨みは恐ろしいように、食べ物の恩は忘れないのが俺のポリシーだ。日本人は食にうるさいのである。
「今日は忙しくなる。何も起きないうちに食事にでもしようか、私が先に見張っておく」
「そうだな、パンと塩ばかりだから、腹が減ってしょうがない。確かあの奴隷商人の荷馬車に美味そうな食べ物があったはずだ。そいつを貰おうとしよう。もうあいつらには必要はないだろう」
ハンクはそういうと、馬車に歩き出す。アルフレートは、肯定も否定もしないまま、ハンクについて行った。アーシェはノリノリである。
(そういえば、アルフレートがくれた干し肉以外、ここに来てからパンと塩と水しか口にしていないな。修行僧みたいだ)
そんなことを思いながら、俺は荷馬車へ歩き始めた。
荷馬車の中には、日ごろ食べていたパサパサパンより上質な堅焼きパンや堅焼きビスケット、それに燻製肉や干し肉、ドライソーセージ、塩漬け肉、チーズなどがあった。奥の方にはあの金持ちが飲んでいたワインが転がっている。
俺やアーシェは、その場で食べることをかなり我慢し、口の中に広がる唾液を飲み込む。丁度良い大きさの麻袋に詰め込むと、見晴らしのいい場所に運んでいく。
先に食べる三人が手ごろな場所に腰掛ける。麻袋から食べ物を取り出すと、豪華な食事が始まった。
まずはハムのような燻製肉の塊を口の中に放り込む。種を口の中に溜め込むハムスターのようだが気にせず、かみ締める。久しぶりの大量の動物性タンパク質に口の中は、狂ったように唾液の洪水が起こる。肉特有の噛み応えに、俺の顎の筋肉が歓喜の声をあげた。
噛むのもそこそこに燻製肉を飲み込む。傍らにあったワインのコルクを抜くと一気に飲み込む。繊細で甘酸っぱさが口の中いっぱいに広がる――まさに至福の時だ。飢えに飢えて食べるものがこんな美味しかったとは、最早手が止まらない。他の二人も取り合うように肉やパンを食べている。
続いて、壷に収められた塩漬け肉を取り、口の中に投げ込む。程よい塩気と自己主張が抑えられた脂身は、まるで十代の可憐な少女のようだ。俺は次々塩漬け肉を口の中に放り込んでいく。アーシェがアタシにも頂戴と壷に手を伸ばす。名残惜しいが仕方ない。アーシェにもこの味わいを体験してもらおう。結果は考えなくても分かるが。
パンの近くにあったチーズにも手を伸ばす。ミルクと乳酸菌が生み出す深い味わい、うまみ成分のグルタミン酸が多いのだろう。しかもメチオニンが肝臓の働きを良くするのでアルコールの分解を助ける。今飲んでいるワインとも味、効果ともにピッタリだ。
今度は、固焼きビスケットを手で摘むと、いっきに数枚を咀嚼する。硬めに作られたビスケットはほんのりとした甘さがたまらない。粉一つ残らないように俺は飲み込んだ。
流石は三大欲求の一つ、食欲だ。食の狂宴は止まらない。それは俺達が満腹になるまで続くだろう。
お腹が空いていたので、食事の描写を多くしてみました。
ちなみに作者の晩御飯は鍋焼きうどんと餃子デス
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