表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界デビューに失敗しました  作者: トルトネン
第四章 リュブリス攻防戦
70/150

第二十五話 鬼人の暴風5 

「クソ、僚騎が全て叩き落された。あんな濃密な魔法を撃たれるなんて……なんなんだアレは! ふざけるな!!」


 ワイバーンから降りた竜騎士は被っていた兜を地面へと叩きつける。竜騎士の脳裏には魔法を連発する女の姿が浮かぶ。僚騎が落とされた怒りと、自分がああならなくて良かったという安堵感が酷く竜騎士の感情を爆発させた。


 どうにか逃れたと思ったもう一騎の僚騎が突如起きた正体不明の爆発により、ハエのように叩き落された。それでも竜騎士は仲間の二の舞いにならないように高度を上げ、攻撃されるかもしれないという恐怖を、竜騎士としての誇り、軍人としての矜持で打ち勝ち偵察を続けた。そうして彼は無事に帰ってこれたのだ。


「落ち着いてください。敵の部隊に襲われたのですか?」


 兵士は興奮する竜騎士を宥める為に近寄っていく。少し落ち着きを取り戻した竜騎士は見てきた事を兵士に伝える。


「はぁはぁ……もう大丈夫だ。敵は徒歩でここから4時間ほど移動した北東の位置にいる。数は千人程度だ」


「本当に千人だったのですか?」


 再度訊ねて来る兵士の言葉が、自分が命を掛けて偵察した事を否定されているような気持ちになり、竜騎士は語尾を強め言う。


「ああ、何度も見たが間違いない。二千、三千も数がいたら空から見たら一目瞭然だ。千人だった所為で中々発見出来なかった」


 ワイバーンから少し離れた位置で竜騎士の話を聞いていたイグナールは部下に尋ねた。


「どう思う?」


「あの竜騎士が嘘を言っているとは思えません。誤認という事も無いでしょう」


 竜騎士と言えば、ローマルク帝国でも限られた精鋭しかなれないエリート中のエリートだ。騎乗技術は勿論、ワイバーンとのコミュニケーション能力、竜騎士単体での戦闘能力も求められる。そんな竜騎士が嘘を言うとも誤認するともマティアスは考え辛かった。


「部隊の半数が既に引いている。元々それだけしかいない、か」


 エグリルの言葉にイグナールとマティアスは考え込む。


「夜襲以外で敵の全戦力と戦闘を行った友軍はいません。数が知らず知らずの内に誇張されていた、と考えるのが妥当かと。尤も、地中に潜んでいたという前例も考慮しなければいけませんが」


 マティアスの脳裏にはスケルトンとゴーレムが這い出てきた穴が浮かぶ。小競り合いや小規模の戦闘ではあのような待ち伏せは可能かもしれないが、200体ものスケルトンとゴーレムを埋設するなど聞いた事が無かった。


「スケルトンやゴーレムが無造作に出せるなら、既に惜しげもなく使って来ているだろう。何かしらの準備が必要なのは明らかだ」


 敵は全ての戦いに置いて、正面から挑んで来ていない。明らかに人員の消耗を嫌がっているとイグナールは考えていた。スケルトンもゴーレムもここぞと言う時にのみ投入して来ているのは、数に限りがあるからではないかと。


「もし、こちらを欺くために意図的に使って来ないのなら、我々に出来ることはほとんど限られてしまうが」


「相手を過大評価するのは良くない、かと」


「そうだな。それに時間も無い。ワイバーンも2騎失われた今、また夜になり姿を消されたら、再度捕捉するのは困難だ。バトペド連隊と協力し、敵を殲滅する。出撃だ。敵は千人だが、油断するな。何があるか分からない」


 既にイグナール大隊は出撃準備を終え、バトペド連隊も準備を終えていた。事前の会議で二つの部隊の役割も決まっている。後はドラグーンの情報を有効に使い、どれだけ素早く敵を補足できるかだった。







 部隊の位置が露見してから半日が経ち、俺達は確実に追い込まれていた。


 敵を繰り返し襲撃する為に森の奥に部隊を移動させていたのが、仇となった。敵に発見されてからの行動は迅速だったが、それでも逃げ切れるかは微妙だ。


 オサの話によれば、俺達の部隊を目掛けて敵が猛追中だ。最後に確認できた時は、片方は3000人から4000人。もう片方は1000人から2000人程度の部隊だったらしい。今は確認しようにも手駒のスケルトンバードが全て帰還しなかったので、不可能だ。


 休憩を挟んだとしても連戦と繰り返される移動により、兵員には疲労は蓄積されてしまう。部隊の移動速度は明らかに落ちていた。対する敵は十分に休息を取っていた部隊だ。多少の強行軍も可能で、敵との距離は詰まりつつあるだろう。二つの部隊はこちらの大よその位置を把握し、2つの部隊を基点にするように網を掛けているはずだ。


 とは言え、このまま包囲網から逃れてしまえば、夜の移動に強い俺達の部隊は振り切れる可能性の方が高い。日没まではまだ時間があるが、それまで耐えれば逃げ切れるかもしれない。


 隊列は一心不乱に進み続ける。


 横四列に分かれ、一直線に進む隊列では悪路により槍兵が肩に担いだ槍の穂先が揺れ、腰のリングに差し込まれた斧の柄が兵士が歩くたびに動いている。


 5人ほど前の鬼人が周りに声をかけ始めた。


「誰か水余ってないか? 昨日の戦闘で水筒が壊れたんだ」


「悪いな。もう無い」


 鬼人の一人が周りに尋ねるが、皆首を振る。見覚えの無い顔だが、ここにいるという事は、この数日間共に戦ってきた鬼人の一人なのであろう。


 俺は歩いたまま手を道具袋に伸ばし、そのまま漁る。一番奥に目当てのものの感触を感じ、引き抜く。


「おーい、俺の飲むか? 水属性魔法を使えるからまだ余っている」


「ああ、飲む。すまないな」


 歩いて手渡しでも良かったが、隊列を崩すのも余計な体力を使う。


「いくぞ」


 俺は右手に持っていた水筒をそのまま鬼人目掛けした投げで渡す。水筒は数ミリの狂いも無く狙った鬼人の手元へと投げられた。


 鬼人は自身の大きい手のひらを使い、それをしっかりとキャッチした。飲み口から蓋を外し、数口水を飲み、息を吐く。


「はぁ、ただの水だがこうなると旨い。ありがとよ」


 それから少しして鬼人は、礼の言葉と共に水筒を投げ返して来た。


 若干俺から逸れていたが、両手を使いそれを受け取る。先程まで道具袋に納まっていた状態の時に比べ、中身の水は半分ほど減り、蓋には奇妙なモノが巻きついていた。


「何だ。コレ……トカゲか、干物の」


 水筒に巻き付いていたのは紐で括られた、デカイトカゲの干物だ。生前は水分が豊富であったであろう体からは瑞々しさが無くなり、すっかりどこぞの博物館のミイラのように干乾びている。


「ああ、トカゲの干物だ。保存食として何匹か持って来たんだ。中々癖になる味だぞ」


 冒険者になって色んな物を食べてきたが、トカゲの干物を食べるのは初めてだ。食べるには少々グロテスクだが、不味くはないだろう。これよりもグロテスクな蛙やザリガニなどの生き物ですら、美味なモノは美味であり、淡白質が豊富なのだから。


 俺がじーっとトカゲを眺めていると何を思ったのか、鬼人は楽しそうに言う。


「それに色んなモノが元気になるぞ」


「ははっ、元気ねぇ……」


 チラリと後ろを振り向くと、鬼人の露骨な下ネタにアーシェはジト目になり、リアナは訳が分からなそうに首をひねっていた。


 今はまだ食べる気にはならないので、紐を解き、トカゲを道具袋に入れる。それから水筒の中身も一口飲み、トカゲに続いて水筒も道具袋に収納した。


(もう直ぐ日が沈む) 


 日没まであと2時間を切った。このまま何も無く日が沈み逃げ切れるのではないか。部隊の誰しもそんな事を考えていた時だ。


「敵襲だ――!!」


 隊列から数百メートルほど離れた側面から叫び声と共に敵の発見を知らせる声が響いた。


「戦うか?」


「だが敵が――」


「このまま前進だ。速度を上げろッ!!」


 隊の先からは戦闘の指示では無く、移動速度を上げるように指示が入った。隊全体が列を崩さないようにしながらも、逃げ切るために速度を上げる。


「不味い。横に敵が来てる」


 アーシェが獣人の優れた視力で敵を発見し、その直後、俺の視力でも辛うじて捕らえられる距離まで、敵が迫って来ているのが分かった。見たところ数は多くは無い。だが、ここでの戦闘を行えば、際限なく後方から敵の増援が来るのを誰しも理解していた。


「駄目だ、間に合わない。武器を構えろ来るぞ」


 ぎりぎりまで粘るが、敵の方が速く、無抵抗に移動を続ける事の出来なかった中部から後部の隊列が捕まった。


 アランの指示で隊列は移動から戦闘に切り替わり、兵士は武器を構え、敵と衝突する。



 横合いから襲撃された俺達は敵と剣を合わせる。鉄と肉がぶつかり合い、俺達にとって不本意な形で戦闘が始まった。


 こうなったら纏わり付く敵を排除するしか道は無いが、今日の敵は一人一人が粘り強かった。その上、敵は時間を稼ぐように防御重視だ。こちらが迫れば防御を貫き通し、逃げようとすれば攻撃して来る。


 最終的には倒せない事は無いが、それには時間が掛かりすぎるだろう。そうなると追いついた敵の本隊が現れ、いよいよ絶望的な状況へ追い込まれる。


(面倒だなッ)


 こちらのフェイントを読んで、敵兵はバスタードソードによる攻撃を盾で防御する。それでも盾の上から強引に剣を入れ込むと、敵は左足を引き、身体を入れ替えてロングソードを突き入れてきた。


そのロングソードをバスタードソードの腹で捌き、そのまま剣の表面をすべるようにバスタードソードを振るう。


 反応が一歩遅れた敵兵はバックステップしながら後ろに引こうとするが、俺の剣速の方がそれよりも速く。敵兵の喉を切り裂いた。


 近くで敵兵を打ち倒したアーシェが叫ぶ。


「こいつらローマルクの緊急展開群だよ」


「ローマルクの精鋭中の精鋭じゃないですかッ!」


 ローマルクの緊急展開群と言えば、国土の広いローマルク帝国に置いて、敵を補足、撃破し、本隊が到着するまで敵を拘束するのを得意とする部隊だ。今回のような戦闘では最悪な敵に数えられるだろう。


 逃げる訳にもこのまま戦う訳にもいかない。何時敵の本隊が来るか分からない恐怖が襲ってくる。


「引きなさい。私が殿をする」


 オサがスケルトンや一部の兵士を連れ、戻って来た。味方はオサの指示に従い次々と離脱しようとするが、しつこく敵が喰らい付いてくる


 こいつらを振り切らなければ、部隊の命は無い。かと言ってオサや優秀な歩兵を失えば、部隊全体の崩壊も免れない。そうなれば全員に死が待っているだろう。


 俺に重大な選択が迫っていた。

6日連続更新。何とかなるものですね。


……タイトルが手抜きなんて言えない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ