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異世界デビューに失敗しました  作者: トルトネン
第一章 冒険者への道
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第七話 大掃除

騒いだ後は大掃除です

 血染めの夜明けから二時間以上が経った。おっちゃんことハンク・ロシュフォートと獣人の女の子アーシェ、そして俺シンドウ・ジロウは、生き残った負傷者に治療を施し、周囲に散らばった死体の回収をした。


 俺の前には、100人を超える死者が並んでいる。夜明けの戦闘で死んだ者たちだ。


死体の内訳は、護衛側が御者10人、商人4人、奴隷7人、私兵20人、冒険者8人、盗賊側は58人である。


その中には、服をくれた男Aと男B、金持ちの奴隷商人も含まれていた。


 そして生き残ったのは俺達3人と冒険者2人、御者2人と商人1人だけであった。そして今、生き残った者達が今後どうするかを話し合っており、俺達は奴隷とではなく冒険者として参加していた。


 理由は簡単だ。契約者と書類がこの世から消えたことにより、俺達は自由となったのだ。この世界の法律では、所有者が死亡する前に奴隷の引継ぎや譲渡が行われなければ、奴隷としての契約が破棄されるらしい。時折、契約を無視した実力行使で契約破棄が無視されることもあるらしいが、この状況では誰もそんなことはしないだろう。


 生き残った商人と御者は香辛料の輸送が専門で、奴隷商人とは共同の隊商として参加していたという。2人の冒険者もこの商人の護衛を任せられていただけなので、俺達とは関係がないのだ。


「応急処置は済んでいるが、ここには回復魔法が使える者が残っていない。このまま放っておけば怪我が悪化して最悪の場合もありえる。怪我人の治療を行いたいが、ここの積荷も放っておくことも出来ない。そこで二手に別れて街に行きたいと思う。ここから街は一日もかからない、商業ギルドと街の警備隊に連絡をいれたらすぐ戻れるだろう」


 干し肉の冒険者こと、アルフレート・ティルボートが意見を挙げる。自身も怪我をしているのに負傷者が心配なのか、ちらりとそちらに視線を移している。


「だがなぁ、盗賊がまだうろついてるかもしれない。下手な人数で行くと死ぬぞ、人数の振り分けはどうするんだ」


 ハンクが眉間にシワを寄せて、悩んでいる。


「ロンを護衛につけてアンギルさんと負傷者を街に行かせようと思う。ここに残るのは俺とハンクとアーシェとジロウだ。盗賊も負傷者や冒険者しかいない馬車より、高価な物が転がっている方を襲いたいだろう」


「アタシはアルフレートに賛成かなぁー。それに遅ければ遅いほど危険も高まるし」


 喋ってる内容はまじめだが、アーシェは胡坐をかいて尻尾をふりふりしている。会話が出来なかったときは気付かなかったが、顔に似合わずワイルドだ。


「そうだな、ジロウとアルフレートなら馬車が襲われても、遠距離から攻撃が出来るから、損害も少ないだろう。もうアルフレートもジロウも魔力は回復しているだろう」


 いきなり話を振られた俺は、軽く慌てる。どういう訳か俺が戦力として組み込まれているからだ。それに魔力ってなに……?


「大丈夫だ、問題ない」 


(ここは正直に言うべきだろうな)


「えーっと、魔力がどこまで使えるのか分からない……。正直、魔法を使ったのが今日が初めてなんだ」


 俺の発言に周りの空気が固まった。でも仕方ないだろう。分からないのだから。


「え、でもジロウ、牢にいる時に回復魔法使ってなかったっけ? 足の怪我が見る見るうちに治ってたよね。それとも何かのスキルか加護?」


 アーシェが納得いかない、といった様子で俺に質問してくる。


(そんな事があったのか、しかし、どうする。俺が異世界から来たことを言うか、でもむやみやたらに異世界から来たのを言うのはまずいだろう)


「ごめん。遠い田舎から来たから、魔法とかスキルとか分からない」


 また空気が固まってしまった。


「おまえさん、どんな田舎に住んでたんだよ。しかし、そうなるとあの変わった魔法はなんなんだ」


「俺にも何がどうなっているのか……」


「分からないって、鑑定士や測定用の魔法石がなくても、ステータス開けば最低スキルの名前だけでもわかるだろうが」


(え、ステータスてなにそれ、そんなの使えるの)


 どうやらこの世界では簡単な自分のステータスとやらが誰でも開けるらしい。こちらの常識で考えていると痛い目に遭いそうだ。


(会話が出来なかったから仕方ないとは言え、そんなの知らなかったよ。ちくしょう)


「ステータス、てどうすれば開けるんだ」


「そりゃ、心の中で”開け”と言えば開くだろうに」


(ステータス、開け)


 俺は言われた通りにやってみる。すると前に一度見たことがあるものが出てきた。そうレベルやらスキルやらがどうたらと出てきたあれがステータスだったのか、


【名前】シンドウ・ジロウ

【種族】異界の人間

【レベル】3

【職業】異界の迷い人

【スキル】異界の投擲術(特殊投擲術)異界の治癒力(特殊治癒力)、初級火属性魔法D-、初級水属性魔法D-、共通言語、生存本能

【加護】なし

【属性】なし


「おぉ、本当になんか出てきた。えーっとスキルは、生存本能、特殊投擲術、特殊治癒力、共通言語、初級火属性魔法D-、初級水属性魔法D-だ」


「ほう、いきなり言葉が分かるようになったとは言っていたが、スキルを習得して、話せるようになったのか」


 アルフレートは納得したように頷いている。


「やっぱりあの威力、特殊スキルだったんだ。それにD-だけど、火と水属性魔法もあるんだね。ちょっとうらやましい」


 アーシェが不服そうにアヒル口になっている。犬の獣人なのに――それより俺、魔法が使えるってことか!?


「俺、魔法が使えるのか!?」


「少し練習して、詠唱すればすぐ使えるだろう。ただ――」


「初級D−じゃね。せめて初級のA−くらいないと実戦で使えないよ。D−じゃ、消えそうな焚き火とコップ一杯くらいの水が出るぐらいのショボイやつ」


 アーシェは馬鹿にしたように笑っている。いや、確実に馬鹿にしている。やはり、この世界の女性はドSばかりなのか!?


「……」


「あー、いや、冗談だって。鍛えればランクが上がってもっと強くなるよ」


 いまさらフォローされても虚しいだけだ。


「それで、状態はどうだった。魔力切れだったのか」


 空気を呼んで、アルフレートが助け舟を出してくれた。さすが干し肉の冒険者である。


「それは大丈夫だった。あとなんとなくだが、数回はあれが出来る気がする」


「なら問題ねぇな。盗賊もそう多く残っちゃいまい。魔法で2、3人吹き飛ばせば蜘蛛の子散らすように逃げてくさ」


「では、二手に別れよう。もう仲間と雇い主には話を付けてある」




 予め準備しておいたらしく、アルフレートが仲間に指示を出してから数分で出発してしまった。足の速い馬と軽量の馬車の組み合わせなので、あっと言う間に馬車は見えなくなる。


「とりあえず、これで一安心だな。そういえば、盗賊の装備の配分はどうする。それにこんな大規模な盗賊団なんだ。討伐の報奨金もそれなりの額になるだろう」


「金銭は公平に分配しようと思う。装備はそちらが気に入ったやつは持って行ってもいい、残りは売るが」


「悪いな、装備がなくて困ってたんだ。大体、この辺だと、盗賊1人あたり1Gくらいか?」


 アルフレートは首を振って否定した。


「この盗賊団は一帯を荒らしていた連中かもしれん。1人当たりの懸賞金が3Gはするだろう」


「そりゃ凄い、これを元手にまた商売が出来るよ」


(あの体で商人か、似合わないなぁ)


「ハンクって商人だったんだ、意外だ」


「体格のわりにはあんま強くないよね、ハンクって」


 俺らの言葉にハンクはショックを受けたようだ。


「お前ら、ひでぇな、確かに冒険者のランクはEランクだが、商人にしては強いんだぞ!!」


 前にも言われたことがあるのだろうか、妙に必死だ。


「わかったから、わかったから。それよりさっさと装備品を貰おうよ」


「……そうだな、このままで戦うのも心もとない」


 2人はそういうと集めた装備を漁り出した。アルフレートは装備を見る間、周りを警戒しててくれるらしい。


「お、良い片手剣じゃないか、盾はこいつでいいか。そういや、アーシェは武器は何を使ってたんだ」


 ハンクは機嫌が良さそうに拾った剣と盾を手に持っている。


「大剣を使ってたよ、でもちょうどいいのが落ちてないかな、まあ小さいけど、良い剣だし、これでいいか」


 アーシェがひょい、と片手で持っているのは通常両手で持つはずの両手剣だ。ここにいる3人の男より力は強いんだろう。番兵が取り囲んで移送していたのも頷ける。いつの間にか着けたのか皮の鎧と左手だけガントレットをしている。なんとも手早い


「俺に合いそうな装備てどれだろう」


 俺は良く分からないので、ハンクとアーシェに聞いてみることにする。


「うむ、そうだな。投擲魔法を使うんだからある程度動きやすい方がいいだろう。脛当てと手首までの腕甲、鉄製の胸当てがいいんじゃないのか? これなんかどうだ」


 ハンクが装備の山から防具を選んできてくれた。動きやすいし、体に違和感もない。


「流石、商人だなぁ」


 動きを確かめながら褒めるとハンクが照れている。


「褒めても何もないぞ」


 そこにアーシェが何やら袋を持ってきた。


「武器は片手剣でいいんじゃない。あとは投擲スキルもあるんだし、スローイングナイフも持ってなよ」


 アーシェは片手剣と大量のスローイングナイフが入った革袋を差し出してくる。


 片手剣と革袋を腰に付けてみるが違和感はない。


「良い感じだ。ありがとう」


「その格好で試しにナイフを投げてみたらどうだ」


「そうしてみる」


 革袋ではなく胸当てに付けてあるスローイングナイフを抜き、スキルによって洗練された動きで、俺は軽く投げナイフを投げる。ナイフは木に当たると抵抗なく突き刺さった。まるで豆腐に箸を刺すようだ。


「うわ―、ただのナイフなのに凄い。あれじゃ薄い鎧なら意味ないね」


 木に刺さったナイフを抜き取って手に持ち、アーシェは驚いた様子でナイフを見ている。


(そう言えば、正当防衛とは言え、俺は三人殺しているんだよな。そのわりには精神的に何もないな)


 もしかしたら《生存本能》というスキルの所為かもしれない。そのおかげでなんとも無いので、感謝するべきなのだろうが。


 冷静に考えている自分が少し怖くなった。それにしてもこの世界は人間の命が軽い。生きるためには強くなくてはいけないのだ。弱者には人権すらない。


(そういえば火や水の魔法てどうやって使うんだ。ステータスと同じか)


 そう思い、火よ、出ろ!!としてみるが無理だった。詠唱が必要なのかもしれない。後で暇なときにアルフレートに聞いて見よう。戦闘中に火属性の魔法を使っていたし。

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スキルとか大っぴらにに話すもんか!?舐められる
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