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異世界デビューに失敗しました  作者: トルトネン
第四章 リュブリス攻防戦
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第二十三話 鬼人の暴風3

「急げ、矢を抜き取り、死体を隠せ!! 敵の装備も出来るだけ回収するんだ」


 アランの指示で鬼人が動いていく。鬼人も戦いには慣れているが、大規模な戦争の実戦経験が豊富という訳ではないらしい。後方の500人の歩兵にはイスパノを始めとする数人の指揮官が付いている事から、指揮官が全体的に不足している。


 そのような理由で、実戦経験豊富なアランの指示で鬼人の兵士達は素直に動いていた。鬼人は力がある者には素直に従う。鬼人はアランの強さを昨晩見たので、誰も文句は言わない。それにあのオサからもアランの命令を聞くように言われているのだ。逆らう者がいるはずもなかった。


「矢がかなり減っていたから、敵に使った矢を回収出来たのと、敵の矢を鹵獲できたのは大きい。ほら、シンドウも食べろ」


 アランは携帯食を俺に手渡して来た。


「これは敵の?」


「ああ、大丈夫だ。毒なんて入っていないぞ?」


 俺が言いたい事はそう言う事じゃないのだが、いちいち気にしていても仕方ないし、腹も減る。手渡された食料を持ち、そのまま食べる。


「しかし、凄いな。あれは」


 俺が言う先には土属性魔法を使い、地形を変えるオサの姿があった。その周辺ではせっせとスケルトンとゴーレムが穴を掘っている。


「時々出てくるんだ。規格外の人と言うのが……ほら、無駄話をしていないで準備をしろ」


俺は手にした携帯食料を放り込み、鹵獲した敵の投げ槍の束を肩に担ぎ、斜面を上がって行く。







「敵どころか、先行していた500人はまだ見つからないのか」


ローマルク帝国、地方軍集団の連隊長であるルシエヒアは焦っていた。敵の位置を報せ、追撃に入っていたはずの部隊との連絡が付かない。


「そうなるとやはり敵部隊に逆襲され、壊滅したのでは」


参謀の言葉にルシエヒアは考え込む。先行していた部隊を使い、敵を追い詰める予定だったが、先行していた部隊は消え、代わりに残されていたのは大量の血痕だ。


現在、ルシエヒアの連隊は伏兵を警戒し、停止している。


「先行していた部隊は500人。報告では100人ほどの敵兵だと言っていたが、敵は想像以上に多いのか、それとも……どのみちこのまま進むのは危険か」


明らかにこの先には何かある。ルシエヒアの直感はそう告げていた。だが、もたもたしていると手柄が他の部隊に持っていかれ、敵にも逃げられるかもしれない。


リュブリス城塞都市の攻めには参加出来なかった事から、ルシエヒアが戦果を上げるにはこの敵しか無かった。



「偵察兵を出せ。まずは敵の情報を調べる」


そうしてルシエヒアが偵察兵を出し、20分になるが一向に情報が入って来なかった。


「遅い。何をしている」


「駄目です。誰も帰って来ません」


数十人の偵察兵を出して誰一人として帰って来なかった。そもそもはリュブリス周辺の開けた平地で戦う事を想定している。ルシエヒア連隊には森の中で戦う装備は整っているとは言い難い。


ルシエヒアは百人長の一人に目を向ける。この百人長は特別優秀な訳では無いが、それでも与えられた任務は忠実に果たす。


「……百人長、貴様に100人を任せる。何があったか調べてくるのだ。いいか、あくまで偵察だ。戦うなよ」


「分かりました。何としても情報を持ち帰ってきます」


百人長が血痕があった場所から更に奥に進んでから20分、悲鳴と怒号が突如森に響いた。その悲鳴に兵たちはざわつく。それから15分して数人の兵が転がるように本隊の元へやってきた。


返って来たのは数人の兵士だけだ。肩に矢が刺さり、傷だらけの兵士はルシエヒアに報告する。


「百人長殿は戦死、こ、後方にいた我々だけが辛うじて戻る事が出来ました……」


「何があった?」


「数百人の長弓隊が森の中の丘で待ち構えています。隠蔽されていましたが、あれはただの丘ではありません。砦のような作りの丘です!!」


「長弓隊と砦だと、歩兵の姿は確認出来たか?」


「いえ、見える範囲では確認出来ませんでした……」


 いくら優秀な数百人規模の長弓隊と言っても500人の部隊を一人も逃さずに殲滅出来る筈が無い。周辺に伏兵が潜んでいる可能性が高い。とルシエヒアは舌打ちをする。


 “常識的”に考えて、周辺にはこの長弓隊とは別に1000人程度の歩兵がいる可能性が高いだろう、とルシエヒアは考え、次の指示を出す。


「この先の丘は後回しだ。周辺を徹底的に探せ。日が落ちるまであと数時間しかない。伏兵の有無を確認後、攻めるぞ」


ルシエヒアは伏兵を全力で叩くつもりだった。仮に伏兵がいないとしても、兵力差で以て一気に丘を占領する。ルシエヒアはそう判断を下した。








周辺を念入りに捜索したが、伏兵は存在しなかった。ルシエヒアは丘に向けて更に数十人を偵察に出したが、森の中にいたはずの長弓隊は綺麗さっぱり消えている。残されたのは丘に築かれた陣地だけだ。


「馬鹿な。戦う前から作った陣地をあっさりと捨てて逃げたというのか」


「足跡から推測して、敵は本当に数百人しかいなかったようです」


痕跡を調べていた兵の言葉にルシエヒアは更に苛立った。


「クソッ、まんまと敵の策略に嵌ったのか!」


周囲には伏兵はおらず、数百人の長弓隊にひたすら頭を悩ませ、自分達は怯えていたのだ。そう自覚したルシエヒアは深いため息をつく。


「イグナール大隊長殿から伝令が」


そんなルシエヒアの元にイグナールからの伝令の報告が来た。


「イグナールだと? ……分かった。話を聞こう」


 伝令から話を聞いたルシエヒアは唇を噛みしめる。


「今更こんなもの……まぁいい。まだ致命的な被害は受けていない。下手に追撃していたら被害が大きくなるところだった」


 イグナールの若造の言葉を信じるなら、敵は強力な歩兵を有し、長弓兵と魔法兵を持つ総勢二千、三千の部隊だ。


「この周囲でウロついていたという事は、まだまだ後方で暴れまわるつもりか」


 ルシエヒアはこの陣地を見ただけでも、敵が周到に待ち伏せていた事が分かった。


木を切り防壁とし、土属性魔法と手作業によって地形を変え、丘が砦のようになっていた。何も知らずに突撃していたら手痛い被害を受けていただろうとルシエヒアは想像する。


「明日の明け方には、イグナールの大隊やバトペド連隊と合流出来るだろう。敵の捕捉が困難になるかもしれないが、それでも増援にワイバーンが三騎も来る。森の中に数千もの兵員がいたら目立つだろう。ここには敵がわざわざ作ってくれた堅牢な陣地がある。ここで野営をするぞ。周囲の警戒を怠るなよ。敵は夜襲が得意だ。また襲って来るかもしれん」


ルシエヒアの命令を受け、兵たちは敵が放棄した陣地を利用し、野営の準備を整えて行く。


周囲を捜索し、野営陣地を築いたルシエヒアの元には幾つかの情報が入っていた。先行していた部隊だが、500人全員が死体で見つかった。装備の大半は奪われていたが死体を辱めた様子は無く茂みの影に隠されていた。


更にそこから離れた場所に詰めれば数百が収まるような穴があった。陣地を築くには不向きな事から、死体を埋めようとしたのでは、とルシエヒアは参謀から聞かされていた。


「ふん、わざわざ相手の墓穴を掘るとはな。……奴らを仕留めた時には自分達の掘った穴に埋めてやろう」


深夜、天幕の外では兵士の影が揺れていた。敵は夜襲が得意な事から、ルシエヒアは見回りの数を通常の三倍に増やしていた。


「……これは幾ら何でも多いな」


私の警護も大切だが、もっと外を見回らなくてどうする。ルシエヒアは天幕から出ると兵士に向かい歩き始める。


「そこのお前ら、歩哨はご苦労な事だが、こんな近くばかりにいても仕方ないだろう。おい……聞いているのか?」


ルシエヒアが兵の肩を掴むと、ようやく返事が返って来た。斬撃という答えを以て。


ローマルク帝国の装備を身に纏ったそれは、カタカタと小さな音を鳴らし、ルシエヒアに対し、ロングソードを首元に突き刺す。


ルシエヒアは首から溢れ出る血を手で抑えながらも、天蓋にいた兵の方向に助けを求める。


「ぐふっ、ぐぅう!?」


だが、天蓋にもそれはいた。参謀も護衛の兵士達も既に動く事は無い。


「す、スケルッ……トン」


ルシエヒアは既に水気の所為で口から満足に言葉を出すことは出来ない。


ルシエヒアはスケルトンを凝視して気づいたが、その肩には土が附着していた。そして近くの地面には土から何かが這い出たような痕がある。


トンネル、いや、地中に埋められていたのか。スケルトンが何処から襲撃をしかけてきたか理解したルシエヒアだが、出来る事は無い。


今回の夜襲の警戒はあくまで外側に対する物。スケルトン達はルシエヒア連隊の内側からやって来た。内側には起きている兵士などほとんどいない。


スケルトンはルシエヒア連隊を内部から食い尽くす様に攻撃を始める。


「なんだ。見回りか」


兵士が気配に気付き起きると、そこにいたのは巡回する歩哨だった。敵を警戒して何時もよりも歩哨の数は無駄に多い。


兵士は睡眠が邪魔された事に内心舌打ちをし、睡眠を再開しようとする。


兵士は本来であればリュブリス城塞都市の平地で戦闘を行うはずだった。それが魔物が蔓延る森の中での戦闘になったのだ。愚痴の一つでも言わなくてはやっていられない。


再び眠気が訪れ、偶然に兵士のぼんやりとした目線と歩哨の目線と合う。


兵士が見たそれは薄く光る赤黒い眼光。月明かりで浮き上がった顔は骸骨そのものであった。


出来の悪いおとぎ話か悪夢を見ている様だ。兵士の理性よりも本能が先に声を上げた。


「化物だァ!!」


突然の言葉に周りの兵士が状況が分からないまま起き上がるが、スケルトンの槍に貫かれ、地面へと押し返された。


「て、敵襲!!!!」


そうなったからには兵達の動きは早かった。叫び声を上げ、眠り続けている者を起こし、スケルトンとの戦闘に入る。


「防具はもういい。武器だけ持て!」


「こいつら何処から……歩哨は何をしていたッ!?」


だが夜、それも寝起き直後に相手にするような相手ではなかった。人体の構造を無視し、滑らかに剣技を使うスケルトンに数人の兵士が倒され、致命傷を与えたと思ってもスケルトンは動き続ける。


突如、兵が吹き飛んだ。それを実行したのは新しく地中から現れたゴーレムだ。巨体相応の威力で拳を振るい、武器を兵士に叩き付け、陣地内で暴れ続ける。


「なんだ!? 陣地からだぞ」


「何処から敵が……」


「一旦、戻るか?」


騒ぎを聞き付けた一部の歩哨が戻ろうとする中、一人の兵士が急に闇に引き込まれた。


「ぬぐぅ!!」


その光景を見ていた別の歩哨が声を上げようとするが、胸部に深く槍が突き刺さる。歪む視界の先には蠢く無数の影。


「ぁァ……」


連隊の内部からの騒乱に合わせ、外からも闇夜の襲撃者達が現れる。夜は始まったばかりだった。

四日連続更新。新記録達成。



全文ケータイで書いたので違和感あるかもです。

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