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異世界デビューに失敗しました  作者: トルトネン
第四章 リュブリス攻防戦
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第四話 惨劇は突然に

 迷宮で交わる筈の無い冒険者同士の剣と剣がぶつかり合い、血肉が迷宮へと飛ぶ。


「ふん、しぶといな」


 既に冒険者のうち一人が血の海へと沈み、残る四人も重症に近い怪我を負っていた。


「何故お前らはこんな事をするんだ!!」


 問いかけてくる鬱陶しい冒険者を無視し、バルト達は距離を詰めていく。


「黙って死ね」


 バルトは死に損ないに止めを刺そうと冒険者へと一気に間合いを詰めるが、微かな音がし、勢い良く振り返る。そこには血溜りに倒れ、動くはずの無い女が立っていた。


 回復魔法か、バルト達は女が立った原因を導き出し、女に止めを刺すために向かおうとするが、冒険者に阻まれ、即座に戻ることが出来ない。


「助けを呼んでくるんだ。早く行け!!」


 女は仲間と戦おうと迷った顔をするが、バルトが迫ろうとした事と、仲間の声に押され駆け出す。


「直ぐに戻るから――!!」


「死に損ないが、……追うな、もう間に合わない」


 走り去って行った女を見てバルトは忌々しそうに部下を制止させた。


「何だ、焦ってるのか」


 冒険者が笑うのが気に食わないバルトは苛立ちを隠さずに吐き捨てる。


「勘違いしてるんじゃねぇ。助けは間に合わない。安心して絶望しろ」


「“勘違いしてるんじゃねぇ”あの状況で一人でも逃がせたら俺らの勝ちだよ」


 血だらけの体とは裏腹に冒険者は楽しそうに笑う。バルトはそれが酷く癇に障った。


「吼えろ負け犬、お前らは今から腹わたぶちまけて死ぬだけだ」







 休憩を始めて一時間弱、身体も魔力もかなり回復する事が出来た。


(もう少し休んだら行くか)


 腕を伸ばしストレッチをし、磨り減った神経を迷宮の壁に寄りかかり癒していると、勢い良く扉が蹴り破られ、何かが飛び込んでくる。


 飛び込んできた物が何か理解する前に、体が動く。俺はバスタードソードを引き抜き、アーシェも飛び起きてツーハンドソードを構える。


(襲撃!?)


 反対側で休んでいたパーティも音に反応し、素早く飛び起きてそれぞれの武器を手にしていた。


 部屋に雪崩れ込んできたのは一人の女の子だ。右手にはロングソード、左手には歪な短刀、いや、ソードブレイカーを持っている。黒髪のロングヘアーは返り血で汚れ、黒髪が赤く染まりかけていた。


 全力で走り抜けてきたのだろう。息も絶え絶えになりながらも口を開く。


「仲間を、仲間を助けて!!」


 必死の形相で女の子は叫ぶ。


「落ち着け、リザードマンにやられたのか?」


 反対側に陣とっていたパーティのリーダーが女性に声を掛ける。まだ警戒を解いていないようで武器に手を掛けたままだ。


「モンスターじゃありません、同業者狩りが私のパーティを――どうかお願いです、仲間を、仲間を助けて下さい」


「同業者狩り!?」 


「まさか、この階にいたのか」


 後ろに控えていた他のパーティメンバー同士で顔を合わせ、喋り出す。


「人数や服装、襲ってきた奴らの顔は見たか?」


 俺がそう尋ねると、女性は首を振る。


「襲って来たのは……5人でハルバード、ショートスピア、バトルアックスが一人ずつ、ロングソードが2人。覆面をしていて顔は見えませんでした」


 パーティリーダーは続けて女の子に尋ねる。


「アンタ、ランクは?」


「Bランクです」


 この階層はCランクからBランクの冒険者が多い。その中でもBランクと言えば上のほうだ。


「そっちのアンタらどの程度戦える? 2人組みでここまで来るんだ。普通の冒険者じゃないだろう」


「私がCランク上位の冒険者、そっちのジロウは王都の武術祭で四回戦まで勝ち上がってる」


「四回戦か……」


「おいおい、ちょっと待てよ。まさか進む気か、同業者狩りがいるんだぞ!?」


 リーダーが先に進むことで話を進めていくことに対し、神経質そうなパーティーメンバーが慌てた様子でリーダーに詰め寄っていく。


「なら今からあの道を引き返すか?」


「うっ」


「冷静に考えろ。俺たちの戦力じゃ無理だよ。引き返す余裕は無い。今なら俺達が5人、そこの2人組の冒険者、それにあの冒険者がいる。この人数で進んだ方がまだ安全だろ」


「だが、人数制限が……」


「迷宮側がどう判断しているか分からないが、少なくとも同業者狩りが冒険者と接触しても魔物流が起きないんだ。引き起こされる魔物流の条件は冒険者が共闘して迷宮を攻略した時だろう。間隔を空けながら進む分には問題が無い筈だ。それでも、もし魔物流が起きたりしたら休憩室まで全力で逃げればいい。それとも逃げたかもしれない同業者狩りの影に怯えて死にたいか?」


「……」


「他に異論がある奴は?」


 どのメンバーも気が乗らないようだが、代案がある訳じゃないらしく、誰も異論を唱えない。そんなパーティの話を女の子はじれったそうに聞いている。


 本当ならば直ぐにでも仲間の下へと駆け戻りたいのだろう――


「とまあぁ、こんな感じだが、そっちはどうする?」


(無理な人助けは身を滅ぼすが、助けられるのなら助けた方がいい)


 それに次の階にまだ同業者狩りがいるのなら、2人組のパーティなど同業者狩りには格好の獲物に映る。それならばまだ集団で進んだ方が得策と言えた。


「俺は進もうと思うが、アーシェは?」


「アタシもジロウと同意見かな」


「なら早く行きましょう!!」


「俺達は5人組みだからそっちに――名前は?」


 呼び方に困ったパーティリーダは女の子の名前を尋ねる。


「リアナです」


「ならリアナ、そっちのパーティに入ってくれ、俺の名前はマウロだ」


「俺はジロウ・シンドウ」


「アタシはアーシェ」


 簡単な自己紹介だけ済ませると、リアナが先頭を務め、俺とアーシェが進んでいく。その後ろには間隔を空けてマウロ達が続く。


 リアナはロングソードで敵を切り捨て、ソードブレイカーでリザードマンのサーベルを弾き、時には叩き折り、強引に進んでいく。


 今しがたも群がる2匹のリザードマンの攻撃をロングソードとソードブレイカーでいなしながら、ロングソードでリザードマンの長首を切断、ソードブレイカーでもう一匹のリザードマンの喉に突き刺す。


「落ち着け死ぬぞ!!」


「ごめんなさい……でも仲間が」


「俺達も合わせるから、一人で突っ込むのは止めろ。……ペースを上げる。正面の敵は全力で蹴散らすぞ」


「任せて」


 マウロ達にも聞こえるように大声で独り言を言う。アーシェは気楽に返事をするが、マウロ達の声にならない悲鳴が聞こえた気がした。正面の敵は俺達が引き受けるので、マウロ達に群がるリザードマンは少ない筈だからまだいけるだろう。


「あ、りがと……う」


 ハイペースでリザードマンを切り刻みながら、強引に進んでいく。何時もの二人組とは違い三人組なのでかなり楽だ。


(リアナは仲間との連携、特に敵の誘導が上手いな。このリアナのパーティが襲われ、助けを求めてきたとなると、襲撃者はかなりの腕か、そうなるとリアナの仲間は……)


 休憩室から駆け足で5分、現場は凄惨を極めていた。


 3人が集まるように倒れ、さらにその奥には全身に無数の傷を負った男が息絶えている。仲間を逃がす為に身体を投げ打ったのだろうか――四人とも共通して急所を数回刺され確実に息の根を止められていた。


「遅かったか……」


 仲間の死体を見たリアナは壁に手を付き、嘔吐する。冒険者をやっていれば魔物、人間ともに死体に慣れる物だが、親しい仲間の死体がとなれば別だろう。


(同業者狩りか……)


「なんで……なんで死に掛けの私が生きて、仲間が死ぬの。可笑しいよそんなの……」


「残念だが――ギルドカードと髪だけ回収して先に進もう。そこにいろ集めてくる。アーシェ、警戒頼む」


「うん」 


 厳しい雪山の登山では死んだ仲間の遺体は回収しない、出来ないのだ。迷宮も低階層なら未だしも70階にもなれば遺体を運びながらの戦闘など不可能。下手をしなくても簡単に死ぬことが出来る。


 嗚咽をしながら壁に凭れ掛かるリアナを一瞥し、遺体の元へと足を進めようとする。


「はぁ、待って、うっ、ふぅう、大丈夫です。私がやります」


 無理に嗚咽を止めたリアナは仲間の遺体へと近寄る。


「ごめん、ごめん皆……」


 謝罪の言葉を紡ぎながらリアナは髪とギルドカードを回収していく。


 三人組で迷宮を進んで行くが、リアナは仲間の死を目の前にしても、良く戦っている。まるで仲間の死を忘れ去る為に戦闘を続けているかのようだ。


「少し後ろに下がれ」


「はい……あっ、手怪我してます」


 3匹のリザードマンを相手にしたときに喰らったかすり傷だ。放っておけば治る怪我なので治療は必要ないし、この程度の怪我では異界の治癒力が発動することもない。


 駆け寄ってきたリアナは俺の手を握ると回復魔法を唱え始める。


光よ彼の者を救え(ヒール)


(回復魔法が使えたのか?)


 転送室前の大部屋にたどり着くと、そこに部屋の主であるモンスターは居らず、広い部屋だけが虚しく存在していた。


(誰かが、倒した後か)


 警戒してスローイングナイフを片手に持ち、ファイアーボールも詠唱していたが、無駄な事だったようだ。とは言え、まだ休憩室に同業者狩りがいるかもしれない。


 大部屋を抜けて休憩室に入り、隅々まで調べるが誰も居ない。気が抜けたのか、リアナは崩れるように部屋に座り込む。俺達に遅れ、数分、マウロ達も休憩室へと入って来た。


「やるなアンタら、お陰で楽に攻略出来たよ」


「おい」


「わ、悪い」


 空気の読めない仲間にマウロは睨み付け、窘める。マウロ達を見たリアナは立ち上がると、覚束無い足取りで歩いてくる。


「無理を言ったにも関わらず、救援に来てくれてありがとうございました」


 痛々しく明らかに無理をした笑みだ。


「何も出来ずにすまない」


 迷宮は冒険者だけで一日数百人が行き来し、全利用者を合わせたら千人を優に超える。迷宮の休憩室で寝るパーティーも少なく無い。その気になれば数日間迷宮に潜っていられる迷宮で、犯人の特定は難しい。


 迷宮に潜るには署名も何も必要無く、受付でGを払えば誰でも入る事が出来る。独自の守備隊がいると言っても中の治安を守る為に居るのではない。入口近くの錯乱した冒険者を鎮圧したり、イレギュラーが起きた時のあくまで非常用の戦力だ。


 ましては命の軽いこの世界でも特に命の軽い冒険者、同業者狩りを捕まえるのは難しいだろう。


 遣る瀬無さに苛まれながら俺達は迷宮を後にする。

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