第四話 異世界の街と漆喰万能説
ついに異世界の街へ いい加減独り言にも飽きてきたー
あとみんな大好き犬耳とゴブリン(?)登場だよ!!
キャラが違うって?
作者にもいろいろあるんです!!
あれから小休止を幾度も繰り返して数時間、歩き続けた俺は街に着いた。街と言っても日本で見かけたようなデパートや商店街、飲食店などのアーケードもなく、往々にして自動車やバス、電車が行き交う、というものではない。
街の表通りは自動車などは存在せず、土を踏み固めて作られたもので、馬車や人が行き交っている。建物は赤茶の瓦に壁は白色、中世ヨーロッパで見られた街並みにそっくりだった。
この辺りの地層で取れる粘土は鉄分が多く含まれているのかもしれない。瓦は鉄分を含んだ粘土を原材料にして焼き上げていると赤くなりやすいのだ。
(まあ、単純に技術的に容易で安価に作れる赤色の釉薬を使っているのかもしれないなぁ)
(そう考えると白い壁は、ヨーロッパ伝統の西洋漆喰に似たような製法で作られているのか。白いのは石灰石が主成分だからだろう)
漆喰は、風雨に弱い土壁や木の壁に防水性を与え、不燃素材であるため燃えにくく、また調湿機能に優れている。それに見かけを飾る仕上げ材として使われているのだ。まさに漆喰恐るべし。
(しかし、似たような建物ばっかり)
通りに連なる建物は、看板などを除けば、どれも同じような作りである。ここまでくると意図的に統一感を出そうとしているんじゃないのか。
(良く言えば統一性があるんだろうけど、悪く言えば陳腐な建物だな)
一瞬、俺は観光気分になったが、手枷に繋がる鎖によって現実に戻された。
(しかし、こうなると俺はタイムスリップでもしたと言うのか。そんなバカな)
俺はすれ違う一団に目をやり、そうではないと確信する。
(タイムスリップしたというならなんで西洋風の街に俺はいるんだって……なんだありゃ!?)
旅人……いや、冒険者とでも呼べばいいのだろうか、談話しながら歩く男女のグループがいた。そこまではいい。問題はその後にある台車の積荷だ。
(生首……いや、人の首ではないのか)
荷台には、鋭い犬歯と長い耳を持ち、緑色をした頭が十数個積みあがっている。共通してどの首も安らかな表情をしていない。どれも苦悶か怒りの表情をあげている。
(緑の人、緑の魔物……ゴブリン?)
いくつかのキーワードで頭が搾り出した答えはゴブリンだった。ファンタジーモノに出てくるアイツだ。
(あれは空想上の生き物だぞ、なんでそんなものが)
俺は思わず立ち止まって見ていたらしく、手枷を思い切り引っ張られ前のめりになった。
(つまりアレだ。タイムスリップでもなく、パラレルワールドでもなく、異世界トリップしてたってのか、はは、笑えねぇ。今思えばあの巨熊の爆発も魔法て訳か)
巨熊を襲った火球を爆薬か変り種の火炎放射器と思っていたが、その正体が魔法だったとは、思わず俺は空を仰ぐ、アホみたいな青空に泣きたくなってきた。
結局、あのまま歩き続けて着いた先は、高い塀に囲まれた大きな石作りの建物だった。
外見は周囲の建物と大差はないが、上から下まで完全武装した番兵達が正面玄関であろう門を固めていた。塀の中は、入口から直ぐに二階建ての受付場があり、奥には監獄を思わせる建物と馬小屋、馬車倉庫があった。
俺を引っ張る男AとBは受付で挨拶を済ませると、俺を奥の建物に移送する。
長い道中で様々な事を俺は考えていた。ここは何処なんだろう。俺は罪人としてここに連れてこられたのか、奴隷としてここに連れて来られたのか。
そしてどうやら後者だったらしい。
建物の中に入り地下への階段を下りると、その光景に息を呑んだ。階段の両脇に続く牢屋には手枷や重りが付けられた人間が押し込まれている。
どれもすすり泣く声や虚ろな目をした人間ばかりだ。それが鬱陶しいのか男Bが警棒で牢屋の格子をガンガンと叩いていく。
(ここはどう見ても留置所じゃないな、奴隷の一時保管場といったところか……)
手前は女が多かったが、奥に行くに連れて男が増えていく。どうやら奥に行けば行くほど危険度が高い奴隷なのだろう。奥の方の牢屋は全身に傷がある男や独り言をつぶやく者など、見るからに危ない奴隷ばかりだ。
(意外に人間冷静なもんだな。こんな訳分からない状態になったら、さっさと発狂するかパニックになるかと思ったが、一周回って冷静になったのか)
ただ単に現実感や現実逃避してるのかもしれないと思い苦笑する。
つい昨日まで文明の利器に囲まれ、平和な日々を送ってきた俺が、いきなり巨熊に襲われ、ドSの暴力女達に殴られ、奴隷として地下牢に入れられようとしているのだ。
(クソ、現実感が沸いてたまるか)
一つの牢屋の前で男AとBが立ち止まり、牢屋の入口を開けた。
「○×○▲××」
今日一日で言葉の通じない人と意思疎通してきた俺にとってそれは簡単だった。
(どうせ中に入れ、だろうな)
俺が大人しく牢屋の中に入ると、男AとBは入口を閉めて、もと来た道を帰って行く。
(さて、先住者はどんな奴か――大男かそれとも犯罪者か)
恐る恐る振り返ると、そこにいたのは獣であった。身体の自由を奪う為に付けられた手枷と足枷、そこに鉄球の重りが付いている。そして鋭い眼光、ぴょこんと生えた茶色い犬耳、ふさふさとした長い尻尾。引き締まった身体――
(うん、間違いなく獣人だ。やべ――もふもふだ、かわいい。なんだこう捕獲して突き回したくなる。やべぇ……)
そんな凝視している俺を警戒してか、獣人は鋭い眼光を俺に向けたままだ。俺はあの目をふと思い出した。
(あの目はそう、俺の幼少の頃、近所の悪がき達と遊んでた時に近所の猟犬が鉄の鎖をちぎり俺の足に噛み付いてきた目……)
ここでさらに俺は気付く。この世界の人間は凶暴なのではないかと、森の中で会ったあのドSどもが頭に思い出される。
俺は刺激しないように反対の壁へ歩くとおとなしく座った。それにしても小石や砂によって摩れた足の裏が傷む。女性の前で行儀は悪いが胡坐をかいて足の裏を見た。
(うわー、足の裏が血だらけだ。あんな悪路を裸足で歩かされたんだもんな。そう言えば、トイレとかどうすればいいんだよ)
俺は部屋の中を見渡すと、蓋がしてある壷があるのを発見した。考えて見れば壷の方が臭う気がする。道中、休憩の間に排泄は済ませたが、したくなったら女性の前であの壷にしなければならないのか。
(道中排泄した時は、監視役の男AとBの前で排泄をするというハードなプレイをしたことを考えればまだマシか、逆にあの女の子がするときは……)
そんな俺の心が見透かされたのか、獣人の女の子が俺に話しかけてきた。
「○○×●▲○?」
俺は一瞬、びくっとしたが、話しかけられたことに、どう反応しようか考えていた。
(俺の言葉は通じないだろうな)
それでも駄目もとで返事をしてみる。
「貴方の言葉が分かりません。俺の言葉は分かりますか」
駄目もとで聞いてみたが、やはり、分からないようだ。氷像のように固まってしまった。やはり駄目か、俺は諦めたように床に転がった。石作りの床は固くて冷たい。
牢屋に入ってからどれだけの時間が過ぎただろうか、時計や携帯がないから何時間経ったかも分からない。こうも時間が分からないで過ごすのは初めてだろう。
時折、見回りのものが牢の前を巡回しているが、それも時間通りではないのだ。
手枷を付けたままごろごろしていると知らない男が牢に近づいてきた。最初は番兵かと思ったが、水とパンが入った荷車を押している。どうやら晩飯を配っているらしい。二人分のパンと水を格子の隙間に置くと次の牢屋に食事を運んでいった。
俺は二人分の食事を持って牢屋の奥にいる獣人の前に進む、半分の量を獣人の前に置き、残りを俺は食べ始めた。水の入った木製の容器に口をつける。
(うん、生ぬるいが水は普通の水だ)
続いてパンを一口齧ってみた。
(妙にパサパサしてるけど、まあ食べれる。空腹なら大抵のものは美味しく感じるのだろう)
俺がパンと水を頬張っていると獣人の女の子もパンを食べ始めた。
(もしかして俺、毒見にされた……?)
こんな状況で毒を入れるやつなんていないかと思い直し、口の中に残るパンを飲み込んだ。
量は足りないが、腹が満たされたことから眠くなってくる。思い出したくもないが、今日一日、間違いなく人生で一番疲れた。もう寝よう。
【複数の発動条件を満たしたためオートスキル【異界の治癒力】発動します】
薄れゆく意識の中で、獣人が奇妙なモノをみるような目で俺を見ていたのと、妙な声が聞こえたのは気のせいだろう。……眠い。