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異世界デビューに失敗しました  作者: トルトネン
第二章 リュブリスの迷宮
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第十五話 動き出す者達

第二章 最終話

「こいつは酷いな」


 目の前にあるのは朽ち果てた村。あちらこちらに矢や斬撃などの戦闘痕が出来ている。扉が蹴破られた入口から民家に入るが、金目のものは根こそぎ奪われていた。


 人口400人程度のこの村は、開拓目的から戦闘職が70人はいたはずだ。襲われれば不慣れだが村人も戦うだろうし、簡易的な塀しかないとは言え、戦える者は200人を越す。


 それが一人も逃げ出せずに皆殺し、完全に計画的な襲撃だ。


 火が放たれていないところを見ると、煙で発覚が早まることを危惧したのだろう。しかも一切証拠が残っていないので、襲った連中は相当訓練されている。


「内部から手引きした奴でもいたのか」


「どうだろうな。二ヶ月前の掃討作戦から逃れた盗賊団の残党が残っていたのかもしれん」


 でも何かが妙だ。今まで見てきた戦闘とは何かが違う。


(そうか、血痕や戦闘痕が残っているのに死体が一つもない)


「村の周りに何かを焼いた跡や掘った跡はあったか?」


「いや、他の班からはそういう連絡は受けてないが、何か気になることでも」


「死体が無いんだ」


「言われて見れば……」


 アズレトは周りを見渡し、違和感に気付いたようだ。


「ただの襲撃ではない……では何が目的なんだ。ローマルク帝国の特殊工作部隊でも投入されたって言うのかよ」


「分からん。ただ、ここは未到達地域やローマルク帝国との国境にも近い、何が起きても不思議じゃない」






「オサ。何してるんだ?」


 最近ハイゴブリンに進化した一匹が私に近付いてきた。ここは洞窟の最深部だが、ヒカリゴケが足元を照らしているので、ゴブリンにとっては明るい。


「スケルトン作ってるの、この前いっぱい骨を集めたじゃなァい。アレが元、ちゃんと魂は清めてあげたから要らなくなった骨を貰ったでしょ」


「それ食べるのか?」


「ハァ、食べても不味いわよ」


 眼前に広がるのは数百を超えるスケルトンだ。集落にいるゴブリンの魔力を吸い取って、私の血と魔力で作った人工のスケルトン。私がスケルトンを見ると骨をカタカタと鳴らし返事をする。


「なかなかイイ出来ねェ」


「これでどうするんだ?」


 ハイゴブリンに進化した彼はあらゆる物を知りたがっている。進化したハイゴブリンは大抵は知識欲に襲われるから


「戦わせたり畑を耕したり、雑用をさせるのよ。ニンゲンみたいに私達をただ殺して捨てるのは勿体無いでしょ?」


「うん、そうだな」


 ゴブリンの男は相変わらず鈍間で馬鹿だ。ただ――


「ふふ、まァ、そういう所が育て甲斐もあるわよねェ、それでもやっぱり、ニンゲンの男の方がイイけど」


「??」


「ほら、さっさと訓練に行きなさい。ほかのゴブリンやホブゴブリンの指導するように言ったわよね……それとも私と戦いたいの?」


「いや、あ、すぐ戻る」


 ハイゴブリンは駆けて上の階に上がっていった。


「さて、仕上げと行こうかしらァ」


 眼下に広がるスケルトンに魔力を注いでいく、スケルトンは魔力によってか、はたまた歓喜によってか一斉に震えていた。





「おう、アーシェとジロウ久しぶりじゃねぇか、離れた街に荷物を運んでいたから返事が遅れちまったよ」


 宿泊先を訪ねた俺達を商人の格好をしたハンクが出迎えてくれた。商人に戻ったというのに、片手剣を帯刀しているのが、ハンクらしいところだ。


「ハンク、久しぶり」


「商売が忙しい時に声をかけて悪いな」


「いいんだよ、気にするな。積もる話もあるだろう、続きはその辺の飯屋で話すか」


 俺達が入ったのは近所にある飯屋で、ここは個室が多く、大人数で飲むというよりは、個室で商談や話し合いをするのに好まれる店である。ハンクは商人ということもあってこういう店を何件か知っているようだ。


「しかし、しばらく見ないうちに二人とも逞しくなったな」


「アタシはCランク、ジロウはDランクになったよ」


「Dランクって、まだ冒険者始めて二ヶ月だろうが」


 普通の冒険者に比べて俺のランク昇格は異常に早いらしい。


 尤も、他の冒険者が休憩や寝ている間にクエストをしていたので、泥臭い昇格だと自分で思っている。それにレンジャーであるアーシェのサポートがあってこそだ。


「アーシェのサポートが優秀だったんだよ。それに昼夜問わずクエストをやってきたからな」


「ジロウは色々おかしい。今までなら他の冒険者がへばって休憩してたのに、獣人のアタシよりもスタミナがあるんだ。でも食費がかかり過ぎてお金がぜんぜん貯まらないし、迷宮のときなんてジロウ赤字」


 ハンクはアーシェが大げさだと笑っている。


「Dランクの冒険者が食費で赤字って、どこの駆け出しだよ、先週はいくらかかったんだ」


「……3G」


 俺が告げた数字にハンクは絶句した。その横ではハンクの反応を見たアーシェが尻尾を振って笑っている。


「どうやったら3Gも飯に消えるんだ!?」


「スキルの副作用で、体力は回復するけどその分、大量に食事をしないといけないんだ……」


「ジロウが迷宮を出るときは食料が切れた時で、毎日大量の食料を買っていくから迷宮近くの飯屋や商人でジロウの顔と名前知らない人はいないよ」


「ぐぅ……」


 事実なので何も言い返せない


「今日なんかも食料買いに来ないから、商人が心配してたんだから」


 アーシェとハンクは腹を抱えている。こっちは真剣に悩んでるのに――


「うはは、なんだ、それじゃ食費に困ってその相談に来たのか、ちょうど護衛のクエストをかけようと思ってたから、食費稼ぎにどうだ」


「はぁ、ダマスカス鋼製のバスタードソードを買ったから貯金は少なくなったけど、まだ食費はあるよ」


 俺は先日鍛冶屋に取りに行ったダマスカス鋼製のバスタードソードを見せる。


 その際、鍛冶屋に借りてたバスタードソードをボロボロにしていたので怒られるかと思ったが、逆に感謝されてしまった。なんでもマジックユーザーが使った武器は、使用した魔力の影響から良い素材になるらしい。感謝ついでに代金を払い小物を作って貰ったので、お互い良い取引だった。


「それより、実はハンクに見て貰いたい物があって」


 道具袋から魔道具の部品、龍の鱗、ミスリルの食器を取り出し、机に並べる。


 ハンクは崩していた姿勢を変え、ドロップアイテムを凝視している。ハンクの喉が鳴るのが分かった。


「お前さん達……これをどこで、誰かにこの品物のことを話したか」


「いや、話してないよ。ジロウと二人で、迷宮内のイレギュラーモンスターを倒して手に入れたよ」


 ハンクの取り乱し方から相当高価な物なのだろう。


「まず、龍の鱗だが、これは成龍、それも火龍の鱗だ。これだけで300G以上。魔道具は恐らく通信用の魔道具で、これは解読不能な完全なロストマジックで出来ている。ここ数年は2、3度しか市場に出回ってない、恐らく700G、そのミスリルの食器は数百年も前に作られた食器で、王族や貴族の収集家が飛びついてくるよ。正直値段は分からん。で、こいつらをどうするんだ」


「そんな凄かったんだ。それじゃ、ハンク売ってくれない?」


 アーシェが手をひらひらしてハンクに頼んでいる。 


「はぁ!? こんな物この辺で売れるかよ、それこそ王都のオークションに行かないととてもじゃないが捌けない。この辺じゃ、貴族や騎士団なら買ってくれるだろうが、あいつらには買い叩かれるぞ」


 流石のハンクもこんな商品は取り扱ったことがないらしく、オロオロしている。


「報酬は売り上げの二割で、それにそれだけの物を売ればハンクも顔が売れて商売しやすいかもよ」


 俺の提案で覚悟を決めたようだ。


「確かにそうだが、……王都に行くことになるがお前らは大丈夫か?」


「俺は問題ないけど。アーシェは」


 アーシェはちょっと悩んでいたが直ぐに返事を返した。


「大丈夫」


「よし、表向きは王都への荷物の運搬でいく。最近は盗賊や魔物が活発化して馬車の数が足りないから、都合が良いだろう。アーシェとジロウはその護衛でいいな。あとで商業ギルドで護衛クエストを発注しておくから受けておいてくれ」


「ああ、魔物や盗賊の動きが活発って、何かあったのか」


「原因は分からないが。未到達地域の近くにある北部の村が壊滅したらしい。南東部や北部で商人や隊商が襲われて皆殺しはあったが、村単位で襲われたのは初めてだから大騒ぎになってるんだよ。流通にも影響が出始めて、商会が高い報酬で荷物を運んでくれる商人をかき集めているんだ」


「そんなことが、迷宮に入り浸っていたから知らなかった」


「それじゃ、この話も一旦終わりにして、再会を祝い飲むとするか」





 しばらく飲んだ後、お酒もほどほどにハンクが商業ギルドに運搬の契約に向っていった。手続きしたら数時間で受注できるようになるので、それを俺達が受ければいい。


 クエスト条件が俺とアーシェだけなのでギルドハウスのボードに張り出されないし、他の誰かが受けることもない。


 買い物をしたり、訓練場などに顔を出していたら直ぐに数時間が経った。ギルドハウスで受注し、宿に戻った。


 装備を外し、ベッドに飛び込む、この感触も今晩で最後だ。明日からはこの城塞都市リュブリスを離れて王都に行く。


(この世界に来て、二ヶ月半になるのか、もう何年も過ぎた気分だ)


 忙しくてこうやってゆっくり振り返ったことはなかった。


 思い出されるは異世界に来て直ぐの記憶、持ち物が無いどころか全裸、 起きたらホーングリズリーに襲われ、助かったと思ったら異世界で言葉が通じず袋だたきに遭う。しかも気付いたら奴隷。


(今まで力がなくて流されるまま生きてきたが、今の俺は変われただろうか、強くなったのか)


 正義は勝つというが、勝った者が正義なのだ。弱者は権利すら与えられない。奴隷になった時に思い知らされた。


「自分の運命()は自分で決める。他人に決められてたまるか、もっと強くなってやる」


 部屋にノックの音が響いた。


「ハンクが来たから飯行こう、明日の相談もあるからさ」


 アーシェが食事に誘っている。ハンクも来ているようだ。


「ああ、今行く」


 今は自分の道を突き進むだけだ。


【名前】シンドウ・ジロウ

【種族】異界の人間

【レベル】24

【職業】魔法剣士

【スキル】異界の投擲術(特殊投擲術)異界の治癒力(特殊治癒力)、運命を喰らう者、中級片手剣A-、中級両手剣B、中級火属性魔法B、中級水属性魔法C、 奇襲、共通言語、生存本能、

【加護】なし

【属性】火、水

第二章 リュブリスの迷宮が終わりました。


次から新章です。

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