第十一話 低階層はゴブリンワールド
なんかタイトルが間抜けな感じに……まあ、いつものことですね
光りに飲まれ、転送された場所は、さきほどの部屋をそのまま小さくしたものだ。窓などの外界に通じるものはなく、内開きの大きな扉が一つだけある。
アルカニア王国に来た時に感覚は似ていたが、意識も失わなかったし、根本的に違う物の気がする。ただ、ここは普通の場所じゃないことは分かった。空気があまりにも異質すぎるのだ。
「この部屋から出ると、もう魔物が出てくるよ。いくぞジロウ!!」
「ああ」
アーシェはやる気満々だ。
扉を開けると、縦横6メートル程度の通路が現れた。絡み合った木が通路、壁、天井を形成している。明らかに自然に出来たものではない。壁や天井にはヒカリコケが生えているので、戦闘も移動も楽にこなせるだろう。
ただ、この暗さでは遠距離からの攻撃や敵の発見が遅れるので、《奇襲》のスキルが無駄になりそうだ。
二人揃って奥まで進んでいく。
「これ、壁や通路は傷付けてもいいのか」
「ああ、心配ないよ。ほら、見てて」
歩いて壁までいくとアーシェは大剣を引き抜き、壁を斬った。絡み合った木は見事に切り裂かれている。が、次の瞬間、切れた木がみるみるうちに伸びていき、何事もなかったように元に戻った。
「再生した――?」
「まあ、こんな感じだから、派手に戦っても大丈夫。それに次来た時にはダンジョンの中が変わっているから」
(こんな物を人間に作ることが出来るのか)
尤も、物理法則を軽く無視するこの世界の人間ならありえなくもない、とも考えてしまう。
「ジロウ、来るよ」
その一言で俺はもう抜刀を済ませている。冒険者になって日こそ浅いが、戦闘経験の濃さでは別だ。
身構えてくると、奴らは来た――ゴブリンである。それも二匹だけだ。
俺は歩いて近づき、ゴブリンは走って近寄ってくる。ゴブリンは棍棒を振りかざしたままだ。歩きから一気に加速して、ゴブリンの首と下腹部を切り裂いた。
ノーマルゴブリンだ。どうということはない。
死体に目をやると、ぶくぶくと音を立てながら溶けるように床に消えていった。かなりグロい。冒険者の最初の頃ではトラウマになりそうだ。辺りに飛び散った血や剣に付いた血も蒸発して消えてしまう。
「もう終わりか?」
「みたいだね。最初の階だし」
「一つ聞きたいんだが、冒険者が死んでも、ああなるのか?」
「いや、しばらく時間が経ったら冒険者や装備品は床や壁に飲まれるよ」
「そうか」
俺はゴブリンがいた死体の跡から二枚の銅貨を拾い、道具袋にいれた。どこぞのゲームの主人公のようだ。そう言えば、このダンジョンにはスライムはいるのか
それからアーシェと俺で襲い掛かるゴブリン達を切捨て、五時間で9階まで到達する。ダンジョン内部は入り組んでおり、無数の通路と大部屋で構成されている。大部屋には多めの魔物か宝箱があった。
転移魔法で移動すると、9階の部屋に5人冒険者がいた。
その中の一人と目が合う。歳は15、6程度か、他の冒険者に比べて体格が小さい。装備も質が悪く、薄い皮の鎧に初心者でも扱いやすい長巻のような槍を持つモノが多い。その他は剣と弓だ。
どうやら新米の冒険者らしく、ここまで来るのに精魂使い果たしたようだ。装備はかなりボロボロで、体力を回復させているのだろう。
男女五人のパーティは、なにやらひそひそ話をしている。
「ジロウ、少し休憩する?」
「そうするか」
俺とアーシェは先にいた冒険者とは反対側の壁に座る、というか寝転がる。
二ヶ月の訓練の成果か、俺とアーシェはここまでほぼ休み無しで来ている。倒した数は二人合わせて200匹を優に超えていた。
普通の冒険者が1階を突破するのに90分から45分かかることを考えてみたら、低層階ながらかなりのハイペースだろう。
9階から出て来たゴブリンはそれまでのゴブリンと違って、剣や槍などの武器を持っており、体格が良い。それに顔つきも他のゴブリンに比べて凛々しい気がする。
「この階のゴブリンてノーマルじゃなくて、戦闘職のゴブリンなのか?」
「戦闘に特化したゴブリンだな、槍ゴブリンとか剣ゴブリンとか、総称してゴブリンウォーリア。ちなみに10階前の大部屋には剣技スキル持ちの完全武装したゴブリンウォーリアが五匹いる」
完全武装したゴブリンウォーリアと言えばDランク中位だったはず
「折角だし、魔法でも使うか」
投擲魔法や属性魔法は魔力温存のため、あまり使わないことにしていたが、ここまでゴブリン相手だったので温存どころか使う必要すらなかったのだ。
「数が数だからな。一匹くらいならいいんじゃない」
休憩を終えた俺たちは、扉を開けて先に進む。早速剣だけ持ったゴブリン達が出迎えてくれた。数は三匹、一匹は凛々しい顔つきからゴブリンウォーリアに間違いないだろう。
アーシェと俺が駆け出し、ゴブリンもそれに答える。俺は素早く二匹のゴブリンを叩き切る。もう一匹のゴブリンウォーリアは、アーシェの大剣によって上半身と下半身が生き別れになっていた。交通事故にでもあったようだ。
ダンジョンに潜ってから似た様な光景を散々見たので、もう慣れたが――
落ちている硬貨を見ると、一匹だけ銅貨が三枚なのでゴブリンウォーリアに間違いないだろう。硬貨を回収し、その後も順調に進んでいくが、一つ困ったことがあった。後からあの男女五人が付いて来ているのだ。
「なぁ、アーシェ、付いて来てるよな」
「うん、付いて来てる。あの様子だと単独で10階を突破出来なかったのかもしれない」
魔物がいない俺たちの後をつける事によって、10階を突破するつもりらしい。必死に付いて来ているが、時折後や横からも襲われるので手こずってるようだ。俺たちの進む速度が速いので、だんだんと距離が離れている。このまま行くと彼らは俺たちを見失うだろう。
「あーー“ゴブリンウォーリア”の所為で疲れたな」
「ふふ、アタシも疲れた」
「ひひ、そうか。疲れたし、歩くの遅くするか」
疲れたのだから仕方ない。正面からは防具を着けていないゴブリンウォーリアが三匹迫ってきていた。
「さて、ここか。扉に剣の紋章が刻んであるし」
俺の目の前には、大きな扉がある。おそらくゴブリンウォーリア達が待ち構える大部屋への扉だろう。詠唱を済ませ、俺とアーシェは扉を開けて入ると、五匹のゴブリンウォーリアがいた。どの個体も全身にプレートメイルを身に付け、手には剣や槍を持っている。
(剣3、槍2か)
俺とアーシェは無言で切りかかる。俺の相手は二匹のゴブリンウォーリアだ。間合いを詰め、斬りかかるふりをして、魔法を放つ。
「炎弾よ敵を焼き尽くせ」
頭部に直撃したゴブリンウォーリアは虫の息だ。呼吸器官に致命的なダメージが及んだらしく、かひゅ、かひゅと音を立てている。
残るゴブリンは怒る様子もなく、俺に斬りかかってくる。サイドステップで交わしながら片手で斬りつける。ゴブリンウォーリアは、辛うじて盾で弾くと剣で切りかかってきた。
ゴブリンの割に《盾》のスキルでも持っているのだろう。迎撃態勢をとっくに完了していた俺は、両手で柄を持ち、鋼鉄製のバスタードソードを振る。
ゴブリンの手首は切断され、剣が地面に落ちる。空いた空間からそのままゴブリンの首に突きを入れ、そのまま剣ゴブリンはだらりと崩れた。
ちらりと槍ゴブリンに目をやると、既に息絶えている。
急いでアーシェの援護に回ろうとしたが、その必要はなかった。槍ゴブリンはショートスピアごと体を引き裂かれ、剣ゴブリンは右手、右足、そして頭部を失い倒れている。そして最後のゴブリンは、一匹で対抗できる訳もなく、呆気なく頭を切断された。
「よし、終わった」
アーシェの戦闘で全てのゴブリンウォーリアが死んだからか、ゴブリンの体は溶けてなくなり、武具も迷宮に飲まれていく。
その跡には一枚ずつ銀貨が落ちていた。とは言え、お目当てのものではない。リュブリスの迷宮などダンジョンでは、現在は作れない魔道具や特殊な魔法石がダンジョン内に存在する。物によっては1000Gや2000Gと言った物まである。ギルドカードの情報を読み取るカードボックスも、ダンジョンから出土した魔道具や魔法石などを元に作られたそうだ。
純粋に修練の場として来ている者もいるが、修練と金儲け両方の目的で来るものが多い。階層が深くなればなるほど、貴重な物と巡り合う確率が増えるらしいが、運が良ければ低階層でもあるらしい。
後を見ると、扉からさっきのパーティが様子を窺っていた。なんとかたどり着いたようだ。
「行こうか」
俺たちは大部屋の奥にある扉を開けて、通路を進み、転送室に入る。
1階に描かれていた転移魔法陣と同じ物があった。この部屋の奥には通路があるので、あの先に次の階に進む転移装置があるのだろう。
「よし、一旦リュブリスに戻ろう、到達した階にある転送装置にならまた来れるし、ジロウは問題ないよね?」
「ああ、俺はそれでいいよ」
リュブリス行きの転移装置に乗り、俺とアーシェが「転送」と言う。魔法陣が輝きだし、体を光が包んでいく。
その時、あのパーティが入ってきた。ボロボロだが、全員無事なようである。俺とアーシェが転移魔法で戻ることに気付いたようだ。
飛ぶ瞬間、こちらに向かい頭を下げていた気がした。きっと気のせいだろう。礼を言われることはしてないのだから
ギルドのカードボックスは、特殊な方法で作るとありましたが。実はダンジョン内のロストテクノロジーやロストマジックによって作られていました。
一応、伏線回収……?