第二話 美女(野獣)と野獣
短いですが異世界初の戦闘シーン。戦うのは主人公はではありませんが(苦笑)
不意に横合いから複数の何かが、トスッという音をたて巨熊の顔面に刺った。先端は見えないが矢羽から俺は矢だと確信した。一本は眼球に刺さっている。
「グァ、グガアァァァァア」
巨熊は巨体にも関わらず素早くバックステップする。その所為で俺に土が掛かるが、それよりも自身の15センチ上を矢が飛んでいくのに驚愕した。
俺は倒れたまま後退りする。そして矢の飛んで来た方に視線を移すと、美しい白銀の甲冑を身につけ、弓を構え佇む女性がいた。栗色の髪が風で揺れている。
熊は標的を彼女に変えたようで、憤怒の表情を上げながら角を振り回して迫っていく。
(あのままでは巨熊に襲われる。危険だ!!)
「危ない、逃げ」
咄嗟に声を出そうとするが、轟音と炎によって掻き消された。
(巨熊が爆発した!?)
熊の側面から火球が迫ると、熊を火だるまにしたのだ。余波でちりちりとした熱気が俺のところまで来る。
一方の巨熊は、本能的に地面を転がり火を消すが、全身丸焦げになっている。
続けざまに火球が出た方向から二つの人影が飛び出して来た。
一人はロングソードとラウンドシールドを持ち、もう一人はツーハンドソードを持っている。飛び出た勢いそのままに熊に切り掛かった。ロングソードとラウンドシールドの女性は赤色の短髪、ツーハンドソードの女性は肩まで伸ばした銀色セミロングの髪を靡かせる。
(なんなんだこの人達は、しかもまた女性)
巨熊も近付く二人に気付いたのか、二本足で立ち上がると、両手を振り回して迎撃する。あの一発でも直撃したら頭の一つ、二つ軽く飛ぶだろう。
そんな強力な攻撃を先頭にいた赤髪の女性は、ロングソードとラウンドシールドで熊の連続打撃をいなすと、片目の死角から右足の腱をロングソードで切り付けた。
巨熊は体勢を大きく崩すが、頭を振り鋭い角で赤髪の女性を突き殺そうとする。
だが、その殺意を馬鹿にするように巨熊の力を利用して、赤髪の女性は笑いながらラウンドシールドを熊の顔面にたたき付けた。重厚な金属の塊によって巨熊の鼻は潰れ、血が噴出す。
死角に回り込んでいた銀髪の女性は、下段から構えたツーハンドソードで巨熊の左足を薙ぎ払う。
斬った勢いで左真横に踏み込んだ形になった銀髪の女性は、右足を軸にして反転すると、上段からツーハンドソードを首に叩き込んだ。
足を断ち切られ、四つん這いになっていた巨熊は避けられるはずもなく、刀身が巨熊の首に入り込み頭を呆気なくはねられてしまった。血糊の付いた剣を振り、汚れを落す動作すらただただ美しい。
(あの巨熊をあっという間に殺した……)
巨熊は崩れ落ち、辺りは鮮血に染まっているが、彼女らは怪我どころかほとんど汚れもなかった。彼女らは一分も経たずして巨熊を駆除したのだ。
(凄い、神話に出てくる戦の女神みたいだ)
俺は駆け寄ってお礼を言おうと思ったが、俺は裸だ。
(やばい、この格好明らかに変質者じゃないか)
巨熊の死亡を確認した彼女達は静かに近寄ってくる。全員で3人。巨熊との戦闘で見かけた赤髪の活発そうな女性、弓を持ち長い栗色の髪を纏めた細身の女性、巨熊の首を刎ねた銀色セミロングで無表情な女性だ。
その内2人には明らかな侮蔑の色があった。周囲を警戒してか、俺を警戒してか全員武器を仕舞っていない
「待ってくれ、裸なのには訳があるんだ」
誤解を解くために彼女達を説得しようと恐る恐る言う。
短髪赤髪の女性が発した言葉に俺は固まった。
「○×△●○○○」
(へ? 外国語??)
てっきり日本語で通じると思ったが、近くでよくみると日本人の顔はしていない
「○×△●○○○!!」
同じ事を繰り返された事は辛うじて理解したが、何を言っているのか全く分からない。ただでさえ外国語が苦手なのに聞いたこともない言語なのだ。理解出来るはずがない。
(さっきより苛立ってる、これ凄いまずいんじゃ、そもそも日本で規格外の巨熊や凶器を持った人達なんてどうなってるんだ!?)
「待ってくれ、あなたたちの言葉が分からないんだ」
身振り手振りで語りかけるが、相変わらず侮蔑の視線をぶつけられるだけだ。
知らない人間に裸で意味の分からない事を言われ、危険と感じる者はいても、好意を感じる者は少ない。
好意どころか侮蔑の視線に敵意まで混じりだした。
「●△×○、××○○?」
「○××△●○○○」
「○○○」
「○○、×○△○」
弓使いと銀色の髪の女性が言葉を交し、大柄な赤髪の女性が我慢できないといった様子で何かの許可を求めた。その後、リーダー格なのだろうか、両手剣を持った銀色の髪の女性が仕方ないような顔を一瞬浮かべると、無表情で短く何かを許可した。
「ぐげぇッァア!」
口から息が漏れ、俺の体は一瞬浮いた。あまりの痛みに声が漏れる。赤髪の女性に思いっ切りブーツで脇腹を蹴られたのだ。
「何を――がぁっ、止めてくれ」
俺は抗議の声を上げようとするが、お前の意思など関係ないとばかりに暴言を浴びせられ、赤髪の女性が踏み付けると暴行は続く。栗色の髪の女性までもそこに加わって来た。
銀色のセミロングの女性も無表情にこちらを見ているだけだ。間違いなく助ける気はこれっぽっちもないらしい。
(こいつら――楽しんでやがる、趣味が悪すぎだろッ)
必死に暴力から逃れようとするが、抵抗らしい抵抗を出来ないまま嬲られていく。顔を踏まれ、背中を蹴られたところで俺の意識は途切れた。