表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界デビューに失敗しました  作者: トルトネン
第二章 リュブリスの迷宮
18/150

第六話 森の襲撃者

 俺は東部の森に一人でゴブリン討伐に来ていた。アーシェも俺とは別行動で、C・Dランクだけで募集されたクエストに出かけている。討伐対象はオークリーダー率いるオークの群れの討伐らしい。


そういう訳で、俺は一人だ。単独で討伐に出るのは、これが初めてではない。けれど、俺は緊張をしている。これから投擲魔法無しでゴブリンの群れを襲うからだ。


 俺は投擲魔法を使わない戦闘方法を確立するつもりだ。何も戦闘を舐めている訳ではない。俺は気付いてしまったのだ。異界の投擲術(特殊投擲術)の威力は、込める魔力量に比例して強くなる。


 つまり、運用方法や工夫こそ出来るが、異界の投擲術(特殊投擲術)を使ったところでスキルのそれ以上の成長が望めない。それならば極力使わない方が他のスキルの成長にも繋がる。手札は多い方がいいのだから



(全部で六匹、棍棒四、槍と錆びたショート・ソードが一匹ずつか、まだゴブリンはこっちに気付いていない。セオリー通りファイアーボールで攻めよう)


 俺のファイアーボールはゴブリンにかなりのダメージは与えられるが、下級なので致命傷になりにくい。詠唱がウォーターボールに比べ、長いという弱点もあり、接近戦になった時に向くものではない。


 逆にウォーターボールは詠唱が短いが、遥かに威力が足りない。この微妙な二つを考慮し、現時点では、ファイアーボールは遠・中距離からの強襲、奇襲に使い、ウォーターボールは接近戦で意表を突くのに使うことにした。


 二つとも微妙な魔法だが、メリットもある。投擲魔法に比べて遥かに魔力マナの使用量が少なく、継戦能力に優れているのだ。乱射したとしても魔力切れの心配がいらない。


 俺は呪文を唱え始める。投擲魔法より射程が短いので、かなり敵に気を使う。


(訓練通りにすれば問題はない)


炎弾よ敵を焼き尽くせ(ファイアーボール)


 小さく唱えたそれは、背後からゴブリンに襲い掛かった。狙うは、間合いが厄介な槍を持ったゴブリンだ。


回避行動を取らなかった槍ゴブリンにファイアーボールがぶつかり、手や顔面が焦げ、戦闘力を大幅に削る。脅威は半減しただろう。


 俺は詠唱を続けながらゴブリンに斬りかかる。一番近かったゴブリンを下段の構えから喉笛を切り裂く。身長の低いゴブリンには丁度良い高さだ。


 俺は直ぐ真横にいたゴブリンの腹部に片手剣の刃を深く突き刺す。次のゴブリンに斬りかかろうとするが、別のゴブリンはショートソードを振り、妨害してきた。バックステップで距離を取る。


 棍棒を持つ無事なゴブリンがそこに加わり、突っ込んできた。


水弾よ敵を薙ぎ払え(ウォーターボール)


 詠唱が完了していた俺は、ショートソードを持ったゴブリンに放つ。ウォーターボールを直撃したゴブリンは弾き飛んだ。その隙に他の二匹を斬り捨てる。一匹は棍棒でガードしようとしたが、棍棒ごと切り捨てた。


 倒れたゴブリンが起き上がり、ショートソードの刃先を俺に向け迫る。ゴブリンで、しかも意図が見えた攻撃など怖くない。突きを軽く弾き、肩から腰にかけて切りつけ、ゴブリンを絶命させた。最後にファイアーボールのダメージでふらつくゴブリンを叩き斬り、戦闘が終結した。


(想定通りの結果になったが、これがシルバーウルフだとまた勝手が違うか)


 ゴブリンの討伐数にはまだ足りない。次のゴブリンは魔法重視で戦ってみよう。


その後、三グループのゴブリンを狩った俺はある程度の魔法の使い方を学んだ。


 戦闘が上手くいき、気が抜けていたのかもしれない。背後から迫るモノに気が付かなかった。


「あッ、グゥ」


 左肩に激痛が生じる。鋭く質量のある物が肩を傷つけたのだ。前向きの運動エネルギーが残っていたのか、肩を滑るように乗り越え、俺の目の前に現れる。ショートスピアだ。


(クソ、こんなところで盗賊か)


 そう俺は思ったが、違った。


「グギ、グアアア!!!!」


 オークだ。それも三匹、一匹は鎧まで付けてやがる。それもほとんど距離は空いていない。


(全員が剣、接近戦になったら負ける)


 一先ず、俺は駆け出し逃げ出した。オークは逃げる俺を追いかけてくる。


(やはり、付いて来るか) 


(どうする、このまま走れば、出血の所為で追いつかれるぞ。覚悟を決めるか)


 俺はクイックターンすると、残存する魔力の七割を込め、スローイングナイフを投げる。胸にスローイングナイフが刺さったオークは爆ぜ、肋骨から顎にかけて失い、死んだ。近距離で投げたため、俺にも衝撃が来るが、真横にいたオークほどではない。ふら付くオークの首に片手剣を叩きつける。


 首が太いためか、半分も刃が進まないが致命傷になっただろう。


しかし、”致命傷”でしかなかった。血が吹き出る中、燃えるようなオーラを纏い、オークはリミッターが外れたように暴れだした。


(なんだ、これは、まさかスキル!?)


 危険を感じ距離を取るが手遅れだ。オークの命全てを込めた斬撃が繰り出された。片手剣で逸らせるが流しきれない。嫌な音が辺りに響かせ、片手剣は真っ二つに折れた。刃はそのまま振られ、腕甲で辛うじて受け止める。


「このッ」


 腕甲では受け止められなかった衝撃が俺の腕に伝わる。折れた片手剣で斬ろうとしたが、その必要はなかった。一撃を繰り出したオークはそのまま死んだからだ。


 あと一匹は重い鎧の所為で足が遅い。まだ距離があった。俺はスローイングナイフを投げる。


出血と怪我で手元が狂い、僅かにナイフは外れた。威力があっても当たらなければ意味がない。


「グガ、グガガガガ」


 もう一本ぐらいならナイフは投げられるが、刺さったとしても、鎧と分厚い脂肪を纏うあのオークに致命傷になるか疑問だ。かと言って折れた片手剣ではいくらなんでも不利だ。


(出来ることをやるしかないだろう)


 迷ってる場合ではない。俺は魔法の詠唱を始める。オークは俺が動けないと思ったのかさらに加速した。間合いが詰っていく。あと七秒……二秒、一秒。


炎弾よ敵を焼き尽くせ(ファイアーボール)


 俺の詠唱の方が早かった。ファイアーボールがオークに襲い掛かる。


 内心俺は舌打ちをする。直撃を嫌ったオークが片手を犠牲にしたのだ。オークの片手は使えなくなったが攻撃は止まない。


オークの猛攻を折れた片手剣で防ぎながら後退していく。オークも怪我で興奮しているのか、攻撃が狂気じみている。


 防御は出来るが折れた片手剣では、間合いが足りない。


 あともう少し、俺はわざと隙を作る。オークは作られた隙かどうか知ってか知らずか、攻撃しようとしてくる。対して俺はそれを防御しない。


水弾よ敵を薙ぎ払え(ウォーターボール)


 血まみれの左手を突き出し、ウォーターボールを放った。ウォーターボールはオークの顔面に当たり、オークは仰け反り倒れた。俺は素早く飛びかかると、そのままオークに馬乗りになる、オークは腕力で払いのけようとしていた。


(悪いが、お前と力勝負する気はない)


折れた片手剣をオークに叩き刺す。


「グキャ、グギャアアアア!!!!」


 不揃いな刃がとてつもない苦痛を与えているようだ。足や手をばたつかせ俺から逃れようとする。


もちろんそんなことは俺自身も《生存本能》も許さない。ただひたすら折れた片手剣を叩きつける。何回オークに片手剣を叩きつけただろう。オークの四肢はピクリとも動かなくなった。


 深いため息を吐き、横に倒れる。限界が近くなったからか異界の治癒力(特殊治癒力)が発動すると、出血が止まり、体力が回復する。


 代わりに訪れたのは空腹を通り過ぎた飢餓感。ちらりと視線に映るはオークの死体、にく、ニク、肉……ああ、クソッ、流石に人型の魔物は食べたくはない。


(このスキルは便利なんだか、不便なんだか)


 飢餓感を必死で抑え、背嚢をひっくり返す。その中に有った口に出来る物を手当たり次第に口に放り込む。あとは初級水属性魔法Bを使い大量の水を飲み、辛うじて落ち着いた。


「はぁ、帰るか」


 緊急事態なのでオークの死体はもうどうでもいい。ゴブリンの首だけ持って足早に森を去ろう。途中、何と遭遇してもとにかく逃げる。片手剣が折れ、装備もボロボロなのだから


 帰り道にオークに会わないことを願って、俺は血の匂いが充満する場所から逃げるように駆け出した。

剣が折れてしまいました。

珍しく昼に投稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ