第四十一話 ユーラテロガの投擲者
「タリス、エールマン、ヘルダー百人長が戦死」
「指揮官もそうですが、十人長の損耗が無視できません」
ターニス・グラントを討ち取り、グラント重装騎兵を撃滅したマウリッツ旅団だったが、ここに来て最大の試練を迎えていた。
投石と防壁は確かに厄介だ。迂回も出来ず正面突破は被害が出るのはマウリッツは覚悟していた。だが許容出来る損害はとうに過ぎていた。
たかが個人の冒険者により指揮官や士官が集中的に刈り取られているのだ。大隊長が1人、中隊長で4名、百人長に至っては13名が戦死していた。十人長と兵員に関しては把握すら出来ていない。
王都の切り札である《七色のユルゲン》に匹敵する火力と連射力だ。持続性に関すれば、ユルゲンすら上回っている。
魔力を消費する魔法ですらないのだ。高所から投石というローコストの武器だ。
小回り・連射・狙撃可能な投石機、衝撃は弓の比ではなく、兜の上からでも兵を昏倒させる。その上で、対象に合わせて魔力を乗せた投擲まで行う。
「何故今の今まであの冒険者の情報が上がって来なかった」
マウリッツは天幕の中の将校をなめ回すかの様に見渡すが、答えはない。忌々しい事に。最初の情報は甚大な被害を受けた後に、緊急展開群のイグナールから齎された事が彼の怒りの炎に油を注いでいた。
「アインツバルドの武術祭で白銀騎士団の構成員と《七色のユルゲン》を破った化け物だぞ!? バルガン国境部のナエウ戦役で獅子族を討ち破った鉄鎖のホロベックを中隊ごと葬ったそうじゃないか。マグリスはローマルクを欺くつもりだったのか!!」
矛先を向けられたマグリス王国の大隊長は拳を握り締め、顔を真っ赤にして反論した。
「我が大隊も甚大な被害を受けています。確かに情報の伝達が遅れた事は、重大な問題ですが——そもそもローマルク帝国からあの冒険者は入国しています」
「あ゛ぁ?」
天幕は沈黙に包まれる。属国の大隊長が反論するなど、あり得ない事だが、子飼いの中隊長を3人も失い冷静さを失っていた。
マウリッツの両眼がマグリスの大隊長を見据える。憤怒とも言える感情が瞬間的に膨れ上がり、右手が伸びかけたところでマウリッツは思い止まった。
「……言葉が過ぎたな」
「いえ、申し訳ありません。部下を失ったショックで要らぬ事を口走りました」
話は本題に戻る。マウリッツも旅団を任せられた男だ。決して無能ではない。攻勢の合間に竹束や盾代わりになりそうな者を掻き集めた。
それに認めたくないがマウリッツにはまだ本命は残されている。
「リグネッサ、首尾はどうだ」
将兵は意識外からの返答に、ぎょっとした。天幕の隅からリグネッサとその部下が現れたのだ。
「はーい、ぼくをお呼びですね一。アルカストラネの調整が終りましたよぉ。餌には困りませんからねぇ。しかし、手負いでもよく訓練されたアルカニア重装騎兵ですねー。処分したものも含めると30体しか残りませんでしたよぉ」
張り詰めた空気の中、場違いな声色が響く。本陣にリグネッサが訪れたのは、包囲から5時間が経っていた。
マウリッツの当初の予定では、敗残兵をひと蹴りに、進軍を続けているはずが、未だ即席の防壁すら突破できていない。
ローマルク軍も尋問した捕虜から、平原での決戦を支える物資の集積場と聞いてはいたが、蓋を開けたら、話が随分と違う。
天然の要害と逃げ込んだ残存兵により、堅牢な要塞と化していた。
迂回も検討されたが、深い森と切り立った岩肌を抜けなくてはならず、軽装の少数の兵ならまだしも、大所帯の部隊の進軍は自殺行為だ。
周りの将兵は、今までのリグネッサの問題行為から内心顔を顰めるが、現状が打破できるのならば多少の事は目を瞑る。それが捕虜を喰らい、味方を巻き添え兼ねない化け物だとしてもだ。
これ以上、得体の知れないアルカストラネを率いるリグネッサに、功績を重ねさせるのはマウリッツは気が引けたが、自らの部隊だけでは突破が難しいのもまた事実。
「総攻撃を仕掛ける。予備部隊も全て投入しろ。矢と魔法の波状攻撃により投擲を封じ、アルカストラネを持って前線をこじ開け、一挙に突破を計る」
「だめだ。第六隊の百人長が亡くなった。何を考えているんだよ。お偉いさんは――」
「前線は押すどころか、現状維持で手一杯だぞ」
「敵を圧倒する前に、射手も魔法使いも、みんな投擲者にやられちまう。このままじゃ上下から嬲り殺しだ」
アルカストラネの投入決定を知らない兵士たちは、前線で口々に己に降りかかる厄災に嘆く。士気が下がり続けても、懸命に、命令に従うのはひとえに真面目なローマルクの国民性とも言えた。
「うあ、あう、いぎぃっっっ!!!!」
矢を防ぎ、石に耐え、剣を受けるローマルク兵士の後ろで奇声をあげるものが出た。
投石で頭をやられたか、致命傷を受けたか、分からないが、妙に馬鹿でかい声に兵士達は、苛立ちを隠せない。
「黙らせろ。どいつが発狂した!?」
数少なくなった百人長が、視線を下げたまま、指示を出す。続けて盾で顔を隠しながら、振り返ると、味方を掻き分けて、時には乗り越え、踏み台にして進む一団が目にうつる。
「……噂のアルカストラネか」
リュブリス北西部の伯爵であるターニス・グラントを討ち取り、重騎兵の集団を破った生物だ。死者の脳に入り込んだ虫に呪術具を埋め込み、制御しているらしいが、百人長にとっては得体の知れない虫だ。
とは言え、その虫に頼らなければ現状も打開できないのもまた事実だった。
「道を開けろ。巻き込まれるぞ」
ターニスと重装騎兵を破ったアルカストラネを敵兵が見逃すはずがない。部下を案じた百人長は無理にでも兵の道を作らせた。
絶叫と形容するしか無い声が戦場に響いた。
「アルカストラネが来るぞ」
平原で、友軍を食い散らかし、領主をも討ち取った忌むべき存在。アルカニア兵は敗走時には恐怖が植え付けられていたが、今は違った。頭上には投擲者が張り付いている。
「出てきたな。アルカストラネ。仇討ちで一匹残らず黄泉に送り返してやれ」
飛び込むアルカストラネを迎えたのは無数の刃と石であった。
無謀に感じた突撃の正体は、アルカストラネの道を作るためだ。文字どおり、友軍を踏み越え、盾に使い、十数体のアルカストラネがこちらに向かってくる。人特有の動きは消え失せ、虫と操り人形を混ぜた、自然で不自然な動きだ。
「来るぞ!!」
投擲を繰り返し、足止めを狙っていたアルカニア・マグリス連合兵だが、アルカストラネと敵兵が眼前に迫ると、部隊が怒声を上げて迎え撃つ。
左肩を出して盾を構え、腰に下げていたショートソードを右手で抜いて、引いて待つ。腕を振って隣の仲間にぶつかるほどの隊列では、突きが多用される。
駆け込みながら剣を振り下ろすローマルク兵やアルカストラネに対し、剣を下から突き出すアルカニア兵の衝突は、見事なものだった。列を境に、剣や盾が上下の攻防を繰り返し、その度に兵が倒れる。
「適当に投げまくれ、この距離と高さなら関係ない」
塔の上で投擲物の支給、目標の選定を取り仕切ってくれている十人長のリールが叫ぶ。
返事をする前に兵たちは、せっせと魔法袋に詰めた石を取り出すと投げ付け始めた。
腕力に加え、高所からの落下物は、体や装備を破壊するに十分な威力を有している。
斬り合う兵士の頭上に落ちた投石は、ローマルク兵の思考を奪うには十分な働きをした。
体と意識がふらつくローマルク兵に迫り、到達したのはショートソードの切っ先。喉仏付近から入り込んだ剣先は、勢いそのままに、背中側へと抜ける。ショートソードが引き抜かれると、止め処なく鮮血が溢れ、兵士が首を押さえるが、効果は多く望めない。
俺は一際大きな岩石を掴み上げる。腕が悲鳴を上げ、関節部は駄々をこねるが、構わず投げ込んだ。
一直線に迫っていたアルカストラネの一体に直撃する。脳漿を撒き散らした岩石だったが、位置エネルギーに裏付けられた威力を保っていた。
岩石は転がるように背後の兵を巻き込み、転倒させた。
地の利、投射物では有利に進めていた王国側だが、完璧には抑える事ができず、一部の戦線が決壊した。
それを穴埋めする為に、予備の兵が現場に向かうが、隙間を縫う様にアルカストラネが寄生した人形達が塔に飛びついた。
「張り付かれた。ここからじゃ投げられない」
不幸な事に天然の岩場を利用し、年季の入った塔はあちらこちらに窪みがある。
「昇らせるな。全て叩き落とせ!!」
塔の直下にいた友兵が叫ぶ。どうやら張り付いたのは一体だけではないようだ。
角度の所為で見えはしないが、熟練のロッククライマーのようにスルスルと登っているに違いない。
不意に弓矢よけに突き出た岩に腕が伸びた。ここは地上から10mは優にある。人が入ってくるなどあってはいけなかったが、それを成し遂げた者がいるらしい。
「敵だ!!」
異変に気付いた兵士が腰のショートソードで腕を切断しようとする。甲高い音と共に刃が捉えたのは、何もない岩だけだ。
腕の持ち主は、片手だけの腕力で起き上がるどころか、天井まで飛び出すと天井を蹴り出し、兵士の首を踏みつけた。
「どけッ――」
かろうじて短剣を引き抜いた兵士が、そいつの足に刃を突き立てる前に、兵士の首を踏み抜いた。
ごぱぁッという破裂音と共に、床や壁に脳漿がばら撒かれる。
「ソルデン!? 勇者の末裔だ!!」
アルカストラネ、それも勇者の末裔だ。塔をよじ登り、とうとう上にまで来たのだ。
投擲の邪魔になるからとバスタードソードは壁に立て掛けてある。壁際まで走ると、勇者の末裔は数歩走るだけで、俺の下まで到達した。
唐竹割りでもする気なのだろう。ロングソードは振り下ろされ、頭部目掛けて振り下ろされた。
(間に合わない!!)
刃を防ぐために、肘を支点に十字に両手を組む。
予想した斬撃は放たれる事なく、代わりに鈍い音が響く。投擲の手助けをしてくれていた十人長のリールが、盾で勇者の末裔に体当たりをしたのだ。
直属で派遣してくれたディラン・グラントを抱擁してやりたい。
屈強な十人長のシールドバッシュを叩き込まれた勇者の末裔だったが、恐るべき事に右手だけで押さえていた。それどころか強引に、リールをシールドごと薙ぎはらう。
体勢を崩し、床に手をつくリールにロングソードを突き出した。体勢が崩れたリールは避ける事も、防ぐ事も叶わない。
バスタードソードを掴んだ俺は、鞘を投げ捨て、同様に突きを勇者の末裔へと繰り出した。
阻止できるか、微妙な時間だったが、アルカストラネは、突きの形から身体を180度回転させ、手と腰の力を利用して横一文字に、剣を振る。
バスタードソードの柄を上向きに、剣先を地面に向け、斜めに斬撃を受け止める。
そのまま、虚空へとロングソードは流れていったが、代わりにビリビリとした痺れが剣から指へと伝わる。
馬鹿げた膂力だった。遠心力を利用した大槌や叩きつけたハルバード並みの衝撃力。
勇者の末裔は直ぐさま手首を返すと、改めて、斬り込んできた。上から下。シンプルな太刀筋だが、速さと重さが尋常ではない。
リュブリスの武術祭で戦ったエミリーやシルヴィアなどと同じ剣派なのはよく分かった。一度剣筋を見ていなかったら捌けなかったかもしれない。
迎え撃つために剣を振り、剣の腹でロングソードを流す。耳障りな金属同士が擦れる独特の高音が鳴り響く。
剣圧は向こうの方が上だ。相殺しきれなかった分の攻撃を避けるために、サイドステップをすると詰めてきた勇者の末裔が蹴りを放つ。間合いをこちらから殺し、蹴りがトップスピードになる前に受ける。
ダマスカス鋼製の鎧は衝撃を吸収し切れず、内臓に伝わる。漏れる息を抑え込み、蹴りを入れ返す。
距離が離れ、状態を崩すことは叶ったが、ダメージは0だ。
攻撃までの初速が異様に早い。アルカストラネに寄生されていても身体は勇者の末裔だ。生前のスキルをアルカストラネが利用していると考えれば、納得のできる剣捌きだ。
折り曲げ階段から顔を出した兵士がやけくそ気味気に持っていたハルバードを投げつけるが、透ける様に躱した。
投げ入れられたハルバードを避けた勇者の末裔は、剣を振り下ろし兵士を抹消しようとした。
ハルバードの先にいたのは、俺だ。飛来したハルバードを掴み、投擲の勢いのまま180度回転させ、投げ付けた。
ハルバードは勇者の末裔の首元に突き刺さり、首を半ば切断し、動きが止まった。
勇者の末裔は、首からハルバードを引き抜こうとするが、続いて訪れたのは兵士による四本のショートソード、俺のバスタードソードであった。
それでもソルデンは両手を振り回し、体に突き刺さった刃から逃れようとする。
俺は勇者の末裔を押さえ込み、リールが咆哮を上げる。部屋の隅、折り曲げ階段で参戦の機会を狙っていた兵士が剣を突き入れる。
串刺しにされた虫の標本が生きていたかのように暴れ出す。俺は腰からオリハルコン製の短刀を取り出し、側頭部目掛けて突き入れる。
頭蓋の抵抗を受けながらも刀身は突き勝った。入り込んだ刀身はソルデンの命を再び奪い取った。俺はナイフを捻りながら引き抜く。
「申し訳ない」
殺した筈であった。だが万が一などあり得てはいけない。震えた声でリールがロングソードを頭部に叩き下ろした。
達成感を感じる筈もなく、ただただ疲労感と罪悪感に苛まれる。それでも休めはしなかった。眼下ではもう一人が暴れているのだ。
大規模魔法を行使した勇者の末裔オルドは、魔力を消費し切ったようだ。剣技と膂力のみの筈だが、被害は広がっていた。元来の異常な再生能力とアルカストラネが組み合わさった結果かもしれない。
肩には槍、腹部には折れた剣が刺さっているが、止まりもしない。
俺はゆっくりと狙いを定める。ロングソード2本で10人規模の槍衾が崩壊しかけていた。槍が折られ、斬られた兵士は距離が詰まり、覚悟を固めたかの様に、剣を抜いた。
俺は助走を付けて投擲をした。鋭く一直線に飛来した槍は一撃で勇者の末裔の胴部を貫いた。動きが止まったオルドに対峙していた兵達がロングソードや折れた槍を突き刺した。
勇者の末裔の肉体には7本の剣、3本もの槍が突き刺さり、即死する筈だった。歩行どころか、立ち上がる事すらあってはならない。だが、ヤツは動いていた。
(まだ動くのか!?)
それを支えているのが虫の特性を持つアルカストラネか、勇者の末裔の残骸かは分からない。
「これを」
リールが槍を差し出してくれた。
数歩下がり槍を構える、踏み込む足に合わせ、腰と手を連動させる。無駄な力は一切ない。かと言って必要な力は全て使った。
軌道は放物線を描くことなく、塔から一直線にアルカストラネ、勇者の末裔であるオルドの頭部に吸い込まれていく。
そうして眼孔から入り込んだ槍は反対側の頭蓋骨を突き破ると、そのまま地面に到達した。
それでも止まらない槍は大地に槍先を深く埋め込み、止まった。殺した確信が俺にはあった。だからそれが信じられない。
「嘘だろ」
それでも勇者の末裔は立っていた。隻眼こちらを見据え、口を動かす。奇声ではない。意味を成した言葉だ。
「あ、あえ、かにあ……そsっぅあ、そるデん、そるでん、ソルデン、ソルデンソルデン・アルバーナ!、ぁああ虫むし、むい、害虫、しちゅうがぁああああ!??」
追撃すべき俺やアルカニア兵は静止してしまった。起きるはずのない光景に、背筋が凍り、毛が逆立つ。
自身の片目に指を突き入れた勇者の末裔は、そのまま眼球ごと何かを引き抜いた。
それは俺がヘッジホルグで見た忘れもしない死虫アルカストラネ。
「っああぁ、ぃえ、んあ、ぐるぐる、する。焼けるよ、焼けぅうよう」
二つの軍勢の戦闘は、止まっていた。戦場に現れた異物に誰もが目を耳を向けざる負えない異質さと狂気。
死虫が操っていたはずだ。本体は死んでいるはずだ。それなのに、死んだ人間が、アルカストラネに操られた筈の人形が、死虫を殺し尚も動いているのだ。
「や、いぇけ……やける。焼ける焼けるぞッ、は、ひ、のぉ脳が、ぁ、熱い」
潰れた眼球が再生を始め、全身が燃え始めた。皮膚や臓腑から燃えたアルカストラネが飛び出てくる。
全身が鳥肌。黒い、ひたすらに黒い炎だ。目には憎悪と知性が垣間見える。
「し、使命も部下も護れず死に、死体は汚された。虫螻を埋め込まれ、今度は友と共に同胞に手を掛けさせられた。地獄だ。地獄だった。友よ。お前は逝けたのだな。俺は駄目だった。駄目だった。何度蘇れば良い!? 何故死ねない!!」
「ああ、嘘だろ。あり得ない。完全に蘇りやがった」
一部のローマルク兵も気付いている。理を破り、奇跡が起きた。だが、その奇跡はそのまま厄災に転じようとしている。
「……許すまじ、許すまじ許すまじ許すまじ、ローマぁルクゥウウウウウ、我が死と第二の生はお前らを灰に返す事だけに、捧げる。お前らの痛み、苦痛、絶望こそが俺の望みであり癒しだ」
全身に狂った火を纏いながら、勇者の末裔はロングソードを振るった。地面からは噴火のように火柱が立つと飲まれたローマルク兵が絶叫を上げて焼かれていく。
「黄泉帰りだ。神話の類だぞ」
勇者の末裔は、笑いながらロングソードを振るうと、蹂躙を始めた。今の今まで自分達を殺戮していた敵であり、尊敬すべき筈だった勇者の末裔。
葛藤と苦悩の果てに生み出された答えは、ディランから発せられた。
「……勇者の末裔オルドに続け、ソルデン様の弔い戦だ!! 死者を愚弄し、意志をねじ曲げたローマルク兵を誅殺しろ」
「グラント重装騎兵の意地を見せつけろ。目指すは敵本陣、雑魚には目を向けるな」
組織的抵抗が鈍い。指揮官や兵長クラスをことごとく狙撃した為に、本来指示を出す士官が圧倒的に不足していた。
「シンドウ、援護だ。抵抗する奴を狙え」
白兵を主とするこの世界で、半数の兵力の敗残兵が追撃など有り得ない。だが指揮系統の混乱と心身の磨耗したところに、勇者の末裔があの世の炎と共に蘇ったのだ。
単騎駆けを支えるのは、復讐に燃えるグラント重装騎兵の最後の生き残り100騎、今のアルカニア兵達は神懸りと言っても過言では無かった。
生モノ注意のステッカーを貼られた勇者の末裔のオルドは、仮死状態のまま《氷の一族》ジグワルドの親戚のおっさんに氷漬けにされた後、クール宅急便でローマルクに運ばれました。
その後、虫を植え付けられ、意識のあるまま身体の制御を奪われていましたが、虫が瀕死になった為に、オルドが体の主導権を取り戻しました。
痒いとこもかけない。死体は喰わされる。友軍をミンチにさせられてオルドくん大激怒です