第二話 訓練生の日々
久しぶりの投稿
今週は忙しかったです
「こんなもんだろう」
訓練を始めてから六時間以上が経ち、日の位置もすっかり変わっている。
とんでもない目に遭ったが、俺は不思議と充実感に包まれている。口もやり方も厳しいが、エルフレックは教え方が上手いのだ。
「最近の冒険者にしては根性あるじゃねぇか、明日も来るのか」
「1、2週間ほど訓練場に通おうかと、明日は片手剣の訓練と魔法の座学にも出るつもりです」
片手剣で辛うじてゴブリンは倒したが、それは手負いで碌な装備も持っていない個体だった。アーシェやアルフレートのように苦戦しないでもゴブリンが倒せるようになりたいのだ。
「受付に行けば分かると思うが、明日は昼過ぎからなら俺は空いている。来たかったら来い。それと座学は明日の午前からやっているからそれに出るといい」
(他の教官がどうかは知らないが、口はともかく、エルフレックは教官として優秀だ。それにこういう性格の人は嫌いじゃない)
「明日も来ます」
俺はそう返事をすると、エルフレックにお礼を言い、訓練場を後にした。
来た道を辿り、受付で暇そうにしていた受付嬢に訓練が終わったことを告げた。
何を言われたのか理解できなかったようで、固まっている。
「え、まだ訓練してたんですか!?」
一転、受付嬢は驚いた様子で俺に言う。
「あー、もしかして延長料金とかかかるんですか、やっちゃったなぁ」
受付嬢の様子から言って延長料がかかるのかもしれない。俺もエルフレックもムキになっていたので時間に気付かなかったのかもしれない。
「いえ、一時間の訓練の後は、教官と訓練生が任意で訓練を終了させることになっているので、延長料金などは一切かかりません。ただ、エルフレック教官相手で、しかもこんな長時間訓練する新人さんは初めてなので――」
「普通はどのくらいの時間なんですか」
「だいたい、新人さんなら一時間で訓練が終了します」
(やっぱり、おかしいと思ったよ)
異世界ではこれが普通なんだと言い聞かせていたが、やはり間違っていたのだ。唯一の救いは、スキルのおかげで疲労感が少ないことだ。
(そうなると、アーシェの訓練は終わっているのかもしれない)
「俺と一緒に入ってきたアーシェという獣人の冒険者は、もう訓練は終わってるか?」
「はい、かなり前に外出していきましたよ」
やはり、アーシェは買い物に出たようだ。いつ帰ってくるか分からないし、一人で訓練場の外を出歩くのには抵抗がある。一瞬、座学に参加しようかと思ったが、途中参加は出来ないらしい。それにこれから座学に出るほどの元気は俺にはない。
「そうか」
これからどうやって暇を潰そうと考えていると、受付嬢が暇を察したらしく声をかけてきた。
「汗をかいているようなので、お暇でしたら水浴びでも如何です」
異世界に来てからもう10日以上体を洗っていない。綺麗好きの日本人には辛い話だ。俺は直ぐに返事をした。
「水浴びが出来るんですか、是非入りたい」
俺があまりに必死に見えたのか、受付嬢にクスリと笑われてしまった。
俺は使用料金として50Cを払う。受付嬢に案内された通りに、訓練場に向う通路とは別の通路を進み、浴室に着いた。
浴室に入ると、中央に大きな石桶がある。部屋の作りは石作りになっており、板で区切られた個室が並んでいる。個室の中は荷物と桶が置ける棚があり、二つの桶で石桶から水を汲みそこに桶を置いた。続いて片手剣や鎧を外して棚に置く。
道具袋から受付で買った石鹸を取り出す。この世界の石鹸はオリーブオイルなどで作られており、作るのに手間隙がかかる高級品だった。値段はなんと5Sもした。宿にもよるが三食つきで一日4~9Sで泊まれることを考えると、石鹸の分際でかなり高い。
頭から生ぬるい水を浴び顔を擦る。普通の水でこんなにさっぱりするとは思わなかった。続いて、皮脂などの汚れを石鹸で落としていった。
久々に体を洗い俺は上機嫌だ。値段は高いが、市内や宿にはお湯がある風呂もあるので、今度行って見よう。
水浴びを済ませた俺は、訓練場のエントランスで休憩していたが、訓練場の前で売っていたパンに肉やレタスを挟んだ軽食に我慢できなくなり、買ってしまった。
軽食を食べ終え、受付嬢と会話していると、アーシェがやってきた。日用品の買い物と武器の注文に行っていたらしい。アーシェは大剣を使うそうなので、両手剣では物足りないそうだ。完成するのに2週間はかかる予定。
そんなこんなで帰路につき、宿に戻って俺たちは夕食を食べ始めた。
「ジロウは良く食べるね。そう言えば初めての訓練どうだった」
俺は強烈の空腹感に身を任せ、料理にがっついている。
「面白かったよ。でもムキになって七時間もしたから疲れた」
きょとんとしたアーシェは続いて大笑いしだした。
「ふふ、あははは、ジロウ、七時間も訓練したの、頑張りすぎだよ」
「あ、でも最初に比べて片手剣の扱い上達したぜ。教官に一度だけ一撃を与えられたし」
「教官に? もしかしてスキル上がったんじゃない」
そう言えば、訓練が終わってからステータスを見ていなかった。ステータスに変化があるかもしれない。ということで俺はステータスを開く。
【名前】シンドウ・ジロウ
【種族】異界の人間
【レベル】4
【職業】冒険者
【スキル】異界の投擲術(特殊投擲術)、異界の治癒力(特殊治癒力)、初級火属性魔法D-、初級水属性魔法D-、初級片手剣C、生存本能、共通言語
【加護】なし
【属性】なし
なんと《片手剣》のスキルがD-からCに上がっているではないか
「なんか片手剣のスキルが三段階上がってるんだけど……」
「あーウソだ!!」
「いや、本当」
妙に上達したと思っていたがこんなに上がっていたとは
「指導を受けて、スキルが二段階上がった人がいるとは聞いたことあったけどさ、ジロウ色々おかしいよねぇ」
アーシェが怪しい物を見るような目つきで俺を見ている。
そもそも異界の人間なので色々おかしいのは否定できない。
「そうか、ほらアレだ。ちょっとした個性だよ」
今度は思いっきりアーシェに睨まれた。
訓練場に通いだしてから14日が過ぎた。片手剣の訓練、座学、魔法の訓練を一日繰り返している。
リュブリス訓練場の中では、新人ながら、無類のタフ野郎として扱われている。今ではちょっとやそっとではダウンしないということで、教官の実験台、もとい指導方法を生み出す練習相手になっているのだ。
「はッ」
二度、三度と続くエルフレックの斬撃を回避し、時には弾いたりしながら致命傷を防ぐ。
最初は直ぐに叩き切られていた俺だが、スキルのお陰で毎日何時間も続けて訓練を行うことが出来た。その濃厚な訓練を繰り返したお陰で直ぐにやられなくはなった。唯一の欠点は、あのスキルが発動するととにかくお腹が空いて、大量の食費がかかるということだ。
防御ばかりでは、いけない。返しとばかりに剣を振るが、エルフレックはこちらが一太刀入れる間に、二、三太刀を繰り出してくる。
転がりながら辛うじて回避するが、無理に攻勢に出たため、追撃してきたエルフレックに隙を突かれて手痛い一撃を貰った。
「あー貰ったか」
「当たり前だ。俺は教官だぞ」
そう強がるエルフレックだが、14日前と違って隠してはいるが、少し息が上がっている。
「今日はこの辺にしとこう。明日は補助要員とはいえ初クエストだろう」
そう、俺はアーシェと共に討伐クエストに挑むのだ。相手はそうゴブリンである。
「ジロウとアーシェならDランクのゴブリンには後れは取らないと思うが、油断はするな。お前は冒険処女なんだからな」
14日の訓練によって俺のスキルは《初級片手剣A-》《初級火属性魔法B》《初級水属性魔法C》などの三つが成長していた。これだけ上がればゴブリンに負けないだろう。
ちなみにアーシェが俺とパーティを組んだ理由は、リュブリス城塞都市の近くに存在するダンジョンを攻略をするためだ。ダンジョンをある程度潜ると、魔法や遠距離からの攻撃でないと効き目の薄い敵が多くなる為、魔法が使える仲間が必須なそうだ。
ただ、実戦で戦えるマジックユーザーは貴重なので奪い合いになる。その点、知り合いで強力な投擲魔法を使う俺に協力して欲しい、という訳だ。
リュブリスダンジョンに挑むには最低Eランク上位かららしく、俺の実戦慣れとEランク上位昇格を早めるために、クエストメインでいこうとしたらしい。尤も、今は訓練場でキッチリ鍛える路線に変えたらしいが
「ええ、分かってます。きっちり鍛えてもらいありがとうございました」
「おう、気をつけていけよ」
初のクエスト前に俺は不安と楽しみという感情が入り混じっていた。