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異世界デビューに失敗しました  作者: トルトネン
第六章 ローマルク帝国 マグリス独立戦争
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第二十六話 農村の死闘2

 指揮官の首を刈り取るために、渾身の一撃で放たれたショートスピアだったが、両脇に控えていたチェーンゴーレムの腕により防がれてしまった。


 薄い鎧ならば貫通し得る威力を持つはずだが、チェーンゴーレムの腕を貫通する事なく止まっていた。


 チェーンゴーレムは、汚れを落とすかの様に、体からはみ出たショートスピアの柄を叩き折った。


 堅牢さもそうだが、更に問題なのは飛翔するショートスピアに反応する反射性だ。


 投擲を物ともせず、そいつらは進み始める。あの硬さは、爆裂型でも意味がない。ソフトターゲットである術者であれば死傷させる事ができるが、チェーンゴーレム二体に守られており、効果は薄そうであった。


「1人では無理だな」


 決断を下した俺は、単独での対処を諦め、荷馬車の処へと駆け寄る。


 薄暗闇の中、ヒカリゴケのランプを御者台に吊るし、ハンクは必死になって荷馬車に馬を繋ごうとしていた。


「どのくらい掛かる!?」


「あと数分は無理だ」


「敵はゴーレム使いだ。召喚された二体のゴーレムの装甲は、俺の槍でも貫通しなかった。反射性も良い。厄介な敵だ」


「迎え撃つしかなさそうですね」


 リアナの言葉に全員が覚悟を固めた。


「あたし達全員で仕掛けるから、ハンクは何かあったら逃げて来て」


「ああ、任せろ」


「あの硬さだ。火力と力のある俺とアーシェがゴーレムを受け持つ。リアナは術者を仕留めてくれ」


「分かりました」


 俺は放置されていた荷車の後ろに隠れ、詠唱を始めた。森での連戦で既に魔力は底を突きかけている。使えて二回程度だろう。


 リアナとアーシェも視線を低くして物陰に潜んでいる。


 ゴーレムが足を進める度、重低音と共に振動が足に伝わってくる。あれだけの質量だ。ただの振り払いを受けただけで四肢は砕け、五臓六腑が音を上げるだろう。


 目標としたラインにゴーレムが差し掛かったタイミングで俺は魔法を放った。


炎弾よ敵を焼き尽くせ(ファイアーボール)


 魔力を消費して体現した火球は、一直線にゴーレム使いへと向かうが、左に居たゴーレムが腕を持って防いだ。


 表面を砕き、装甲を黒く焼いた火球ではあったが、ゴーレムは不自由なくこちらに足を進める。


 横に走り出しながら、スローイングナイフを二度に渡り投擲するが、チェーンゴーレムの腕と体を以て塞がれた。


 俺の攻撃に合わせ、リアナとアーシェが斬り込みを開始する。


 俺もそれに合わせて間合いを詰めようとした時にゴーレムの後ろで地面が隆起した。


土よ、我が壁となれ(アースウォール)


 本来であれば防御に用いられる土壁を斜めに、それも高さを段々と高く連続して俺の目の前まで伸びてくる。


 この速度は無詠唱だ。ゴーレムを二体同時に作り出し、運用する土属性魔法の使い手であれば、確かに可能かもしれない。


 戦闘や修練を重ねて得る者、天性の才で生まれながらに無詠唱で魔法を使う者もいるそうだが、どちらであっても厄介な相手だ。


 土壁を避けた後に、微かな音を耳が捉えた。間違いない距離を詰めてきている。


 土壁の上を見上げると、既にそれはメイスを振り下ろしている所であった。


 振り下ろされたロングメイスをステップで躱し、抜いたバスタードソードで、相手の着地点を横薙ぎにする。


 男はラウンドシールドを肩と手で保持すると、怯むことなくまともに受け止めて耐えた。


 一撃で仕留められない場合も度重なる実戦と訓練の賜物で身体が自然と動く。


 手首を返して、踏み込みながら逆袈裟斬りを繰り出す。


 相手も同時に踏み込んで来る。ラウンドシールドが強引に伸びてくるとバスタードソードに勢い良くぶつかり、威力が殺された。


 倍返しとばかりに重厚なロングメイスが突き入れられる。鉄甲と胸当てに軌道を誘導して防御するが、鈍い痛みと衝撃が胸を走った。


 場所を入れ替え、何度も剣で、鎚矛、盾で刃を交えるが、お互い有効打が生じない。


 現状を続けるとまずいのはこちらだ。そもそもゴーレムの相手が俺の筈だった。


 視界の端ではアーシェが正面から大剣でチェーンゴーレムと斬り合っている。リアナも両手に剣を持ち、巧みな剣捌きでチェーンゴーレムの関節部を削り取ってはいるが、致命傷には程遠い。


 剣捌きや小技などの技術は、俺達の中でも群を抜いているが、大型や重厚な敵の相手は、リアナの苦手分野だ。


 チェーンゴーレムが振り下ろされた剛腕を、リアナが滑り込む様に足を使い躱す。繰り出された一撃は、地面を容易く砕いた。あんなものを食らえば一撃で逆転もあり得る。


 かと言って俺の相手も簡単に突破できる様な相手ではない。近づけば脆い魔法使いとは異なり、手練れの前衛が恵まれた才で、強力な魔法を有している最も嫌なパターンだ。


 俺の魔法と投擲物を警戒しているせいか、間合いが離れることなくべったりと俺にへばりついている。


 何度目か分からない鍔迫り合いの末、指先を狙ってバスタードソードを滑らすが、メイスを持った手首を返しされ弾かれた。


 ラウンドシールドによるシールドバッシュを避けると、その影からロングメイスが突き入れられる。


 俺は上半身をスウェーさせ避け、連続で小さく鋭く突きを繰り返す。


 喉元、目、手首と狙いを変えた一撃の一つが敵の肌を切った。


 頬から血を流した男は、ロングメイスとラウンドシールドを交互に突き入れ、間合いを潰すと、上から大振りしてくる。


 ロングメイスは空を切り、地面へと接触する。好機とばかりに踏み込んだ俺だが《生存本能》が真っ赤なアラートを頭に鳴らした。


 ロングメイスが刺さった地面が魔力によって光ると伸びてきたのは土壁であった。


土よ、我が壁となれ(アースウォール)


 土壁は俺の胸当てにぶつかると俺を後ろに跳ね飛ばした。転がりながら勢いを殺し、地面を蹴り、賢明に中腰になるが、眼前にはメイスが迫っていた。


「ぐっ、うっツツツ!?」


 左腕を曲げ、首から頭を保護する。訪れた衝撃は想像以上だった。


 衝撃で頭が揺れ、手甲越しに左腕が酷く痛む。勢いを殺せず、地面に倒れ込んだ俺に対し、男は叫ぶ。


「終わりだ!!」


 俺は反射的にバスタードソードを投げ付けるが、ラウンドシールドを大きく傷つけるだけで終わった。


 腰のスローイングナイフではメイスは防げない。手甲も繰り返し連打されれば、突破される。


 不味い。死ぬ——


 オサの無詠唱の連続魔法に憧れ、無詠唱の魔法をこっそりと何度も練習したが上手くいかなかった。


 練習で成功しないものを本番で成功するはずがない。それでも俺は手を伸ばす。


 異世界に迷い込み、襲撃された荷馬車の中で初めて投擲スキルを使った感覚が蘇る。


 息が詰まる様な焦燥、死を拒絶する様に心臓が鼓動する。視界には既に俺と目の前の男しか目に入らない。


 属性こそ違うものの、お手本はついさっき見て、身体で体験させて貰った。


炎よ、我が壁となれ(ファイアーウォール)


 残り少なくなった魔力が地面へと集まり、火炎の壁を形成して、男へと伸びる。


「無詠唱ッ!?」


 地面に対して斜めに伸びた火炎は男の上半身と右手を焼き払う。男の絶叫が村に響き、肉が焦げついた臭いが辺りに漂う。


 視界の端ではゴーレム二体が機能を停止させ、自壊を始めた。


 術者が死んでも機能が停止しないタイプ、術者が死傷すると機能が停止するタイプのゴーレム二種類あるそうだが、今回は後者で助かった。


 姿勢の関係だろう。男は右半身に重度の火傷を負っていた。息はあるが半刻も持たないだろう。


「ま、待てぇッ」


「命乞いなら勘弁してくれ、後味が悪くなる」


 俺が倒れ込んだ相手に止めを刺すために近づくと、男は耳を疑う発言をした。


「俺の、腰に、魔法、袋がある。そいつをや、る。だから頼む、中の蒸留酒が飲み、たいんだ」


「正気か……?」


「ぁあ、死ぬ、最後が、自身の焼ける、臭いなんて嫌だろ、ぅ。部下に、は撤退を命じた、もうおま、えらを、邪魔する、ものもい、ない」


 俺は投げたバスタードソードを拾い。警戒をしながらゆっくりと近づく。男は倒れた際にうつ伏せになっているので、背中側の腰袋を取るのはそう難しくなかった。


「使い方は」


 見た目は普通の腰袋と変わりは無いが、手に持つと分かる。明らかに魔力を帯びていた。


「入れたもの、念じれば、出て、くる」


 俺は腰袋に手を入れ、蒸留酒をイメージすると手首から先の感覚が酷く冷たいものへと変わり、指が何かに触れた。


 ひきぬくと、中身が殆ど残った蒸留酒だった。


「それ、じゃない」


 俺は再び魔法袋からもう一本蒸留酒を取り出す。


 今度は拒否しなかった。


 コルクで閉じられたそれを俺は歯でこじ開ける。軽快な音と共に抜けたコルクを吐き出し、渡してやった。


「つきあ、え」


 男はボトルを傾けると、堰が切れた様に勢いよく飲み始めた。


 俺も最初に取り出した開封済みの蒸留酒を呷る。こっちは一般大衆向けの比較的安い蒸留酒だ。


 大味だがマイルドでまあ、酔うには丁度いいだろう。


「ふは。あっはぁ、ほんと、うにの、んだな」


「魔法袋。中身は他に何が入ってるんだ」


「はまきだ、葉巻が吸いたい」


 本当にこいつは死にかけなのかと、俺は無言で魔法袋に手を突っ込む。


 革製の入れ物に納められた葉巻を取り出し、端部をナイフで切り落とす。火種は幸い、余波で燃え移っていた枯れ木に火が残っていた。


 数度吸い込み火がついたそれを俺は口に運んでやる。勢いよく吸い込み、吐かれた紫炎は風で煽られながら夜空へと拡散していく。


「満足かよ」


 俺も蒸留酒を呷りながら、同様に葉巻を取り出して、吸い出す。煙をゆっくりと吐き、また蒸留酒を口にする。


 周囲を目を向け、探るが、本当に他の兵は村から撤退したようだ。


「え、何してるんですか、シンドウさん?」


 まるでドラゴンでも見たかの様に、リアナとアーシェは目を丸くして俺を見ていた。


「いや、こいつが死ぬ前に酒と煙草が吸いたいって——」


 倒れ込んだ男を覗き込むと目はあらぬ方向を向き、口からは酒がこぼれ落ち、死んでいた。


「……死んじまったか」


 不思議と苦痛に満ちた表情をしていなかった。目蓋を閉じてやり、戦利品を掴むとハンクが待つ荷馬車へと歩く。


 農村の死闘はマグリス兵に多大な犠牲者を出し、俺達の勝利で幕を閉じた。






【名前】シンドウ・ジロウ

【種族】異界の人間

【レベル】53

【職業】魔法剣士

【スキル】異界の投擲術(特殊投擲術)異界の治癒力(特殊治癒力)暴食(七つの大罪)、運命を喰らう者、上級片手剣B、上級両手剣B+、上級火属性魔法B+、中級水属性魔法A、 奇襲、共通言語、生存本能、中級魔法無詠唱

【属性】火、水

【加護】なし

感想・評価・誤字脱字報告ありがとうございます


わざわざ5、6年前に投稿した話まで誤字脱字報告を下さり、本当に助かっております


一時期仕事と他の趣味で、文章を書くモチベーションが酷く下がっていましたが、感想・評価に励まされました。ありがとうございます


一件一件に対して返信が出来ず申し訳ありません

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― 新着の感想 ―
[一言] 頑張ってください
[良い点] シンドウほんと強くなったの嬉しすぎる
[気になる点]  自分達の荷物と馬車だけ持って逃げようとしているように見えるけど、野盗(兵士達)の持ち物は討伐した者のモノという事で良いんですよね?  なら兵達が持ち込んだ物とか殺した者達の装備とか軍…
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