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異世界デビューに失敗しました  作者: トルトネン
第六章 ローマルク帝国 マグリス独立戦争
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第十四話 対魔討伐派遣隊2

 西部軍集団、第五対魔討伐派遣隊の指揮官であるアグロッサは、借り受けた民家の一室で、静かにため息を吐いた。


 村長から剣山獣の首と共に、討伐依頼が出されたまでは良かった。アグロッサの隊には、剣山獣やオーガ類などBランクの魔物の討伐経験があるものが複数いた。


 剣山獣ならば、適切な人員と装備があれば被害無しに討伐も不可能ではない。アグロッサが頭を悩ませる問題は、討伐対象の剣山獣が群れを成し、そのリーダーが通常の剣山獣を遥かに上回る巨躯を有しているという点だ。


 群れる魔物はそれだけで危険だ。単体では危険度の低いゴブリンやオークですら脅威となる。


 事実アグロッサが知るだけ、班単位の兵士がゴブリンの群れに皆殺しにあったケースが幾らでもある。


 それが群れるはずのないBランク中位に位置する剣山獣が群れを作り、冒険者達を襲撃したのだ。


 新米のパーティならば、誤認等もあるだろう。誤認による緊急出動は度々あり、アグロッサの部隊は幾度も肩透かしを食らっている。


 だが今回交戦した冒険者のパーティは、複数のパーティが集まり、20人を超える大所帯であった。それもBランクの冒険者4人、獣人と魔法持ち(マジックユーザー)を含む強力なパーティだ。まず誤認は有り得ない


 直接的な戦闘力ではアグロッサもBランクには勝てないかもしれない。西部軍集団が辛酸を舐めたリュブリス攻防戦では、冒険者の過小評価が敗因の一つとされた程だ。


 これらに加え、変異種と疑わしい巨大な剣山獣だ。アグロッサは一兵卒時代に、オークの変異種が率いる群れと戦闘をした事がある。その異様なタフさと統率力の高さは、畏怖すべきものとして未だ鮮明に記憶されている。


 完全武装した40名の歩兵隊があわや壊滅手間まで、被害を受けたのだ。それだけ変異種は手強い。


 アグロッサの唯一の朗報と言えば、冒険者の奮闘により、剣山獣の残りが三体となったくらいだ。丸々の群れを相手にした場合、どれ程の被害を受けたか、アグロッサにも想定できない。


 アグロッサは現実に目を向け思案する。今回率いてきた部隊の構成は、歩兵41名、魔物使い(ビーストテイマー)1名、猟兵(レンジャー)3名の総員45名だ。


 戦力分散は、アグロッサの望むところではなかったが、無防備な村を放置しておく事も出来なかった。


 探索の要となる魔物使いと猟兵は外せない。そうなると歩兵を割いて、村に残す必要がある。


 交代も考え、15名は残さなければ、複数の剣山獣とはまともに戦えないとアグロッサは判断した。


 昨日、村を離れたあの冒険者達が村の警備を行なってくれれば、後方に余計な憂いを残す事はなかった。


 冒険者の影響力を極力排除したい帝国軍の方針に加え、兵士では無い冒険者に、無理強いはできないと、アグロッサ個人の考えがある。


 ただ、軍人としては使えるものは使いたいというのが、アグロッサの正直なところだった。


 机に広げた地図をアグロッサは睨む。村人の事前の聞き取りでは、別行動をしたパーティが襲われた場所には、細い沢と小規模な沼が存在するらしい。


 アグロッサの経験上、生態系の頂点に位置する有力な魔物は、水辺を縄張りや寝床にする事が多い。剣山獣、あるいは何らかの痕跡が残っている可能性がある。探す価値はあるだろう。


 捜索箇所と範囲を指でなぞり、アグロッサは決断を固めた。地図を雑嚢へと仕舞い込み、部下に指示を出すために、表に向けて歩き出す。









 アグロッサ達が森に入り8日、未だ剣山獣を捕捉する事は叶わなかった。


 水辺で体毛や糞など剣山獣の痕跡は見受けられたが、肝心の剣山獣の発見には至らない。兵士達が見つけた物と言えば、数人分の衣服や装備、そして人馬だった肉片くらいだ。


 猟兵達が手掛かりが無いか、打ち捨てられたそれらを探った結果、ギルドカードが発見された。


 血と脂で汚れた表面を擦り確認をする。事前に聞き取りしていた冒険者の名前と一致した。食べ残されたそれは、冬場とは言え、それなりに腐敗の進んでいた。


 読みが外れたか——アグロッサはどうしたものかと思案を続ける。嗅覚に優れるシルバーウルフにも剣山獣の臭いは捉えられていない。


 班を横隊に並べ、捜索を続けているが、これ以上は無駄足になる恐れがある。


 村への襲撃も考えられるが、襲撃を知らせる為に作られた即席の狼煙台から狼煙は上げられていない。


 まさか村を離れた冒険者を追ったのか——アグロッサの脳内に、一瞬その可能性が過ったが、直ぐに否定する。


 あのパーティを相手にするくらいなら、守備隊込みで村を襲った方が、剣山獣にとっては安全だとアグロッサは苦笑する。


 同族達を何体も葬った集団だ。魔物と言えど警戒しない筈がない。


 持ち運べる食糧には限りがある。道のない森林を捜索続きで、疲労も蓄積する。頃合いだろうとアグロッサは諦めの溜息を吐く。


 昼を少し過ぎた頃だが、村への帰路も考え、長めの休憩を取った方が良い、とアグロッサは結論付けたのだ。


「本日の捜索は中止とする。ダスタイヤー、バイザー、メイサ、ククリアは集まれ、話がある」


 アグロッサは駆け足で集まる班長達を待つ。今後の捜索方針も含め、班長クラスを集めて、議論するつもりだった。








 長引く魔物狩りで疲労の溜まった兵士は、迫り来る欠伸を奥歯を噛み締め、どうにか堪えた。


 アグロッサ小隊長のお陰で、長めの休憩が取れたが、まだ眠気が取れない。これが小休憩のみで捜索が続いていたらと考えると、兵士はきっと発狂していたに違いない、と自嘲する。


 眠気覚ましに、雑談でもしたい気分の兵士であったが、夜営中の見張りを任せられている手前、そんな軽率な事は出来ない。


 横目で確認すると、兵士の相方は仏頂面で歩哨に立っていた。どの道、ユーモアのカケラもないこの堅物が雑談に応じる訳もなく、小鳥と会話をしていた方がまだ有意義だろう。


 ふいに、木々の隙間から何かが落下した。薄暗闇の中の出来事で、視認が難しかったが、15cm程の小枝が落下のように見えた。


「枝……上からか? なぁ――」


 念のために複数人での確認をするため、相方に声を掛け目を向ける。


 見張りの相方の首は僅かな皮膚でのみ繋がり、背中側へと頭が垂れていた。


 瞬間、心臓の鼓動が高まる。間違いなく即死。優先すべきは情報の伝達だ。悪寒が走り、兵士は身構え叫ぼうとする。


 声が出るよりも先に訪れたのは、暗闇から視界に広がる舌と牙。一瞬の鈍痛の後に兵士の意識は、切断された。


 続いて異変に気付いたのは二人と一匹、事切れた二人の横で見張りをしていた兵士、就寝していたシルバーウルフと魔物使いであった。


 寝ぼけ眼ながら、怯える愛狼を不審がった魔物使いが目にしたのは、寝入る兵士に襲いかかろうとする剣山獣だ。


「しゅ、襲撃だ!!」


 魔物使いが叫ぶのと同時に、見張りの兵士がラウンドシールドを突き出しながら、剣山獣にショートスピアを繰り出す。


 自己への気合と襲撃を知らせる為に、兵士は雄叫びを上げる。


「はあああッッ!!」


 剣山獣は真正面に迫るショートスピアを跳躍し避けると、反動を利用し、再度飛びかかる。迎え撃つ形でショートスピアが剣山獣の首元に刺さるが、僅かばかりの出血で終わり、剛毛と筋肉でショートスピアは逸れた。


 距離と時間を稼ぐため、左手のラウンドシールドを剣山獣に叩きつけるが、分厚い筋肉と脂肪で守られた背中を叩くのみで終わる。


 太い前足で抱きつかれた兵士は、体重差になすすべも無く地面にへと押し付けられた。


「う、あ゛アぁ」


 四肢をばたつかせるも効果はなく、短刀を腰から抜き取ろうとするが、顔面と喉元を二度に渡り、鉤爪で毟り取られ兵士は絶命した。


 残る完全武装の見張り3人は剣山獣へと相対する。寝入っていた兵士のうち、見張りを交代するはずだった6人は武装をそのままに横になっていた。


 普段は寝苦しく、外気で冷えた防具に文句を垂れている兵士達だが、目の前の剣山獣を見れば自分達が間違っていたと理解するのは容易い。


「盾と武器だけ持て、時間のかかる防具は諦めろ!!」


 アグロッサより素早く下された命令に、兵士は反応する。寝惚けた頭は怒号と鉄臭い鮮血により、瞬く間に切り替わる。


 見張りと交代要員の他に、アグロッサは常に防具を身に付け寝ていた。


 疲労の面から見れば悪手かもしれないが、アグロッサ自ら寝る時に武具を身につけているのだ。見張りの交代要員が防具をつけたまま寝なくてはいけなくとも、文句が出にくい。


 他にも3名、古参や変わり者が防具をつけたまま寝ていた。


 アグロッサを含め、完全武装が13名と軽装の兵士が9名。


「バイザー、部下とククリア班で、“その”剣山獣の相手をしろ。無理はするな。連携して削り殺せ」


 バイザーの班は見張りの交代要員で全員が完全武装をしている。ククリア班は歩哨を担当していた班だが、残りの人数が3人へと減っていた。小隊長は完全武装兵士9人がかりで剣山獣1匹を葬りさるつもりだった。


「メイサ、ダスタイヤー、班員と周囲を警戒しろ。獲物を見つけても牽制のみで距離を保て。ただし、ククリア班達に危害が及びそうな時は、阻止しろ」


 小隊長は部下の様に、冒険者からの報告を軽んじるつもりはなかった。


 EやDランクなら分かるが、獣人を含むBランク中位以上の冒険者の助言を過小評価する程、小隊長は愚かではない。


 報告によれば最低で後2匹いる。冒険者の話では奇襲・釣り出し・陽動までやる魔物だ。小隊長は、二つの班を警戒に当て、予備戦力にして備えるつもりだった。


 周囲の警戒に移った両班に対し、残るは指揮を執る小隊長、マジックユーザー1人、レンジャー3人、魔物使い1人、特殊技能を持つ特技兵であった。


「ラッチェ、犬はどうだ」


 ラッチェと呼ばれた魔物使いは怯えるウルフを撫でながら、答えた。


「怯えています。あの剣山獣にではなく、他の剣山獣に」


 残る剣山獣の所在は最重要だ。交戦中の剣山獣は9人がかりで、仕留めに入っている。分厚い体毛と強固な筋骨で固められた剣山獣も、完全武装した9人の兵士には分が悪い。


 寝起きでパフォーマンスが悪いとは言え、練兵を重ねた兵士だ。心配は要らない


 森の木々の隙間に目を通して行く中、小隊長の耳には、微かに草木が揺れる音が聞こえた。


 鈍い音——例えるなら城壁から砂袋を落としたような破裂音が小隊長率いる隊の真ん中で響く。


 特別な事をしたわけではない。助走をつけて、アグロッサや警戒をしていたダスタイヤー達の視界に入らない高さまで剣山獣が跳躍、自由落下したのだ。


 有り得ない跳躍力だとアグロッサは、驚愕する。幾ら変異種で跳躍力に優れていたとしても、高台からでも飛び込まなければ、あの音の位置から隊の中央まで飛び込むなど不可能だからだ。


 剣山獣の足元には、ダスタイヤーの班員だった物があった。丸太の様な前足により、不自然に首がねじ折れていた。


「離れッ——」


 アグロッサは警告を出すが間に合わない。側にいた2人は、年数の浅い新兵だ。


 年配の兵士が間に入り込み、片手斧を振り下ろすが、剣山獣の鉤爪が僅かに早く横腹を裂き、腹わたを外気へと露出させた。


 年配の兵士が稼いだ2秒ほどの時間を、新兵は生かす事が出来なかった。


 両隣の兵士の内、一人は鉤爪で頭頂部からこめかみを抉られ、もう一人は首元に二本のサーベル状の牙が突き刺さる。両名とも即死だった。


 残ったダスタイヤー始めとする班員4人が剣山獣に斬りかかる。


「目や手足を狙え!!」


 ダスタイヤーは切り込みながら、分析を始める。冒険者から報告にあった巨大な個体。若い2匹との比較とは言え、大きさは倍近い。


 図体だけのデカブツと異なり、俊敏性を維持したまま、巨体に見合うだけの膂力を有していた。


 1人目の兵士が両眼目掛け、ショートスピアを繰り出す。


 突き出た槍先を、頭を下げ、滑るように躱す。落ち葉が巨体に巻き上げられ舞う中、剣山獣の顎門がラウンドシールドを強引にこじ開け、喉元を捉えた。


 水気と破断音を伴い、兵士の首を噛み砕いただけでは飽き足らず、滑り込んだ勢いそのままに、剣山獣は遺体を切り掛かって来た兵士へと叩きつけた。


 ラウンドシールドがあらぬ方向に曲がり、数mも後方に吹き飛ぶ。息はどうにかあった兵士だが、複数の骨が折れ、立ち上がる事が出来ない。


 用が済んだとばかりに剣山獣は、咥えた遺体を一番近い兵士へと投げ付ける。


 兵士のとった行動は、横にずれながら屈むだった。遺体で視線が塞がれる時間を最小にし、再度剣山獣を視認しようとするが、兵士の視界には剣山獣は映らない。


「上だ」


 ダスタイヤー班長の悲痛な叫びで、兵士は理解した。自身の視界に影が被る中、兵士は間に合わないショートスピアを捨て、ラウンドシールドを両腕で保持する。


「あ、ッが!!」


 ラウンドシールドごと地面に叩きつけられた兵士を矢継ぎ早に待っていたのは、両腕の粉砕であった。


 肋骨や臓器は鎧のお蔭で無事であったが、鎧は変形起こし、かつての様な堅牢さは微塵も無い。


 激痛のあまり、陸に上げられた魚のように兵士は暴れるが、ビクともしない。老練の剣山獣は止めを刺そうとするが、ショートスピアが肩に刺さった事により、中断させられた


 剣山獣の肩に命中したショートスピアだが、僅かばかりの傷を作るのみで、槍は抜け落ちた。


「こっちだ、クソ猫がぁあああ!!」


 ダスタイヤーが部下を救う為に投擲したショートスピアであった。ダスタイヤーは班員を軒並み死傷させられ、恐怖よりも怒りが勝っていた。


 剣山獣は何処と無く嬉しそうに咆哮を挙げた。ラウンドシールドを捨て去り、私物のバスタードソードを上段で構えたまま捨身でダスタイヤーは突進をする。


 剣山獣の注意がダスタイヤーに向いたその時、僅かな風切り音の後に、剣山獣の脇腹に、鏃が2本食い込んだ。


 こんな素敵な援護は誰か考えなくとも決まっている、とダスタイヤーは歓喜した。


 猟兵2名による矢だ。躊躇なく斬り込んだダスタイヤーの刃は剣山獣には届かなかったが、左右から飛び出た二つの影は剣山獣を捉えた。


 アグロッサと残るレンジャー兵のサイエンが特大の剣山獣に剣を振り下ろす。剣山獣は回避行動を取らずに間合いを詰める。


 剣速がトップスピードに乗る前に、サイエンのロングソードが剣山獣を斬りつけた。間合いが近い分勢いを殺され、剛毛と少量の肉を剥ぐのみに終わる。


 二度目はないと角度を付けて喉元に突き入れられたアグロッサのロングソードは、剣山獣の牙に受け流された。牙とは思えぬ、金属同士が擦れるような甲高い音が響く。


 続け様にダスタイヤーが上段からバスタードソードを振り下ろす。獣人並みとは言わないものの鍛え上げられ、大柄のダスタイヤーの振り下ろしは、巨躯を誇る剣山獣も嫌がり、間合いを取る。


 仲間から離れた剣山獣にすかさず矢を撃ち込む猟兵達だが、2、3発と矢を放ち終わったところで悪態を吐いた。


「どうなってやがる。あの巨体でああも躱すか!?」


「文句を言わずに、放ちなさい!!」


 滑るように移動を繰り返す剣山獣を矢が捉える事は無い。掠ったところであの剛毛と筋骨だ。直撃以外に有効打とはなり得ないのは、全員の共通事項となっていた。


「それでいい良い、撃ち続けろ。ダスタイヤー、サイエン行くぞッ!!」


 アグロッサの掛け声と共に、二人は剣山獣へと斬りかかる。


 ラウンドシールドを捨てたダスタイヤーと猟兵であり軽装のサイエンでは、剣山獣の猛攻を避けるのが難しいとアグロッサは判断したのだ。


 普段の行軍では散々嵩張り重いのだ。こんな時に役に立たなくて、何時役に立つと言うのか——


 ラウンドシールドを握り締め、体を半身にしたアグロッサの構えは、ロングソードをすっぽりと隠した。


 迫る一体と一人の間合いは互角だった。最速の剣速で繰り出された突きは、前足により弾かれた。


 剣山獣は勢いそのままに突っ込んで来るが、アグロッサはバックステップを踏み後退する。


 この場面での後退は、剣山獣の突破力を考慮すると悪手ではあった。アグロッサには有能な部下2名が控えている。指示を出さずとも両名は即座に行動に移した。


 サイエンは躊躇無く踏み込むと、剣山獣の顔を目掛けて水平にショートソードを叩き込む。


 ショートソードを躱す為に身を捩り、頭を下げた剣山獣だったが、待っていたのは掬い上げるように下段から繰り出されたダスタイヤーのバスタードソードだ。


 脇腹に強烈な一撃が食い込んだが、断ち切るには至らない。剣山獣も黙ってはいなかった。速度を殺す事なくダスタイヤーに体当たりをしたのだ。


 サーベル状の牙を鎧で受けたダスタイヤーだが、体の全てを防ぐ事は出来なかった。騎兵の突進を受けた歩兵の様に、ダスタイヤーは吹き飛ぶ。その場で耐えるのではなく、受け流すための技であったが、それでも強烈だった。


「うっ、はぁ——ごほッ……!!」


 鎧越しに強制的に空気を吐き出されたダスタイヤーは、むせ返りながらも上体を起こす。突進を受けた右上半身は、まともに言う事を聞かない。


 追撃を目論んだ剣山獣だが、暗闇から浮かび上がる剣先の光に、集中を向けた。


 剣の主はアグロッサだった。ダスタイヤーとの衝突で足が緩んだ剣山獣に再び、間合いを詰め突きを放ったのだ。


 今度は避けきれず、突きは剣山獣の右前足を傷付けた。まだまだ動かせるだろうが、決して無視できる傷では無い。


 そこへ手の空いたサイエンが牽制を仕掛けてくるのだ。深追いすれば致命傷を受けるのは、老練な剣山獣は理解していた。


 更に狙い澄ませた様に、矢が飛来する。気配を殺し、側面へと回り込んだ猟兵2人の仕業だった。1本は剛毛により逸らされたが、2本目は、胴へと深々と刺さり込む。


 剣山獣は忌々しそうに唸り声を上げるが、休ませるほどアグロッサ達は間抜けでは無かった。

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