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異世界デビューに失敗しました  作者: トルトネン
第六章 ローマルク帝国 マグリス独立戦争
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第十三話 対魔討伐派遣隊

 小さな村に不釣り合いの音が響く。規則正しく地面を踏みしめる低い音、威嚇するように擦れる金属音。


 槍を斜めに右肩に寝かせ、背中には背嚢と腰には雑嚢、シールドを掴んだ腕は、地面へと向けられている。


 兵士の汚れた靴に反して、装備や気の緩みは無く、それなりの距離を踏破したにも関わらず、体力に余力を感じさせる。


 統一された装備、一糸乱れぬ行進に日頃の修練が見て取れた。その正体はローマルク帝国の正規軍だ。


「国境線にいた部隊よりも訓練が行き届いているな」


 横に並んだハンクが答えた。


「ああ、この地域の魔物討伐の専門部隊だろう」


 リュブリスで嫌になる程見たローマルクの歩兵隊と姿が被る。当然と言えば当然、所属は西部軍集団だ。東部、西部、南部、北部、そして中央軍集団にはそれぞれ所属を示す部隊章が存在する。


 リュブリス攻防戦では、西部軍集団だけではなく中央軍集団も入り混じっていたが、寝ても覚めても斬り合いを演じた相手だ。二つの軍集団の区別は嫌でもつく。


 隊列の中央には荷車を牽引した馬が続く。俺達の荷馬車のように、寝泊りを考慮した作りではなく、兵士の装備や食料だけを積み込む事を目的として作られていた。


 小隊を構成する兵士の中でも特に変わっているのは、魔物使い、そして歩兵よりも軽装装備の三人組だ。


 魔物使いが連れているのは、探索用のシルバーウルフだ。手には首輪へと繋がる太い鎖が握られている。


 シルバーウルフを飼い慣らすには幼獣からの育成に加え、魔物使い自身の訓練と才能が必要だ。


 労力に見合うだけの価値がシルバーウルフにはある。嗅覚に優れ、一日十キロも難なく走破するタフさは、狩には持ってこいだ。


 シルバーウルフを従属させた魔物使いは、魔物狩りや盗賊の討伐にも重宝される。冒険者でもレンジャーやスカウトと並び、探索の要となり得る魔物使いが、狩りで溢れる事はない。


 軽装の三人は、各急所をカバーできる胸当てや手甲類は付けているものの、通常の歩兵の様な防具類は身に付けていない。


 肩から矢筒と弓、ベルトに吊り下げたショートソードは正規軍よりも冒険者に近い。恐らくは森林等に長けたレンジャー達だろう。


 村に到着した歩兵隊は、短い歓迎の挨拶もそこそこに、民家の一軒を借り受け、設営を始めた。


 家の中に次々と荷物を運び込み、杭とロープで、外に天幕を建てる。


 暫く観察を続けて、部隊の規模が判明した。荷馬車が2台、歩兵の数は40人程度の小隊だ。


 魔物の討伐としてはかなり大掛かりだ。冒険者で40人もの冒険者が討伐に参加するとなると、獲物は間違いなくBランククラスの魔物の討伐だ。


 狭い村だ。お互いの存在には嫌でも気付く。俺が観察しているのだ。同様に、観察や興味を向ける兵士が討伐隊側に居たとしても、不思議ではない。


冒険者が陣取る納屋を若い四人の兵士が眺めていた。好奇心で様子を見に来たのだろう。


 そこまでは良いが、遠慮もしないで思った事を口にしていた。


「これだけの冒険者がいて、待機していただけか?」


「やめとけ、可哀想だろ。相手は剣山獣だ。並の冒険者じゃ歯が立たんだろうに」


「剣山獣ね。確かに手強い相手だが……報告にあった巨大な剣山獣は、幼獣を相手にしていたから、成獣が巨大に見えただけじゃないのか」


 強行軍に近い速度で村まで駆けつけた所為で、不平不満が溜まっているのかもしれない。心情は理解は出来るが、随分と声が大きく、行儀の悪い兵士達だ。


 兵士の“励ましの言葉”を聞いたカイエランが地面へと唾を吐き、舌打ちをする。


 わいわいと盛り上がる兵士達に、一人の男が近寄って行く。規格と機能を優先した一般兵の鎧よりも、装飾などが施され、外見に拘った作りの鎧だ。


 小隊クラスの指揮官が身に付ける鎧であり、リュブリスの森で対峙した中でも何度か見かけ、実際に手合わせもした。


 例に漏れず手練れ揃いで、戦闘のたびに苦労させられたのが、苦い記憶で蘇る。


 兵士達は近づいて来る小隊長に気付き慌てて姿勢を整えた。


「何をはしゃいでる。お前らはピクニックにでも来たのか?」


「いえ……決してその様なつもりは」


「油を売っていないで、しっかりと休息を取れ。明日からまた嫌になる程、疲れる事になるぞ」


 リュブリス所属の冒険者ギルドの教官を彷彿とさせる凄みのある声だ。叱責を受けた兵士達は、設営された陣地へと、そそくさと引き返していった。


「部下の躾が悪くてすまないな。西部軍集団、第五対魔討伐派遣隊のアグロッサだ。確認したい事が幾つかある。代表の冒険者と商人を呼んでくれないか」


 代表となると規模と等級から言えば商人のデニス、Bランク中位のレラウだ。


「デニス、レラウ、討伐隊の指揮官が話しがあるそうだ」


 それぞれ納屋と荷馬車から現れた二人は、短い挨拶と自己紹介を始めた。


 騒ぎを聞きつけた冒険者達がぞろぞろと周囲に集まって来る。


「我々が到着するまで村に止まってくれ、感謝している。お陰で“村には”被害が出なかった」


 引っかかる言い回しに、レラウは眉をひそめた。


「早速本題で申し訳ないが、この隊商にはもう一台、荷馬車が居たか?」


「積荷や構成員の関係で、先に離脱した別のパーティがいます。道中すれ違ったのですか」


 先に離脱したリブロフスキーの馬車で間違いはないだろう。幾つかの分岐点はあるが、ここから一番大きな街までは、ほぼ一本道だ。


「ああ、すれ違った。問題は、半壊した血塗れの馬車だけが路肩に打ち捨てられていた事だ。馬も人も居らず、夥しい血だけが残され、血痕は道外れの森まで続いていた」


 話を聞いていた冒険者達は全員が絶句した。間違いない。剣山獣に襲撃されたのだ。リブロフスキーが村を出て単独になるまで、奴らは待っていたに違いない


 生存者が居たかなんて間抜けな質問をする奴は、襲撃のあった夜から“残っていない”


 村への襲撃が無かったのは、有力な冒険者が駐在していると判断したからか——リブロフスキーの危険を避ける為の代償が、己の命になるとは、随分高くついてしまった。


 冒険者達は一夜の死闘を共にしたパーティの死を前にして、一斉に黙り込む。


 アグロッサは少しの間を開けて話を続けた。


「残った冒険者のランクは?」


 レラウが残ったメンバー達に目をやり、少し考え込んだ後に返答をした。


「Bランクが4人、Cランクが3人、Dランクが2人だ」


 アグロッサは驚き、聞き返した。


「Bランクが4人?それは隊商の護衛にしては破格だな。それだけの戦力なら道中で奴らに襲われても戦えるか——」


 レラウは俺たちの方に目を向けると、微かに微笑み頷いた。


「ああ、頼もしい隣人達がいる間は大丈夫だ」


 アグロッサは冒険者一人一人を見渡し、ゆっくりと口を開く。


「道中の件も有り、村を護衛してくれた隊商を、無防備のまま送り出すのは気が引けていたが、心配は無いようだ。後は我々の仕事だ。任せてくれ」


 アグロッサは正規軍が到着した今、冒険者が留まる理由が無いと考えているようだ。


 その後も話し合いは続き。数と遭遇した場所等、思い出せる情報を全て伝え終え、これ以上の連絡事項が無いと判断したアグロッサは間借りした民家へと戻って行く。


 アグロッサの背中を見送り、俺達も撤収の段取り話に入った。負傷者も傷が塞がり、動ける程度には回復した。


 これはリアナの回復魔法によるものが大きい。回復魔法持ちが居なければ、負傷者を動かすのは到底、叶わなかった。


 負傷者に関しては、順調であったが、一度だけ問題が起きた。


 治療を受けた冒険者の一人が、何処まで冗談か分からないが『リアナさん、君は僕の天使だ。人生を賭けて幸せにするから、結婚してくれないか?』と求婚を申し出たのだ。


 対するリアナは申し訳なさそうに『ごめんなさい。あの、顔も体もタイプではないので、無理です』と真面目に断られ、パーティメンバーの中で、笑い話となった。


 この話の一番の被害者は、横で二人の会話を聞いていたロウスレイだ。


 ロウスレイは剣山獣に鎧の上から袈裟斬りのように、爪で肩から脇腹まで切り裂かれ、重症だった。


 リアナの回復魔法で、一命を取り留め、その後も薬草などの治療で歩ける程度に回復していた。


 それが求婚のやり取りを目にして、盛大に笑ってしまったせいで、傷口が開き、再びロウスレイは生死の境を彷徨う。


 慌てたリアナ達が叫び、剣山獣の再来かと、冒険者のみならず、村中が恐怖に陥ったのだ。


笑い話を思い出し、人知れずニンマリと口角を上げる。


紆余曲折あったが、ローマルク兵が到着した今、俺達の役目は終えた。幾度となく殺し合いをしたローマルク軍とは言え、個人や部隊には恨みはない。


 願わくば、犠牲者を出さずに剣山獣が討伐される事を祈るだけだ。


 記憶にこびり付いた巨大な剣山獣を思い出し、《生存本能》が頭の中で警告の早鐘を打つ。


 あれは並の魔物じゃない。リュブリスダンジョンの喜怒哀楽のゴブリン、ヘッジホルグのオーガ、これらと並ぶ異質で通常の魔物とは一線を超えた変異種だ。


 村を出る前に、再度強く警告をしよう。余計な世話かもしれないが、討伐に参加できず立ち去る身としては、情報を与える事しか出来ないのだから——







【名前】シンドウ・ジロウ

【種族】異界の人間

【レベル】50

【職業】魔法剣士

【スキル】異界の投擲術(特殊投擲術)異界の治癒力(特殊治癒力)暴食(七つの大罪)、運命を喰らう者、上級片手剣B-、上級両手剣B、上級火属性魔法B、中級水属性魔法A、 奇襲、共通言語、生存本能

【属性】火、水

【加護】なし

今年はあと4、5回更新する予定です

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