第十一話 冒険者の始まり
俺達を乗せた馬車は早朝に”都市”に着いた。どうやら街に行くものだと思っていたが大きな間違いだったらしい。
「でかい、随分立派な城壁だな」
「そりゃそうだ。ここは城塞都市リュブリスだぞ」
ハンクに聞くところによると、その都市の名前はリュブリス。ローマルク帝国と未到達地域に睨みを利かせるアルカニア王国の偉大な壁だそうだ。都市の全域を囲む10mを超える城壁、南部の山を天然の要害として、東部には王国騎士団が駐屯している城がある。さらに城壁の中に川が通っているため、水資源が豊富で篭城戦にも強いらしい。
俺達の馬車は、北部からの城門から入るので、騎士団の城も南部の山もはっきりと視認することが難しい。城門手前にある検問場で市民以外の人間は、入市税を払うが、今回は隊商扱いになるので料金は割高になるそうだ。早朝とあって混雑もせず手続きが行われる。人数、名前、目的を伝え、城砦都市に入ることが出来た。
俺達は、二、三日ここに留まる予定のアンギルさんと同じ宿を取ることになっている。本来であれば昨日届ける予定だったので、アンギルさんは香辛料を搬入先に届けなければならない。
「私の友人の商人がいるから装備の買取を聞いてみるといい」
そう言って、アンギルさんが知り合いの商人に紹介状を書いてくれたので、ハンク達とその店を訪ねた。
メインストリートから外れたその場所は、冒険者や傭兵向けの店らしく、中古の武器や防具が並んでいた。駆け出しの冒険者や傭兵が中古品は安いのでよく買いに来るらしい。俺達が店内に入ると冒険者が数人いた。
「俺は元商人だ。ここは任せてくれ」
ハンクがアンギルさんの紹介状を見せて、早速交渉に入る。数が数なので鑑定に数時間かかるそうだ。ここはハンクに任せて俺達は、守備隊の受付と商会の窓口を回り、手続きを済ませることになった。
まず、都市中央部に建物を構える守備隊の本部に俺達は向かった。道中では亜人と呼ばれる人たちの姿も多く見えた。獣人やエルフなどを始めとする亜人は、潜在的に優れた身体能力や魔力を持つことから重要な戦力になるらしい。
(アーシェのあの怪力もそういう仕組みなのか)
「その他にも亜人には、加護持ちが多い。特殊な例だと、一族全員加護持ちという事例もある」
前から思っていたが、アルフレートは人に物を教えるのが好きらしい。
「例えば、勇者の末裔とか?」
加護と言えば、勇者だと真っ先に浮かぶ。
「正解だ。あの一族はまさに典型的な例だと言える。あとはバルガン国家群の方にいる森のエルフやダークエルフなどもそうだな」
「エルフにも種類があるのか」
森のエルフというのがどういった存在かは知らないが、ダークエルフと言えば、褐色の肌を持つエルフだ。
「ああ、エルフにはいくつかの里がある。エルフは基本的に排他的だが、森に住むエルフは特にそれが顕著で、彼らの森に踏み入ると魔物でも生きて帰れないぞ」
「そうなのか、しかし、加護てのはどういう仕組みなんだ」
魔法などは聞いていたが、加護の事を聞いていなかった。
「代表的な説は、地上に直接干渉出来ない神々が自分の流派や気に入った者に加護を与えるらしい。個人差はあるが一人の者にそう多くの加護は、与えられないそうだ」
「つまり加護は神がくれるものだと言うのか」
アルフレートは”惜しい”と言った顔で否定する。
「半分正解だ。神々の他にも妖精や龍などが加護を与える場合もある。こちらの方は、直接干渉出来るからタチが悪い」
(そう言えば、俺が持つ《異界の投擲術》と《異界の治癒力》はどういう扱いになるんだ。元の世界ではあんな能力持っていなかったぞ)
「加護じゃなくてスキルだけを与えるとかは出来るのか」
「普通は、加護を貰ってスキルが付くらしい。ああ、でも確か、勇者は加護無しで二つの願った力が手に入ったと聞いたことがあるな。最強の肉体と雷の力だったはずだ」
俺は気付いてしまった。《異界の投擲術》と《異界の治癒力》は俺が望んだから与えられた【ユニークスキル】なのではないかと。
確か昨日襲われた時に”こんな理不尽な世界で殺されてたまるか、これがこの世界の運命だと言うなら、俺はこの世界の常識を”投げ出して”でも抗ってやる”みたいな感じで必死に願ってしまったのだ。その結果が《異界の投擲術》や《異界の治癒力》だとしたら――
(とんだ選択ミスだろ、これ)
もし、願いが本当に叶っていたなら最強の肉体や最強の魔法を願ったら手に入っていたのかもしれない
。
一応 ”最強の肉体が欲しい”そう願った後にステータスを開くが、何の変化も無い。
もうスキルの割り振りはできないのか、それともそんな話は存在しないのか分からないが、これだけは言える。”神のみぞ知る”と
そんな話をしながら、俺達は守備隊本部の受付に着いた。
守備隊の受付では、懸賞金を貰う前に盗賊の襲撃について事情聴取が行われた。事情聴取と言っても高圧的なものではない。逃亡した盗賊の数やその他いくつか聞かれただけだ。守備隊も盗賊団が討ち取れればいいらしい。正式な書類に派遣された責任者の署名、を確認した受付は、袋に金貨145枚、145Gを五袋に小分けして渡してくれた。
続いてリュブリス商会支部を訪ねると、受付で話をすると個室に案内された。その後、担当者がやって来る。そうとう高価な積み荷を守ったということで、謝礼として350Gを貰う。そこでも五袋に分けてもらった。
手続きや、移動であれから数時間以上が経っている。日の位置も変わっていた。
ハンクが交渉をしている店に戻ると、涙目になっている商人がいた。どうやら商人はハンクにやられたようだ。
「どうだった」
アーシェは買取結果が気になるらしく、店内に入ると真っ先にハンクに聞いている。
「剣、槍、その他宝石など数百点で338Gだった。もう少し値段がついてもおかしくないんだがなぁ」
そう言って、ハンクは商人を見る。
「勘弁して下さい……」
商人は疲れきった様子である。
店を出た後、流石に大金をそのままにしておく訳にもいかないので、お金を預けにいくそうだ。こんな世界にも銀行があるのかと思ったがどうやら違うらしい。冒険者ならギルドで手続きすればGを預けることが出来るらしい。アーシェやハンクはギルドカードを失っているので、再発行できるそうだ。ギルドカードは登録料は50Sらしい。特殊な材料と加工でギルドカードを作るため、再発行は3Gもかかるそうだ。金貨、銀貨、銅貨のレートは金貨1枚=銀貨100枚=銅貨10000枚らしい。
アルフレート達がGの入金、アーシェとハンクがギルドカードの再発行を行うそうだ。ハンクやアーシェの勧めもあり、冒険者として登録することになった。
受付の禿げたおっさんは、登録マニュアルが書いてある紙を見せながら説明を始める。話を聞き20分程度で実際の手続きとなった。特殊な魔法石と血液から魔力の波長、魔力パターンを読み取るそうだ。魔力パターンは一人として同じ者がいないため、ギルドのほかにも騎士団や商会などでも使用されているらしい。
俺は登録したてということで最下層のFランクだ。上はSランクまであるそうだが、名誉職らしく俺には関係ないらしい。
書類と血と魔力を提出した俺はめでたく冒険者となった。出来立てのギルドカードで五等分した167Gの内、160Gを振り込んだ。ちなみに注意しなければならないことがあり、振り込んでから一年以上振込みや引き出しがないとGは全て没収されるらしい。
予定は全て完了したので、俺達は一旦宿に戻る。今晩のアーシェ達やアンギルさんとの食事が楽しみだ。
お金のレートを
金貨一枚=銀貨百枚=銅貨一万枚
金貨一枚=銀貨十枚=銅貨千枚で悩みましたが上にしてみました
1G金貨一枚、1S銀貨一枚、銅貨1C銅貨一枚