第三十二話 集中砲火
「見えた。研究所だ」
遠目から元研究所が視認できた。土ぼこりが風によって流されたのか、全体像が良く見える。威風堂々としたかつての姿は今はなく、そこにはあるのは広域に散らばった瓦礫の山。研究所周辺からはあれだけいたウンディーネも人も消え失せていた。
「誰もいない……?」
生存者が皆殺しにされたのではという疑念が浮かび上がって来るが、瓦礫の隙間に幾つかの人間の死体を確認したことにより、払拭された。
生死問わずに人の身体を貪るウンディーネが食い残しをするとは考え辛い。生きた者は勝手に動く面倒な食料、死んだものは動かない食料という認識を持つウンディーネが、動かない食料を放っておくはずがない。頭を懸命に動かし、思考を巡らせる。素直に考えれば《魔力の杖》本隊による分離体の殲滅が行われたに違いないだろう。
正解は馬車の側面を叩く騎兵により齎された。
「一帯は《魔力の杖》が制圧した」
短い言葉だが、それだけで納得することができた。予想通り《魔力の杖》が居残る精霊もどきどもを殲滅したのだ。
「……冒険者、それは通信用の魔道具か?」
騎兵が指差したのは研究所の地下で手に入れた通信魔道具だ。
「ああ、そうだ」
「それで本隊に連絡を取れ、我々は任務を達成した。これより退却する」
その言葉は俺ではなく馬を失い、馬車に放り込まれた《魔力の杖》構成員に向けられたものだ。
「おい、待て俺達はどうなる?」
首だけで振り返った騎兵は言った。
「逃げろ」
「ふざけんな。もう逃げてる!!」
満足の行く回答を得られずに俺は声を荒げるが、警護についていた騎兵達は馬車から距離を放すと、一斉に散らばった。
幾体かの分離体が騎馬を追ったが、大多数の分離体と本体はそんなものは眼中に無いとばかりに馬車を追走したままだ。
「ああ、まずい。まずい。まずい!!」
声を上げたのは馬車に取り残された構成員だ。火傷の治療を優先していた彼女は慌てて馬車の淵にしがみ付き、悲痛な声を上げる。
「逃げ遅れた……」
観念したように床へと座り込んだ構成員にニコレッタが声をかけた。
「何が始まるの?」
引きつった顔で彼女は言った。
「《魔力の杖》による砲撃……簡単に言えば百人分以上の火属性魔法が連続して断続的にここに投射される。とにかく本隊に連絡しないと。魔道具を借りるよ」
魔道具についた目盛りやスイッチを弄り、一刻も早く連絡を繋ごうとしていた。そんな中で構成員は一言、俺達に投げかけて来た。
「お祈りは済ませた?」
エイグナスのいる丘の上からは巨大なその姿をはっきりと視認することができた。多数の人員による懸命な作業に反して、何門かの砲の準備はとうとう間に合うことは無かった。
けれど、エイグナスを始めとする構成員は慌てていない。専門の整備士も人数が足りず、集団運用もまだ未完成なのだ。全門使用可能な状態にできなかったのは確かに痛いが、現状はベストではなかったかもしれないがベターではある。
「エイグナス支隊長、使用可能の火砲は17門です」
副長から報告を受けた表情を変えることなく、言葉を返す。
「わかった。十分だ。……しかしあの研究所が壊滅とは、世の中分からないものだ」
エイグナスは前回の大規模マジックハザード事故時には《魔力の杖》に在籍していなかったが、それでもあの事故は今回以上に凄惨を極めた事は良く知っている。研究所には人間どころか、虫一匹すら残って居なかった。原因も特定出来ずに、国内最大級の遺跡を封鎖することになったのだ。責任を追及されて議会メンバーでさえ何人も失脚する大騒動になった。
前回に引けを取らない程の人災だが、今回は警備隊の初動が早く貴重な人員と機材の輸送には成功していた。エイグナス達が到着する頃には、警備隊の主力はアルカストラネとウンディーネによりすり減らされ、壊滅と言っても過言ではなかったが、失ったものの大半は時間を掛ければ代替可能なものだ。
「アルカニアとローマルクの潰し合いに笑っていた議会も、これには苦笑いすらできない」
エイグナスも大国の衝突による余波に備える為に両国の国境線に部隊を展開させていたので、ある程度の情報は耳にしていた。今からおよそ二ヶ月前にアルカニア王国とローマルク帝国間で城塞都市リュブリスを巡る一連の戦いは、両国に大きな傷跡を残した。激戦の末に撤退したローマルク帝国軍の損耗は激しく、6万から構成される西部地方軍集団は3万もの兵員を失い、中央軍集団から派遣された緊急展開群もおおきな痛手を負った。10万もの兵の死傷者は優に4万は超えるというのが、ヘッジホルグ共和国軍での通説だ。
対するアルカニアの受けた打撃も並みのものではなく、潜り込ませた密偵や冒険者からの情報を纏めると、国境から城塞都市まで張り巡らされていた防衛施設は兵士もろ共粉砕され、城塞都市も陥落寸前まで痛めつけられたという。アルカニア王国の戦傷者は2万を越え、リュブリスの防衛構想どころか、国の防衛体制すら変えるという情報がエイグナスの元に流れていた。
そんな少し前まで厄介な大国の自滅に拍手を送っていた議会メンバーも今は自分の立場の保身と財産の確保に駆けずり回っている。
「護衛に出していた部隊が避難しました。損害は6名が負傷、1人が撤退不能だそうです」
「撤退不能? 殉職でなくてか?」
また不思議な言葉を聞かされたエイグナスは自身の正面に立つ副長に聞き返した。負傷を負いながらも撤退は理解できる。しかし、殉職ではなく撤退不能とは何か分からなかった。
「どうやらウンディーネごと友兵が魔法を受けて落馬後、冒険者の荷馬車内に拾われたようです」
「ああ、つまりまだ馬車の中にいるのだな。死ななかっただけ幸運だ。これからはその幸運が続くか微妙だが、多分、恐らく、きっと、死にはしない……だろう」
上官の曖昧な態度に副長は、取り残された構成員に対して内心同情の言葉を投げかけるが、直ぐに思考の外に置いた。丘の上からは迫る精霊もどきがはっきりと視認できたからだ。10分、15分もすれば丘まで辿り着くような距離である。
俄かに丘の上が騒がしくなった。《魔力の杖》構成員はまだ冷静だが、研究員、冒険者の動揺が激しい。優秀から並の冒険者の多くは街の治安維持、研究所内の鎮圧に駆り出され、死んだかこの場にいなかった。ここにいる冒険者の多くは輸送や採取など、便利屋の側面が強い食うに困った冒険者が多い。
ゴブリンやワイルドボアなどDランククラスの討伐経験はあっても、それは集団戦闘により共同で討伐したという実績に過ぎず、Aレート以上であろうウンディーネもどきを前にして、動揺するなというのは酷な話だ。
崩れないでいるのは大陸最強の魔法使いの集団である《魔力の杖》が居るからであった。そんな事情を分かっているエイグナスは、早めに勝負に出ることにした。距離というのはそれだけ安心感がある。ナイフで人間を刺すよりも剣で刺すほうが心理的には間違いなく楽だ。剣よりも槍、槍よりも弓、と距離が開けば開くほど人間は落ち着いて戦うことができる、というのがエイグナスの持論だ。
「副長、斉射だ」
「いきなり斉射ですか? 精度が悪くなりますが?」
メリット、デメリットを考えた副長がエイグナスに確認を取った。
「あんなに馬鹿でかいんだ。一発くらいは当たるだろう。そもそも急ごしらえの代物だ。多くは期待できんし、兎にも角にも数を撃つしかない」
そう語るエイグナスの視線はどこか落ち着きの無い研究員や冒険者に向けられている。
「分かりました。各砲準備は整っているな? 念入りにあのデカブツに照準を合わせろ」
副長の指示で職員や構成員が慌ただしく動き回る。そしてその時は来た。
「てっぇえええ!!」
エイグナスの合図と同時に、一斉に火砲が火を噴いた。腹の底まで抜ける衝撃が辺りにいた者たちに伝わる。《魔力の杖》の構成員、ホルムスのような火器部門の研究者なら砲撃に耐性があるが、別の部門の研究者、日雇いで雇われ、言われるがままに作業をしていた冒険者たちは驚天動地の事態だった。
中には腰を抜かす者や失神するものまでいる。何せ、目の前の奇妙な筒からは炎と共に魔物の咆哮のような音が響いたのだ。
「な、なんだぁ!?」
上ずった声で、腰を抜かしてしまった冒険者は、あわわぁ~!と言わんばかりに地面を這って逃げようとしている。こうなると知っていたホルムスはただ立ち尽くしてその光景を見ていただけだが、その背中に屈強な冒険者が隠れたのだから、ホルムスはもうたまらない。
そんな喜劇のようなやり取りを見ていたエイグナスは大笑いした。
「はは、良い反応だ。そうでなくてはいけない。それにしてもホルムス部門長は研究屋なのに肝が座っておられる」
「地下では随分な体験をしましたから、このぐらいじゃ驚きもしませんよ」
「研究員にして置くのはもったいない度胸だ。みてくれが良くとも土壇場や修羅場で怖じけづく者というのが実に多い。……そろそろか」
怯える冒険者を見て、子供のように嬉々として喜ぶエイグナスを尻目に、副長は砲弾の先を見つめていた。
「だんちゃぁああぁああくッ!!」
巨大なウンディーネもどきの周辺に幾つもの火柱が立った。観測員が大声で着弾を知らせる。
「直撃弾無し!」
直撃弾こそないものの、その威力は圧倒的の一言、我が物顔で辺りを荒らしていたウンディーネが初めて爆風により足を止め、のた打ち回った。恐らく何が起きているのすら理解していないだろう。
「ほーら、呆けていないで次弾を装填だ。全弾命中でも誰も文句は言わん。金食いと煩い奴らを黙らせろ。殲滅だけでは生温い。圧倒しろ。肉片すら残すなよ」
エイグナスは思い出したように副長に尋ねた。
「あー、そうだ。冒険者は吹き飛んだか?」
「いえ、逃走を続けています。元気なようです」
「なぜ分かる?」
「さきほど通信魔道具で連絡が、エイグナス支隊長とお話があるそうです」
不思議に思ったエイグナスだったが、納得した。
「なんだ。通信用の魔道具があったのか、持ってきてくれ」
通信魔道具を部下に運ばせたエイグナスは受話器に向けて喋りだした。
「ああ、あーあ、こちら《魔力の杖》支隊長のエイグナスだ。……吹き飛んでいなくて良かった。砲撃を続けるからこのまま逃走を続けて……ぬあ!?」
会話を続けていたエイグナスが間抜けな声を上げ、慌てて受話器を耳から遠ざけた。
「どうなさいました?」
エイグナスは肩を竦めて答えた。
「無線越しに叫ばれたよ。『俺達は生き餌じゃねぇえ』とな」
受話器からは暴言一歩手前の声が聞こえてくる。次第にその声は暴言その物へと切り替わった。
「我々も最善を尽くす。大丈夫だ。多分、恐らく、まあ、当たらないから。万が一の時は立派なお墓と家族にお金が入るぞ!! では」
一方的に通信を切ったエイグナスは砲手達に呼びかける。副長も逃げる冒険者が気の毒にはなったが、今更どうすることもできない。心の中で同情と謝罪を呟き仕事へと戻る。
「さて、当てるなよ。仲間ごと吹き飛ばしたとなると、寝覚めが悪くなる」
「修正完了」
初弾でだいたいの位置は分かった。今度はより正確にウンディーネの周囲に砲弾を集中させると砲撃手は意気込む。
「修正を完了したものから、各自、好きに撃て」
「そこ!! 筒の先には近付いちゃいけない!! 鼓膜が破れ、肌が溶けるぞ!? あー、装填手、指に気を付けるんだ。重いかもしれんが教えた通り手の平で押し込め。尾栓に巻き込まれて指が切断されるぞ!!」
ホルムスは不慣れな作業員に指示を与えながら走り回る。デスクワーク中心の自分が部門長になり、現場の作業員を指揮する羽目になるとは誰が想像できるだろうか。
観測員からの情報を元に、砲の角度を微調整した砲手は、レバーを引いた。砲座が後退し、人の腕程度はある薬莢が吐き出される。慣れてきたのか装填手は直ぐに次の射撃の準備に入った。
次々と吐き出される砲弾の一つが、ウンディーネの右手を捕らえた。ドプンッと食い込んだ砲弾がその機能を全うする。
「ほほう。あの巨体でも流石に応えるようだな」
直撃を食らったウンディーネの右手は千切れ飛び、スコールのような水が辺りに降り注ぐ。
「一発一発が金塊のような値段の代物。そこに魔力を充填するのはヘッジホルグでも最精鋭の魔法使い。奴には勿体無い逸品です。本来ならばアルカニアの騎士団かローマルクの中央軍集団にお披露目といきたかったですが」
副長の不満そうな顔を見たエイグナスはそれを笑い飛ばした。
「騎士でも、軍人でも、スライムでもなんでもいい。ここ数年満足に実戦ができずにカビが生えそうになっていたんだ。さぁ、遠慮はするな。各自好きに撃て。どれだけ使い込んでも議会から小言は無し。自分達の足元まで危なくなって空前絶後の気前の良さだ。手回しが早い早い。いつもこのくらいだといいのだがな。撃って撃ちまくれ!! 砲身が焼けても気にするなッ!!」
17門の砲を支えるのは100人もの魔法使いと200人の作業員。他国ならば一人一人が教官を勤めてもおかしくない実力と知識を有している。エイグナスは魔力を充填させた砲弾の装填を行う部下を見て上機嫌になっていた。
ハッピートリガーと化したエイグナスの横で副長は静かにため息を吐いた。
大陸最強と名高い《魔力の杖》は上も下も変人が多い。それを纏め補佐しなければならない中間管理職達は何時も頭痛に悩まされている。ましてや常人の感性を持つ副長は苦労が絶えなかった。
「ああ、転職したいな」
ため息混じりの副長の呟きは、砲音に掻き消えた。
「おいおい、冗談だろ……巻き込まれるぞ。走れ、走れーー!!」
宣言から程なくしてそれは訪れた。大気と大地を震わせ、対象を徹底的に破壊する攻撃。
空気を裂くような風切り音が辺りに響くと、ウンディーネの周囲が一斉に爆ぜた。砲撃により巻き上げられた地面が砂埃となって落下してくる。その中の一発が俺達のそばにも着弾するとけたたましい音と共に爆発を起こした。炎によって熱せられた空気が熱風となって肌を炙る。
興奮した馬を制すのにテルマは必死だ。初めての攻撃に精霊もどきの動きは停止した。今までその特性と巨体によりあらゆる攻撃をあしらってきた本体にとっては未知の攻撃に対処がわからないのだ。
「あー私本当についていないわ。何度も死にかけるし、化け物には追いかけられるし、触手が出るようになるし、最後には吹き飛ばされてバラバラになるのかしらね」
遠い目をしたニコレッタがアホみたいな青空を見つめていた。
「吹き飛ぶ時は一瞬だよ。ドタバタしてもバラバラになる確率は変わらないんだ。雑談でもしながら逃げるかい、その方が有意義じゃないかと思うんだが?」
ネジどころか、幾つかの頭の部品が壊れたクロフトを無視して、俺は通信具を持つ女性の元へ駆け寄る。
「おい、あの馬鹿みたいに地面ごと俺達を耕そうとしている《魔力の杖》の仲間と話してるのか?」
「あ、うん」
残された隊員は恨み辛みを受話器にぶつけていたが、それに俺も乗っかった。
「通信具を寄越せぇえええ!! おい、聞こえるか、こちらは冒険者のシンドウだ!! お前らが吹き飛ばそうとしている冒険者達の一人だよ。指揮官出せ!!どうなってるんだよ。聞いてるか、おい!?」
『お、落ち着きたまえ』
相手の通信手はこちらを宥めようとしているが、頭上には砲弾が落下してきているし、掘り返された土が降り注ぐ中で誰が落ち着けるものか。砲撃を食らいながらも精霊もどきが俺達を追い掛けて来るせいで、砲弾が減るどころか、寧ろ増している。
数分通信手に絶叫と爆音混じりの文句をぶつけていると相手が代わった。
『ああ、あーあ、こちら《魔力の杖》支隊長のエイグナスだ。……吹き飛んでいなくて良かった。砲撃を続けるからこのまま逃走を続けて……ぬあ!?』
「ふざけんなぁあああああああ!!!!! 俺達は生き餌じゃねぇえ。釣り餌か何かと思ってるのか!? 化け物に追いかけられるんだ。囮くらい喜んでやってやるさ。だがな、お前らは説明不足過ぎるんだよ。捨て駒だとしてももう少しやる気を出させるような方法を考えろ。だいたい、研究所地下でもな——」
研究所地下からの鬱憤がとうとう我慢しきれずに爆発した。考えられる限りの鬱憤や不満が口から溢れ出てくる。
「聞いてるのか? もしもし!?」
『我々も最善を尽くす。大丈夫だ。多分、恐らく、きっと、当たらないから。万が一の時は立派なお墓と家族にお金が入るぞ!! では』
「おい、待て……おい!? あのくそったれの早○野郎ッ。切りやがったな。人の話は最後まで聞けよ!! なんなんだ。全く!!」
「お、落ち着いてシンドウ」
「ひぃいいいいい何!? シンドウがとうとうイカレちゃったの!? それともまさかまたあの虫じゃ!?」
俺が叫んだせいだろう。ニコレッタが俺の肩を抑え、運転していたテルマまでも怯えた様子でこちらに顔を向けている。
「もう大丈夫だ。落ち着いた!! どうせ逃げるしかないんだ。走って走って走りまくるぞ。進路は《魔力の杖》がいる丘の上だ。俺達にここまでさせたんだ。精霊もどきを仕留めきれなかったら自分達がどうなるか分かるだろう」
後ろからはあれだけ俺たちを苦しめたウンディーネが声にもならない悲鳴が響く。それでも足を止めずに追い掛けて来る様は、最も嫌で悍ましいストーカーだ。
足からは一部の分裂体が逃走を試みているが、降り注ぐ砲弾の中で無事に済むはずがない。纏めて砲撃の餌食となり、水溜りすら残さず死滅した。
残るは巨大な本体のみだが、これが大きさに見合うだけのしぶとさを発揮している。数百を超える命と研究所の動力を食らい存分に成長した特大ウンディーネは腕が千切れようが、直撃弾で身体の一部がゴッソリと持って行かれようが気にせず猪突猛進繰り返している。
天からはゲリラ豪雨のように巨大な雨粒が降り注ぎ、荷馬車の幌を叩く。
砲弾が風を裂く音の後にウンディーネの伸ばしていた手が千切れ飛んだ。爆発によって生じた熱風が皮膚をちりちりと炙る。
切れ間無く砲撃が続き、俺たちの全身を激しく揺らす。
丘からは砲煙と火炎が並んで噴射されていた。ウンディーネもそれに気付いたのだろう。自身の命を削り続ける忌々しい怨敵と豪華絢爛な走るフルコースである俺達を一度に仕留めようと大口を開け、手を振り回している。
「ひぃいいいい、なんか、怖い顔になってる!? 何あれ!?」
一見すれば本物のウンディーネのように文字通り透き通る肌に起伏の激しい身体。悪意に満ちた瞳と人を嘲笑うような口はドMな人間には堪らない姿だった。それが今やあり得ない大きさで口を開け、両眼は窪み、全身は不安定に波打っている。まさに人外の形相。
長く続いた鬼ごっこも終盤に差し掛かっていた。
ちょっと長め
感想は順次返していきます