第十話 悪鬼の誕生
昨日も更新する予定がiPhone5が届いたのでサボっちゃいました。
仕方ないよね。ニンゲンだもん。
初めて主人公以外の目線で書いて見ました。
「ゴブ、ゴブゴブ!!」
ホブゴブリンは怒っていた。今まで何人ものニンゲンを狩って来た様に、ニンゲンを狩りに行ったら返り討ちにあったからだ。
「ゴーブ、ゴブゴブ」
ホブゴブリンは憧れていた。力だけは一番強かった、もう一匹のホブゴブリンが瞬殺されたあんな力が欲しいからだ。
(ゴブリンもニンゲンノ力欲シい。ゴ……リンも、ニンゲン欲しィ。欲しい、私も欲しい。あのニンゲンが欲しい!!)
「ふふ、ふふァははははは!!!!」
ハイゴブリンは笑っていた。一つ欲しい物が手に入ったからだ。前にも経験したこの高揚感。体が生まれ変わっていく。
祝福を受け、進化の光を浴びて体が膨張していく。
ハイゴブリンは止まらない。欲しいモノが出来たからだ。まだまだ力がいる、けれど無理をする時期ではない。匂いも魔力も顔も覚えた。
「たまらない……待っててねニンゲン、私が遊んであげるからァ」
森の中に声が響くが気にしない。今は最高に気分が良いのだから。
街の守備隊は救援には成功したが、ゴブリン殲滅戦は完全には成功しなかった。
なんとホブゴブリンがもう一匹森の中にも潜んでいたのだ。もう一匹のホブゴブリンはかなり頭が良かったらしく、人が操るように群れを建て直し、包囲網を破って逃げていった。
それでも群れの半数以上は仕留めたようで、街の守備隊はお祭り騒ぎだ。誰もが討ち取ったゴブリンの首をぶら下げ、多いものでは四つのゴブリンの首を誇らしげに持ち歩いている。
「アルフレートだ。後の三人はジロウ、ハンク、アーシェ。危ないところをありがとう。もう少しで積荷や死体を取られるところだった」
アルフレートは、守備隊の責任者に礼を言って握手を求める。屈強そうな彼はゴブリンの首を四つぶら下げていた。
「ウィシュだ。礼には及ばんよ。昼夜問わず襲ってくるゴブリンや盗賊は悩みの種だったんだ。これで睡眠妨害されることもないからな」
そういうと満足そうにゴブリンの頭を揺らす。何時もと変わらず苦悶の表情をあげている。
「しかし、仲間は残念だったな……酷いもんだ」
ちらりと責任者は死体が安置してある方を見る。そこには100を超える死体が転がっていた。
「家族がいるなら腐る前に会わしてやりたいものだが、無理だろうな。ギルドカードと髪だけ回収して埋めようと思う。」
「ああ、食い荒らされたり、グールになるよりはマシだろう。それに神父さんが祈りを捧げに来てくれてる」
その神父さんは、二人の護衛を付け、汚れるのも構わずに死者一人一人に祈りを捧げている。
この世界の主要な宗教なのかもしれない。
「そうだ。報奨金だが、今話題の盗賊団ならもう少し上がったが、こいつらは国境付近の傭兵団が便乗して盗賊になった連中だから一人につき2.5Gだ。これだけの人数だから盗賊の首は持ち帰らずに埋めようと思う。後で書類を渡すから、詰め所の受付で申請してくれ」
「他の隊商の積荷はどうすればいい」
「商会を通して、代理のものが来ている。あとは勝手に回収していくはずだ、荷物は失われたのもあるがいくらかは謝礼が出るだろう」
どうやらお金が手に入るらしい。この世界の硬貨価値が分からないので、どの程度になるか見当もつかない。
(確か金貨と銀貨と銅貨があるんだっけ。1ゴールドで一人か一世帯が一ヶ月生活できるとかハンクが言ってたような)
金銭の話は、貨幣感覚が鈍い俺よりもアルフレートやハンクに任せた方がいいな。
(そう言えば、ゴブリンを何人も倒したが、レベルは上がったのか)
頭の中でステータスを広げて見る。
【名前】シンドウ・ジロウ
【種族】異界の人間
【レベル】4
【職業】異界の迷い人
【スキル】生存本能、異界の投擲術(特殊投擲術)、異界の治癒力(特殊治癒力)、共通言語、初級火属性魔法D-、初級水属性魔法D-、初級片手剣D-
【加護】なし
【属性】なし
【状態】なし
おお、レベルが上がっている。それに片手剣のスキルまで付いているぞ。
(きっとゴブリンを片手剣で倒したから習得出来たんだろう)
尤も、D-ではそのスキルを持たないモノよりマシ、と言ったところだろう。でも無いよりは遥かに良いに違いない。この世界の独特のルールにより、強者は皆スキルを持っているのだから。
(しかし、熟練の技術がスキルとして現れるのか、スキルによって技術の熟練者になるのか……俺のケースから考えるに、恐らく両方の性質を持っているのだろう。)
そういえば、この世界は俺の世界の物理法則を軽く破ってくれている。
(研究者や技術者がこの世界のルールを見たら間違いなく泣くぞ。いや、逆に研究にのめり込みそうだな。元の世界じゃ、あらゆる技術は進んで、研究するものが限られている。この幾ら研究してもし尽くせない世界に来たら喜ぶかもしれない)
頭の中には大学時代の教授達が浮かぶ、あの人たちなら間違いなく喜ぶだろう。あくまで俺の偏見だが、大学でしかも教授となれば、変わった人が多いのである。
しかし、そう考えると共通言語は便利だ。言語だけではなく、この世界の単位と俺の世界の単位を変換してくれるからだ。
(今更訳の分からない単位など覚えたくもないからな。しかし、この能力を活用して通訳の仕事でもするか……いや、儲からなさそうだし、止めて置こう)
「ジローぼーっとしてどうしたの。どこか痛めた?」
アーシェが下から顔を覗き込んでくる、心配してくれたようだ。こうしていると普通の女の子だが……嫌なことを思い出しそうになったので、慌ててそれを遮る。
「大丈夫だ。なんともない。片手剣のスキルが追加されたから考え事をしていたんだ」
「そっか。んー、あんまりスキルを人に話さない方がいいよ。危ないから。それこそ何年もパーティを組んで信頼してる人とかだけだね」
「あー、言われて見ればそうだな。でも問題ないだろ」
「なんで?」
アーシェが不思議そうに聞き返してくる。
「次からは気を付けるし、ここにはアーシェしかいないじゃないか、なら大丈夫だろ。俺はアーシェを信頼してるし」
戦ってる時、何度も助けられたのだ。信頼しない方がおかしいだろう。それに――
「はぁ、会って一週間ちょっとの人を良く信頼できるね」
「そうか? 理由としては十分だと思うが、だいたい、今更片手剣のスキルが有ったって、襲われたらアーシェには勝てないよ……」
遠距離からならまだ望みはあるが、近くで襲われたらお陀仏だ。
「アンタねぇ……」
アーシェが怒っている。口が滑ったようだ。女の子なのに凄まじい迫力である。
やはり、この世界では、女性=か弱いは成立しないようだ
顔を青くした俺は周りに助けを求める。ちょうどハンク達は話が終わったようだ。戦力が足りないのなら逃げるか、増援を呼べばいいのだ。
「は、ハンクこの後、どうするんだ」
「現場はもう任せていいそうだ。これからアルフレートの雇い主のアンギルさんと街に行くことになった。お礼に酒と食事を振舞ってくれるらしい。報奨金や装備の換金もあるし、アーシェとジロウも勿論、来るだろう」
俺とアーシェは一緒に行くと返事をする。どうやらアーシェも諦めたようだ。助かった。
アンギルさんの荷馬車と街から借りてきた馬車で街に向かう。街までおよそ九時間かかるらしい。
揺れる馬車の中、初めての命のやり取りに疲れた俺は、直ぐに眠りに就こうとしていた。昨日の夜も寝ていなかったので、はっきり言ってもう限界だ。
(次の街はまた特徴の無い街なのだろうか、この世界の料理がどんなものか知らないが楽しみだ)
俺の意識は薄れていく。アーシェが何か言いたそうな顔をしているが、明日聞けばいいだろう。俺はごろりと寝返りを打つ。
「ジロウのばか……」
悪口が聞こえた気がするがもう駄目だ。俺は完全に眠りに入った。
まさかのゴブリン目線
アーシェ目線だと思った方は騙されたのです。