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真稀的短編小説

スィーツな関係??

作者: 矢枝真稀

恋愛……なのか?たぶん、恋愛の手前って感じです。

 卵に薄力粉、牛乳に無塩バターと砂糖……これをきっちりと分量ごとに分けて生地を作り、型を取ってオーブンへ……。たったこれだけの作業なのに、さっくりとした食感が心地いいクッキーの出来上がり!……なんて、俺は何をやってんだか……。

 誰もいない(両親は会社、姉はデート)キッチンで、一人虚しく菓子作りをしているのは、俺こと黒実隆くろさねりゅう。現役の大学2年生で、上記のとおり菓子作りを趣味にしている、男だ。

 いつもなら大学の連中に配って済む問題なんだが、今回ばかりはそうもいかない。なんせ今、大学は夏季休暇(夏休み)に入り、友達の大半は実家に帰省している。くわえて俺を含めた家族は、あまり甘いものを好まない……。なのに、ついつい作ってしまったクッキー100個(10個入りで10袋分)!!う~ゎ、どうしよう……


「コンビニ行こ……」


 かくなるうえは、現実逃避だな。コンビニに行く途中でも、なんかいい案が思い浮かぶかもしれない。な~んて安易なことを考えつつ、とりあえず財布を片手にコンビニへ。





 うだる暑さにコンビニの冷房はいかん!なんせ、気持ちよすぎて外に出たくない……。とりあえず雑誌を物色し、後はてきとーにボトルタイプの缶コーヒー1本を手にとってレジへ。さっさと会計を済ませて外に出てみれば、早速、額に汗がにじみ出しはじめる。


「あれ、黒実?」

「ん?あ、西都さいと


 コーヒーのフタに手をかけようとしたら、見知った声と、見知った顔。大学で同じ科の同期生、西都陽さいとはるだった。


「何してんの?」

「現実逃避」

「は?」


っと、いかんいかん。つい本音が。


「い、いや、暑いからコンビニでちっとばかし涼んでたんだけど。西都こそ、実家に帰ったんじゃなかったのか?」

「ん、まぁ家なんていつでも帰れるし。バイトもしてるからそうそう帰れないってのが現実なんだけどさ」

「ふ~ん」


 西都は美人である。日に焼けた健康的な褐色の肌に、負けん気の強そうな瞳、背は低いが運動神経はサークル(主に運動系)勧誘が未だに絶えないほどだ。髪はショートで、黒髪は太陽光によって輪っかが出来るほど艶めいている。俺の周りは彼女の存在に色めき立っているが、本人はまったく相手にしていない。俺も他の男連中と同様なんだが、なんせ玉砕した連中を見ている手前、どうしても告白に踏み切れていないってのが、現実。要するに、チキンハートなんだよ俺は。


「ってかさ、甘~い匂いがするんだよね、黒実から」

「ほぉ、耳鼻科でも紹介してやろうか?いや、汗の匂いを甘い匂いだと感じる時点で脳外科か?」

「私を変態扱いすんな!」


 こうやって、軽く茶化す程度の会話は出来るんだけどな。ってか、西都の嗅覚を疑いたくなるな……。まぁ匂いフェチの人って案外いるらしいけど、汗を甘いとは感じないだろ、ふつーは。


「そんなんじゃないって。なんつーか、バターのような匂いっていうのか、お菓子のような匂いがするんだよ!黒実から」

「……そ、そーなんだ~!!」


 やっべ!そういやさっきまで菓子クッキー作ってたんだっけ俺。う~ぁ、完全に忘れてたのに、一気に現実に引き戻された……って、


「あ、そうそう!実は姉貴に菓子作り手伝わされてさ、クッキー作ってたんだよ!!」

「へぇ!クッキー!!」

「お、おぅ。なんか分量を間違えたとかで大量に余ってさ、その処分をどうするか考えてたんだよ!」


 よし、我ながら上手い作戦だ。ちなみに俺は菓子を大学に持っていく際に「姉貴が作ったやつ」と、俺は言う。なんせ、趣味が趣味だしな。バカにされかねんし。こう言っておけば、相手はたいてい納得する。それに西都は菓子好きだから、上手くいけばさっき作ったクッキーの大量処分も可能だ!!


「マジで!?って、黒実は食べないの?」

「俺はつく……甘いものはあんまし食べないから」

「へぇ!んじゃさ、そのクッキーを私がもらうってのも……」

「そういう提案は、すごくありがたい」


 あぶね!あやうく口を滑らすとこだった!もしバレでもすりゃ「え~黒実ってそういう趣味なの!?、なんか女のこっぽくない?」とか言われそうだ。まぁ西都に限ってひどいことは言わんだろうけど、いつ誰の耳に入るかもわからんし、ここは閉口しとこう。


「やった!ラッキー!!実はお菓子買おうと思ってコンビニに寄るつもりだったんだけど、いやぁ黒実のおかげでお財布は痩せなくて済みそうだよ!!」

「こっちも大量処分の手間が省けるからお互い様だな」

「そうと決まれば、ほら、案内してよ!!」

「どこに?」

「は?どこって、黒実ん家に決まってんじゃん」


・・・・・・・・・





・・・・・・・





・・・・・




そうだったあぁぁぁぁああ!!!!家じゃん!俺ん家じゃん!!うっわ、やべ!俺、考えてみれば家に女の子招いたことないし!


「どしたん?」

「な、なんでもないっすよ……」

「?ま、いいや。んじゃ行こう!すぐ行こう!!」


 ってわけで、俺はテンパる頭を平静な表情でカバーしつつ、西都を家にご招待することに。うぅ……なんか緊張するな……





「どうぞ」

「おじゃましまっす!うわぁ、いい匂い!!」


 あぁ、喚起してたはずだけど、玄関開けたら甘い匂いが……次からは消臭剤も準備しとかねば。

 さて、そんなわけで西都を我が家にご招待したんだけど、幸いなことに姉貴も親も帰ってきてない。もし家に居ようもんなら、イジり倒されんばかりに質問攻めが来そうだし……考えてみりゃ、この年になって彼女がいないってのもなんか、薄い人生送ってんな俺…。


「どした?」

「いや、なんか急に虚しくなっただけだ……」

「なぜに?」

「気にするな、男にはそういう時もあるんだ」

「そうなんだ、男って大変なんだね」


 そんなんで納得するんだ!なんか気分が楽になったよ。とりあえず気を取り直して、まずはクッキーだな。あ、一応は西都って客人なわけだし、冷たい麦茶も準備せねば!


「お待たせ、これクッキーと麦茶」

「おぉ、ありがたい!すっごい喉渇いてたんよ……ング、ング……ぷはぁ!美味い!!んで、これが黒実のお手製クッキーか……美味そう!!」

「まぁ素人が作ったもんだから、過度な期待はせんでくれ」

「いっただっきま~す!!……もぐもぐ……ん、これは!!」

「どした!?なんかまずかったか!分量間違え……」

「美味い!最っ高だよ黒実!!このバターの香りと甘さが絶妙!!こりゃいくらでも食べれるって!いやぁ、噂の黒実クッキーがこんなにも美味いとは!!」

「そこまで褒めてもらえるとは思わなかった……って、なんだ“噂”って!?」


 しかもちょっと待て!なんかお菓子を作ってたのが俺だってバレバレな発言をしなかったか!?


「へ?やっぱ気づいてなかったんだ。みんな知ってるよ、黒実がお菓子作りを趣味にしてるの」

「な、なんで……」

「だってさ、大学にお菓子を持ってくる時の黒実って、いつも甘い匂いしてるんだよ。それにさ、お姉さんが料理下手ってのは、誰もが知ってることなんだし」


 マジか!?俺ってそんなに甘い匂いを漂わせてたのか……いや、ちょい待て。どんだけ有名なんだよ姉貴の料理下手!!


「聞いた話によると、黒実のお姉さんが作った料理をテーブルに置くと、料理の半径1メートル以内にいた虫は絶命するんだって。他にも殺虫剤を製造している企業の社長が自ら「うちの会社に是非!」とかスカウトに来たらしいし、噂じゃ某国の最新兵器の製造にお姉さんの作った料理を研究してるんだとか……」

「もはや軍事レベル!???」

「まぁそんなわけだしさ、別に隠す必要なんて無いわけよ。黒実の周りだって、黒実が作ったお菓子だって知っててもらってるわけだしさ。誇るべきなんじゃない?」


 ハハ……なんだ、すっかりバレバレか……。なんか、今までひた隠しにしてきた事が、こうもあっさり肯定されると、こっちとしてはすごくありがたいし、気を張ってた分、なんか拍子抜け。でも、やっぱ自分が作ったもので誰かを喜ばせることが出来るのは、嬉しいな。


「サンキュ、なんか肩の荷が下りた気分だわ」

「なんの、こっちも噂の“黒実クッキー”を美味しく頂いてるんだもん、お互い様だよ」

「……ま、クッキーなんてのはいくらでもあるし、良かったら好きなだけ食べてくれ」

「もち!そのためにここまで来たんだから……ってことで、オカワリ!!」

「あいよ」



………………


「おかわり!」

「ほいほい」


……………


「おかわり!」

「お、おぅ」


…………


「おかわり!」

「……おぅ」


………


「おかわり~!」

「……マジか」


……


「おっかわり~!!」

「……」



「おかわりプリ~ズ!」

「ち、ちょい待ち!大丈夫か?」

「何が?」

「何がって……」


 既に70枚を完食している西都の食欲は、落ちるどころか変わらないまま。いくら好きだからといっても、これじゃわんこそばならぬ“わんこクッキー”である。


「一応は甘いものなんだし、カロリーってのもけして低いわけじゃないんだが……」

「大丈夫だいじょぶ!なんせ、この前はステーキ8枚食べても大丈夫だったし。なんか私、医者が言うには体質的に太りづらいみたい」

「ステーキ8枚て……」


 考えただけでも胸焼けしそうだ……うっぷ!


「それに、健康診断でも至って健康!」

「マジっすか……」

「マジっすよ!ってことで、おかわり~!!」


結局、この女の子という“食欲の権化”はクッキーを全て完食。その現実に、俺はかな~りどん引き……。ま、まぁ全てクッキーを平らげてくれたのはすごくありがたいんだけど。


「いや~ごちで~す!」

「お粗末さんでした」

「ん~いい感じに腹八分目ってとこかな!」

「あんだけ食べといて!?」

「にゃははっ!ま、こんなんだしさ、彼氏が出来てもどん引きされて、そこで終了!ってわけ……」


 かける言葉が見つからねぇ……実際、俺もどん引きしてたわけだし……。



 でも、でもさ……


「西都……」

「ん?」

「またいつでも食べに来いよ。そんときゃとびっきり美味い菓子作ってやっからさ……」

「マジ!?絶対だかんな!約束、破んなよ~!?」

「任しとけ!」


 確かに、その食欲にはどん引きした。けど、美味そうに食ってる姿を見てると、こっちまで嬉しくなっちまう。それに、俺の言葉でニカッと笑った西都は、やっぱ可愛いし……。


「っと、もうこんな時間か~……」

「あ、ぼちぼちうちの親も帰ってくる時間だ」

「んじゃそろそろ帰るよ。クッキーご馳走様!」

「おぅ。送って行こうか?」

「にゃはは!大丈夫大丈夫、今日はありがと!それとさ……」


玄関まで西都を見送っている状況の俺に、西都は扉が閉まる寸前――


「私は黒実の……」

「え、今、なんか言っ―――」


バタン……


扉が閉まる直前に聞こえた“それ”……よく聞こえなかったんだけど……ま、次に会った時にでも聞いてみるか。






⇒⇒⇒




「――って、昨日の今日かよっ!!」

「いつでもいいって言ったじゃんかよ!で、今日はどんな美味しいお菓子を食わせてくれんの?」









 随分とご無沙汰していました。矢枝真稀です。今回の小説は、しばらくPCから離れていたので、リハビリがてらに書いたものです。文章力の低下は否めませんが、読んでいただいた後でほのぼのとした気分になっていただけたら幸いでございます。

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