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知れなくなった真実を求めて

作者: ぽりぽり

 花川雄二(はなかわゆうじ)は夏休みのある日に目覚めた。心地よい朝を迎える前の午前3時半、目覚めたところは緑生い茂る森の中、雄二は不自然に四角形を描くように植えられている4本の樅の木のど真ん中に仰向けに横たわっていた。何も感じず、空気の冷たさすら感じずただその景色だけが雄二の目の前に広がっている。何も考えられずに体が勝手に動き出す。寝返りを打ちそのまま左手を地面につけ起き上がる。意識ははっきりとあるが体が動かない。手を前に出そうにも出ない、足を前に出そうにも動かない。しかし動かそうとするのを止めると足は勝手に動き出す。前に前に、奥へ奥へと進んでいき、そしてある場所で止まった。雄二は目の前に映ったものを見て絶句した、とはいえ此処に来た時点で声は出てないのだが。

(っ、おばあちゃんっ、、、!)

視線の先にあるのは雄二の祖母よし子だった。よし子は3年前に犯人のわからない轢き逃げに遭い瀕死の傷により集中治療室から出ることが出来ない状態であるはずだった。そんな彼女がどうやって此処に来たのか雄二にはわからなかった。それを聞こうと口を開こうとすると今度は動いた。

「っ、なんでっ、、、ここに、、、」

祖母よし子は答える。

「雄二かい。わ、しは、ま伝、、き、な、、いことがありますのじゃ。」

「えっ、、何があるだって。うまく聞こえないよ。」

「わ、しをひいた、、を、、、て、、」

徐々に聞こえなくなる祖母よし子の声を必死に聞こうと近寄る雄二。だが近寄れば寄るほど祖母の姿は遠のいていき、ついに見えなくなってしまった。その直後、意識がはっきりとし始めた。それにつれて眠気も襲ってくる。雄二は睡魔に負けた。

 もう一度目がさめるとそこは普段どおりのベッドの上に仰向けになっている自分がわかる。

(何であんなに生々しい夢だったんだろう。それにはっきり覚えてるし、、、)

雄二は疑問を抱えたまま、その一日を過ごそうとした。しかしすぐに異変に気づいた。カレンダーの日付がおかしい。次に起きる時は18日のはず、しかし今カレンダーには16日と示してある。時間が戻ったのかと不思議に思ったが、ふと目を西暦に移すと3年前の1999年になっている。いったい自分は夢でも見ているのかと思い頬を抓る。

「ってぇ、」

痛い。夢ではないようだ。だが頭が回らない。どうして自分が1999年にいるのだろうか。直前の夢、祖母よし子が何かを伝えたがっていたように思えたのを思い出す。

(「ひいた」、、、轢き逃げ?)

祖母が轢かれたのは市の郊外の交差点だったはず。見張っていれば祖母を助けられるだろうか。雄二は早速郊外の交差点に向かった。市の大通りから脇道に入ってずっといった所にその交差点はあった。近くの背丈高い草むらに身を隠す。待つこと20分、祖母よし子が現れる。そっと祖母の後ろを歩く、交差点の横断歩道を渡る時雄二は後ろから来た自転車に撥ねられる。それに気づいた祖母よし子は覚束ない調子で雄二を起き上がらせ歩道まで補助した。しかし、その時雄二は気づいた。財布を反対斜線に落としたことに気づきとりに戻ろうとする。それが間違いだったのだ。歩行者信号は既に点滅している。まだ間に合うと走り出したが、自転車に撥ねられた反動から渡り終える前に転んでしまった。そこへ信号無視した車が突っ込んでくる。「死」を覚悟したがそれは訪れなかった。祖母よし子が走って雄二を蹴り飛ばす。それにより雄二は助かった。雄二は視線を反動のあった方へ向ける。そこには倒れた祖母の姿が、頭から出血し直ぐに治療が必要だと見ればわかるほどである。轢き逃げ犯は少し止まろうとしてスピードを緩めたがだが倒れた祖母よし子の姿を視野に入れると直ぐさま逃走した。だが雄二は見逃さなかった。「が」の1●●●というナンバープレートを記憶すると、祖母よし子を病院へと搬送する救急車を呼んだ。呼び終わった直後意識が薄れていき、雄二も倒れた。

 目が覚めるとそこは再び見慣れたベッドの上、雄二はうつ伏せになっていた。だがはっきりと夢を覚えている。「が」の1●●●というナンバープレートの情報は覚えている。警察に届け出るべきか否か、その決意が持てないままその日は夜を迎えた。

 再び目を覚ます。森の中、祖母がいた森。また会えるだろうか。不安と期待を胸に雄二は体の動くままにした。祖母が見えてくる。

「雄二よ。決して人を恨んではならんぞ。人を陥れてもいかんぞ。これが私の伝えたかったことじゃ。お前があの時助けた少年だということはわかっておる。だからもういいんじゃ。」

「そんな、そんなこと、、、助かると祈ってます。」

「雄二や、自分の寿命くらいわかる。最期に伝えたいことがあったから私が此処へお前を呼んだのじゃ。皆によろしく伝えておくれ。人を恨まない、陥れないすばらしい人間になるのじゃよ。」

「おばあちゃん!」

叫んだ時にはベッドの上。その日雄二の祖母よし子は天に召されたのだった。

この小説を書こうと思ったのは、ふと人間は伝えたいことがなかなか伝わらない不器用な人間だということを思い出し、それをいろんな人に改めてわかってもらいたいためこの小説を書きました。

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