06
超久々に更新です。果たして見てくださっている人がどれほどいるのか謎ですが。
「…………ほう。これは」
興味深そうに、楽しそうに、男は少女を見ていた。
「キミが都一の陰陽師さん?」
「……然り」
頷く男に、少女はこの程度か、と嘲った。
「へえ、キミがねえ」
そんな少女の思いに気づきながらも、けれど楽しそうに男は笑った。
「…………なるほど、主が鵺か」
「あれ? 私の名前知ってるんだ…………そうだよ。私は水月鏡花。キミたちの言うところの鵺だよ」
天霊が都の中心、宮廷の中にまさか妖怪がいるなど、一体誰が想像できただろうか。
「ここに何用か?」
「何か用が無いといけないのかな?」
見下したような目で少女が男に問いかける。
「否……別に構わん」
そして、男のその言葉に眉をしかめ、初めて侮蔑以外、興味の視線を送る。
「…………さて。キミは私と会ったわけだけど、こんな風にお喋りしてていいの?」
試すような口調で尋ねる少女に、男が笑った。
「問題などなかろう。今現在、主が何かしているわけでもない」
そして正気とは思えないことを言う。天霊が中心、天皇の住まうこの宮廷に妖怪がいると言うのに、問題ないなどと言ったのだ。これにはさすがの少女も笑った。
「アハハハ……いいね。思ったよりずっと壊れてる」
「失礼な……」
それが、男……安倍晴明と少女……水月鏡花の出会いだった。
「びっくりホラーハウス!?」
思わず叫んでしまったが、僕としてもさすがにこれは予想外過ぎた。
翌日、家中を引っくり返すように探した父さんの遺品の中からそれらしいものを選別し、学校の後にそれらを持ってユキの家を目指した僕たち。
見えてきてたそれは古びた洋館だった。灯り一つ無く、窓硝子が全て割れて、さらに昼で、日があるにも関わらず中が真っ暗で何も見えないそれを普通と言えるなら。というか、天霊の中にこんな洋風な建物があること事態驚く。
「え、ユキこんなところに住んでるの!?」
まさかと思い、尋ねると。
「って、まさか。そんなわけないよ。私の住んでる場所はもっと奥」
と言いつつユキは敷地へ入り、どんどん歩いていって、館の扉を開き……そして姿を消した。
「…………え!?」
そのことに驚き、やや怪しみながらも僕もユキを追いかけ中に入っていく…………そして体が扉を潜ると同時に、景色が一変する。
「ようこそ、私の家へ」
そう言って微笑むユキを余所に、僕は呆然とする。
だって、ここは。
「御門の……屋敷?」
人一人いない、静寂が支配する自身の家そのものだったから。
「なんで……どうして」
僕の呟き、ユキが振り返る。その表情は悪戯に成功した子供のようなそれだった。
「なーんてね」
その言葉と同時、周囲の景色が消える。次いで見えたのは極普通の和風の部屋だった。
「え…………?」
「ふふ……ちょっとした冗談だよ。さっきのはただの幻。さて、あらためてようこそ、私の家へ」
「あ……うん」
なんだかユキには驚かされてばっかりだな、と思ったがだからって僕が彼女を驚かすというのも難しい話だと思った。
座って、とユキが言うので畳の上に正座して待っていると、お茶を用意したユキが戻ってきて机の上に置く。
「ありがとう」
そう言って一口飲むと、ようやく落ち着いた気がする。
「気になってたんだけどさ…………ユキって何者なの?」
よく考えなくてもこの少女は異常だ。霊気も無いのに妖怪を倒し、陰陽師の間でしか知られていない隠語を知っていたり、それに…………。
「初めて会った時のあの場所。あれって…………捻れ空間だよね」
この世界には竜脈、霊脈などと呼ばれる、星の力が流れる網目のような脈があると言われる。これがあるから世界中に《力》が溢れているのだと言われているが、詳しいことは分かっていない。
《力》はそれが凡そ、人間ならば霊気、妖怪ならば妖気となって体内に吸収される、人や妖怪が生きているだけで徐々にその力を増すのはこのためだと言われる。因みに僕の霊力が増えなかったのは、僕が吸収した力は神気に変換されたからだと思われる。
そしてここからが大事なのだが、その脈と脈が交差する場所は特に《力》の濃い場所となる。
それを捻れ、と呼ぶ。
捻れ空間とは、この《力》の濃い場所にだけに発生する特殊な現象で、空間そのものが変質する。
中でどんな現象が起こるか分からず、故にこそ危険ではあるが、《力》が濃い場所であるが故に人間や妖怪がその場にいるだけで、通常とは比べ物にならない速度で力が上がる。
一説によるとこの捻れ空間の一つこそが世界の裏側へと渡るための唯一の道なのではないか、と言われているらしい。
さて、その捻れ空間だが、人間が見つけた場合空間ごと封印される。
例外は無く全て封印する。何故なら、妖怪が入れば小妖怪が中妖怪になるほどの変化を遂げる危険な空間だ。
そして、何よりも人がその力を人間の限界を超え過剰に摂取した場合、《変質》するのだ。
《変質》した存在はもう人間ではなくなる。通常は魂を剥き出しにした死霊になり、他者の魂を求め彷徨うことになる。これを《陰》と呼ぶ。そして、万が一陰陽師などのある程度のそちら方面の才能を持った人間が《変質》してしまえば、もう大変だ。それは《鬼》と呼ばれる一つの災害と化す。
過去、安倍家に陰陽師の大家としての闘争に敗れた蘆屋道満の弟、蘆屋道真が憎しみのあまり《変質》した時は、都の陰陽師総出で七日七夜に渡って戦い続け、最後は兄、道満自身の手によって調伏された、と言う。この時の天霊の被害は凄まじいものとなり、一時、朝廷が南の平城楼に移されたほどだった。
百害あって一利無し。
それが陰陽師たちの捻れ空間に対する認識であった。
「式なんてマイナーな言葉を知ってるユキが捻れ空間の恐ろしさを知らないわけないでしょ?」
「知ってるよ…………知らないのはキミたちのほうだよ、千歳」
その言葉に僕は怪訝な表情をする。知らない? 僕たちが? どういうことだろうか、と考えてみて、思いつかなかったのでユキの言葉を待つ。
「捻れ空間が《変質》を起すから危険だって言いたいんだよね。でもそれは捻れに溜まった《力》をそのまま吸収するからだよ。受け入れれるわけないじゃん、だってあれは……世界の力なんだから」
世界の力、たしかに竜脈を流れるのは星自身の生命力だと言う説を聞いたことはあるが…………けれどユキのそれは確信しているかのような言葉の響きだった。
「変換陣の術を知らないの?」
「……ううん。聞いたこと無い」
「領域化は?」
ふるふると首を振りながら初めて聞くその言葉に驚く。だって自分にも使える術があるかもしれないと、昔はどんな術でも片っ端から試していたこともある僕だ。正直、今現在ある術は全て一度は試したことがあるという自負がある。けれどそんな僕ですら聞いたことの無い術だった。
「そっか…………そこまで落ちたんだ」
落胆したような表情でユキが何かを呟いたけれど、僕の耳には届かなかった。
というわけで、新設定出てきました。
それとちらほら伏線も。
最近気づいた、ユキシロが設定ポンポンと付け加えるのって、思いついた設定を足しているんじゃなくて、頭の中で想像している世界に見合ったものを付け加えているんだな、と。