04
序章と一章の中間の一話と言ったところでしょうか。
ちなみに、時間軸としては、前話から数日後くらいです。
空亡の討伐なんて命、どう考えても僕にはできるはずがない。前の僕はそう思っていたし、今の僕でも為せるかなど懐疑的だ。
だから、あって無いような当主権限で一族からこの命の志願者を募ったことがある。たしかに危険だが、もしも為せればその名声は生涯に渡って轟き、その権威は天霊でも天皇に次ぐものとなることは確実だ。欲の突っ張った彼らならきっと何人かぐらい志願者が現れるだろう……と、思っていたのだが。
「誰も来なかったの?」
「うん……近年でも最強と言われた父さんがやられたのがよほど怖かったらしいね。その代わり『御当主様には帝より賜りました大切な役目があるのですから、家のことなどは私どもにお任せください』って、体の良い言い訳で家乗っ取られた」
うわぁ、とユキが呆れたような表情をする。
「何と言うか、世界が滅ぶかもしれないって予言されてるのに、それでも権力のほうが大事なんだ」
「別にさ……あんな家、もらってくれるならそれでも良いんだよ。僕は普通に学校行って、人並み程度の陰陽師としての仕事をこなして、そうやって生きていく。それだけで良かったんだ…………陰陽寮ってね、上に行くほど老獪な人間たちの魔窟なんだよ。正直あんなところで働くのは、こっちからご免被りたいからね、乗っ取ってくれたのは実は嬉しい。人を嘲ったような目で見なければ」
僕だって木や石じゃない。生きているし、感情もあれば、思考もする。
「怒ってないわけじゃない。けれど、結果を出せなかったのも事実だったから、僕は今まで黙ってた」
けれど、自分にもできることがあると知った。やれることがあるのだと分かった。
「だったら、少しくらい見返してやりたい…………この空亡の討伐で」
そうすればきっと、僕はきっと、また昔みたいに……。
「一つ聞いてもいい?」
と、思考を止めるようにユキが僕に声をかけてくる。
「五年前に予言されたのが「千度月が登りし後」。つまりだいたい二年半くらい後ってことになるよね?」
「そうだね」
「もう倍近く時間が経ってるけど、現れてないよね?」
「ああ、それか…………陰陽寮とか朝廷は、父さんが命がけで復活を止めたんじゃないか、って言ってたよ」
きっと合ってるのだろう、だってそうでもないと辻褄が合わない。
「でもさ……予言は『月が千度登りし後、世界は黒き太陽に覆われ、そして人の世は終わりを迎える』だったんだよね。これって、千日より以前には空亡はまだこの世界にいないってことにならない?」
…………あれ?
「だって空亡が現れたら世界が終るんでしょ?終ってないってことは現れてない。じゃあ、千歳のお父さんは一体何と戦ったの?」
「そう言われれば……そうだね」
これから現れることが分かっていたから先手を打った。父さんが死んだのは予言から一年後。この時まだ空亡は姿を見せていないことになる。
「あれ……じゃあ、父さんは」
「何と戦ったんだろうね?」
「……いや、でも……もしかして……」
「渡った……とでも?」
「!!!?いや、でもあんなのただの」
「でもさ、あたしが言ったことをあたしが覆すのもおかしな話だけど、少なくとも千歳のお父さんが空亡を討伐に出かけたことと、予言された期限が過ぎても空亡が現れないことは事実だよ?」
妖怪が誕生した瞬間を見た人間はこれまで一人としていない。
妖怪が死した時その体は虚空へと消えていく。
では、妖怪とは一体どこから来て、どこへ消えていくというのだろう?
誰かが言った。
この世界の裏側に、妖怪が生まれ、消えていく世界がある、と。
妖怪はその世界で生まれ、こちらの世界へとやって来て、そしてこちらの世界で死ぬと、向こうの世界へと帰って行く。
そんな馬鹿げた話が……陰陽師の間で流れた。
突拍子の無い話に、誰しも一笑しながらも、その実否定しなかった。否、できなかった。
少なくとも、妖怪がこちらの世界で生まれているのかどうか、それを確認できた者はおらず、妖怪が死した時、どこへ消えて行くのか、それを確認できた者はいない。そして、その話は突拍子が無いながらも辻褄があっている。
信じたくない。信じられない。でも可能性は否定しきれない。
父さんがそこへ渡ったと?
「でもそれなら天霊に死体が戻ってきたことは?」
「その死体さ……周囲の人間はみんな死んだのに……誰が持って来たの?」
「………………あれ?」
誰が……?そういえば、誰だろう?動転していてあの時は気にならなかったし、それからも余裕の無さから気づかなかったけど、そう言われればたしかにそうだった。
「千歳の話を聞いてる限りだと、色々と謎が多いね、五年前から」
「……五年前から?」
父さんが死んだ四年前からだと思っていただけに、その言葉が意味するものを理解できなかった。
「千歳は術の勉強ばかりで、妖怪について調べたこと無いの?」
「……そう言われれば無いかも」
はぁ、と呆れた表情でユキが溜息をつく。
「あのね、妖怪なんて、そんな特別な術を使うより対処法を知っていたほうがよっぽど生き残る確率は高いよ?」
「うん、勉強しておくよ」
苦笑いしながら、誤魔化す。ジト目の視線が僕を刺す。
「それで、五年前ってどういう?」
話を逸らそうと、さきほど言っていたことを尋ねると、再度溜息をつき、話始める。
「件ってね、雌雄一対で、雄が予言を残し、雌がその回避方法を教えてくれるものなんだよ?」
語られた言葉に逡巡思考する。
「でも……僕の聞いた限りでは、雌が現れたという話は聞かない」
「ということは…………」
「「誰かが隠している?」」
どうにもおかしな話になってきた、と。
そう思った。
あれ?なんか予定から外れてる気がする。まあいいか。
設定とか大放出ですが、読んでる人はついてこれているのだろうか?
一章に入る時に、登場人物設定も追加します。
感想とか待ってます。