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4話





沈みかけた太陽からの朱色の光に照らし出されて、寮へと続く道に揺れる二人分の影。


一方は暢気にマイペースで進んでゆく。

もう一方は片割れの影へと微妙に近寄ったかと思うと、慌てて少し離れ、しかし再びじりじりと接近してゆく。


それを何度も繰り返す。

これを見ている者が他に居れば、思うことは恐らく「じれったい」に他ならないだろう。


じれったさに耐えられずにお節介を焼いた牧伏により、こんな状況に陥りつつも歩いてゆくのは――拓人と亜里沙の二人連れだ。



(ああもう、陥った、なんて……!突然あんなこと言われても心の準備が出来ていないですのに……!)


去り際に牧伏が言っていた言葉に冷静さを欠いている自分が情けない。


(けれどもチャンスなのは確かですわ、などと思ってしまう自分はひょっとして乗せられてるんでしょうか)


ぐるぐると巡る思考はちっともまとまる気配を見せない。

ちら、と隣の拓人を伺うも、ゆっくりと隣を行く拓人は、特に何を考える様子もなく前を向いている。


本当にこの男は人の気も知らずとは思うものの、確かにコレでは牧伏の言葉通りなのかもしれない。


『オメー、そろそろ拓人に告っちまえよう。今日は拓人と二人きりで帰れるようにしてやっから。

俺様はこのままどっかに行くからよう、頑張っていいムードまで持っていくといいぜ』


『つーかアイツの鈍感レベルは本気でどっかの漫画の主人公レベルだからよう。

言ってやんなきゃ絶対に気付かねえと思うがなあ。

拓人だってオメーから告白されたら悪い気はしねえだろうしよう』


牧伏がこんなことを言ってくるのも仕方なく思う。

そもそも自分が拓人に好意を持っているのは同学年では周知の事実――遺憾ながら――なので、自分たちの関係の発展を期待するのも理解できる。

暁学園が軍事関係に力を入れているとはいえ、そこに通っているのは高校生な訳で、この手の話題は殊更に興味を惹く。

          

その話題が機甲科主席わたくし普通科主席たくとの恋愛話であれば尚更話題は早く広まる。

今のところは「亜里沙が拓人に片思いをしている」という微妙に悔しいものなのだが。

これも1年近く続く話題なので、そろそろ周囲も新たな局面を迎えることを望みだしている傾向がある。


とはいえ自分から告白するのも負けた気がするので癪だ。

どちらかと言えば男性からアプローチして欲しいと亜里沙は思うのであった。


「……あの馬鹿まきふしは本当に……」


「アイツの行動が意味分からねーときがあるのはいつもの事だろ?

……そういえばまだ聞いてなかったけど、アメノウズメのアビリティって何なんだ?」


微妙に噛み合ってない返事を拓人が返してくる。

意味を分かってないのは貴方も同じですの、という言葉が出かけて慌てて引っ込める。

ここで噛み付いてもどうしようもない。


「……どうせ今度のお披露目で分かるのでバラしてしまいますけれど。アメノウズメのアビリティは、『リフレクション・アート』ですわ」


「リフレクション・アート?具体的にはどんなもんなんだ、それ?」


「アメノウズメは中距離戦を想定されているADなんですの。主兵装は各所に装備された多連装粒子集約砲ビームキャノン

ここから打ち出されたビームのベクトルを自在に操るアビリティ。これがリフレクション・アートですわ」


「それっておい……」


拓人が驚きを浮かべる。

それを見て少しだけ得意な気持ちになる。


「ええ、つまりはアメノウズメの放つビームはわたくしの思うがまま、自由な軌道を描くことができるのですわ」


「常に相手の死角からの射撃が可能なアビリティか……。流石亜里沙のAD、中々凶悪な兵装だよな」


「……もしかして喧嘩売ってますの?」


「ああいや違う違う!!演算とかが果てしなく大変そうなアビリティだと思っただけだ!だから睨むな!」



「ふん。今回は大目に見てあげますが、次に挑発してきたら怒りますわよ」


「お、おう。気をつけるよ」





その後もアメノウズメの性能についてや、その実運用に伴っての問題点など、およそ色恋とは関係ない話を続けながら歩く。

ムードなんて欠片も有りはしない会話なのだけれど、不思議と楽しい。

ADに関しては拓人の知識量は豊富で、此方の意図が完璧に伝わり、テンポの良いやりとりが出来るのが原因だろうと思う。

それに、ADの話をしている拓人は本当にウキウキとしている。



この笑顔を見るたび、トクンと胸が疼く。




(ああ……そういえばあれから1年なんですのね……)


ふと思い返す。

偶然に彼がここへ編入してきた理由を知り、同時に惹かれだしたのも、1年前――こうして二人で寮へ歩いて行く道筋の中ではなかったか――。



「――亜里沙」


「……はい?」


追想に耽り始めかけたところを、拓人の声に呼び戻される。

いつのまにか携帯電話を取り出し、画面を眺めていた拓人が、どこか呆然した様子でいる。


「悪い、ちょっと和葉さんから呼び出しがかかったんでラボまで行ってくる」


「ラボへ?どうしてまた……もしかしてアレですの!?」


「ああ、どうやら起動したらしい」


「それは……!」


拓人が暁学園に編入してきた理由に、大きな動きがあったのだ。




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