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愛しい君へ

作者: 糖砂
掲載日:2026/04/12

愛しい君に出会えたこと。共に過ごしたあの日々こそが、僕の人生において最大の幸せなのです___。

鈍い痛みが全身にほとばしり、あまりの苦しさに僕はもがいた。息ができない。母胎から押し出された赤子のように、陸に打ち上げられた魚のように。この姿はさぞかし滑稽だろう。薄れゆく意識の中、僕は過去に思いを馳せた。ああ、彼女に会いたいと__。


 20xx年8月x日、あの日君に出会ったことを僕が忘れることはないだろう。ちょうどその日は夏祭りで、たくさんの人間でごった返していた。僕はたくさん動かざるをえず、ひどく疲れていた。ほんとあの日は災難だった。でもそのおかげで君に会えたんだ。君は白百合があしらわれた濃紺の浴衣を着ていたね、確かクリーム色の帯をして。あの日の君はこの世の何よりも綺麗だった。これは自信をもって言えるよ。


 もう、彼女と同棲して2年と数ヶ月が経った。僕があまり力になれないからか、彼女が食事を用意してくれていた。レパートリーは豊富じゃないが、いつも安定の美味しさだ。僕はよく食べる。彼女は僕が食事をしているところをよく眺めていた。微笑を口元に浮かべて。僕は彼女の笑った顔が好きだ。目が細まって目尻が下がり、右頬に笑窪が浮かぶから。ずっとこの時間が続けばいいのにね。


 だが、数週間前からか、僕の体調が芳しくない。いっこうによくならず、苦痛は増す一方だ。ああ、そんな顔をしないで。君の笑顔が見たいのに。僕がこんな状態でも、彼女は僕を残して仕事に出かけてしまう。一緒にいたいが、しょうがない。死の影が徐々に近づいているとしても。


 苦しい、息ができない。呼吸をしようと必死にもがいた。ここ数日、じわじわと蝕みつつある死に抗おうとしてきた。でも、もう潮時らしい。今彼女はいない。君と最期まで共にありたかったのに。君に会いたい、会いたくて仕方がない___。一瞬痛みが和らいだ気がした。帳が降りて闇に包まれる。さようなら、君に出会えて僕は本当に幸せでした___。


 20xx年12月、私が仕事から帰ると飼っていた金魚が死んでいた。確か数年前に夏祭りでもらったものだ。結局一匹も掬えなかった覚えがある。水槽に近づいて、水面に浮かぶ赤い死体を見下ろした。金魚掬いの金魚にしては長生きだったが、最近上手く泳げなくなっていた。死体から目を逸らし、天を仰ぐ。このアパートには庭なんて代物はないから、この死体は生ゴミに出すしかないだろう。結構気に入っていた金魚だったのに残念だ。可愛かったのに。そう思いながら、死んだ金魚を小さな網で掬い出し、折り畳んだティッシュの上に置いた。空っぽになった水槽は虚しかった。うん、そうだ新しい金魚を飼おう。ペットショップで購入すればいい。私は水槽に背を向けた。そうよ、代わりなんていくらでもいるのだから___。

白百合の花言葉には「純潔」「無垢」「威厳」などがあります。それが「僕」にとっての「彼女」なのです。

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