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ルインシールサーガ 二章 奴隷紋は光らない  作者: 宮下しのぶ
第二章 ハラムビジネス

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ハラムビジネス 3

 

 身支度を軽く整えて、カーリャ、いやカーリアリアはグランクと共に瑠璃の天廊を歩いていた。麗しき蒼海の髪は青を失い、天界の蜘蛛が紡いだ銀の糸の様に輝いていた。

 王家の銀髪。

 グランク=グルニュールもそうだが、王家の直系に連なる者は遺伝的な銀髪である。生まれながらに日の神から嫌われて色を失ったとカーリャは聞いている。なので代々、王家は日の光が苦手な者が多い。カーリアリアもグランクも日の光に対しては耐性があるが、一族の中には日光を浴びると肌がただれて調子を崩す者もいた。かわりに大地神から好かれたとも聞いている。おとぎ話の一説なのでどこまで本当かはわからないが。

 服も絢爛な亜麻色のドレスに変わっていた。海外から輸入したシルク製らしいと聞いているがカーリアリアは正直興味がなかった。中々に手の込んだ一品だが、数度着ては捨ててしまうとカーリアリアは聞いていた。非常にもったいない話なので洗うなりなんなりして着続けることはできないかとグランクに聞いたものだが彼曰く、王族が草臥れた古着を着ていては周りの者に対して威厳を示せないらしい。すでに威厳もへったくれもないだろうにと思ったが、それはさすがに言わないでおいた。これ以上、くだらない事を言うと、怒りの末に本当にグランクが倒れてしまいそうだったからである。

 ちなみにこれ一着でラファール小隊長が半年から一年は暮らせるらしい。彼が聞いたらいったいどんな顔をするのだろうかとカーリアリアは考えた。

「それで、本日はどのような内容なの?」

「おおむねは定例報告ですな。取り立てて我々で悩む問題ではないと。国営は貴族院が行うでしょうしな」

「そうね」

 実際のところ、国営方針をあのような王城の端にある小さな建造物の議会で、ものの数人で決定するはずはなかった。

 国家の運営は貴族が中心に行っていた。先ほどから会話の端々にある貴族院という単語だが、実際は大政法治院という政治機関であり参加の条件は準男爵位以上の爵位を持つ事である。民衆を巻き込んだ下院、庶院といった物は存在せず、国営方針は貴族によって牛耳られていた。これがこの国に歪を生む一因となっているのだが現状、三百年の歴史の中でそのような体制になってしまった事なので今更ながらどうしようもなかった。利権を独占したいので爵位を持たない民衆の参加が何度か議会で取り上げられる事はあったが、幾度も却下されていた。

 女王も分類的には貴族なので、大政法治院への参加資格はあるのだが、現状の発言権は皆無に等しく、文字通り煌びやかな会議の彫像と化しているのが現状であった。力づくで黙らせるわけにもいかないわけであるし。

 ちなみにグランクの役職である大関自治はどちらかといえば行政よりの区分であり、彼もまた政治に口を出せる立場ではなく、それが彼の泣き所でもあった。

 現状のグランクの目的の一つに女王の政治参加、つまりは貴族内部での発言権を高める事があったが今の状況を見る限り、明日、明後日でどうにかなる話ではないと確信出来ていた。おそらく、前王の寵子で次期王位継承者筆頭候補であったのファラリス殿下ならば話は違ったのだろうが、グランクは今更ファラリスを担ぐ気にはならなかった。ファラリスに悪い印象を持っているのではない。目の前の女王に忠誠を誓っているからである。

 女王の即位以降、細々と続けている円卓議会もその目的に対する手段の一環であるが、この一年強、思ったほどの成果は無かった。結局、集まるのは気弱な都知事のバッファと、敵対心の意志薄い軍の幹部が数名、といった状況である。国主が主導で行う議会にしてはお粗末にも程がある。軍部と行政に関する情報がある程度流れるのは良い事なのだろうが、まるで王都の子供が通う修験学校で定例として行われる演劇のようなお粗末である。

 いや。

 そうでもないと、グランクは感じた。

 気のせいか、先日の一件以来、ある種の風向きの変化を感じていた。小さな変化だったので気のせいかと思ったが、おおよそ気のせいではないと確信めいたものがあった。

「本日も公爵家、侯爵家は総員欠席。王都治水院のバッファ=ザーヴィスは本日も出席。軍の方ですが騎兵大隊、魔導大隊の総大隊長は両名とも欠席。今回も代役でゼナンとフォルスが出席するようですな。それと……」

 そこで、グランクは片目をつぶる。

「本日も、バナン=バルザック総大隊将公が顔を出すようです」

「バナンが」と呟いた後、「そう」とカーリアリアは言葉を続けた。

 前回の一件以来、軍部の総大将であるバナン=バルザックは欠かすことなく、何の実りの無い円卓議会に顔を出していた。前回の様な状況は特殊で、普段は面白みのない情報交換をして終わるだけの場である。自らが主導で行っている場にこのような発言は空しいが、軍部の総大将であるバナンが顔を出すだけの価値は無いとグランクは思えた。

 だから、バナンは今まで円卓議会を部下に任せていたし、軍部の総括である彼はとても忙しい身なので、彼が議会に参加しないことに対してもグランクは特に追及する気はなかった。現状、その方が自然な事だとも思えていた。

 だが、前回の一件以来、バナンは熱心に議会に足を運んでいた。貴族が女王を快く思わず排斥しようという思惑まで感じられる状況の中、明確に女王に対して肩入れする利はない。メリアリアの怒りを買ったら、バナンほどの男でも左遷される可能性はあるのだから、なぜあえて、このようなあからさまな行動に出るのか、グランクには解らなかった。

 ただ、あれ以来、バナンの便宜か女王の身辺に対する警護が厚くなっているのをグランクは肌で感じていた。その一点は、とてもありがたいものだとも感じていた。

「それと……」

 グランクはふと、思い出したように口を開く。思い出すという程度ということならば、さして重要な話ではないのだろうかとカーリアリアは想像する。

 グランクは、顎を軽くさすり。

「バッファが、なにか相談事を持っていたようですな」

「バッファが?」

 バッファ=ザーヴィス。

 本名は、バッファ=ノーヴ=ザーヴィスという。ノーヴの爵名が表す通り、男爵位を持つ貴族であり、その印象を一言で語るのならば気の弱い苦労人である。

 元々の出自は良く、ザーヴィス伯爵家の三男であるが、三男という事で爵位を継ぐことは出来ずに自らの手で道を切り開くしかなかった。そういった劣等感を自らの力に変えることに成功したのだろう、シャーレ区の役場勤めから始まり、現在はこの都市における自治の総責任者を任せられている。その功績から男爵位を自ら勝ち取り、広大なアークガイアの運営を一手に預かる人物である。

 気弱な印象と、円卓議会でグランクに嫌味を言われる姿からは想像もできないが本来は非常に有能で各区を預かる区長がすれ違うだけで敬礼を行うような立場の人間であった。

 バッファ治水院総長は、本来肩入れする必要のないカーリアリアに対して親身に接し、来る必要もない円卓議会に、熱心に参加してくる情のある人物であった。爵位を告げない苦労人なので人の気持ちがわかるのだろう。なにか悩みがあるのならば、力になってやりたいとカーリアリアは思った。

「それで、内容は?」

 と、カーリアリアが聞くと。

「それが、報告が上がらないのです」

「知らないという事?」

「語弊があるといけないから、議会で詳しく話すとだけ。クリュール区に関連した話とだけは聞き及んでいますがな」

 グランクは、バッファが仔細を話さない事が気に入らないようだ。おそらく今日も随分と嫌味が口からでることだろう。

 カーリアリアは、クリュール区と聞き、親しいあの娘の顔が浮かぶ。今日も店先にあの訳のわからないポンだかペンだか並べて、にやにやしながら接客でもしているのだろうか。ここ最近は忙しいし、グランクの目が厳しくて会いにも行けなかった。

「クリュール区という事は、区でなにか深刻な問題が起きたという事?」

「それはわかりませぬな。聞いてみないと」

「そうね」

 そう言いがらも、二人は到着した。

 円卓院の扉の前に。



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