女王の賭け、騎士の誇り
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黒い霧の中から現れた女——蛇髪を揺らし、鉄扇を手にした艶やかな姿。
北の大悪魔、シュリーデ・ネレイア。
エリシアは思わず後ずさった。
彼女から放たれる魔力は冷たくも滑らかで、けれどその奥に底知れぬ圧力を孕んでいた。
シュリーデ「ふふ……私のことは知ってるのに、私との戦い方は知らないのね」
ヴァルター「黙れ……! 貴様はここで散るのだ!」
ヴァルターが剣を掲げると同時に、周囲にいたゾンビ騎士の数が一気に増殖する。
百、二百……瞬く間に千を超え、やがて一万の軍勢となってエリシアとシュリーデを囲んだ。
エリシア「そ、そんな……!」
ヴァルター「これが我が忠義! 数の壁こそ屍の強みだ!」
だがシュリーデは全く動じなかった。むしろ楽しげに扇をひらひらと動かす。
シュリーデ「賭け事の基本、数が増えれば増えるほど勝率は下がるのよ?」
彼女が指を鳴らすと、空に五つの漆黒のダイスが浮かび上がった。
同じものが騎士たちとヴァルターの頭上にも出現する。
シュリーデ「《ファイブダイス》」
ごろごろと回転し、数字が並ぶ。
シュリーデの目の前に現れた目は——「1・1・1・1・1」。
シュリーデ「ふふっ♡ 一以外は全部ハズレよ」
騎士たちの頭上を見れば、出た数字はばらばら。
ある者は「2・4・6・3・5」、ある者は「6・6・5・2・3」。
ヴァルターの出目も「1・1・1・3・5」と中途半端だった。
シュリーデはくるりと扇を回し、背後のエリシアにウィンクを飛ばす。
シュリーデ「よーく見てて。ギャンブルは、外した方が負けなの」
ぱちん、と指を鳴らした。
瞬間、ゾンビ軍勢全体に異変が走る。
ある者は全身から炎を噴き出し、ある者は雷に貫かれ、またある者は凍りつき、さらに別の者は体内を毒に蝕まれて崩れ落ちていった。
絶叫とともに、数千の屍兵が一斉に地に伏した。
エリシア「……! たった一振りで……!」
ヴァルターは膝をつきながらも、大剣を杖のように支え立ち上がる。
その眼には未だ忠義の炎が宿っていた。
ヴァルター「……はぁ、はぁ……これしきで……屍の忠誠は折れぬ……!」
だが、その瞬間。
鋭い金属音が響き、ヴァルターの首が宙を舞った。
鉄扇が飛んでいた。
いつ投げられたのか誰も見えなかった。ただ結果だけが残っていた。
シュリーデ「駄目じゃない。ギャンブルの掟は一つ。敗者は地に伏せ、勝者は見下ろす。それだけのことよ」
彼女は落ちた首を見下ろし、あっさりと扇を畳むと、エリシアに背を向けた。
エリシア「……あなた……どうして助けてくれたの?」
シュリーデ「さぁ、どうしてかしら? アルガスとセレナの弟子を死なせたら、賭けとしてつまらないでしょ?さ、ドミナスのところへ向かいましょ」
意味深な微笑みを残し、シュリーデは霧となって消えた。
エリシアは膝をつき、深く息を吐いた。
残されたのは崩れ落ちる屍兵の山と、切り裂かれた戦場の静寂だけだった。
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