王都へ①
あんまり俺が馬車を嫌がるので魔馬のデュークとリンクを借りての移動となった、
ギルドの馬車はルパートのアイテムボックスにしまってある。
だから、人数も増える帰りは馬車だ。
やだなぁ。お尻痛いし。揺れるし。
「飛ばすぞ、ルパート!」
「望むところです!」
俺はドゥーマの前に座らされての出発となった。二人ともに前傾姿勢で競馬のごとく、馬を駆けさせた。半日ごとの休憩では、デュークとリンクにスタミナポーションを飲ませた。
「がんばっちぇね」
アポーと、カロットをあげて汗を拭いてあげた。デュークが俺の髪の毛を甘噛みする。もう、ヨダレでネチョネチョだ。
ルパートが「クリーン」と唱えると俺の髪の毛は綺麗になった。何それ?!便利なヤツ!
「行くぞ!エイチ」
魔馬のあまりの勢いに盗賊さんは、出て来られなかったみたいだ。
1日目の野営。ロックウォールで周りを囲んで皆でぐっすり眠った。ご飯は、稲穂屋の惣菜パン。簡単なスープ作って晩ご飯を済ませた。魔導具持って来てて良かった!
2日目、朝。魔馬たちにアポーとスタミナポーションをあげて、俺達は稲穂屋の惣菜パンと昨日の残りのスープで、朝ごはん。
ロックウォールを崩すと弓矢が飛んで来たので打ち払い、コールドブレスで襲撃者を凍りつかせる。これ、ビジューの必殺技。
「人間じゃねぇ!ずらかるぞ!」
にーげーたー。
「よくやった!エイチ」
「早く、出発しましょう!」
「そうだな、太ももが痛いの治ったか?」
言わなかったのに、何でわかった!
「なんじぇわかっちゃにょ?」
「プッ、そんなへっぴり腰で歩いてたら一発でわかるわ!」
「おりぇのプリャイヂョが・・・」
「はいはい、頑張ってデュークのたてがみに引っ付いてろ!」
俺のプライドは何の役にも立たず3日目からは、馬車での移動となった。
俺のお尻はドゥーマの太ももによって、守られた。
何の襲撃も魔獣の討伐もしないまま、出発から5日目王都に着いた。
「ほぇええええ!おうちょ、ハンパにゃい!」
まず、20メートル以上ある防壁を検問してくぐり抜けると、何ということでしょう!
東京のラッシュアワー並みに人が詰め込まれてる。西洋のおとぎ話の街さながらの景色を俺は窓から身を乗り出しあちこち見て通行人に笑われながら宿までの道を進んだ。
ハンターギルドの裏に何故か馬車は止まり、ドゥーマに子供抱っこされて裏口から、事務所に入って2階にあったギルドマスターの部屋へ。
そこには、キラキラの銀糸の髪に穏やかな緑の目のエルフさんがいた。
「ドゥーマ、早かったね!奴隷商の事調べておいたよ。早速行こうか」
「ありがとう、すまんな、エリン」
「ありがちょ!エイチでしゅ!よろちくおにぇがいしましゅ!」
「はい。私はエリン・タブレット・ラシュハーンです。エイチくんよろしくね。じゃ、ミリアン後はお願いね」
書類の山の向こうに小柄な女性がいた。
「お土産よろしく!」
「あはは、はぁい」
♢♢♢♢♢
夜も遅いのに、開いてた奴隷商会は普通の貴族のお屋敷みたいに広かったし、綺麗だった。
「これはこれは、夕風の旅団のエリン様とドゥーマ様がお揃いでどうしましたか?そちらのお坊ちゃまの戦闘奴隷でもお探しですか?」
夕風の旅団?同じハンターチームだったから仲が良いのか。
「いや、これはこう見えてシルバーサーペントを狩ってくるのが朝飯前くらい強い。メンドーサ久しぶりだな!お前も元気そうでよかった!」
「ハハハ、隠居したいのですが、息子達がアホで、根性を叩き直してる最中です。戦闘奴隷じゃなかったら、どういった用途での奴隷をお求めですか?」
「実は店を出したいのだが、店長がエイチの奴隷なのと、料理のレシピを他に洩らしたく無いので従業員を全員奴隷にしようという事情だ」
「なるほど、料理人と給仕がいれば、いいですか?」
俺に目線を合わせて話してくれるメンドーサさんに人数を告げた。
「コックしゃん、5にんいじょう。おかいけいは2り、ハウスメイドが1り」
「ご予算は幾らくらいになりますか?」
「だいきんか2まいまでで、おにぇがいできましゅか?」
メンドーサさんはドゥーマに目配せしていたがドゥーマがうなずくと条件を満たす奴隷を連れて来た。
皆、貫頭衣を着ているが、清潔で健康的だ。
唸れ、鑑定さん!
※※※※※鑑定
右から4番目エリオット・料理人歴5年。実の父に罠にはめられて奴隷落ち。
左端、アース・料理人歴25年。ライバル店により、店が赤字経営で借金返済の為奴隷落ち。
※※※※※
「聞きたいことがあれば、どうぞ」
「エリオットとアースをくだしゃい!」
「なるほど!鑑定をお持ちですか。2人でよろしいですか?」
「戦闘奴隷でも料理をやってみたいって奴を連れて来てくれないか?あと、女の料理人でもいい。ハウスメイドで料理の経験があれば連れて来てくれ」
「戦闘奴隷は値が張りますから、料理経験者を連れて来ます。少々お待ちください」
サロンにはエリオットとアースが残され、しばらく待つと、女性達が出て来た。4人しかいないし、奴隷にしてはパッとしない容姿だ。
鑑定さんはどう思う?
※※※※※鑑定
この世界での家庭料理くらいが作れるみたいだから、買いね!
※※※※※※
「4にんともかいましゅ!あちょ、ハウスメイドさんはおとしよりでもかまいましぇん」
「はは、年寄りはさすがにいません。ハウスメイドと会計係でしたね?」
「おねがいちましゅ!」
そこそこ見た目がいいお姉さん達が集められたようで、看板娘になる2人と、ハウスメイド1人を鑑定さんは巧みに選んでくれた。
「全部で9人、大金貨2枚ちょうどいただきます」
「あい!」
多分お安くしてくれたんだろうな。ありがとうメンドーサさん!
メンドーサさんは、優しく笑って説明を続ける。
「受け渡しは明日の昼になります。馬車の用意もこちらでしますので、少々お待ちください。主従契約を今、済ませてしまいます。お手をどうぞ」
左手を注射の時のように袖口をまくって出すと何故かエリンさんとドゥーマがウケている。ルパートも笑うのをこらえている。
「そんなにデカい契約紋は付かねえよ!」
「そうですね、ホクロ程です。何人かにしても一緒ですよ」
しかし、奴隷の方は首に輪になるように入れ墨が入る。また、この人達にも首にスカーフ巻いてあげなきゃ。
契約は直ぐ終わった。
グウ~~~ゥ
「そういやぁ、腹減ったな!ブラーナの店行こうぜ!」
「いいでしょう。ギルドから歩いて行きましょうか」
ハンターギルドの裏口に馬車を預けて、ブラーナの店とやらまで歩く。
幸いハンターギルドの近くで、ひっそりと営業してる高級な飲食店だった。
ルパートがドン引きしてるのをエリンが軽く背中に手を添えて店に踏み込む。
「あら、珍しい人が来たわ!ブラーナ!ドゥーマが来たわよ!」
店の奥からいかつい顔つきのはげたじいさんが出て来た。
「とうとうギルドマスターをクビになったか!」
「失礼極まりないわ!そんな事実はねぇ!このちっこいのに、腹いっぱい喰わせてくれ」