ビジューとハンターさん達
ハンターギルドに帰ったら、何だかいつもと違うざわめきに首を傾げているとドゥーマが事務所から出てきて憔悴した顔で階段を下りて来た。
俺を見て、ビジューを見て体中の空気を全部吐くようなため息をつく。
「ちょっと来い!」
抱っこされてギルドマスターの部屋まで連行された。ルパートが必死についてくる。
「で、何があった?首にかけてあるそれは、あと3日経たずに首にかけてられない重さになるぞ?わかって無いだろう!このおバカ!!」
本気で怒られて俺はギャン泣きした。
「あ、何泣かせてるんですか!ギルマスは、部屋から出てて下さい!よしよし、怖かったね。素敵なお友達について、お話ししようか?」
「おこりゃにゃい?」
「怒ってないよ。ギルマスも。心配してただけで怒ってないよ。お兄さんのお話し聞いてくれる?」
お兄さんは獣人で頭に犬っぽい耳が生えていた。
「まずは、自己紹介から。狼の獣人のロックです。サブギルドマスターをしてます。よろしくお願いします」
涙と鼻水を拭いてくれた。
追い出されたドゥーマは、ドクダミ茶をサンドイッチと一緒にテーブルに置く。
「エイチ、悪かった!許してくれ。もう怒鳴ったりしないから」
「ほんちょ?」
「本当だ。ごめんな?」
「うん、ゆりゅしゅ!ちゃべていいにょ?おにゃかしゅいちゃ」
「食え。ルパートは、買い取り窓口に行って来い!帰って来るまで話はしないから」
「では、失礼します」
今日のドクダミ茶は煮出し過ぎ。
「にがい・・・」
ロックがハチミツを入れてスプーンでかき混ぜてくれた。
「おい、ロック!それ、貴族用の「ゴチャゴチャ言わないの!たった、一杯分でしょう?!」・・・すまん」
サンドイッチは照り焼きチキンサンドだった。ふふ、ローレンさんが作ったのかな?
サンドイッチを一つルパートに残して待ってると、ルパートがギルドマスターの部屋まで戻って来た。
「さて、ルパートさんも戻って来たから、素敵なお友達について、お話ししますね」
「ルパート!こりぇ、たべちぇ!」
「お腹はいっぱいになりましたか?」
「ん!いっぱいらよ!」
ぐう~~~~ぅ。
「ふふ、食べて下さい。私はまだお腹空いてませんから」
恥かしい!!俺の腹め!慎みが無いにも程がある!
ルパートが俺の口元にサンドイッチを差し出す。俺はヤケになってかぶり付く。
「ルパートさん、どうやってテイムしました?」
俺が食べてるのでルパートから聞くようだ。
「シルバーサーペントに襲われてる所を助けてエサを与えたら、母親蛇にエイチ様が託されたのです」
「親は去りましたか?」
「はい、子蛇を襲っていたシルバーサーペントを平らげて、森の奥に帰りました」
ドゥーマと、ロックが安堵のため息をもらす。ドゥーマがくしゃりと俺の髪をかき乱し、笑う。
「お手柄だ。ただし、3日以内に郊外の家に引っ越ししなきゃなあ。自分で持ち歩けない従魔は街に入れちゃいけないんだよ。すまんな」
「もりにしゅむにょが、はやくにゃっちゃらけ。らいじょうぶ」
ドゥーマがけげんそうな顔で俺に問う。
「森に住もうと思ってたのか?」
「そう!もっちょ、ちゅよくにゃらにゃきゃ!しゅぎょうにゃの!」
「・・・そうか。今日は家に帰れ。明日はルパートと一緒に食材と調理用具一式街に出て買え。お友達を盗まれるなよ?売れば大金持ちになれるから、ハンター達に狙われてるぞ?」
「私が護衛につきましょう!せめて街にいる間は、守って見せます!」
「ありがちょ、ロックしゃん!おにぇがいちましゅ!」
「かわいい!」
ロックさんに抱きしめられた。
「かわいくにゃいもん!かっこいいんだもん!!」
何故か、そこにいた皆が笑った。
俺は機嫌が悪いのをルパートに抱っこされて宥められながら、買い取り窓口で今日の報酬銀貨9枚を受け取った。
やっぱり目を潰したのが査定に響いたらしい。残念だ。
ロックさんの護衛代金も払わないといけない。そういうと、ついでに休めるからいいのだと言う。優しい人だ。
店に帰ると夕飯が待っていた。
今日はひんやり、お蕎麦!んー!美味しい!いくらでも食べられる。
ビジューには、トンカツを作ってあけたら、10枚食べた後、俺に頬ずりしていた。
気に入ったらしい。
その夜はビジューを枕にして寝た。
朝方に起きると、ロックさんとルパートと共にハーライト商会に行った。
メンバーズカードを擦って、早く開けてもらった。
片っ端から食材と調理器具、調味料を買い取り銀貨8枚分支払い、店を後にした。
次は商業ギルドに行き、郊外の土地付き廃屋を買った。金貨1枚と銀貨3枚で買えた!
ただ、相当ボロボロなので、覚悟して下さいと、窓口の人に言われた。
レッツDIYだ!材木屋で資材と古い大工道具を買い揃え、ルパートのアイテムボックスにしまい、いざ、郊外へ!
街の外に出ると悪いハンターたちがちょっかいをかけて来ては、ルパートとロックさんにボコボコにされていた。
ルパートは対人戦は強いらしいのが解ってホッとした。
街から離れると、森も深くなり、おバカなハンターたちはついて来られなくなった。
森の中にひっそりと佇むように建っているボロボロの倉庫。
「これだね。私も直すの手伝うよ」
ロックさんの善意をありがたく受け取り、まず外壁や屋根材を剝がした。
もちろんルパートとロックさんが。
俺は、屋根に上がってルパートに材木を出させると片っ端から釘を金槌で打ちつけていき、屋根が張れるとシルバーサーペントの革を瓦代わりに貼り付けた。これで雨が染み込まない!
「へぇ。弱い魔獣除けにもなるし、いいですね!初めて見ました!」
「その前にシルバーサーペントを狩れないと大赤字です!外壁は、どうするんですか?」
「いわをちゅむ!【ロックウォール】」
ちょっとデコボコだけど、金槌で叩いてもヒビ割れしない!窓と出入り口を木の扉にして出来上がり。
「いつの間に魔法を覚えたのですか?エイチ様」
「ビジューのまほうをちゅかわしぇちぇもらっちゃにょ。おみじゅのまほうもちゅかえりゅよ」
「ああ、そうだよね。従魔の絆があるから、可能だよね。家の中はどうするの?エイチくん」
「いわしいて、けがわしく!」
あと、キッチン作る!
調理台と流し台はロックウォールで。排水溝も魔法でちょいちょいして。食器棚は、木材でDIYする。カラーボックスみたいな簡単な棚を大きさを変えていくつかつくる。
大きいのは洋服ダンス。一つはルパートの、一つは俺の。
タンスには扉もつけた。
「ええ、いいな!これ作って!かっこいい!」
ロックさんにも作ってあげた。
ルパートがロックさんを送って来るついでに布団とベッドを買ってくるとお出かけした。
俺は夕飯を作ってルパートの帰りを待った。あんまり遅いので、その辺に生えてた薬草を煎じてポーションもどきを作ったりして、遊んでいた。
ルパートは、その夜、遅く帰って来た。ボロボロに、傷つけられていて虫の息だった。俺は効くかどうか解らない自作のポーションを飲ませた。多少効いたらしい。しゃべれるようになった。
「ここから、出ないように!」
そう言って1週間目覚めなかった。