ノーと言える幼児
その煮込みの臭いをかいだだけで空腹感が収まった。
これは俺が利英先生に始めの頃に作ったダークマターと同じ香りがする。俺の危機管理能力が「食うな」と警鐘を鳴らしている!
「パンと一緒に料理も出すんだ。どうだ?なかなかの味だろう」
「・・・」
そこまで言うなら一口だけ。モグモグ・・・。うえぇ~、不味い!獣臭い!茹でた肉じゃねぇか!アクも取ってねぇし、出汁も出てない!ほんの少し塩?味がするだけ!
俺は厨房に駆け込むと力仕事はルパートを使ってある材料でサクッと夕食を作った。
ジャマイモのポタージュにジャマイモのガレット、カロットラペにラドッシュのマリネ、ギルドマスターは、夢中で食べている。ルパートと俺は調理台でつまみ食いして空腹感を紛らわせた。何故か、たくさんあるジャマイモでポタージュを追加で作って夕食にした。
夕食の後、やかましいギルドマスター・ドゥーマを何とか黙らせて一言言う。
「おいしいパンにあんにゃ、マジュイりょうりをちゅけにゃいで!」
「そんなに怒るなよ!俺が悪かった!何でもするから、うちの料理人達が店に出せる料理を仕込んでくれないか?」
「すいしゃごやつくっちぇ!」
「すいしゃごや?すいしゃって何だ?小屋はわかるが」
「かくもにょ、ある?」
木の板と羽根ペンとインク壺を渡され水車の設計図を描いた。前世の俺の得意分野だ。
水車小屋の粉挽き設備も別の板に描くとドゥーマから矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
気が済むまで答えてやったら、天井をあおいで、しばらく動かないドゥーマをほっといて寝た。お子ちゃまは眠いのだ!
ルパートのベッドが無いらしいから、一緒のベッドで寝た。早朝起きると食事の仕度をしてこの家の料理人を待つ。
ドゥーマの方が早かった。
「料理人は昼から来て夕方に帰る。メイドの方が早い。合計で5人いる。昼飯作ってやってくれ!」
日の出と共にドゥーマは出勤した。
なーんで、小麦粉が無いのかなぁ?
「何をお探しですか?エイチ様」
「こむぎこ」
「ああ、貴族の屋敷にしかありませんよ。一キロ銀貨1枚しますからね」
「おこめは?」
「それはどんなものですか?」
「しろくてツブツブ」
しばらく無言の時が過ぎ、ルパートは水滴で稲穂の絵を描く。
「そう、そりぇ!!」
「ブルーブルのエサです。買い求めますか?」
「いきなりなくなったりゃ、ブルーブルしゃん、こまりゃにゃい?」
「かわい・・ゴホン!ブルーブルは雑食ですからワラを与えたらいいくらいです!そんなに心配なら、イネ農家に行ってたくさん作ってもらえばいいでしょう。1年に4回獲れますから」
開拓費がいる。
「ルパート、このまちあんにゃいできる?」
「はい。私は、この街の出身なので、いろいろ案内できますよ!」
「ぶきやいきちゃい」
小銀貨5枚で買えるごついナイフあるかな?
♢♢♢♢♢
結果発表!
なかったから、作ってもらうことになった。ルパートの紹介で行った武器屋アンクルは職人堅気のお店で「お金が足りない!」と言っても見逃してくれなかった。
仕方なくサバイバルナイフを注文したら、目をギラギラさせて早速作っていた。
作ったことの無いもの作ってみたい気持ちわかる!職人だもの!
お昼は小銀貨1枚分商店で食材を買いドゥーマの家に戻ってクッキング。
ホワイトシチューと、ハンバーグ。
メイドのアニー、俺の奴隷のミンミちゃん、執事のトニス、シェフのローレン、見習いコックのブラン。皆が美味しいと大絶賛した。ホワイトシチューに小麦粉をちょっと使っているとローレンに言うと危うくひと月の食費全部持って買い物に行ってしまうところだった!
ちなみにハンバーグのタネに使うはずのパン粉が無いので卵を追加してフワフワハンバーグに仕上げた。テレビで見たプロの裏技である!パン粉とミルクより卵液を多めにすると柔らかくなるのだ。利英先生も柔らかハンバーグがお好きだった。
シチューはコカトリスの肉をゴロゴロ入れて野菜も大きめに切って腹に溜まる感バツグンに仕上げた。
コックのローレンとブランは俺のお料理教室に必死になって学ぼうとしてる。今日は、ロールキャベツとハンバーグ、シチューとコンソメスープを教えて終了。
執事のトニスが今晩ドゥーマが帰らないことを告げたので、ロールキャベツを差し入れしてもらった。
翌朝、スコーンを焼いて手作りジャムを添えてギルドマスターの部屋まで持って行くと徹夜明けなのか、気怠そうにジャムをつけて1個食べて、覚醒したのかガツガツもったいない食べ方をしていた。
帰ろうとしたら引き止められた。
「商業ギルドが領主様に水車小屋のことをチクったみたいで、川の水を使うなら税金を納めるよう言われた。すまん!後手になって」
ああ、中世で水車の税金制度そういえばあったね。
「ひと月幾ら?」
「…それが、銀貨1枚と小銀貨5枚もだと!」
15万くらいかな?1食大銅貨1枚だから、30席で何回ローテーションするかだよな。
半日で5ローテーションするとして、一日で15万稼げるな!
「いいよ。おこづかいちょうぢゃい」
「銀貨2枚しかやれんぞ?」
「だいちゅき!」
「今夜は帰れる。夕食楽しみにしてる」
今日はやることがあるから、クレイジーソルトのステーキでいいだろ!
早速酒屋に行って木樽の頑丈なのを買う。これで銀貨2枚吹っ飛んだ。
昨日の商店でイネを一袋買う。大体一斗袋が小銅貨6枚で買えた!安い!でもこれ、モミ付何だよね?
俺は歩いてルパートが荷物を全部持ってくれた。ドゥーマの家まで帰るとトニスが玄関で出迎えてくれた。
木樽を見て驚いてるルパートに中身はイネだというとルパートが木樽の中にイネを入れて玄関先で風魔法で精米してくれた。モミと糠は木樽の外に吹き飛んだ。
「こうすると人間も食べられます。ウチでは、よく食卓に上ってました」
「トニスしゃん、こりぇ、こにゃにできにゃい?」
「簡単ですよ。何を作るのですか?」
しまった!水車小屋要らなかった!でも、検証してから!
「パンつくりゅの」
トニスさんはいい笑顔で簡単に米粉を作ってみせた。ちょっとドヤ顔してた。
天然酵母は昨日の夜から仕込んでいるのでまだ時間がかかる。するとルパートが、発酵魔法でひと月くらいすぐ時間を進められるという。一日ごとに瓶を振って発酵を促すと、はい、出来ました!天然酵母の元。
それからすぐ全員でパン作りした。
ルパートの発酵魔法は、肥料作りに実家で重宝してたらしい。たくさん発酵できると言ったのでパン作りの発酵作業を手伝ってもらった。
「オ~イ!帰ったぞ!誰もいないのか?」
トニスさんが手を洗って玄関に走った。
「旦那様、水車のことはもうよろしゅうございます。魔法で解決しました!」
「あぁ、よかった!税がかかるとか、あり得ないよな!皆で何してんだ?」
「「「「「パン作ってます!」」」」」」
大きな籐かごに山盛りの食パン。
「メシ食う!待たねえ!すぐだ!」
オークのステーキを焼いてお手製クレイジーソルトを振り掛ければ「美味い!美味い!」と皿を重ねるドゥーマに自分たちの分を死守する使用人たち。食パンのバタートーストをせっせと作る俺。食パンは20斤焼いたのに、一つも残らなかった。
米粉は偉大だ!