混沌の山 3・マリア
「くらえ!ルシファー!!」
ジャヒーの恐竜の口から青白い炎が竜巻のように吐き出された。
「クソったれが!!」
郷が手をかざして炎を防ぐ。
「さっさと走れッ!!」
郷の言葉を受けて私とリリは泣き叫ぶ子供たちを連れて走り出した。
残った子を白神先輩が抱きかかえて走る。
ロッジの中に子供達を避難させると白神先輩がリリに言った。
「頼む」
リリは無言で頷く。
それを見た白神先輩は郷の方へ戻っていった。
「マリア!早く中へ!」
「リリは!?」
「私はまだやることがある」
そう言うとリリは顔の前で指を二本立てると呪文のようなものを唱え始めた。
「メタロン・ガゼス・バイオケン・ミキオン…暗黒の地獄の業火よ、八方陣の障壁となり我らを守り給え……」
唱えながら大きく右腕を円を描くように四回回した。
「さあ!中に入って!」
リリが私の方を向いて言ったときに後ろから化物が三匹、咆哮を上げながら襲いかかってきた。
「危ない!!」
私が叫んだがリリは微動だにしない。
その代わり化物はリリの手前で見えない壁に激突したかのように止まると黒い炎に包まれて燃え上がった。
断末魔の咆哮が響き渡る。
「これで大丈夫。さあ、子供達を」
「う、うん!」
ロッジの中に入ると子供達は泣き続けていた。
無理もない。
するとリリは口の前に手の平を持ってきた。
その上に小さな光る球が現れる。
それに息を吹きかけると光の粉になって泣き続ける子供達の周囲を囲むように降り注いだ。
何事かと思った子供達が顔を上げるとあっという間に目を閉じて床に倒れた。
「な、何をしたの!?」
「こういうときは寝ていてもらったほうがいいでしょう?」
みんなを見るとさっきまで泣いていたのが嘘のようにスヤスヤと寝息を立てている。
「リリ…あなたは…?」
「私はリリス。ルシファーを手助けするために地獄から地球に来たの」
「じゃあ、あなたも悪魔?」
「ええ」
リリが返事をしたときにドーンと音がして大きくロッジが揺れた。
「大きいのがぶつかったみたいね」
そう言ってから「座りましょう」と言ってイスに腰掛けた。
私も促されて座ると、「さっきこのロッジを積層型立体魔法陣で囲んだの。四つの魔法陣を東西南北の方向に重ね合わせて八方向360度をカバーできるわ。触れたものは全て地獄の炎に焼かれる。ここにいればしばらくは安全よ」
「ありがとう……」
「お礼なんていらないわ。助けたわけじゃないから。私達にとってあなたは新しい悪魔の宇宙を創るために必要なの」
「そのためにわざわざ私の友達に?」
「そう。下等な人間達とも友達のふりをしてね」
髪をかきあげながら語るリリの様子は普段となんら変わらないものだった。
相変わらずロッジは揺れている。
魔法陣を破ろうと化物が殺到しているのだろう。
「ちょっと外の様子を見ましょうか」
リリが人差し指を立ててスマホの画面を操作するように動かすと私たちの上に外の景色が広がった。
まるで大きなテレビの画面を見ているようだ。
ロッジの周りを無数の怪物が囲んでいる。
「ものすごい数だわ…… 敵も本気ってことね」
リリが映し出された光景を見ながら言う。
外の原っぱは隙間なく埋め尽くされていた。
「郷と白神先輩は……」
私が聞くとリリはまた一つ中に画面を出して見せた。
そこには夥しい数の相手に戦う郷の姿があった。
リリがさらに画面を増やす。
白神先輩が映った。
大空でジャヒーと戦っている。
その姿は防戦一方に見えた。
それを見ていたリリが舌打ちした。
「バカね…なにをしているのかしら」
「どうしたの?」
「ミカエルの相手はジャヒー。魔神の中でもアーリマンの妃といわれる強者。でもいくら人間の体でもあんなふうに一方的に攻められはしないわ」
「危ないの?」
「きっと吸収された人間達を助けようと考えてるのね。世話が焼ける……」
「そんな言い方って…!」
「フン…奴らが作った亜空間は奴らにとっては力を倍増できる、いわばホームよ。そんなところで戦い方を選んでいたら命取りになるわ。ただでさえ人間体のままで魔力を使うことは消耗が激しいのに」
キッと画面をにらむとリリは立ち上がった。
「こうなったら外の雑魚共を私が一手に引き受けてルシファーにミカエルの援軍に行ってもらうわ。二人ならジャヒーを倒して人間共も助けることができるかもしれない」
言いながらリリは両腕を広げて目を閉じた。
足元から黒い炎のようなものがメラメラと燃え上がる。
「リリ!」
「離れてて!」
咄嗟に二三歩さがる。
黒い炎は一瞬にして逆流する滝のようにリリを包んだ。
そして炎が消える。
そこには私の知らないリリがいた。




