学園襲撃・マリア
クラスメートの声援がとぶ。
今日は昼休みが終わって、女子はソフトボールの授業。
ウチの学校は敷地が広いのでもうひとつのグランドでは男子が使ってサッカーをしている。
「えいっ!」
思い切り振り回された美羽のバットが空を切った。
「あっちゃ~・・・ ごめん」
三振して申し訳なさそうに言う。
「ドンマイ!任せといて」
「お願いマリア」
笑を交わすと片手を上げてタッチした。
ランナー2塁、私が打てば逆転のチャンス!!
一際大きくなるクラスメートからの声援。
よしっ!!
気合を入れて構える。
相手ピッチャーが放る球を思い切り叩いた。
打球は内野の頭上を超えて外野の奥に転がる。
やった!!
「ナイス!マリア!」
みんなの声援に混じって美羽の声が走る私の耳に入った。
私は2塁に。
ランナーはホームに入って逆転した。
2塁に立った私はみんなの声援に手を振って応える。
そのときみんなの声援が急に止まった。
みんな校門の方を見ている。
なに?なに?
私も校門の方を見てみた。
「あっ!!」
思わず声が出た。
校門には黒い犬が6匹並んでいる。
「なにあれ・・・?」
「気持ち悪くない?」
私の横で見ていた子達が口々に言う。
そのうちに一匹が空に向かって吠え始めた。
事態を見守る静寂の中、悲しげにも聞こえる咆哮が響き渡る。
「ちょっとみんな教室に戻って」
手を叩きながら先生が言った。
しかし、魅入られたように校門に佇む6匹の異様な光景にみんな注目している。
「オイ!急げ!片付けはいいから!
先生が一人一人の腕を取りながら声を荒げて言った。
咆哮が止んだ。
6匹の犬は一斉に牙をむき出して私達――
校庭にいる生徒目がけて走り出した。
まずは校門に近い男子の方へつっ込んだ。
6匹は手当たり次第に近くにいる生徒に噛みつく。
悲鳴と怒号、でたらめに逃げまどう者もいてメチャクチャな状況になった。
「オマエら!急げ!早く教室に、校舎に入れ!!」
先生はいつの間にかバットを片手に持っている。
そのとき私は異様な光景を見た。
私だけじゃない。
その場にいた誰もが。
犬にかまれた生徒は少しすると発狂したように叫びだして他の生徒に襲い掛かる。
狂乱の様相は一気に拡大した。
「なんなの…?」
「怖い…」
みんな震えながらも脚が動かないように立ちつくしている。
「みんな!早く逃げて!!」
私は大声で叫んだ。
1匹の犬がこちらに向かって猛然と駆けって来る。
「キャァ―ッ!!」
「助けてッ!!」
みんな一斉に逃げ出した。
「美羽!!」
「マリア!!」
私はベンチの方にいた美羽に声をかける。
美羽は怯えて半分パニックになって動けないでいた。
「早く校舎に入ろう!!」
「うん!!」
私達に後ろでは逃げ遅れたクラスメートの子が犬に襲い掛かられていた。
「美羽!先に急いで校舎へ!!」
「マリア!!」
美羽に言うと足下に転がっていたバットを手に取り倒れたクラスメートの首に噛みつこうとしている犬めがけて走った
「いやあっ!!助けてぇ!!」
泣き叫ぶクラスメートの上で猛り狂う狂犬。
その黒い身体めがけて思い気りバットを振った。
「ギャオッ!!」
悲鳴を上げて吹っ飛ぶ狂犬。
「大丈夫!?走れる!?」
「あ、ありがとう」
クラスメートを抱え起こす。
辺りを見ると言葉を失った。
どうなってんの… これ?
犬にかまれた生徒が他の生徒に襲い掛かる、襲われた生徒はさらに他の生徒を襲う。
あちこちで悲鳴が聞こえる。
もはや何が起こっているのか理解不能だ。
「うおおお――!!」
目を血走らせながら獣のような叫び声を上げて男子が全力疾走してきた。
「イヤッ!!」
横にいた子が泣きそうな声を上げる。
私が咄嗟に身構えると先生が前に立ちふさがって思い切り男子を殴り倒した。
「早く校舎に!!」
「ハイ!!」
私は泣きじゃくるクラスメートの手を取ると校舎に向かって全力で走りだした。
後ろから今度は先生の悲鳴が聞こえる。
見ると数人の男子と女子が襲い掛かってメチャクチャに殴ったり噛みついたりしていた。
「助けて!助けて!!」
横にいる子が泣きながら叫ぶ。
私だって怖い!
泣きだしたい!!
でも今は逃げないと!!
「マリア!早く!」
「美羽!!」
美羽がバットを持って構えながら私に声をかける。
「美羽!どうして残ってるの!?」
「だって!マリアを放っておけない!!」
美羽は身体をガタガタと震わせながらも私を真っすぐ見て言った。
「マリア!!」
「マリアさん!!」
私を呼ぶ声がした。
見ると純と詩乃が3人の男子を連れてこっちに走ってくる。
「純!詩乃!」
よかった!無事だったんだ!!
「早く走れッ!!立ち止るな!!」
詩乃が大きく手を振る。
私はうなずくと美羽とクラスメートのこと3人で走り出した。
背後から狂犬の咆哮と、狂ったように暴れるクラスメート達の叫び声が聞こえる。
心をかき乱すような声だ。
「振り向くな!走って!」
純の声が後ろから私を支えるように届く。
もう校舎は目の前だ!!
どういうことか玄関の前に何人かのクラスメートが泣き叫びながらガラス戸を叩いている。
「どうしたの!?」
私が聞くと一人が泣きながら答えた。
「誰かが中から鍵をかけて…!!
「開かないの!?」
私の問いに全員がうなずく。
なんてこと!?
「どうした!?」
詩乃達が追いついてきた。
「ドアが開かないの!!」
「なにっ」
私達をかきわけて詩乃がドアの取っ手を持つとガタガタと強く揺らした。
「クソッ!!誰が閉めたんだよ!!」
「どうしよう!?」
美羽が私の肩をにぎって言う。
「大丈夫だから」
震える美羽の手を持って強く言った。
そのとき少し後ろの地面に授業で使ったバットが転がっていた。
私は走ってそれを拾うとみんなに叫んだ。
「危ないからどいて!」
みんながサッとどくと、内側の鍵があるところに近いガラス部分を思い切りバットで殴った。
バリンという音とともにガラスが砕け割れる。
割れた部分から腕を入れて内側にある鍵を開けようとした。
「ウオオオオ―――!!!」
叫びながら狂ったクラスメート達が猛然と迫ってくる。
その中には私達を助けてくれた先生も。
「マリア!!」
美羽が叫ぶ。
「痛っ…!!」
焦った私はガラスで腕を切ってしまった。
腕から真っ赤な血が滴り落ちる。
「やった!開いた!!」
鍵を開けた私は思わず叫んだ。
そのとき轟音が鳴り響きまばゆい閃光につつまれた。
なに!?
視界が真っ白になって何も見えない。
一瞬で意識が遠のくのを感じた。
ダメだ…!!
気絶してる場合じゃない!!
そう思っても遠のく意識は止めようがなかった。
朦朧とした意識の中、私達を襲おうとしたクラスメートが全員倒れているのが見えた。
そして校門の方にいた黒い犬。
その犬にもの凄い速さで黒い影が覆いかぶさった。
なんだろう……?
あれってもしかして……。