戦闘 ―2・ルシファー
ついてきてるな――!!
背後から猛然と迫ってくる瘴気を感じた。
道なき道を200メートルほど駆け上がると前方の空間が裂けはじめた。
避けた空間の中から異形の怪物が飛び出してきた。
その数は50?
いや、もっと多いか?
その姿はどれもバラバラで爬虫類、昆虫、哺乳類といった様々な生物を混ぜ合わせたようなものが俺の周囲を取り囲んだ。
どいつもこいつも醜悪な姿をしていやがる。
しかしこいつらの気配はさっきまで俺を追ってきた奴のものじゃない。
俺をずっと追ってきた奴はどこだ?
どこにいる?
「ギャオオオオ――!!」
怪物どもが一斉に襲い掛かってきた。
それを空中に飛び上がってかわす。
飛び上がりながら右手を空に向かって突き上げた。
「舐めるなッ!雑魚どもッ!!」
魔力を右手に集中させて頭上に向かって撃ちはなった。
閃光は真一文字に上空に昇ると幾条もの光の雨となって地上に降り注いだ。
爆撃。光の雨の爆撃。
阿鼻叫喚の灼熱地獄を作り上げる。
断末魔の咆哮をあげて怪物どもが爆発とともに八つ裂きにされていく。
焼け焦げた臭いと血の臭いが充満する地に降り立つとわずかに生き残った数匹が恨みの声をあげて襲いかかってきた。
「まだ格の違いがわからねえか!?」
怪物どもの爪と牙をかわして頭を叩き割り、首を引きちぎる。
血を噴き上げて倒れる相手の姿が俺の中にある殺戮と破壊による喜びを刺激した。
「てめえらごとき素手でグチャグチャにしてやるぜ!」
腕をねじ切り腹を裂く、血煙の中で殺しまくった。
死ね!
そして俺を恨め!
数分後、周囲にいたすべての怪物がただの肉塊となった。
怪物の死骸から手のひらにすっぽり収まるほどの青白い炎が灯り始めた。
これがこいつら魔神の本体。
このままの姿ではこちら側の世界に留まることも、本来の能力を発揮することもできない。
その代わり奴らはこの世の全ての有機物・無機物と合体、憑依することができる。
そうやってこちら側で本来の力を発揮できるわけだ。
魔神どもでも上級の連中は合体しなくてもある程度の力を発揮できる奴もいる。
そこまで強大なエネルギーを持ってる奴は限られてるがな。
やっかいなのはこいつらは死なないってことだ。
意識はなくなってもエネルギーとして存在し続ける。
そして仲間同士が吸収し合うことで力を取り戻し、分裂、復活する。
この宇宙、混沌が存在する限り。
とにかくやっかいでめんどくさい奴らだ。
さてと!
これで全部じゃねえはずだ。
さっきから俺の後を追って、隙をうかがっていた奴がまだいるはず!
「ルシファ――ッ!!!」
「ムッ!」
辺りに木霊するほどの大きな声で俺の名が呼ばれると周囲の木がザワザワと揺れ動いた。
こいつが俺を追ってきた奴か?
何に憑依しやがった!?
身構えると、まるで見えない巨大な手に引き抜かれたように周りの木が何本も地面から引き抜かれ空中に静止した。
そして狙いを定めたように俺に向かってもの凄いスピードで向かってくる。
飛んでくる大木を跳び上がってかわすと相手を探した。
念動力で木を飛ばしてくるに違いない。
ならば相手の“気”を探る。
「そこかッ!!」
空中で相手を見つけた俺は右手に魔力を集中させると一気に地面に向けて放出した。
爆音とともに土煙が舞い上がる。
同時に辺りに響く叫び声が聞こえた。
俺が着地すると手前の地面が滝が逆流するように土砂を舞い上げた。
10メートル以上も昇った土砂の頂点に顔が浮かび上がる。
「ルシファー!よくもまた我が一族を手にかけたな!」
空気を振動させて声が響く。
「何言ってやがる!先に手を出してきたのはてめえらだろう?コソコソ纏わりつきやがって」
「太古の昔に我らの力を奪い、封じ込めたのは貴様だ!!」
「あれはてめえらが俺に絡んできたからだ」
「問答無用!!」
一気に周囲の温度が過熱する。
目の前の滝のような土砂は熱によって一気に灼熱の溶岩になる。
まずい!!
足下の地面も真っ赤に染まってくる。
周囲の土砂も溶岩となって噴き上がった。
「死ねッ!!」
舞い上がった溶岩が俺目がけて一気に降りそそいできた。
咄嗟に魔力を周囲に放出させて防御壁を張る。
「クソッ!」
俺の周囲はすっかり溶岩に囲まれてしまった。
頭上からも灼熱の溶岩が絶え間なく降りそそぎ防御壁の中の温度すらも一気に上昇させた。
このまま焼き殺そうって腹か。
「どうだルシファー?非力な人間のままではさっきまでの闘いが限界だろう!?」
嘲笑うかのような声が響く。
「そうかな?」
「なにっ」
「こっちは久しぶりに魔力を使ってだんだん慣れてきたところだ」
「えっ」
「オマエ、この宇宙最強のルシファー様と対等に戦えるなんて身の程知らずの勘違いにもにもほどがあるぜ」
「なんだと!?」
「愚か野郎め!!あの世で後悔しな!!!」
体内の魔力を一気に増加させると周りの溶岩が蒸発し始めた。
「なんだ!?なにをしてる!?」
「ハ―ッハッハッハッ!!オマエの念動力よりもさらに上の念動力で分子を振動、加熱して溶岩どころか蒸発させてやってるんだよ!!」
「グオッ…」
溶岩が蒸発するにしたがって身をよじるような呻き声が聞こえる。
「ホラホラ?いいのかこのままで?早く逃げねえと蒸発しちまうぞ?なんならこの山ごとてめえの本体を気化させてやろうか?」
ゆっくりと両手を広げると超高熱の範囲はさらに拡大していく。
「ウワジャ――!!」
熱さにたまりかねて溶岩の中から個体が飛び出した。
「出てきやがったか!!」
追うように空中に舞い上がる。
加熱の念動力を中止したことで周囲の温度は急激に冷めていった。
空中で敵の本体と対峙する。
人の形をしているが大きさは人の倍くらいか?体の表面は岩石の塊のように見える。
「フン!この山一体と同化したかと思ったが正体は意外とショボイんだな」
嘲る俺を憎悪をこめた目でにらみつける。
「このミゲルの魔力!これだけではないぞッ!」
ミゲルの右腕が硬質化して鋼のように鈍い光を放つ。
「くらえッ!」
先端を槍のように尖らせると凄いスピードで突いてきた。
しかも伸縮自在らしく伸びてくる。
「おっと!」
見切ってかわすと鋼の槍はぐにゃりと曲がって俺を突き刺しにきた。
「グハハハハッ!我が腕はあらゆるものを砕き!貫く!しかも我が意のままに標的を追うのだ!」
「ヘッ!ありがたい説明だぜ」
たしかに俺の動きについてきやがる。
「逃がさんぞルシファー!!」
左腕も槍に変えたミゲルがさらに攻撃してくる。
槍の攻撃をかわしていた俺は後ろに下がって動きを止めた。
「死ねぇい!!」
両腕を変形させたミゲルは叫ぶと同時に槍を突き刺しにきた。
俺の心臓と額めがけて!!
ガシッ!!
「ムッ!!」
俺の身体を貫く寸前、槍の先端をつかんだ。
つかんだ瞬間に鋼の槍に魔力を伝道させる。
全てを蒸発させる超高熱を。
俺がつかんでいた槍はミゲルの肩まであっという間に煙を噴いて蒸発した。
ミゲルは何が起きたか理解できないように呆然とした瞬間、一気に間合いを詰める。
「ヒィッ!!」
ミゲルは恐怖に顔を引きつらせると反転して逃げ出した。
逃がすかよ!!
追いついた俺はミゲルの頭をガシッとつかむと言った。
「いい準備体操になったぜ」
「あぁっ!!」
頭をつかんだ指の隙間から白い煙が立ち昇ると一瞬でミゲルの上半身は気化した。
残った下半身はそのまま地面に落下する。
俺は周囲に気を張り巡らせた。
周囲に瘴気は感じられない。
とりあえずはこいつで終わりだったか……
ゆっくりと地上に降りると足下の地面ではミゲルの下半身が変形し始めていた。
まだ生きていやがったか…
岩石の塊が粘土のようにグニャグニャと変形してミゲルの顔になった。
「さすがルシファー… 悪魔の王… 人間の身体でも俺ごときでは相手にならなかったわ…」
「オイ。アーリマンは俺に対する復讐を決めたのか?」
「復讐… それもある」
「あとは?」
「貴様らの目的がわかった… 我等としては断固許しがたいことだ。だが同時に一族の最後の希望でもある」
「なんだと!?」
俺とミカエルが地球に来た目的がわかっただと!?
そして最後の希望だ?
「そうだ… 我ら一族は貴様を八つ裂きにし、主の目的も粉々に打ち砕くだろう…ウフフフふ… クハハハッハア…」
耳障りな笑い声だぜ。
「オマエが人目を避けてこういう場所に来ることは予想がついた…」
「てめえ!」
「今頃はパピルザク様が貴様らの目的を噛み砕く頃だ」
しまった!!俺をマリアから引き離すためか!!
「おまえらが血道を上げて取り込もうとしているあの娘、我らがいただく!……グハハハハ… グハハハッハ…」
高らかに笑うミゲルの顔面を踏みつぶした。
「ギャンッ!!」
悲鳴とともに蒸発する。
クソッ!マリアが狙いか!!
煙を上げて消えゆく粘土の塊を尻目に俺は学校へ急いだ。