戦闘 ―1・ルシファー
マリアに宇宙を見せてから一週間が経った。
しかしつくづく変わった奴だな。
普通は目制限の権力と力が手に入るなら歓喜するのが人間だろうに。
興味がないと来たもんだ。
それと前後してアーリマンたちの気配を感じるようになった。
毎朝こうして登校してるとき、学校、家出も見張られているような気配を感じる。
学校に着くと屋上でタバコを吸った。
しっかしめんどくせえことになったな……
ミカエルの前じゃあ余裕ぶったが。
アーリマン共が横槍入れてきたとき、人間のままでしのぎ切れるかどうか。
俺は細かいこと考えるの好きじゃねーんだよな。
タバコを地面に捨てるとブーツで踏み消した。
「ルシファー様」
「ん?」
呼ばれて振り向くとマルコシアスがいた。
「聞きましたよ!ミカエル様から」
「なにを?」
「アーリマンのことですよ。マズイな~超マズイなこれって」
あのお喋りが……。
「あっ!これモーニングコーヒーです」
ポケットから缶コーヒーを取り出す。
「おう」
受け取るとブルタブを開けた。
「あいつの標的は俺だけだ。別にオマエが気に病むことじゃねえよ」
「そうなんッスけどね… でもルシファー様に万が一のことがあったらリリス様になんて言えばいいやらで」
「死にましたとか適当に言っとけよ。まあ俺様に万が一は起こりようがねえけどな」
新しいタバコを出すと相良がすぐにライターを差し出す。
「おう」
火を点けると空に向かって煙を吐いた。
「なんだ?オマエ、わざわざその件で来たのかよ」
「いえいえ、他にもあるんッスよ」
「なんだよ?言ってみな」
ソファーに向かって歩きながら聞く。
「ウチの学校の奴が他所の連中に狙われてるみたいッスよ。けっこうやられてるって」
「それこそどうでもよくねーか?」
ソファーに身体を預けるように座った。
マルコシアスはその前で立ちながら続ける。
「でも、一応こっちの世界じゃあ仲間ですからね」
「知るかよ。だいたい自分の身も1人で守れねー弱者が不良なんかして粋がるなって話しだ」
「それはそうですけどね…ほら、この学校でルシファー様と仲良いの俺だけじゃないですか。だから“頼んでくれ”ってうるさいんッスよ」
「なんで俺様が下等な人間のためにわざわざケンカしてやるんだよ」
今までの俺がしてきたケンカは全て自分のためだ。
他人は一切関係ない。
「ねえ、ルシファー様。俺ら本来なら地上では嫌われ者なんですよ。なんたって悪魔は神の敵対者で人類を惑わす敵ですからね」
「だから?」
コーヒーを飲みながら聞いた。
「ルシファー様は嫌われるの慣れてるけど、なんか慕われるのもいいもんですよ」
「じゃあオマエがやってやれよ?人間の2、3人くらい楽勝だろ」
「それがね、けっこう大人数らしいんですよ――」
マルコシアスがしゃべるのを遮るように手を上げた。
「とにかく――! 俺は人間のためにケンカする気は一切ない!だから二度そのことを俺にふるな」
強く否定して会話を打ち切った。
それどころじゃないだろう?
俺はアーリマン共がいつ仕掛けてくるか神経を尖らせてないといけないんだから。
「とりあえず寝るから。消えろ」
ソファーに寝転がると手をひらひらさせてマルコシアスを追い払った。
こういう1人のときに仕掛けてくれると楽なんだがな……。
ずっと遠巻きに感じていた魔神ども特有の瘴気。
だんだんと学校を囲むように狭まっている。
狙いは俺だってことは分かりきってるけどな。
奴らの出方を見極めてるうちに昼になった。
「こんなとこでなにしてるんだい?」
「ん・・・ なんだよ?」
いい気分で寝ていると嫌な奴の声で目が覚めた。
「しかし、いいご身分だね。午後の授業だっていうのに屋上で寝てられるなんて」
「なんだよ?優等生の生徒会長様こそこんな旧校舎まで授業サボって嫌味でも言いに来たのか?」
「まあね」
「なにっ」
「兄さんだって感付いてるんだろ?この気配に」
「ふん」
「まさか気がついてないとは言わせないよ」
「気がついてたらどうだって言うんだよ?」
「よくものんびり寝てられるなと思ってね」
「相手の出方もわからねえし、気負って構えててもしょうがねえだろ?」
「それはそうだけど自覚してる?張本人なんだって」
「俺がケリつければ文句ねえだろ」
「そうあってほしいね」
ふん。
ミカエルに言われるまでもねえ。
朝とは比較にならねえほど気配が強くなっている。
頃合いだな。
「ちょっと出かけてくる」
「どこへ?」
「ここじゃあ人目があってぶっ殺せねえだろ」
「確かに」
納得したように言うとミカエルは俺の顔を見た。
「なんだよ?」
「やっかいな事態なのにずいぶんと嬉しそうだね」
「あたりまえだろ。地球に来てやっと魔力を開放できるんだからな」
そうだ。
人間相手にいくら殴ろうが暴れようが俺が本気を出せるわけもない。
アリみてえに死んじまうからな。
だからずっと魔力を抑えながらも爆発させたかった。
その点、相手が魔神ともなれば心置きなく血祭りにできる。
「じゃあな」
さっさと魔神共を八つ裂きにしてやりたい俺はミカエルに一言いうと校庭とは逆側のフェンスを乗り越えてそのまま屋上から飛び降りた。
地面に着地するとそのまま走り出した。
学校の裏にある山、そこなら邪魔も入らない。
塀を飛び越えると急な斜面を駆け上がった。
木が生い茂り外からの視線を遮断する。