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噂・マリア

次の日に学校に行くとクラスは私の話題でもちきりだった。

詩乃と教室に入った私に向けられたクラスメートの視線……

私なんだか昨日まで違うものを感じた。

なんだかざわざわしてるな。

なんだろう…?

「なんか…変だね」

「そうか?」

詩乃は別段感じないらしい。

「ねえねえマリア!」

「なあに?」

私が席に着くと美羽が好奇心に目を輝かせながら聞いてきた。

「マリアって真壁さんと付き合ってるの?」

「ええっ!?」

私の方が大きな声で聞き返した。

ど、どういうことよ!?

すると周りにいたクラスメートもどっと私の周りに押し寄せた。

「ねえ?真壁郷ってどんな人!?」

「やっぱ相当遊んでるの!?」

「ああ見えて実は草食系とか!?」

な、なんなんだこの注目度は?

とりあえず深呼吸してから聞き返した。

「それって…どういうこと?」

そう!どうしていきなりそういう話しになってるのか不思議でしかたない。

まず、話しはそこからだ。

すると美羽が笑顔で言ってきた。

「いやいやマリアさん、ネタは上がってるんだよ♪」

「ネタってなによ?」

「あなた、昨日は真壁さんとバイクで一緒に帰りましたね」

あっちゃ~

それか。

目立ってたもんな~…

「オイッ!それってマジかよ!?」

聞きつけた詩乃が周囲のクラスメートの環を割って私のところに来た。

「ちょっと待って!みんな落着いて聞いて」

「ふむふむ。ハイどうぞ」

美羽がニヤニヤしながら促す。

ん~…

わかってくれるかな?

「あれは、あくまでも友達としてよ」

「またまた~」

みんな冷やかすように言う。

「ほんとだって!送ってくれるって言うから」

「で?その後は?」

「後?」

「だって送ってもらってそのままバイバイとかないでしょ?」

美羽が身を乗り出して聞いてくる。

周りのみんなは興味津々といった感じで私に注目した。

「家の近くまで送ってもらってバイバイしたよ。あたりまえじゃない」

私が答えるとみんなシーンとした。

「ほんとに?マジで?」

美羽が聞く。

「うん。オオマジ」

するとみんなが「な~んだ~」と残念なため息混じりに言った。

「ちょっとみんな!そんな残念がること?」

すると詩乃が笑って言った。

「ハハハッ、おまえらバカだな。マリアがあんな川向うのクズとどうにかなるわけねえだろ?野良犬が腹空かせてたからちょいと餌を恵んでやったって程度だよ」

ん?どういう意味よ?

それから私にも言ってきた。

「マリアも気をつけねえとな。博愛主義はいいけど相手は選ばないと自分の評価下げるぜ」

「詩乃、それは違うって。評判は良くないけど郷ってスカッとしててわりといいヤツよ」

「バッカだなおまえ。完全人を見る目がねえよ」

詩乃が言うと美羽が横から言ってきた。

「じゃあマリアとしては真壁先輩はかなりいい人?」

「かなりっていうか…… 悪い人じゃないと思うの」

「なるほどね~たった一日で真壁色に染まっちゃいましたね」

「いや、全然!染まってないし!」

どうしてそうなる!?

みんなの誤解を解くのには昼までかかった。

休み時間のたびに質問攻めにあって大変。

みんな郷のこと聞いてくる。

みんな怖がってる割にはかなり人気なんだね・・・

郷って。

放課後になって美羽の部活が終わってからみんなでカラオケでも行こうということになった。



美羽の部活が終わるまでヒマを持て余した私は、ふと学校の中にある教会のことを思い出した。

まだ改修中って聞いたけどどんな風なんだろう?

ヒマつぶしに見てみようと思った。

陸上部がランニングしているグランドを横目に見ながら中等部の方へ歩いて行った。

校舎の方からは合唱部のコーラスが風にのって聞こえてくる。

高等部と中等部の敷地の間は樹がたくさん植えてあって公園のようだ。

その真ん中に教会はあった。

大きさは体育館より少し小さいくらいで真っ白な壁の周りには修復工事用の足場が組まれている。

正面の入口は重々しいアーチ型の鉄扉でかなり古そうな印象を受ける。

輪になっている取手をつかむと引いてみた。

見た感じとは逆に、それほど重さを感じることなく扉は開いた。

「うわ・・・すごい・・・」

中に入って天井を見上げた瞬間、感嘆の声が漏れた。

天井はドーム型になっていて一面に絵が描かれている。

大きな門の周りにたくさんの天使が描かれていて・・・・・・

あの門は天国の扉なのかな?

中央付近には大きな十字架を抱えた一際輝く天使が描かれている。

祭壇が奥にあり、入口からはお祈りを捧げる人たちの席が整然と並んでいる。

祭壇と席のあいだには採光塔からの光が空中に舞う埃を照らしていた。

全体的には薄暗くて工事をしているような形跡はない。

私はそのまま中へ一歩を踏み出した。

広い空間の中は静寂に包まれていた。

さっきまで歩いていたときに聞こえていた運動部のかけ声や合唱部のコーラスといったものが全く聞こえない。

ここが学校の一部だということを忘れさせるほど静かだった。

私はそのまま真っ直ぐに歩いていくと祭壇の手前で止まった。

十字架にかけられた大きなキリストの彫像。

後ろの壁には聖母マリアの壁画。

見上げていると自然と落ち着いた気分になる。

「マリアさん」

聞き覚えのある声で呼ばれた。

振り向くと入口のところに純が立っていた。

「純、どうしたの?」

「改修工事がもう終わるというのででの程度なものか見に来たんですよ」

笑顔で答えるとこちらに歩いてきた。

「亡くなった父に何度か連れてきてもらいました」

「そうなの?」

「あの天井画に魅入ったのをよく覚えてます」

純は天井に描かれた天使たちを指して言った。

「素敵な絵だね」

「ええ」

「そういえばちょっと聞きたいんだけど」

「なんでしょう?」

「この協会はなんのためにあるの?今では使ってないって聞いたけど」

「昔は日曜部にミサを開いていたんです。神父さんを呼んだりして地域の人たちに開放していたと叔父に聞きました」

「へ~・・・」

「父の教育理念はキリスト教からきているのだと思います。聖書の教えには教育に繋がるようなものがあると以前話していましたから。もっとも今では神の声なんて誰にも届かないから利用者もいない状態ですよ」

「聖書か・・・世界で一番読まれてるって言うけど私は読んだことないや」

「ところでどうしたんです?こんなところに一人で」

「ああ・・・ちょっと気になってたんだ。この教会」

美羽の部活が終わるまでの間、ヒマつぶしがてらに来たことを話した。

「でも不思議と落ち着くし、いいとこだね!」

「それなら良かった」

純は一歩前に出てキリストの彫像と聖母マリアの壁画を見ながら

「僕はとくに信仰しているとかはないんです。でも、ここに来ると感じるというか・・・本当に神様がいるかもしれないって思えてしまう」

純の言葉で昨日の光景を思い出した。

漆黒の闇の中で輝く白色の光――

私たちを造った神様は本当にいる。

「そういえば朝は大変でしたね」

「えっ」

「みんなに騒がれて」

純の言っていることが郷とのことを言っているのがようやくわかった。

同じクラスだしそりゃあ知ってるか・・・

「ほんと、みんな勘違いしてやんなっちゃう」

「誰だって勘違いしますよ。僕もてっきりみんなが話しているとおりだと思いましたから」

純は笑って言った。

「でも良かった。単なる友達で」

純が私の顔を見ながら言った。

その顔は初対面の時のような子供っぽさは感じられなくって、まったく別の雰囲気を感じさせた。

「あ、あたりまえじゃない。そんな安くないって」

変にドキっとした私はわざと冗談っぽくふざけて返した。

「誰でも美しいもの、綺麗なものには心惹かれますから。マリアさんは競争率高そうだ」

「純ったら、お目が高いじゃん♪」

純のいつもと違う感じに私は不自然にテンションを上げるしかなかった。

正直、照れくさい。

「そうだ!純もみんなと一緒にカラオケ行く?」

話題を変えよう!

「ああ…いえ、僕はこれから理事会があるので」

「理事会?あっ!そっか!」

同い年だけど純は理事長なんだよね!

たまに忘れてしまう……

「また誘ってください」

ニコッとして言うと純は「じゃあ」と言って出口の方へ歩き出した。

扉に手をかけた時に振り向く。

「あっ!そうだ。マリアさんは何時までいらっしゃいます?」

「私?ううん、決めてないけど」

「ここは学校の中といっても遅くなると人もいないですから、あまり暗くならないうちに校舎に戻ってください。事故とかあると大変ですから」

「そうだよね!ごめん!もうちょっとしたら出るね」

私の言葉に笑顔でうなずくと純は教会から出て行った。

理事会とか……

私たちみたいに遊んでる暇もないんだな……

やっぱ尊敬しちゃうな。


一人になった私はイスに座るとキリストと聖母マリアをながめた。

聖書は読んだことがなくてもキリストの言葉は聞いたことがある。

「汝の隣人を愛せよ」とか……。

同じなのだろうか?

私たちの考えている神様と私が見た神様は。

愛を説き、迷える魂を救済するような、そんな慈愛に満ちた存在なのだろうか?

あの光を見たときに感じたとてつもない恐ろしさと奥底に灯るような温かさ。

聞いてみようと思った。

今度、白神先輩に。

宇宙を創造とかそんな大それたことに興味はないけど、神様がどんな存在なのか気になった。


次の日の朝。

瑞希と詩乃と3人で学校へ行く。

歩きながら土手の下に目をやると黄金色の陽光が緩やかに流れる川面に降りそそいでいる。

「ん――!気持ちのいい朝だね!」

「そうか?毎日一緒だけどな」

私が両手を伸ばしながら言うと詩乃が素っ気なく返した。

「そうだお姉ちゃん!」

「ん?なあに?」

「昨日から聞きたいことあったんだけどさ、神尾先生いたから聞きそびれちゃって」

「なによ?」

「お姉ちゃんって、真壁先輩と付き合ってるの?」

「はあ?なにそれ!?」

なんで瑞樹までその話題に触れてるの!?

「なんだよ?もう中等部まで広まってるのか?」

詩乃が呆れたように聞いた。

「そりゃあ噂になってるって。中等部にもファン多いし高等部なんて隠れファンクラブだってあるじゃん」

「そうなの!?なにその隠れファンクラブって!?」

「ほら、真壁先輩ってあっち側でしょ?だから表立っては露骨に“好き”なんて言えないわけよ」

「ふ~ん…… 好きなら好きって堂々とすればいいのに」

「だからこれからはするんじゃない?」

「えっ」

「だってみんなボヤボヤしてたらお姉ちゃんにとられちゃうじゃん?」

「あのねえ瑞樹、誤解のないように言っておくけど私と郷はただの・と・も・だ・ち・なんだからね。そこ大事だから」

わざと強調して言った。

「そうなの?全然そういうのなし?」

「全然!」

「なーんだ…」

またつまんなそうに言う……

「そうだ!じゃあ白神先輩は!?」

「はあ?今度はなによ!?」

どうしてそこで白神先輩の名前が出てくるの!?

「だって初日からいきなり親しくなっちゃったんでしょ?ハンカチ渡されて名前で呼ばれたりして」

「あれは…… ってか白神先輩は誰にでも分け隔てなく優しいんでしょ?」

「でもファーストネームでは呼ばないんだなこれが」

「そうなの?」

「うん。これファンクラブの子から聞いた豆知識ね♪」

瑞樹はニッコリして答えた。

またファンクラブか……。

「白神先輩も友達だから!ちゃんと聞かれたら言っておいてよ!」

「な~んだ、つまんないの」

瑞樹があからさまに落胆すると詩乃がガムを噛みながら言った。

「おまえもくだらねえこと気にしてないで勉強でもしろって」

「そうそう!」

私が詩乃に同調すると瑞樹が詩乃に冷やかすように言った。

「まあ詩乃としちゃあ気が気でないよね?だってあの二人強力なライバルだもんね?」

「は?うっせえよ!ガキが生意気言ってんな」

「私はガキじゃない!!」

はあ~…今度はこっちか……

「止めなって。みんな見てるよ」

一緒に登校している生徒たちの視線を感じた。

みんながチラチラ見ている。

「あれってお姉ちゃんを見てるんじゃない?」

「私!?」

「だって中等部まで知れ渡ってるもん。お姉ちゃんのこと」

「ちょっと勘弁してよ…」

瑞樹に言われたせいか、改めて見回してみるとほんとうに私のことをみんなが見ているような気がしてきた。

も~!!なんなのこれは!?



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