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【第五子】揺らぎの中で手を伸ばす

夜、ミサキと一緒に帰った日のことが、何度も頭を巡っていた。

制度面談のあと、駅までの帰り道を歩きながら――ミサキは「少しだけ時間、大丈夫ですか」と言ってきた。


近くのコンビニでアイスを買って、なんとなく流れでユウの部屋に立ち寄った。

特別な意味はない。はずだった。


でも、家に着いてからも、なぜだか心が落ち着かない。

手に残る体温、視線の温度。


ただの制度上のパートナー。それ以上でも、それ以下でもない。

……そう思い込もうとしていた。


けれど。


「……ねえ、ユウさんって、誰かとこういうの、経験あるんですか?」


唐突に聞かれたあの夜のことを思い出す。

彼女は湯上がりの濡れた髪をタオルで雑に拭きながら、さりげなく問いかけてきた。

薄い部屋着の下から透ける肩のラインが、不意に目に入る。


見てはいけないと思いながら、目がそらせなかった。


「……あるよ。でも、制度で決まった相手とは、なかった」


「そっか……なんか、想像つかないですね。ユウさんが、誰かと、そういうのするのって」


冗談めかして笑ったミサキの声に、妙な熱がこもっていた。

その笑みの裏に、ほんの少しだけ戸惑いが見える。


なぜか喉が渇いたような感覚がして、ユウは台所に立って水を飲んだ。


背後から、足音が近づく。

ミサキの指が、そっとユウのシャツの裾をつまんだ。


「……ユウさんは、もし、私と……そうなったらって、考えたことあります?」


心臓が跳ねた。


けれど、ユウはすぐには答えられなかった。

この数日間で感じた彼女の不安、過去、そして笑顔が、頭をよぎる。

そんな彼女に、本当に自分が相応しいのか――。


「……正直に言うと、考えたことはあるよ。でも、今すぐってわけじゃない」


「そっか。……でも、私、ちょっと嬉しいかも」


そう言ってミサキは、ユウの背中に額を預けた。

そのぬくもりは、火照りにも似て、どこか切なかった。


「……なんか、変なこと言いましたよね、私」

ミサキは自分の言葉に苦笑した。


「いや。……ありがとう」

ユウは、そう返すしかできなかった。



その夜、ミサキは自分の部屋に戻った。

ユウはソファに腰を下ろしながら、静かに息を吐く。


制度によって生まれた関係のはずなのに、彼女に惹かれている自分がいる。

けれどそれは、恋なのか、寂しさなのか――。


手元のPDI(個人端末)に、次の交配通知が届いていた。

制度では複数候補の並行面談が義務づけられている。

目をやると、新しい名前が表示されている。


【交配候補者通知】

候補者名:朝霧レナ

面談予定:6月16日(火)14:00/第4ブロック市民センター


ユウはその名前を、口の中で繰り返すように呟いた。

「……朝霧レナ、か」


心がまた、わずかに揺らいだ。

まだ会ったこともない誰か――

でも、彼女に会えばまた何かが変わるのだろうか。


そしてそれは、ミサキにとって何を意味するのだろう。

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