【第十子】10年ぶりの邂逅そして、、、
― 相田ユウ ―
ツバサから提示された、次の交配候補の名――「沢渡カナ」。
思わず無言になった。
名前を目にした瞬間、血の気が引いた。
かつて、自分が初めて“本気で好きになった人”。
そして、別れた理由も、自分からはもう忘れたくて封じた過去だった。
(……よりによって、なんであの人なんだ)
面談当日。
通された部屋のドアが開き、静かに入ってきた彼女は、かつてと同じ――けれど、少しだけ違った。
セットされた髪。落ち着いたグレーのジャケットにスリムなパンツ。
相変わらず洗練された佇まいだが、かつてよりも、どこか柔らかい。
「……久しぶり、ユウくん」
昔と同じ声。けれど、そこにあるのは“元恋人”という距離のある響き。
「……こんな形で再会するなんてな」
「ほんと。びっくりした。でも、どうせ会うなら、もう少しロマンチックな方が良かったな」
わざと軽く言って、こちらの様子を探るような目。
「制度で、私が選ばれる確率なんて、0.2%くらいだって聞いたよ?」
「……その中で当たるのが、また皮肉だな」
「うん。皮肉だし、少しだけ……運命っぽくて、イヤ」
微笑みながらも、どこか挑発的。
かつて惹かれた“あざとさ”は、今も健在だった。
(レナとはまるで違う。ミサキとも、当然違う)
目の前のカナは、過去を知っている。
どんな風にユウが笑ったか、泣いたか、傷ついたか。
“知られている”という感覚が、なぜか妙にこそばゆくて、苦しい。
「制度に従うつもりはあるの?」
「まだ決めてないよ。……でも、少なくとも、ユウくんには会いたかった」
まっすぐな視線。
それは十年前、大学のキャンパスで恋に落ちたときのカナと、何も変わっていなかった。
けれど――
「……あの頃とは、俺、違うんだ」
「そうかな? でも、目だけは変わってないよ。
ちゃんと人の本音を見ようとする目、してる」
何かを見透かされているような気がして、ユウは視線を落とした。
面談は、静かに、でも確かに進んでいく。
⸻
夜。
帰宅したユウは、ベッドに倒れ込むようにして横になった。
スマートモニターに映る「面談完了」の文字が、部屋の隅で淡く光っている。
「……また、俺の過去が試されてるみたいだ」
ミサキ、レナ、カナ――
制度が提示する“交配候補”は、それぞれまったく異なる色を持っていた。
「……何を選ぶのが正解なんだよ」
自問は、答えを返してはくれない。
それでも、誰かを“選ぶ”という行為の意味に、ユウは少しずつ向き合おうとしていた。
背後で、室内灯がゆっくりと落ちる。
目を閉じると、かすかにレナの笑顔が浮かんだ。
その後ろに、ミサキの手のぬくもり。
さらにその奥に、カナの唇が“あの頃”をなぞるように動いていた記憶。
「……なあ、俺は、誰を選ぶべきなんだ?」
静かに、夜が更けていく。
制度の時計は、刻一刻と“期限”を刻んでいた。