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第二話 「石の上にも怨念」承1

「石の力を操れるって、超能力者ってことですか?」

「……みたいなものです。何ていうか、その人、教祖?みたいな感じで、信者がその人の家に集まって暮らしてるんです。」

あ、これ関わっちゃいけないやつだ!

「あ〜なるほど、なるほど、そうなんですね〜。」

と言いながら、俺が適当な絆創膏を棚から取って後ずさりすると、さくら先生は俺の考えていることを察知したらしく、慌てて首を横に振り始めた。

「違いますよ!?私は信者じゃないんです!むしろ、その人のことは詐欺師だと思っています!でも、私の姉が入信してしまって……。姉を連れ戻しに行ったんです。そしたら、その教祖が出て来て……」

「ちょ、ちょっと待ってください!え、これからたぶんあれですよね、その教祖の超能力の話が始まりますよね?」

「……ん?はい。」

「じゃあ、一人、知り合いに電話繋いで良いですか?説明の二度手間を省くために。」

一人でこんな事件抱えきれない。誰かしら巻き込まなきゃやってられない。

「知り合い……?」

「不動の学年1位と呼ばれる天才同級生です。」

途端にさくら先生の怪訝な顔つきがパッと晴れた。奴の肩書きが立派で良かった。これだけ聞くと、世に言う「名探偵」に聞こえるのだから。

「え!それは心強いです!湊さんの学校ってあの進学校ですもんね!」

まあ、俺に言わせれば、バイト禁止にすることで生徒の成績が上がるとかいう生温い考えを持った自称「進学校」なのだが、それはこの際置いておこう。

俺はスピーカーにして佐野詩織に電話を掛けた。

「はい、もしもし。間違い電話ですか?」

スピーカーにしなきゃ良かったと即座に後悔した。

「いや、正しい電話です。ていうか、俺の番号、登録してないわけ?」

今さらスピーカーを切るのもおかしいので、俺はスピーカーを切って耳に当てたい気持ちをぐっと堪え、自分がスマホに喋りかけるのに乗じて、ほんの少しだけさくら先生からスマホの位置を遠ざけるにとどめた。

「いや、そういうことではなくて、こんな時間に君が電話を掛けてくる理由として合理的に考えられるのは電話の誤発信ぐらいかと。違うのかな?」

さっそく推理を外していらっしゃる。やばい、このままだとさくら先生が、名探偵ではなく迷探偵かもしれないという可能性に気づいてしまう……!

「お、俺甥っ子がいるんだけど、その陸っていう甥っ子の保育園の先生が、石の力を操れる?とかいう超能力者について相談したいことがあるんだって。」

さくら先生が俺のスマホに顔を近づけて、話しかけた。

「初めましてー。江戸川さんの甥っ子さんの保育士をしております、角脇さくらと申しますー。」

「あ、初めまして、江戸川の……知り合い?の佐野詩織です。」

普通に「同級生」じゃダメだったのかよ。「知り合い」って。

「あの、本当に、いい大人が何言ってんだと思われるかもしれないんですけど……」

さくら先生が慎重に言葉を選んでいる最中に佐野詩織は思いっきり割って入った。

「あ、石の力を操れるとかいう超能力者に関する何らかのオカルト体験をされたってことですよね?」

「は、はい、そうです!」

「でしたら、オススメの神社があります!」

あ、その話忘れてた。だとしても佐野詩織よ、神社って、そんな「オススメのカフェがあります」ぐらいのノリで人に勧めるもんじゃないぞ。

「オススメの神社……?」

案の定、さくら先生は分かりやすく表情を曇らせ、首を傾げた。

「いや、あの、ちゃんと科学的根拠に基づいた策を授けてくれる神社です。俺の場合は、GPSタグの入ったお守りを貰って、それのおかげで無事解決したので。」

「あ!やっぱりその怪我、ただ転んだ訳じゃなかったんですね!」

さくら先生、腑に落ちちゃってるところ申し訳ないんですが、それとはまた、別件です……と言おうとして思ったが、え、もしかして俺、あの件で本当に呪われたのか?道路には穴空いてるわ、絆創膏は痒くなるわ、どう考えても運悪すぎるよな。

「はい、実は。」

もう説明も面倒臭いし、そういうことにした。

「もしも〜し。」

「あ、ごめん。どうしましょうか、さくら先生、今からその神社行きますか?」

「行きます!」

さくら先生は脇を締めて、それはそれは行く気に満ち溢れていた。

「あ、じゃあ、私も行きます。30分後ぐらいには着けると思います。」


薬局で買った絆創膏を貼り直し、無事にミイラ男を脱却した俺は、さくら先生を連れて神社に向かった。神社に着くと、神主さんは例の黒猫に向かって、可愛いでしゅね〜、お〜よしよし、こっち向いて下しゃ〜い、などと言いながら、スマホで大撮影会中だった。佐野詩織といい、この神主さんといい、なぜこうも第一印象で頼りにして良いか不安になるムーブをかましてくるんだ。

「あ。」

俺が声を掛けようか迷っている間に、シャッターを切るのに夢中だった神主さんは、カメラ越しに猫の後ろに写る俺達の姿に気づいたようだった。途端にすくっと立ち上がり、俺達に対して、神職らしく背筋を伸ばし、姿勢良く会釈をした。スマホはまだ、カメラ用の持ち方で握ったままだが。

「これはこれは。江戸川さん。さっそく参拝に来て下さったんですね。さて、そちらの方はどのようなお悩みを抱えておいでなのでしょうか。」

「えっと、ざっくり言うと、石の力を操れる超能力者からお姉さんを取り返したいそうです。」

さくら先生は、神主さんをまだ警戒しているのか、俺の2歩後ろくらいから、神主さんの様子を伺ったままだ。神主さんも、さくら先生の方をじっと見つめ、「お姉さん。」と小さく呟くように俺の言葉を繰り返した。

「まあ、だからざっくり言うと新興宗教的なものに入信しちゃって帰って来ないってことですよね?」

いつの間にか俺の隣に佐野詩織がいた。気配がしなさ過ぎて、もはや恐怖だった。俺は、驚いて軽く跳ねてしまった。

「え、いつからいたの!?」

「向こうの参道の方から来たら声がしたから、ここに来たのは今だけど、話は聞こえてた感じ。それこそ神主さんの『お〜よしよし可愛いでしゅね〜』あたりから。」

佐野詩織は俺を間に挟んだまま、さくら先生の方に向き直って尋ねた。

「その両手に巻かれた包帯を見る限り、おおかた、お姉さんを取り返しに行ったら自称超能力者とその信者に『これが石の力だ!』とか言われて、痛い目に遭わされたってところでしょうか?」

「そ、そうです、そうです。」

突然の佐野詩織の登場にさくら先生も目を丸くしていた。

「あ〜!なるほど!包帯はそれでしたか!私、てっきり、お姉様に抵抗されて折られたのかと。いえね、私も以前、氏子さんの息子さんが超能力者を中心としたカルト教団に取り込まれてしまったとかで、説得しに行ったことがあるんですがね、説得に失敗してその息子さんに右腕を折られてしまったんですよ!アハハ!」

あ、それでこの人「お姉さん」って繰り返してたのか。え、ていうか、そんなことあったんですか。笑い事じゃないっすよ。怖すぎ。

「姉はそんな暴力的な人ではないです……。どちらかというと、おしとやかっていうか、滅多に感情的にはならない人で……。」

さくら先生が苦笑いしながら答えた。

「ていうか、それ火傷なんですもんね。」

と俺が間に入ると、さくら先生は覚悟を決めたように一歩前へ出て話し始めた。

「はい。その自称超能力者の信者みたいな人たちが集まって暮らしてる家があるんですけど、そこの住所を、ネットで勧誘してるそいつらのサイトで調べて、その勢いのまま行ってみたんです。姉を返してほしいって玄関先で言ったら、最初は信者の一人に応対されて追い返されそうになったんですけど、私はできる限り騒いで、奥にいるだろう姉に届くように、インチキだって罵って姉を連れて帰ろうとしました。そしたら奥から、教祖だっていう、その自称超能力者が出て来て、『貴方は、私の力はインチキで、それを信じるお姉さんは間違っていて、信じていないご自分こそが正しいと思っていらっしゃるんですか。』とか言われて。」

「はいはい出た出た。」

佐野詩織と神主さんは経験者かのような相槌を打った。

「その教祖が『力を証明する』って、なんか玄関前に転がってた石を拾ってきて、それを持たされて、教祖が『ハァーッ!』とかって念力込めて来て!」

さくら先生はだんだん熱が入ってきたようで、説明がジェスチャー付きになっていた。

「最初は何ともなかったんですけど、だんだん熱くなってきて、それでも結構我慢したんです。姉を連れ戻したかったので。でも、もはや手が焼けるんじゃないかってぐらい我慢できない熱さになって、とうとう石を投げ捨てちゃいまして。それで、追い払われてしまいました。これは、その時に負った火傷なんです。ただの石だったんですよ!何の変哲もない!でも教祖が念力込め始めたら熱くなって!やっぱり、あの人は本物なんでしょうか……?姉を連れ戻すことは諦めるべきですか?……どうしたら良いと思いますか……?」

最後にはもう消え入りそうな声になっていた。

「その石って白かったんじゃないですか?」

佐野詩織が冷静に尋ねると、俯きかけていたさくら先生が顔を上げて、頷いた。

「は、はいそうです。だから、ちょっと陸くんがせっかくくれようとしたキレイな石も拒絶してしまって……。」

佐野詩織はニヤッとして、

「その石の力、たぶん私も操れるやつですね。」

などと言い出した。

「え、超能力者なんかいないって散々言ってなかったっけ?今度は自分が超能力者だとでも?」

俺が間髪入れずにツッコむと、佐野詩織はこちらを煽るようにドヤ顔をしてきた。

「この神に選ばれし佐野詩織様が、ひと泡吹かせてやりましょうか。そのエセ超能力者に。」

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