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第一話 「悪魔隠して札隠さず」結1

待ちに待った土曜日になった!今日まで佐野詩織は、小型スプリンクラーをロッカー内で作動させたんじゃないかとか(そんなもの付いてたら気づくし、いつ回収したって言うんだ)、ロッカー内の天板に無数の穴があってそこから雨漏りさせたんじゃないかとか(俺触って確認したって言ったよな)、実は名札が入れ替わっていて最初に見た林さんのロッカーと、店長と一緒に見たときのロッカーは違うロッカーだったんじゃないかとか(店長と一緒に確認したとき俺は名札を見ずに位置を覚えていて指差したから絶対にそれはない)、色んな案を出して来ては玉砕していった。が、そんなことは今はどうでも良い!焼肉だ!

「もっと好きなもの頼んで良いよ。うちの店を偽札被害から守ってくれたヒーローなんだから。」

「いえいえそんなそんな。」

ご褒美としてのおごりとは言え俺は一応遠慮していた。俺にとって焼肉は高すぎて普段は食べられないものだ。それすなわち、店長にとっても高いのだろうと思ったら、食べたいだけ食べるなんてことは、ちょっと出来ない。

「じゃあ、分かった!この2時間食べ放題プランってやつにしよう。食べなきゃ損になるからね、好きなだけ食べてね。」

「そんな夢みたいなプランがあるんですか!?」

「そんなに喜んでくれるなら奢る甲斐があるなぁ〜」

そんなこんなで俺は2時間肉を焼いては食べ、焼いては食べ続けた。一応部下なので、店長の分も全て俺が焼こうと思ったのだが、店長もたまに焼いてくれた。

「マジで美味しかったです!ご馳走様でした!」

「ちょっと俺食べ過ぎで苦しいかも。」

「え、大丈夫ですか?」

「無理。もう歩く振動でも吐きそう。」

「え!それはやばいですね、えっとじゃあ、あそこの公園のベンチで休みますか?」

俺は通りの向かいにある、滑り台といくつかの遊具しかないような小さい公園を指差して言った。

「……そうしてもらえると助かる。」

夜も遅いので、公園には誰もいなかった。俺はベンチの上の落ち葉を手で払い落として、店長に「どうぞ」と言って、店長は座った。

「君も座りなよ。」

実は折を見てこのまま帰るつもりでいたんだが、奢ってもらった以上、いるしかないか。

「じゃあ失礼します。」

俺は店長の隣に座った。

「この間の女の子さ、佐野詩織さんだっけ?どういう関係なの?」

「あぁ、佐野さんとは高校の同級生で。」

「なんだ、彼女とかじゃないんだね。」

「そうですね。」

と、俺が何気なく相槌を打ったら、店長から衝撃の一言が飛び出した。

「そうだよね、だって君が好きなのは俺だもんね。」

……ん?

「店長のことは職場の上司としては好きですが。」

「隠さなくて大丈夫だよ。俺も君が好きだから。」

……何がどうしてそうなった?え、何の冗談?

俺は流石に意味が分からなかった。たぶん吽像のような顔をしてしまっていたと思う。

「あれだけ毎日好き好きオーラ出されてたら流石に分かるって。」

……は?そんなものいつ出したんだ?うわぁ〜!そういうことか!あわよくば給料上げてもらえないかと好感度稼ぎに行ってたのがまずかったのか。ていうかなんでこの人ちょっと照れてんだよ〜!勘違いだから!

「いやあれは、ただ業務用っていうか、上司用っていうか、な態度だっただけで!」

「占い師さんにも言われたんだけどね、俺達は運命の相手なんだって。」

人の話聞けよおっ!勘弁してくれよ、なんだよ、運命の人って!んなもんいるかよ!ていうか占いまで行ってんのかコイツ。適当こいてんじゃねぇぞ、その占い師も!

「でね、その占い師さんに言われたんだけど、君は俺の頼りになる一面に惹かれてるって。だから、もっと頼りになるところを見せようと思って。」

「は、はぁ……。」

「前に言ってたでしょ?ホラー映画とかが怖いって。」

俺は一瞬何の話をされているのか分からなかった。

「……まさか、あの、林さんのロッカーの落書きって店長が犯人ですか?」

「そうだよ。せっかく君が俺を頼ってくる口実をあげたのに、君は照れちゃって、あんな子連れてきてさぁ。妬いちゃったなぁ〜。」

背筋が凍った。好きな人以外からの熱烈な好意ほど恐ろしいものはないんだ。俺は身の危険を感じて荷物をまとめた。

「すみません、俺ここらへんで失礼します。」

俺がベンチから立ち上がろうとした瞬間、店長に肩を捕まれ、そのまま押し倒されたかと思うと、店長の口が近づいてきた。俺はここで店長に危害を加えてしまえばバイトをクビになるだろうし、かといってキスもされたくないしとか色々考えた結果、恐怖のあまり金縛りみたいに動けなくなった。やばいやばいこのままだとキスされる……!

途端に俺の目の前に誰かの右手の甲が現れた。

「お取り込み中、失礼します。」

その声が聞こえた瞬間、金縛りがとけて、顔を動かせるようになった。見ると佐野詩織だった。

え、なんで!?なんでここにいんの!?

店長の方も驚いたように顔を上げ、佐野詩織に見入っている。佐野詩織はそのまま左手に持ったスマホを掲げて言った。

「こちら、先程までの貴方の彼に対する言動を録画したものです。つまりは貴方のセクハラの証拠映像となります。こちらを会社の方に送れば、あなたはクビを免れないでしょう。クビとなった原因が原因ですから、再就職にも影響が出ることは必至です。ですから、私がこの映像を送る前に、一刻も早く自主退職されることをお勧めします。そうすれば、再就職に影響は出ないでしょう。あ、彼にも好意があったなどと主張する気でしたら、今の彼を見て下さい。鳥肌立ってますし、まだ震えてますから。分かったら退散して下さい。」

店長は酔いから覚めたように、勢い良く飛び起きて、スタスタと帰って行かれた。

色々なことが衝撃的過ぎて、頭が追いつかず、俺は数秒間停止してしまった。震えもまだ続いている。その間に佐野詩織が先に口を開いた。

「さて、謎解きを始めたい。しかし、自分で犯人を追い払っておいて難ですが、普通謎解きというのは皆を集めてやるからこそ盛り上がるのであり、二人というのは寂しい。よって、あちらのリスの遊具が並んだ方に移動したい。そして……、」

「いやそれより何よりまずなんでここにいんの?」

佐野詩織のマイペースっぷりに、俺の中の恐怖が和らぎ、震えが止まった。

「あ、それ。そうそう。あのお守り返してくれ。謎は解決したのだから。」

そう言って佐野詩織は左手を差し出して来た。俺はズボンのポケットからお守りを取り出して佐野詩織の掌の上にのせた。

「これ、中身GPSタグ。ペット用の。フル充電で1週間持つ大容量バッテリー&防水防塵。税込12800円。」

「……は!?」

俺は予想外のお守りの正体に戸惑った。

「まさか、宇宙科学に裏打ちされた、って、人工衛星の電波で居場所がわかる、ってこと……?」

「そう。あの人の飼い猫がしょっちゅう帰って来なくなるから、付けようか迷って買ったらしい。」

あぁ〜!飼い猫ってあの黒猫か!

「ていうかなんで分かったの?GPSだって。」

「順を追って説明する。だから、まずはあちらのリスの遊具が並んだ方に移動したい。話はそれからにしよう。」

俺は仕方がないので、小さい子が乗って前後に揺らして遊ぶタイプのリスの遊具が3つ並んだ方に移動した。おそらくこのリスたちも、事件関係者の代用品にされたのは初めてでかなり困惑しているのだろう。揃いも揃って、前歯の出た口を半開きにして、ポカンとした顔をしている。

「君にはこれから、このリス達のアテレコを含め、1人4役を演って貰いたい。左端の、君から1番近い子を犯人役とする。」

佐野詩織は腕を組み、得意気な態度だった。

「じゃあ名前つけて良い?」

佐野詩織は腕を組んだまま、目を剥いた。

「ノッてくるとは思わなかった。」

「あ、家に小さい子3人もいるから、ごっこ遊びに対する抵抗感が0に等しくなってるんだわ、俺。」

「なるほど。では、なんか面白そうなので、せっかくなら演って貰おう。」

自分が小さい子と同列に扱われたことには、一切気づいていないようだった。

「オッケー、じゃあ奥から順に中谷さん、林さん、店長で。で、俺今なんとなく犯人の隣にいたくないので、林さんと中谷さんの間にいることにする。」

俺は移動した。

「ん?もう1回言って?店長しか名前覚えられなかった。」

おい学年1位。

「中谷さん、」

「中谷さん。」

佐野詩織は指差しながら復唱した。

「林さん。」

「林さん。……うん、たぶん覚えた。」

佐野詩織は一呼吸置いて、パンッと両手を合わせた。

「さあ、皆様お揃いのようですので、それでは始めさせて頂きます。『悪魔の呪い』の謎解きを。」

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