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第一話 「悪魔隠して札隠さず」承1

「呪いの謎を解けるって、マジで言ってる?」

「マジ。」

「ちなみに俺、近所の神社の神主さんからも、悪魔に憑きまとわれてるってお墨付き貰ってるぐらいなんだけど。」

「へぇ。」

なんて興味なさそうな相槌なんだ。オカルト同好会のくせに!

「ていうか、オカルト同好会って、呪いは呪いとして楽しむ組織なんじゃないの?」

「本来はそう。しかしながら私はこの世の全オカルト即ち超常現象を否定するためにオカルト同好会に入った人間なので、その悪魔の呪いは否定させてもらう。」

本当かよ。でも、なんてたって、学年一位だしな〜。なんかこの人なら謎を解いてくれそうな気も、する。かといって、今ここで全てを話すと、バイトに間に合わなくなる。時計を見ると、この駅に留まっていられるのは、五分が限界だった。俺は急いで、例の紙袋を入れたばかりのロッカーの扉に手をかけ、

「今から見るものは、絶対に口外しないようにお願いします。」

と忠告してから開けてみせた。

佐野詩織はロッカー内部の赤い文字に気づいて、それを読むかのように、覗き込み始めた。

「あの紙袋は?触って良いのかな?」

俺は黙って頷いた。屁理屈みたいなもんだが、口で何か言わなきゃ、「口外」したことにはならないんじゃないか、そうすれば、ギリギリ殺されないんじゃないか、という考えのもと、俺は口をつぐんでいる。

「何だ?これ!10万も入ってるじゃないか!」

「シーッ!!声が大きい!ていうかそれ見たらすぐ元に戻して!」

即刻口を出さざるを得なくなった。佐野詩織が紙袋をロッカーの元の位置に戻したのを確認したあと、俺は、朝服を入れていた方のロッカーを見せた。

「今朝、鍵が刺さったままだったから空いているもんだと思って俺はさっきのロッカーを開けちゃって、『サンプルです。あげます』と書いてある付箋と共に例のアレが入ったさっきの紙袋を発見してしまいました。で、それを忘れ物として駅員さんに届け、この中に自分の着替え用の服を入れて、鍵を閉めました。しかし、放課後その服を取り出すと、確かに鍵は掛かっていたのに、俺の服にこういう落書きがされていましたのです。」

俺は赤ペンで落書きされた例のTシャツを佐野詩織に見せた。そして佐野詩織の頭上に、向こうの方の時計が見えた。

「やばい!もう行かないと!」

「え?」

「ごめん、バイトなんだ!」

俺はTシャツを佐野詩織に押し付けた。バイトには遅れたくないが、呪いの真相も気になる。

「それ、参考資料!謎が解けたらまた今度学校で教えて。」

すると佐野詩織は平然と言ってのけた。

「え、もう解けたのだけれども。良かったらスーパー行きがてら教えようか?私も牛乳を買って帰りたいし。」

俺はあまりのスピード解決に、思考が一時停止してしまった。

「え、もう解けたの?」

「うん。」

「え、あ、じゃあスーパー向かいながら教えて!」

歩き始めてすぐに佐野詩織は語り出した。

「あそこのロッカーの鍵は、100円を入れれば抜ける方式。ということは、100円だけ払えば、鍵抜いて型取って簡単にスペアキーが作れる。」

「ん?うん。いや、確かにそれはそうだけど、俺が抜いた鍵は今日俺がずっと持ってたよ?」

「鈍いなぁ。予め、作ってる人がいるんだよ。あそこの全ロッカー分のスペアキーを。」

「はぁっ!?」

「一度100円払うだけで、以降そのロッカーに入った荷物は盗りたい放題。なら、全ロッカー分作っておくよ、普通は。」

普通はそんな盗む用の鍵なんてわざわざ作らないと思う、という言葉を俺は一旦飲み込んだ。

「荷物が入ってるかどうかは、鍵が刺さってるかを見れば一目で分かる。鍵が刺さっていないロッカーをスペアキーで開けては盗み、開けては盗み、を繰り返す。ロッカーから鍵を開けて物を取り出す人は普通持ち主だから、目撃者も、誰も泥棒だとは疑わない。」

「ちょっと待って。でも俺何回もあのロッカー使ってるけど、一回も盗られたことないよ?」

「使用済み安物Tシャツにわざわざ盗るほどの価値はない。」

確かに安物に違いないが、人に言われるのはなんか腹立つ。だが今は大人しく続きを聞こうじゃないか。

「おそらく、開けてみて服だと分かったら、100円入れて閉めてたんじゃないかな。鍵を開けたままだと不審がられるから。何も盗っていないのに通報されるリスクだけ犯すよりは、100円払った方がマシだと考えた。一回通報されてしまうと、しばらく警察の目が厳しくなるから、次は間をあけて盗まなきゃいけなくなるし。」

「ん?じゃあその泥棒が、10万円も用意してあのロッカーに置いてた、ってこと?何のために?」

「10万円の落とし主は泥棒とは別人。」

「別人……?誰?」

「誰かは分からない。ただ、『あげます』って付箋を添えてたんなら、その人は10万円を落としたというよりは、誰かに渡したくてあのロッカーを使ったんだと思う。」

「誰かに渡す?取引でもしてたってこと?何の?」

「何らかの。それは流石に分からないけど。ただそう考えると辻褄が合う。あの10万円を入れた人は、たぶんその泥棒の存在を知っていた。だから、10万円もの大金を置いておくのに鍵をかけなかった。鍵をかけてしまうと、かえってその泥棒に荷物が入っていることがバレて、盗られる危険が高くなるから。」

「うわあぁ!そういうことか!だから、俺がいつも入れてるところにあの10万円を入れてたのか!泥棒にとっては、開けるたびに安物Tシャツが入ってるだけのところなんて、100円を捨てるために開けるようなものだから、最近は開けること自体してなかったのかも。10万円の持ち主からしたら、何故か中段右端のロッカーの荷物だけは盗らないぞ、ってなるから!」

「うん。そうなんじゃないかな。で、取引相手が10万円を取りに行ったらなぜか、無いってことになり、一番最初にその泥棒を疑った。しかし、泥棒に話を聞いてみると盗っていないと言う。で、今度は君が疑われる。」

「なんで俺が疑われるの。」

「隣のロッカー使ってるからだよ。最初は右端の方を開けて、10万円を見て、隣を使った、という流れが容易に想像できる。」

「あぁ、そういうことか!で、その泥棒を警察に突き出すとか脅すか何かして、俺のロッカーを例のスペアキーで開けさせて、Tシャツに落書きした訳だ!確かにこれは、全然悪魔関係なかった。」

正直さっきまで佐野詩織のことをみくびっていた。あんな奇々怪々な事件をここまで鮮やかに解決してくれるとは。

「分かってくれたようで何より。それじゃまた。」

気づいたら、俺のバイト先であるスーパーに着いていた。佐野詩織はお客様用の正面の出入り口から普通にスーパーに入ろうとしていたので、再び引き留めた。

「本題はここからなんだよ!悪魔の呪いの本題は!」

「え。」

心底嫌そうな顔をされた。

「牛乳買ってとっとと帰りたいんだけれども。」

「牛乳はおつかい?」

「いや。自分が飲む用。」

そう言われて、改めて佐野詩織を見てみると、いつもは黒縁メガネにおさげという昭和から続く優等生スタイルの方に気を取られていて気づかなかったが、身長が小さい。150cmないんじゃなかろうか。

「まさか牛乳飲んで身長伸ばそうとか思ってる?」

「まさかってなんだ!君みたいに背の高い人間には分からないかもしれないが!我々低身長組が牛乳にどれだけの想いをかけているか!」

話が長くなりそうだったので、ぶった切ることにした。

「分かった!俺が身長を伸ばす秘訣を教えてあげるから、代わりにもう一つ謎を解いてほしい!」

「ん〜〜〜!」

悩むというより唸るに近い反応だった。もう一押しだ。知的好奇心をくすぐりにいく。

「落書きが絵の具に戻って垂れてくる謎。」

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